白兎が魔王の義息なのは間違っているだろうか(細部設定訂正中)   作:クロウド、

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ヘスティア・ファミリア

「はぁ……エライ目にあった」

 

 ベルは怖〜いアドバイザー様に勝手に5層まで潜ったことをこってりと絞られたあと自身のファミリアのホームである。教会に帰ってきた。

 

 そこにあったのはなんとも立派な教会。何ということでしょう、つい先日までボロボロだった教会はベル匠により、いまにも新郎新婦がバージンロードを歩いてきそうではありませんか。

 

 魔王の故郷で建築についても学んでいたベルにこの程度を作るのは朝飯前だった。

 

「神様〜、帰りましたよ〜」

 

 中に入り声を上げるが、中から反応はない。いつもならベルの声が聞こえたら彼の主神が飛んできそうなものだが。

 

 訝しんで主神の部屋に行ってみる。

 

「神様〜? いますか〜?」

 

 ノックをしながら中に尋ねるが返事がない。

 

 仕方なく、扉を開くとベルは呆れた。

 

 そこには、これまた立派なベットに寝そべり脚をパタパタしながら何かを熱心に読みふけっている眼鏡をかけた少女、彼の主神竈の女神にして処女神、ヘスティアである。

 

 部屋に入ってきた自分に全く気付かない様子のヘスティアにベルはいたずら心から気配遮断を行い耳元に立って、叫んだ。

 

「神様〜、帰りましたよ〜!」

 

「うわぁ!」

 

 耳元での声に流石のヘスティアも気付き驚いて飛び上がり、ベッドから転げ落ちる。

 

「びっくりした!? ベル君、帰ってきてたのかい?」

 

「ええ、ついさっき。……また漫画ですか?」

 

 ベルはヘスティアのベッドで開かれている冊子を見て、呆れたように呟く。ヘスティアは眼鏡を外しながら慌てて弁明する。因みにこの眼鏡、地球の言語を翻訳するアーティファクトである。

 

「こ、これは、ちょっと暇つぶしに読んでただけだよ! それに、こっちの世界じゃこんなものなかったんだから仕方ないじゃないか! これを読んだらボク以外でもこうなるよ、断言する!」

 

 小さな体で大きな胸を張って断言するヘスティア。その必死さに苦笑いをしベルは自分の昔を話す。

 

「……まあ、僕も初めて地球に行って父さんに見せてもらったときはニ、三日部屋から出ないで読みふけって母さん達に怒られましたけどね。」

 

「なんだ、ベル君も人のこと言えないじゃないか」

 

「ハハハ、確かにそうでした。すみません」

 

 お互いに何も言わずとも笑い出す。出会ってまだ数日しか経っていないが彼らの仲の良さは目に見えてわかる。

 

「それにしても《地球》って世界はすごいね。こんな面白いものが沢山あるなんて。」

 

「まあ、その代わり目に見える神様はいません。魔法やスキルもない、だからこそ、人は自分の力だけで進化し武器、技術、娯楽を手に入れてきたんでしょう。」

 

 ベルの父、魔王の故郷地球。このオラリオのある世界とも、トータスとも違う歴史を辿った世界。それが、ベルの第二の故郷だ。

 

 ベルはこの世界に戻る際父に貰った指輪、宝物庫の中に自身の趣味で買い集めたものをかなり入れてある。ヘスティアはベルがいない間よくそれを借りて読んでいるのだ。

 

「そういえば神様、ヘルメス様のところに回したアクセサリーの売れ行きはどうでした?」

 

「ああ、凄かったよ! 即日完売だってさ。やっぱり信用があるところは違うね。次も頼むってヘルメスに言われたよ」

 

「任せといてくださいよ!」

 

《ヘルメス・ファミリア》。オラリオ最大の商業系ファミリアで商品は多種多様。

 

 ベルは錬成魔法という鉱物などの形を変える魔法と、七大迷宮で手に入れた神代魔法の一つ生成魔法がつかえる。

 

 その二つを利用し、ベルは体の調子を整えたりする能力を付与したアクセサリーを《ヘルメス・ファミリア》に売り込んだのだ。

 

 なぜ、数週間前にオラリオに来たばかりの彼がそんな大手取引先を持つか……それは、彼の亡くなった祖父が主神ヘルメスと知り合いらしくベルが帰ってきたとき、偶然彼が住んでいた村で出会いベルが今までどこにいたのかなども知っていてかなり友好的に接してくれている。

 

『♪〜♪〜』

 

「ん? なんの音だい?」

 

「あっ、僕の電話だ」

 

 ベルは懐から薄い金属板を取り出す。そう、現代世界の必需品、スマートフォンことスマホ。中世的なこの世界で時代錯誤もいいところである。

 

「ベル君……確か電話というのは遠くの人と話すための手段だったよね?」

 

