白兎が魔王の義息なのは間違っているだろうか(細部設定訂正中)   作:クロウド、

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エクスカリバー

「"エクスカリバー"? それがあの刃の銘か?」

 

「ああ、地球でもっともポピュラーな英雄譚に出てくる常勝無敗の王が持っていたとされる光の聖剣だ」

 

 視界の先で淡い光を放つ純白の刃を装着したデスペレードを構えた少女を見ながら、ベルは腕を組んでその名の由来を語る。

 

「その王は風の力も持っていたらしい、そして剣には光属性の魔法。ピッタリな名前だと思わないか?」

 

「確かにいい銘だと思うが、大丈夫なのか? アイズはアレを初めて使うんだろう?」

 

「安心しろ、随分前からアレの設計はしてあったし説明もしてあった。使い方は頭に叩き込んであるはずだ」

 

「だったら、私達も援護を……!」

 

「だから待てって言ってんだろうが」

 

 飛び出そうとしたレフィーヤをベルが首根っこ掴んで引き止める。

 

「あの剣はぶっちゃけ、お前達に作ったアーティファクトより群を抜いて強力だ。下手に近づいて巻き込まれたら消し炭になるぞ」

 

 ベルの鬼気迫る顔にレフィーヤの顔からさぁっと血の気が引く。

 

「今はアイツを信じて俺の近くにいろ、すぐに結界に入れるようにな」

 

 それだけいうと、ベルは視線をアイズに戻した。

 

 他の者も彼女を信じてそちらを向いた。

 

「剣が変わった程度で、調子に乗るな」

 

 女が地を蹴りアイズに切迫する。野太刀を振り上げ、それを振り下ろす。だが、

 

「馬鹿な……。」

 

 振り下ろしたはずの野太刀はその刀身から先が消えていた。否、斬り飛ばされていた。

 

 そこから遅れるように女の左肩から血が吹き出す。

 

「速いな……。」

 

「ああ、確かに今までとは群を抜いてる」

 

 それを見ていたリヴェリアとフィンは思った、まるで初めてアイズと戦ったときにベルが見せたあの技のようだと。

 

 そこから容赦なくアイズの剣戟が繰り出される。獲物を失った女はそれギリギリでかわしていく。

 

「それで、どういいった仕掛けがあるのだ? 製作者殿?」

 

 リヴェリアが流し目でベルを見ると、フッと短く笑ってどこか自慢げに説明する。

 

「あの剣に俺が与えた能力、それは"超高速魔素吸収"と"魔力変換"だ」

 

「つまり、どういうことです?」

 

「つまり、あの剣は周囲の魔素を、それこそ、俺レベルとは言わないがとんでもない速度で吸収して魔力、続いて光属性の魔法に変換し、超強力な光の刃を生成する。おまけに柄を通してアイズ本人にも魔力が送られて風が強化されるってこった。

 アイツの速度上昇とあの野太刀を叩き斬ったカラクリはそんなもんだ」

 

「風はわかるが何故、光属性なんだ?」

 

「最も斬撃に適した属性だからだ」

 

 いまいち要領を得ないレフィーヤとリヴェリアに簡単に説明をしてアイズに視線を戻した。

 

 アイズは女を自身の間合いに捉え、風による加速で攻撃を避けながら剣を振るう。

 

 彼女の戦い方はかなり危険と言ってもいいだろう。あの女は拳だけで十分アイズに決定打を与えられる。それを理解してなお、アイズは接近戦を選んだ。

 

 それが、彼女の最も得意な戦い方だからだ。

 

 しかし、相手もやられてばかりではなかった。僅かな攻撃を受けてタイミングを把握しそれに合わせて風によってズタズタにされた女の拳がアイズの腹部に突き刺さった。

 

「なめるな」

 

「っ!?」

 

「アイズさんッ!?」

 

「待て」

 

 我慢ならず前に出ようとしたレフィーヤをベルが手で制した。

 

「ベルッ! いい加減そこをどいてください!」

 

「言っただろう、今行ってもアイツの妨げになるだけだ。それに、俺がアイツの向こう見ずな戦い方になんの手も打ってないと思うか?」

 

「なるほど、鞘か……!」

 

