白兎が魔王の義息なのは間違っているだろうか(細部設定訂正中) 作:クロウド、
まさかここまで反響を呼ぶとは。
「いらっしゃいませ〜! テーブルへご案内しま〜す!」
元気のいいヘスティアの声が昼時のウィステリアに響く。
「ベルく〜ん、サーモンサンドセット二つ注文入ったよ〜!」
「神様、ここでは店長と呼んでくださいよ……。」
若干、そう呼ばれることを期待していたベルがしょぼ〜んという擬音を出すが、それでも手元の料理を作る手が止まっていないのは流石と言えるだろう。
「タケミカヅチ様、これ3番テーブルにお願いします」
「任せておけ」
すっかりウェイター姿が板についてしまった武神様が完成した料理をテーブルへと運ぶ。
流石は天然ジゴロ神と神々に密かに言われているだけあって、彼の接客だけで随分客寄せになっているという自覚がベルにはあった。
他にも何人かの【タケミカヅチ・ファミリア】が手伝いに来てくれている。バイト代は支払われている、ウィステリア・オラリオ店はホワイトな職場なのだ。
他の者はダンジョンに潜っているだろうが、正直な話、今のウィステリアの盛況ぶりから言ってこっちのほうが下級冒険者の収入の遥か上だろう。
あの『怪物祭』の後、タケミカヅチに全部吐かされ、秘密を知った以上同盟は可決してしまい。ベルが「勝手に秘密バラしてすんませんした〜!」と【ロキ・ファミリア】の幹部達に土下座したことで丸く収まった。
ベルが今回の事件の元凶が女神フレイヤであることと、その際喧嘩を売ってきた『オラリオ最強(笑)』のオッタルを半殺しにしたことを話したら、ロキは「あの色ボケマジザマァ!」と腹を抱えて笑い転げ、幹部陣は何処か困ったように笑っていたがロキに通じるところがあったのか何も言わなかった。
新たに同盟に参加することになったレフィーヤや【タケミカヅチ・ファミリア】の者たちは信じられないと言いたげだったが主神達が嘘をついていないことを証明し、なにより、オラリオの冒険者なら知らぬものがいない第一級冒険者が太鼓判を押したのだ、冗談なわけがない。
フィンとしても今回は大事な団員を救ってもらったのでなにか言うつもりはなかったが、流石に『ベルの秘密を保守する』という同盟をベル自ら破ったことに対してはそれなりの落とし前をつけなければならない。
ということで、
「まさか、劣化版宝物庫を持っていかれるとは……フィンさんめ、ここぞとばかりに足元見たな」
そう、フィンはベルが持っている宝物庫の劣化版を要求してきたのである。恐らくだが、先のスーパーミレディゴーレムのことを相当根に持っていたのだろう。話の節々でその話題を出してきたのが何よりの証拠だ。
ベルとしてはどうとでも逃げおおせることもできたが、冷静になってアレはやりすぎたという負い目とそれを知ったヘスティアから正座で延々と説教をされそんな気力はなくなった。
「すまんな、ベル。俺が無理言ったせいであんな貴重なものを」
「いえ、元々いつかは渡すつもりだったんですし」
オーダーを終えたタケミカヅチがベルの呟きを聞いていたらしく、謝罪する。
実際、フィンのマク・ア・ルインやガレスのシュナイデンは見る者が見ればそれだけで価値がわかる代物だ。いつかは渡さなければいけないと思っていたので、それが早まっただけなのだから気にするなとベルは言う。
「それに俺の眷属達の武器まで見繕ってもらって……」
「いや、アレはただアザンチウム鉱石を錬成して作っただけの刀ですから。アーティファクトに比べたらどうということはないですよ」
「いや、どう見ても一級品だったぞ?」
彼らの装備一式もしっかり強化してあるベルは流石と言えるだろう。できるだけ他の派閥とはパーティ組むなよという釘は既に指してある。
まあ、そんなわけで劣化版宝物庫を奪われたこと以外は特に平和的で、ベルの工房やらトレーニングルームを紹介してレフィーヤ達が唖然としたり、地下温泉を見て温泉好きの命がベルと意気投合して見事なハイタッチをしたり、「くだらねぇ」と抜かしたベートをベル匠自慢の『【大迷宮】挑戦希望者必見! グリューエン大火山サウナ』に放り込んだりと至って平和だった。
「タケミカヅチ様、厨房任せてもいいですか?」
「ああ、彼女への差し入れか。任せておけ」
ベルは作っておいた本家ウィステリア直伝のスペシャルケチャップがかけてあるオムライス二つを宝物庫に入れるとエプロンを解いて厨房の裏にある廊下から地下に降りる。
「ーーーー。」
そして聞こえてくる詠唱。
「ここに風撃を望むーーー"風球"」
トレーニングルームに入るとその中央で魔力を集中させて
彼女が魔法名を口にすると風が立ち上がりそれが壁にあたり霧散する。
「うそぉ……。」
ベルはその光景を見て珍しくキャラを崩した間抜けな声を漏らす。
その声に気付いて、少女レフィーヤ・ウィリディスがベルに近づき、
「どうですか、クラネルさん? 私、トータスの魔法使えましたよ」
何処かドヤ顔でそう言った。
そのドヤ顔にイラッときたベルが大人気ない(実際は向こうのほうが年上)反撃をする。
「ええ、確かに凄いと思いますよ。僅か一週間あまりで向こうの魔法を覚えるなんて。ですが、それは向こうでも序の序の口である初級魔法。適正がなくても使えるような魔法でそこまで言われてもちょっと反応に困りますね?
