白兎が魔王の義息なのは間違っているだろうか(細部設定訂正中) 作:クロウド、
現在地、ダンジョン37層。
『リヴィラの街』をあとにした【ロキ・ファミリア】一行は順調に本来の目的であるダンジョン散策を続けていた。
すでにそこは『下層』よりも下『深下層』。
モンスター達は上と比べてかなり強くなるが、今の彼らの敵ではない。特にフィンはマク・ア・ルインを実戦で慣れようとして珍しく前線で戦っている。
その姿にアマゾネス姉妹の姉はうっとりとしている。
だが、問題は、
「どうしたの、アイズ? なんかず〜っと、上の空って感じ」
「……うん」
明らかに様子がおかしい少女に仲のいいアマゾネスの少女が顔を覗き込むようにして尋ねる。
リヴェリアが心当たりのあることを口にする。
「あの剣での感覚が忘れらないのか?」
「凄かったよね〜、あの光! こっちにまで届いてたもん! あ〜あ、アタシも自分用のアーティファクト作ってほしいな〜」
「アンタにはもう大双刃があるじゃない」
「そこはほら、アイズの剣みたいに上から新しいのを」
「そんな馬鹿でかい刃にどうやってつけるのよ……。」
リヴィラの街の中央からエクスカリバーの光を見ていたティオナがキラキラした目で語る。だが、
「……それもある、けど」
「違うんですか?」
レフィーヤの声にコクンと頷くと、アイズはフィンに向き直った。
「……ねぇ、フィン」
「なんだい?」
「ベルは……あの女の人に自分は化け物だって言ってた」
「……………。」
「フィンも……フィン達もそう思う?」
その質問の内容に緊張が貼り詰める。
フィンもなんとなくその質問の理由を察している。
(ンー。アイズが戦闘以外で他人に興味を持つのはいいことだ。だけど、この質問はまた……。)
フィンは若干、困ったような顔で親指を舐めたあと真剣な面持ちで告げた。
「確かに……人智を超えた力を持つ存在を化け物と呼ぶのなら。彼は間違いない、化け物だ」
「ッ!」
フィンの答えにアイズは強く奥歯を噛む。フィンならそう答えると分かっていた。だが、それを認めてほしくはなかった。
ベルの友であるレフィーヤもその表情は浮かない。
彼自身の口から言うのは構わない、だが、誰かにそれを言われると何故か無性に心が痛くなった。
「ちょっとフィン、そんな言い方酷くない?」
「黙ってなさい、ティオナ」
「ティオネ……でも、」
「団長の話はまだ終わってないわよ」
「だけどね、アイズ。僕の目から見ると彼の心はまだまだ子供のように見えるんだ」
「……子供?」
フィンの言葉にアイズだけでなくリヴェリア以外のものは全員を小首を傾げた。
「そう、君も初めて彼等のホームにお邪魔したときに見ただろう? それに、何故彼がわざわざ記憶を消せるのに【タケミカヅチ・ファミリア】を同盟に加えたか、わかるかい?」
フィンの質問にアイズは首を横に振る。彼はクスッと面白そうに笑うとダンジョンの奥を見据えて答えた。
「多分だけど、彼は寂しいんだろうね。」
「寂しい?」
「彼自身は気付いていないようだけど、恐らくこの世界で自分を知る者が全くいないことが彼には想像以上に辛いんだろう。
だから、周りに誰かがいて欲しい。
今回君を助けたのだって折角できた繋がりを失いたくないって思ったからかもしれない。
彼はそういう感性を持てている、間違いなく彼は人間でまごうことなき子供だよ」
頭のキレる団長の言葉にリヴェリアは苦笑している。彼女は彼よりベルとの交流が深い、ロキの迎えやら魔法の訓練やらでよくウィステリアを訪れるからだ。
だからこそ、そんな中で彼の姿を見てフィンの考えと同じ結論に至った。
「恐らくだがアイツはこれからも信用できる派閥なら同盟を増やしていくだろう」
「なんでそう言い切れるの?」
「フィンの言うとおり寂しいからだ。ベルの力はいずれオラリオにとって必要になるときが来るだろう。
その時ベルはその力をオラリオ中に明かさなければいけない。その時、彼の力に恐怖を覚えるものばかりだったら、ベルはどうなる?」
リヴェリアの諭すような口調にレフィーヤがあっと声を漏らした。
「……ベルが一人になってしまう」
「そういうことだ。まぁ、これもアイツ自身自覚してるかわからないがな」
何処か楽しそうに語るリヴェリア。