 ベルの言葉に彼女の腰につけた鞘が輝きを放っていることにフィンが気付いた。

 

「常勝の王が持っていたとされる剣は鞘にも特殊な力が宿っていた。"その鞘を持つ限り決して死なない"という力がな。

 ……あの鞘、"アヴァロン"には常に持ち主の傷を治す超速再生が付与されてる。あの程度の傷、戦いながらでもすぐに治る」

 

 アイズが一度距離を取ると、両足に力を込めさらに加速した動きで女に向かう。

 

「なにっ!?」

 

 さっきの数段早い動きに女は目を見開く。

 

「エクスカリバーにはマク・ア・ルインと同じ、身体強化も付与されている。それに強化された風の推進力が足されたんだ。追いつけるものか」

 

 ベルの言葉を頷けるように螺旋状の竜巻が赤髪の女を上空に吹き飛ばし、アイズが風を足場に空中で連続攻撃を仕掛ける。

 

 そして、女より先に地面に着地。剣を大きく振りかぶる、周囲の魔素が小さな光となって剣へと吸収されていき、生物の鼓動のように光の刃が膨張していく。

 

 それを見ていたベルの顔に焦りの色が浮かぶ。

 

「おいおい、やばいぞありゃ……!」

 

「どういう意味だ?」

 

「あの馬鹿、剣の魔力を制御できてねぇ……!」

 

「「「!!?」」」

 

 製作者のベルの言うとおり、彼女の光の剣は安定していない。しかし、少女にとってそんなことはどうでもいい。勝負を決められる一撃を放てるタイミングを逃すわけにはいかないと空中にいる女へとその剣を振り下ろす。

 

「チッ!」

 

 ベルはほぼ反射的にクロスビットを展開して八点結界を展開する。

 

 それと同時に視界を埋め尽くす程の閃光がリヴィラの『夜』を照らした。

 

 

 

 

 

 光が晴れるとそこにいたのはアイズだけだった。しかし、視界は未だ粉塵が阻害している。

 

「さっきの人は、何処に……?」

 

「塵も残さず吹き飛んだ……というわけでもなさそうだな」

 

「逃げられたな」

 

「ああ」

 

 四人の中でウルド・グラスを装着しているベルとフィンのみが状況を把握している。

 

「逃げたってどこから?」

 

「そこだろ」

 

「そこ……? ッ!?」

 

 ベルが指差した先には粉塵を飲み込んでいく巨大な穴が開いていた。それだけではない、あたり一体の建造物は大破し、街の一角は完全に瓦礫の山とかしていた。

 

 八点結界をときアイズへと歩み寄ろうとするベル達。だが、歩み寄る寸前で彼女の体がぐらつく。

 

「アイズさんッ!」

 

「チッ……!」

 

 ベルが"縮地"を使い、彼女が地面に激突する前にその体を支える。

 

「ったく、世話焼かせる。まぁ、今回は俺のせいか」

 

 ベルは倒れたアイズをゆっくりと床に寝かせて容態を確認する。

 

「アイズさんは無事なんですかッ!?」

 

「安心しろ、魔力切れで寝てるだけだ。どうやら、風の方も全力で出したようだな」

 

「彼女の腕は大丈夫なのか?」

 

 アレだけの光の刃を振り下ろしたのだ、その反動で腕が傷ついてないか心配するフィン。ベルは問題ないと答える。

 

「光属性は魔法の使用者にダメージを受けるような魔法はない、だが風に魔力殆ど持ってかれてんな。神水を飲ませて30分も寝かせりゃ全快するだろうが」

 

「こんな危険なものをアイズに渡したのか?」

 

「いや……風をあんだけ扱えるなら魔力も扱えるはずなんだが……随分無茶苦茶な特訓してんな。魔力操作を理解しないで直感で『風』の操作だけしてやがる」

 

 本来、魔法を使うのであればオラリオであれトータスであれまずは魔力の操作を覚える必要がある。こちらではあまり認識されていないが、精神を魔力に変換するということ自体がそれだ。

 

 それを考えずに発動し続け魔力切れになるのが所謂、精神疲労と言うやつだ。

 

 まさか、あれだけの暴風を操るアイズが魔力操作ができないなど考えもしなかったのだ。

 

