白兎が魔王の義息なのは間違っているだろうか(細部設定訂正中) 作:クロウド、
「こっちの服着るのも久しぶりだな」
ベルは地球でよく好んで着ていたスラックスにジャケットと動きやすい服装に着替えた。約半年ぶりの地球の服装だ。
「ヘリーナさん、ヴェンリさん、母さんたちはいないんですか?」
ネメシアとフリージアと一緒に他のメンバーの服の着付けは手伝う二人のメイドに声をかける。
フルールナイツ序列一位ヘリオトロープ(本名ヘリーナ・元ハイリヒ王国のリリィ専属メイド)と、同じく序列三位アイヴィー(本名ヴェンリ・竜人族・ティオの乳母である)に尋ねるベル。
「姫様達は徹夜で仕事をして『もう疲れたのじゃ、帰って寝る。ベルのことじゃから一回家に来るじゃろうし、その時までには起きる』と言ってレミア様を引き連れて自宅に戻られました。
それと若様、私のことはアイヴィーとお呼びください」
「私のことはヘリオトロープと」
「あっ、ハイ……。」
やけに似た声真似、流石乳母と思う気持ちとその名前そこまで大事か?という気持ちで困惑するベル。
彼女達にとって敬愛するロードから授かったその名前はそれだけ大事なのである。
「皆さん着替えが済んだようなのでそろそろ出発します。ゲートを通る前にも注意したとおりこちらの世界で揉め事は一切無しで。魔法、スキルの使用も禁止です。使えば即、オラリオに強制的に戻しますので覚えておいてください。
いいですね?」
ベルの注意に何人かが『は〜い』と元気よく挨拶した。完全に遠足前の子供達を注意する先生である。
「本当なら空間魔法で一気に飛べますが、折角地球に来たんです、散策がてら歩いて僕の家まで行こうと思いますがどうでしょう」
「流石、わかってるねベル君!」
半袖のワイシャツにジーパン姿というカジュアルな格好になったヘルメスから称賛の声が上がった。
(ぶっちゃけた話、この神が一番心配なんだよなぁ……ヘルメス様、黒髪大好きだし)
コイツにはディオニソス並の警戒を持って当たろうと心に誓うベルだった。
ベルの意見に特に反対の声は上がらなかったので一同は南雲家まで徒歩で向かうこととなった。
「ベル君、ベル君!あの馬車、馬もいないのに走ってるよ!」
「アレは車と言って、内部の熱を利用して走る乗り物ですよ」
「ベル様、ベル様!あの大きな箱のようなものはなんですか?」
「あれは自動販売機、お金を入れると飲み物が出てくる機械だ」
「ベルっ!あの光る板はなんです!?アーティファクトなのですか?」
「アレはテレビ……電波を受け取って映像を流すことができる機械だよ」
道行く途中にある見たこともない景色や道具に興味津々な神々とその眷属。さっきからひっきりなしにベルやメイド達への質問が飛び交っている。
こんな美男美女の集団が歩いていれば騒ぎになりそうなものだが、ベルが渡したアーティファクトにはそこらへんの認識も阻害する効果がある。抜け目はない
(こっちに来たばかりの頃の僕もこんな感じだったんだろうなぁ……。)
そんなことを考えてしみじみしていると、隣にいた春姫に袖を引っ張られる。
今の彼女の服装はロングスカートにカーディガンと落ち着いた印象を受ける。勿論、狐耳と尻尾は見えないようになっている。
「ベル様、あれは何でしょう?」
春姫が指差したのはベルがよくハジメに連れてこられた近所でもかなり大きいの公園だ。様々な遊具があるエリアとやたら広いだけの空間に分かれているのが特徴なのだが、春姫の指差した先はその広い空間に向いていた。
「ああ、アレ……は……。」
春姫に言われてそちらの方を向いたベルは絶句した。
そこには3階の高さはある巨大な天幕があり、空に浮いている風船から垂れている垂れ幕には『サウスクラウドサーカス〜種も仕掛けもございません〜』と書かれていた。
そう、嘗てハジメの母校の教師達の胃に大穴を開けた、ハジメが高校最後の学園祭のために作ったあのサウスクラウドサーカスの天幕である。
「ベル……君が向こうで開いた商会、なんていったっけ?」
「……『サウスクラウド商会』、です」
ベルは頭を抑えて、事情を悟ったらしいフィンからの質問に答えた。
もはや、犯人は言うまでもない。
さすがのベルも、まさか警察沙汰一歩手前までいったあの幻のサウスクラウドサーカスを自分達だけのために作るなど思いもしなかった。
なるほど、あの人が主犯ならこれだけデカイ天幕に誰も反応しないのも納得がいくと言わんばかりの一同。
どうしたものかと考えていると、天幕から何かが出てくる。
ピエロだ、物凄く見覚えのあるウサミミを生やしたピエロ、略してウサピエロが現れた。
ウサピエロはこちらを手招きしている。やはり入ってこいという事なのだろう。
「どうします?」
「ンー、別にいいんじゃないかな?危険はないんだろう?」
「そりゃ、父さんが作ったものですから」
「ベルさんっ!私もサーカス見てみたいです!」
「私もっ!」
シル、ウィーネにも言われる。よく見てみると、殆どのメンバーが目を輝かせている。
(入らない……とは言えないな)
仕方ないと苦笑いしながらベルを先頭に一同は天幕の中に入っていった。