「ええ、僕の電話は父さんに改造されていて地球にも連絡できますね」

 

「……相手は?」

 

 ベルはスマホの画面を見る、そこに記されているのは日本語で書かれた人名。

 

『南雲ハジメ』

 

「父さんからです」

 

 いうが早いか、ヘスティアはベッドに飛び乗りそのまま布団を被る。そして、ガタガタと震えだす。

 

「何してるんですか、神様?」

 

「何してるじゃないよ! 君のお父さんってあれだろ!? あの映像で見せてもらった、滅茶苦茶危険そうな男!!」

 

 ヘスティアはベルから映像記録で彼の魔王の旅を一通り見ている。それからというもの、彼が神殺しということもあってその名前を聞くたびにびくびくしている。

 

 本音を言うと、優秀な息子を自分が主神をしている零細ファミリアに入れてしまったことについて恨まれていないか怖いのである。

 

 そのことを知らないベルは疑問符を浮かべながらスマホの通話ボタンをタップする。

 

「はい、もしもし」

 

『ああ、俺だけど……』

 

 携帯から聞こえてきたのは何処かよそよそしい声。いつもの、彼らしからぬ声にベルは首を傾げる。

 

「どうしたの? そっちで何かあった?」

 

『いや、お前がそっちにいってもう一月位経つし……どうしてるかと思ってな……』

 

 そう言われてベルはここ最近ダンジョンにばかり行って近況報告をしてなかったことを思い出した。

 

「僕は元気にやってるよ。神様とも仲良くやってるし、ダンジョンも七大迷宮に比べたら余裕だしね」

 

『そうか……ところでお前の神様ってそこにいるのか?』

 

「? うん、いるけど。どうかしたの?」

 

 布団にくるまってガタガタ振るえている幼女神を横目に聞き返す。

 

『ちょっと変わってくれ』

 

 ハジメの意外な言葉にベルは目を丸くする。

 

「え? 神様、神様……」

 

「な、なんだい?」

 

「父さんが変わってくれって……」

 

「ええっ!!?」

 

「断りますか?」

 

 小声でベルが話しかけ震えたままで出るかどうか尋ねる。すると、ヘスティアは何かを決意したように差し出されたスマホを受け取る。

 

「こういうときもしもしっていうんだよね?」と訪ねながらヘスティアはスマホを耳に当てる。

 

「も、もしもし……ベル君の主神をさせてもらっている、ヘスティア、です」

 

『はじめまして、ベルの保護者の南雲ハジメといいます』

 

 ヘスティアは思ってたより物腰の丁寧なハジメの対応に目を丸くした。

 

『まずは礼を言わせてください。ベルを貴方の眷属にしていただき本当にありがとうございます』

 

 携帯越しなので声しか聞こえないがハジメが、スマホの向こうで自分の知らない表情で頭を下げてる姿が鮮明に想像できた。

 

「そんな、寧ろベル君みたいに優秀な子を僕みたいな眷属ゼロの神の眷属にしてしまって……すまない」

 

『いえ、ベルは人を見る目のある奴です。そのベルが選んだんだから、貴方はきっといい神だ』

 

 どこまでもベルのことを思い心配し、信じている彼は立派な父親だった。

 

『ベルは俺達にとって本当の息子も同然の存在です。俺なんかよりよっぽどしっかりしたやつです。だけど、誰に似たのか一途すぎるところがあるので主神である貴方に導いていただきたいと思いベルに変わってもらったんです』

 

「そうだったのか……。」

 

 ヘスティアはハジメに対しての恐ろしい印象は既になくなっていた。彼への印象はただの息子思いのいい父親だというものだけになっていた。

 

「任せてくれ、ベル君は僕がちゃんと導いて見せる、女神ヘスティアの名に誓うよ」

 

『……ありがとうございます。良ければ、クリスタルキーが完成したらヘスティア様も家に来てください。妻達も会いたがっていたので』

 

「ああ、その招待受けさせてもらうよ。」

 

『では、俺はこれで。ベルのことよろしくお願いします』

 

 ハジメがそう伝えると通話は切れた。

 

「父さん、なんですって?」

 

「君をよろしくだってさ、いい父親だね。ボクは彼を誤解していたよ。てっきり目につくもの全てを破壊する怪物みたいな奴だとばかり……。」

 

「ハハハ……まあ、過激なのは事実ですけどね。でも、僕の目標の人なんですから当然ですよ」

 

 胸を張って誇らしげに語るベル。まるで、さっきベルを褒めたハジメのような反応だった。

 

「父が父なら、子も子かな……。」

 

「なにか言いましたか?」

 

「いいや、なんでもないよ」

 

 ヘスティアはいつか会うであろう彼の自慢の父に期待をふくらませるのであった。


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