(それだけこいつの『風』への親和率が高いわけか……。マジで半分人間じゃない説が強くなったな。それにこいつ戦ってる途中『アリア』がどうとかって)

 

 そこで、レフィーヤが思い出したように訪ねた。

 

「というか、何故ベルがここに?」

 

「今更かよ……。」

 

 ベルはここに来た顛末と、フィン達がリヴィラの街で起きた事件についての情報交換を行った。

 

「つまり、ハシャーナに依頼をしたのは……。」

 

「ウラノスって考えるのが妥当だろうな……。それをあの女がどういう理由か知って奪おうとした」

 

 しかし、その理由がわからない以上あの女の正体も見当がつかない。

 

「……まさか、闇派閥か?」

 

「闇派閥っていうと、何年か前にオラリオに存在したっていう邪神っつうのを崇拝してた連中だっけか?」

 

「ああ、過去の亡霊が今になって現れた……理由としては弱いが他に宛はないな」

 

 リヴェリアの考察を聞いて、ベルはあの女が口にしたことを思い出した。

 

「……そういや、アイツ妙なこと言ってたな」

 

「妙なことというと?」

 

 疑問符を浮かべるレフィーヤにベルは答えた。

 

「『自分は人間を辞めた』だと」

 

「……ますます訳がわからないな」

 

「おまけに俺に同じ化物同士こっちに来ないかって勧誘までされたぜ?」

 

「まさか、話に乗ってないだろうね?」

 

「馬鹿野郎、俺は化け物だって自覚はあっても殺人鬼にまで堕ちた覚えはねぇよ」

 

 フィンは片手で額を抑える。情報があまりにも少なすぎるのだろう。

 

「取り敢えず、このことは俺からウラノスに伝えとく」

 

「頼むよ。僕らはもうしばらくダンジョンに潜っているつもりだからね」

 

「しかし、凄まじいな……。」

 

 リヴェリアはアイズが放った剣によってできた大穴を見て冷や汗を流す。ダンジョンに穴を開けることは簡単ではない。勿論、第一級冒険者である彼らには可能ではあるが、ここまでの大穴を開けることは難しい。

 

 ベルは錬成魔法でその穴を塞ぎ街も出来うる限り修正するとリヴェリア達に振り返る。

 

「俺は街の連中の記憶を操作しに行く。今回は、『ハシャーナを殺した謎の女をお前達が撃退した』。そういう顛末でいいな?」

 

 アレだけの光量だ。誤魔化しが聞くレベルではない。記憶を操作しなければ後々面倒だとベルは考えていた。

 

「僕達としてはそれでいいが、さっきの女はどうするんだい?」

 

「ベルの"気配感知"で探せないんですか?」

 

「……それが、さっきからやってんだが。……アイツの気配が下で()()()

 

「消えた? つまり死んだということかい?」

 

 アイズの一撃が致命傷になっていたのかという意図のフィン質問にベルは首を横に振る。

 

「いや、あの消え方は……まるで他の気配に飲み込まれて隠されたって感じだな。どうあれ、あの女はもう探せない。」

 

「羅針盤とかいうアーティファクトは使えないのか?」

 

「無理だな、アレはこっちに来たとき魔力残量全部使っちまった。俺は父さん達ほど魔力が無尽蔵じゃねぇから、まだ使うには魔力が全然足りねぇ」

 

 苦虫をかみ潰したような表情をするフィンとリヴェリア。

 

「俺にアレを取り逃がした責任でも取らせるか?」

 

「ンー、僕達が彼女と戦ったところで捕まえるには至らなかっただろうからね……アイズを救ってもらったことに感謝だけしておこう」

 

「意外だな、前みたいに足元見た要求すると思ったのに」

 

「さっきの彼女のように僕達でも勝てるかわからない相手が出てきたからね……。ますます君とは友好的に接する必要が出てきたのさ」

 

 ベルはアイズの手と腰からエクスカリバーとアヴァロンを回収する。

 

「こいつは調節が必要そうだから、預かっておくぜ。」

 

「街の人間の記憶を弄ったらどうする?」

 

「ヘルメスからの依頼通り、ルルネ・ルーイが上に出るまで見守るさ」

 

「了解した」

 

 四人は方針を決めて、ティオネ達と合流するべく街の中央に戻った。


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