白兎が魔王の義息なのは間違っているだろうか(細部設定訂正中) 作:クロウド、
「ハァ……ハァ……」
劣勢のアイズが息を整える。
場所は第19階層、リヴィラの街西部での戦いが繰り広げられていた。その街は先程からのモンスターの侵攻で見るも無残な有様だ。
アイズは滅多に見せない激情を目の前の自身と戦っている人物、赤い髪の女にぶつける。
「『アリア』、その名前をどこで……!!?」
「さぁな」
アイズにとってとても意味のある名前。その知るはずもない名を知っていた女と相対し今の彼女は普段の冷静さを欠いていた。
深層のモンスターのドロップアイテムをそのまま武器にしたような野太刀でいながら『不壊属性』をデスペレードと打ち合っていた。
いや、二人の戦いは明らかにアイズの『風』を凌駕している赤い髪の女の優勢だった。
冷静さをかき、剣が大ぶりになった彼女の攻撃を避けた女が風を引き裂きながら腹部に強烈な拳を叩き込んだ。
「っ……!」
アイズが姿勢を立て直そうとするがそれよりも先に女が切迫する。風によって手甲を失った女が再び拳を叩きこもうとする。
だが、突如二人の間に第三の人物が現れる。
「ガッ!」
突如現れた人物は飛び込んできた赤髪の女を容赦なく蹴り飛ばした。
「ったく、ボロボロじゃねぇか……。」
「……ベル?」
現れたのは、黒いストールをたなびかせながら真打を構えたアイズが誰よりも強者と認める少年だった。
彼は神水入りの試験管をアイズの口に突っ込む。
「んむっ!?」
「ポーションだ、飲んどけ」
ベルがそういったのと同じタイミングで蹴り飛ばされた女が瓦礫の中から立ち上がる。首をゴキゴキと鳴らし剣を持ち直す女。
「何者だ、お前は?」
「悪党に名乗る名はない……とか言ってみたいが、俺はコイツの剣の師匠……になる予定の男だ」
「まるで、この場から先があるような言い方だな?」
「聞き間違いか? お前ごときが俺に勝てるといったように聞こえたが」
その言葉をひきりに二人は同時に切迫する。
剣を振りかぶる女だったが、その前にベルの真打の柄頭が女を突き飛ばし、再び瓦礫の中へと吹き飛ばす。
しかし、女はまたすぐに立ち上がる。
「……結構、タフだな」
「……なるほど、毛色は違うがお前も私と同じか」
「はあ? 誰と誰が同じだって?」
ベルはいきなり自分と同じように言われたことに不機嫌そうな声を漏らす。
「自覚があるはずだ。お前も私も人をやめた化物であるという自覚が」
女の言葉に彼は目を細めた。
「ベルは貴方とは違うッ……!」
「違わないさ。人であることを捨てた、力のみの化物であるという点では全く違わない。
それ故に地上での生き方はさぞ窮屈な筈だ。」
女が言葉を発する度にベルの目は細められていく。それは、怒りか……それとも。
「……私と共にこい、上よりお前にとっては生きやすい場所だと約束しよう」
女の言い分にアイズは何も答えない。そんなわけがないと思う気持ちがあるのと同じくもしかしたらそうかもしれないという思いがせめぎ合っているのだろう。
そして、その答えは件の少年本人から伝えられた。
「俺が化物で、窮屈か……。ああ、全く持ってそのとおりだ」
「!!?」
あっさりと認めた少年にアイズは目を見開いた。
「周りの人間に合わせようとしてどれだけ肩身の狭い思いをしてるか……。既に人間としての価値観があるかどうかもわかんねぇ俺には、確かにお前達みたいな所の方が生きやすいだろうな」
「…………。」
自虐的に笑うベルにアイズは言葉を失う。
自分達は彼のことを全く知らなかったのだと思い知らされる。
「ならば、」
「だが断る」
見開かれたベルの目に一切の迷いはなかった。
「あの街にはいろんな奴かがいる、色んな奴が俺に関わってくれる。中には俺みたいな化物に『よく頑張ったな』なんて言ったり、『友達にならないか』なんていう物好きがいる。
俺を受け入れようとしてくれる人達がいるんだ」
肩越しに少し振り向いた彼の視線がアイズと交差した。その彼の瞳はとても真っ直ぐな光を宿していた。
「俺にとっちゃ、そうやって人と関わることが拒絶されることを恐れるよりずっと楽しいのさ。大体、テメェがいいそうなことを前にも言ったやつがいたよ。だけど、もう割り切ってんだよ俺は、それを全部ひっくるめて俺はここにいんだ。
勝手にテメェと同じ枠に押し込んでじゃねぇよ、バ〜カ!」
子供かっ!? と言われそうな返しをする。
ベル自身、そのことを気にしていた節はある。だが、それはもう過去の話。【大迷宮】が一つ、【シュネー雪原の氷雪洞窟】で自身の負の感情である虚像と戦い今のような言葉で真っ向からネジ伏せた。その彼が会って数分もしてない奴の言葉に耳を傾けるものか。
「ならば、もう話すことはない」
「そう慌てんなって、お前の相手は俺じゃない」
剣を構え直した女に目もくれず宝物庫から取り出したそれをアイズに投げ渡した。
「ベル、これって……。」
「お待ちかねの品だ、ホントは他の奴と同じようにLv6になるまで渡さないつもりだったが……今回は特別だ」
投げ渡したのは一本の鞘。そして、中には刀身だけが納刀されている。
「アイズ、お前が倒すんだ」
「ッ……!? でも……。」
「まさか、出来ねぇとは言わねぇだろ? お前は俺に見所があるって言わせた女なんだからな」
アイズの隣から後ろに下がろうとする彼が彼女の肩に手を置いて耳元で囁いた。
「安心しろ、危なくなったらちゃんと助けてやる。それとも、戦うのが怖いか?」
「……ッ!! ……行ってくる」
「おう! かましてこい」
挑発めいた激励に勇気をもらった少女は少年に与えられた力を腰に携えて戦場へと足を踏み出す。
「おっ、遅かったな。」
「え? ベルッ!?」
「何故お前がここにいてアイズが戦っている?」
現れたのは広場で女性型の食人花との戦闘を切り抜けてアイズの応援に来たフィン、リヴェリア、レフィーヤの3人だった。
リヴェリアの鋭い視線が突き刺さるが彼はどこ吹く風で答える。
「俺はアイツの意思を尊重しただけだ。これくらいの壁も超えられないで、強くなれるわけがないからな。安心しろ、危なくなったらちゃんと止めるさ」
「……どうする、フィン?」
「ンー、僕としては参戦したいけど……。」
「やめておけ、今のアイツらに近づくのはぶっちゃけ俺でも避けたい」
「どういう意味ですか?」
「まさか……渡したのか? アーティファクトを?」
リヴェリアとフィンの視線を受けて、明後日の方を向くベル。
「まぁ、見ておけよ。アレがアイツの新装備……」
鞘に一度デスペレードを納刀するアイズを見ながら言う。
ガチンッと言う音ともに刀身がデスペレードに装着される。
その剣の名は彼女が風の力を持つことと剣に付与された光属性の魔法故にベルはこう名付けた。常勝無敗の王が持っていたとされる勝利を意味する剣、純白に輝く長剣。その名は、
「『エクスカリバー』……!」