それとも、僕がユエ母さんに教わった練習法そのままでお教えしましょうか? きっと、3日後には上級魔法使えるようになりますよ、それまで生きていられたらね」
「すみません、調子に乗りました……。」
ベルの迫力に気圧されて一歩後ずさり謝罪するレフィーヤ。彼がユエから教わった練習法は彼が彼女に与えた『魔法チート吸血姫直伝 素人でもわかる魔法講座(南雲ベル修正版)』にそれはそれは丁寧に書かれていたからである。
「馬鹿なことやってないで昼食にしましょう」
宝物庫からテーブルと椅子を取り出して、テーブルの上に置かれたティーポットに紅茶を注ぎながら言うベル。
「はぁ、僕は何故貴方に魔法を教える羽目になったんでしょう?」
「それはクラネルさんが、同盟での取り決めを破ったからでしょう?」
「わかってますよ……言ってみただけです。あとその、クラネルさんってやめてください。僕のファミリーネームは『南雲』です。こっちでは、ベルとしか呼んでほしくない」
オムライスをテーブルに置いて深いため息を吐くベル。そう、自分でもわかっている。
先程の劣化版宝物庫は【タケミカヅチ・ファミリア】に話したことによるペナルティ。この少女、レフィーヤ・ウィリディスにバラしたことによるペナルティは含まれていない。
流石にそれは屁理屈だ! と抗議したかったベルだったが思いの外スーパーミレディゴーレムによるトラウマと怨みは深かったらしい。
ジト目のリヴェリアを前に断るに断れなかった。
なにより、目の前の少女からの要望も強かった。
結果、フィンはベルにトータス版の魔法の指導を命じた。トータスの魔法は魔力の制御の仕方、魔法陣、詠唱さえ覚えておけば基本だれでも使えるからだ。その相手に選ばれたのがレフィーヤである。本当はリヴェリアが強く立候補したがファミリアの仕事上長い時間いるわけにもいかず、それでも週に何度か来ている。
本当はアイズに剣術を教えるよう言ってくると思ったが、フィンは、
『多分、そのうち君の方から折れると思うよ』
と、抜かしてきた。
絶対やらないとベルが宣言したのは言うまでもない。
「まあ、実際。これだけ短期間でトータスの魔法を使えたってのは凄いと素直に思いますけど」
「…………。」
「なんですか?」
急に無言になって自分の顔をまじまじと見るレフィーヤに尋ねる。
「いえ、この一週間褒めることなんてしなかったベルさんがそんなことを言うなんて槍でも降るのかな、と」
「ようし、喧嘩ならいい値で買いましょう。なんなら、本当に空から槍ふらしましょうか!?」
「ごっ、ゴメンナサイ……。」
これだけベルが素直な感情を見せられるのは表情豊かで年も近い彼女故だろう。
この一週間でこの二人の距離は大分近くなったようだ。最初、アイズと個人レッスンしていると聞いたときは嫉妬を通り越して怨念にも似た視線をぶつけてきたが、ベルのおい立ちをきいて、それは尊敬と同情の視線に変わった。
自分より年下の少年が才能だけでなく努力でオラリオ最強を大きく凌ぐ強さを得たことへの尊敬と。その辛かった幼少期の記憶への同情。
だからこそ、彼に改めて助けてもらった感謝を伝え、また、彼女の憧憬である剣士の少女に追いつくために教えをこう道を選んだ。
他種族を嫌うエルフにしてはかなり近い距離感だろう。
「そういえば……。『怪物祭』で走り去ったとき一体何のことを言っていたんですか?」
「!!? ゴホッ! ゴホッ!」
ベルがふと思い出したように口にした内容にレフィーヤはベル特製のスペシャルオムライスを喉につまらせる。
「ちょ、大丈夫ですかっ!?」
慌てて紅茶を注ぎ足して渡す、レフィーヤはそれを一気に飲み干すと落ち着こうと呼吸を整える。
「どうしたんですか、そんなに慌てて?」
「いや……だから、えっと……。」
レフィーヤはしどろもどろだ。