「でも意外だな〜、アタシてっきりフィンはベル君とは立場的な繋がりしか持たないと思ってたのに。結構、気にかけてるんだ」
「ティオナ、口を慎みなさい。団長は派閥のことを思って……」
素直な疑問を口にした妹を姉が咎めるが、それを、フィン本人の言葉が止めた。
「ンー、同盟のきっかけは殆ど脅迫みたいなものだったからね。最初は僕も向こうを怒らせない程度の関係に止めようと思っていた。だけど、彼を見ていて……少しだけ、昔の君達を重ねて親近感が湧いたんだ」
「昔の私達?」
「猪突猛進にダンジョンに飛び込んでばかりで、情緒不安定だった頃の話だ」
リヴェリアの当時を思い出し呆れたような声色にアイズは視線を泳がせ、ティオナはハハハ〜と何処か照れくさそうに笑い、ティオネは当時のことをフィンに思い出されたのではないかと顔を赤くしている。
「彼は彼の義父、"魔王"に酷く憧れを抱いているようだから、話を聞いた限り曲がったことはしないだろう。だから、迷ったりはしない、だけど、心のどこかに巣食う不安は人一倍強いんだろう」
彼の考察はおそらく的を射ているだろう。かつて、【氷雪洞窟】を攻略した際、ハジメの虚像が彼に語ったのは『化け物になったお前が両親に受け入れてもらえるのか』というものだった。
彼は開き直ったと言い攻略したが、ベルもまた殆ど同じなのだ。『故郷で自分を受け入れてもらえるのか』。あの女にベルは割り切ったと宣言していたが彼の中の闇はまだ完全には払拭されていない。
自覚したそれに、もう迷いはないだろう。彼はこの世界で英雄となると決めた。それ以外はもはや些事だ。だが、その不安は確かに彼の心に存在する。
「だからアイツは本当は必要もないのに私達とも関わってくれる。……私にはそう思えてならない」
「ああ、僕もだよ」
自分達より遥かに重い運命を背負わされた一人の少年を思って二人は目を閉じる。
「ヘスティア様はそれに気づいているのでしょうか?」
「気づいてるだろうね……だから、仲が悪いはずのロキとの同盟も受け入れたんじゃないかって僕は思ってる」
「ロキもあれだけベルと関わってるいるんだ、なんとなくではあるが察しているだろう」
二人はあれでも神だ。育った世界が違かろうと下界の子供の心などあれだけ触れ合って、わからないほど鈍くはない。二人はそう言う。
「あとそうだなぁ……ベートあたりは気付いてると思うよ?」
「ええっ!? あのベートが!!」
ティオナが心底驚愕したような声を出す。
彼女は実力こそ認めているが彼とは特に仲が悪い。
彼女の中のベート・ローガとはがさつで空気の読めない、強い奴にしか興味がないそれ以外を見下す嫌な奴という認識だ。
その彼が本人すら自覚していないセンチメンタルな部分を理解しているというのはとても信じられなかった。
「何を驚いている? アイツはお前たち以上にベルに稽古をつけてもらっているんだぞ?」
「「「「えっ?」」」」
今度はティオナだけでなく、フィンとリヴェリア以外の全員が驚いた。
「やはり気づいてなかったか……。わざわざ、バレないように時間をずらしているのだから当然ではあるが」
「帰ってくる度にキレが増してきてね……。素手の戦闘じゃ下手したら負けるかもってくらいには強くなってるよ……。」
遠い目をして語るフィン。子供のように思っていたベートにまさかここまで追いつかれるとは思っていなかったという顔だ。
アイズ達は半信半疑だが、確かに彼ならそれくらいの魔改造をベートに施してもおかしくないと思ってしまった。
「アイツ等は根っこが武人だからな……。口より拳での対話のほうがお互いの内がよく見えるのだろう」
リヴェリアの説明になるほどと納得する。
「さて、色々話したけどここまでは全部僕達の推論。当たっているかどうかは彼本人にしかわからないさ」
そう言って微笑むとフィンは槍を肩に担いだ。
「今日はもう少し進めそうだからそろそろ行こう」
「そうだな」
アイズたちは自分達よりずっと先を行き、ずっとベルのことを理解している二人を追う。
だが、ベルの背中はもっとずっと遠くにある。果たして、その姿を始めに隣で見るのは一体誰なのか……。
「くちっ! う〜、誰か噂してるのかな?」
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