それもそうだろう、あんな恥ずかしい勘違いを目の前の少年にバレるなど恥以外の何者でもない。
「そういえば、アイズさんのこと名前で呼んだとき反応しましたよね?」
ビクッ。
「それと、偶に料理を食べに来るって言ったときにも」
ビクッ。
もう本当は理由わかってんじゃねぇかってくらいに外側から追い詰めていくベル。
そして、とうとうその結論に至り口にする。
「ひょっとして……僕とアイズさんの関係を誤解したとか?」
レフィーヤは答えない、ただその沈黙が何よりの回答だった。
ベルは口元を抑えて肩を震わせる。
「……なんですか、笑いたければ笑っていいですよ」
「アッハッハッハ!!! ハハハハハハハハハ!!!」
「そんなに笑わなくてもいいじゃないですかっ!?」
大爆笑するベル。そして、涙目のレフィーヤ。カオスである。
「いやだって……そりゃ、ご飯くらい食べに来ますよ……ウチ飲食店なんですから……」
笑いをこらえながら机に突っ伏して息も絶え絶えに口にするベル。その様子を見てますます顔を赤くするレフィーヤ。
今のベルには恋人を作る気はない、恋人を作るとき、それはハジメのように運命の人と出会ったときと心に決めている。しかし、その人物と既にあっているのかすら今の彼にはわからない。かつてのハジメも【オルクス大迷宮】という苦難を乗り越えユエへの気持ちを自覚した。
ベルの場合はそれが祖父の悪影響で多少歪んでいるのだ。
「大体、僕ら友人かどうかも怪しいんですよ?」
「え?」
ベルが出した意外な言葉にレフィーヤは恥ずかしさを忘れて疑問符を浮かべる。
「考えてみてくださいよ、僕と彼女の関係なんて偶に組手をするかご飯ごちそうするかなんですよ? これって友人ですか?」
「ご飯ごちそうしてるんですから友人じゃないんですか?」
「そうですかねぇ? 僕としては友人でいたいけど、如何せん向こうがどう思ってるかわかりませんし……僕地球じゃ友達作らなかったからわからないんですよね」
「それはやっぱり……トータスのときのことが原因ですか?」
「まぁ、それもありますけど。どうせこっちに戻ってくるのに友人とか作ったら別れがしんどくなるじゃないですか」
ベルは地球での戸籍上留学中という扱いになっている。実際は実家への帰省みたいなものなのだが。
元々、【大迷宮】を攻略してこちらの世界に帰ってくるつもりだったベルにとって向こうの友達は大事になればなるほど決心が鈍る存在だった。なので、明確な拒絶こそしなかったが距離を置いていた。
ここだけの話、その姿がクールだとかで一部でファンクラブができていたことを彼は知らない。
「僕と家族以外で交流があったのは父さんのクラスメイトと裏の人間くらいでしたから、お陰で大人の人との距離感しかつかめなくなってしまって。
名前で呼ぶのもハウリア族がみんな同じファミリーネームだったから癖になっただけですよ」
「……なら、」
レフィーヤは勇気を出してその言葉を口にする。
「私と、その……友達になってみませんか?」
目の前の少女が何を言っているのか理解できずベルは目を丸くする。
「いいんですか? 僕知っての通り、結構鬼畜ですよ?」
「知ってます」
「父さんに似て、残酷なところもありますよ?」
「知ってます」
「できれば、ところどころ否定してほしかったです……。」
割とショックを受けるベルに彼女はなおも真っ直ぐな視線を送る。
「なら……不束者ではありますが、よろしくお願いします」
「それは少し使い方が違いますよ。
「ギャグですよ、いちいち突っ込まないでください。
「クスッ、」
「フッ、」
「「アハハハハハハハハハッ!!」」
このときこそ、ベルにとって始めての対等な友人ができた瞬間だった。
「あっ、でもアイズさんについては別ですかね!」
「だから、違うって言ってるのに……。」