白兎が魔王の義息なのは間違っているだろうか(細部設定訂正中)   作:クロウド、

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番外編 ワクワク地球ツアー『サーカス②』

 天幕をくぐるとスポットライトの当たる巨大なステージの他に見渡す限りの観客席。

 

「やはり外見より広い、空間魔法を使っているようだな」

 

「流石、リヴェリアさん。大正解です。……でも、なんで僕達以外に客がいるんだ?」

 

 ここはハジメが作ったであろう認識阻害のついた天幕。誰も気付けるわけがないので客がいるわけないのだが、客席はチラホラと埋まっていた。

 

「お〜い、べル君っ!」

 

「あっ、愁じいちゃん!」

 

 壁の一つでこちらに手を振ってくる男性、ベルの地球での祖父にしてハジメの父ゲーム会社の社長、南雲愁。そして、その隣には彼の妻、菫が座っている。

 

 オラリオで一度あったことのある面子は軽く挨拶をし、新しく仲間になったメンツが自己紹介を含んだ挨拶を行う。

 

 ロキを筆頭にさり気なく菫が描いている漫画の最新刊を受け取っている者もいた。実を言うとオラリオでも空前の少女漫画ブームが到来していた。

 

「いやあ、まさかあのサーカスをもう一度見れるとは思わなかったよ……。長生きはしてみるもんだなぁ……。」

 

「じいちゃんそんなに年じゃないでしょ……。」

 

「そうよ、まるで私までおばさんみたいじゃない。それでね、ベル君。ハジメったら張り切っちゃって……見てみて観客席を」

 

 菫に言われて辺りを見回すと殆どが帰還者の保護者や家族だが中にはベルが特に見覚えのある人が何人かいる。

 

「そうそうたる顔ぶれって感じだね……。」

 

「余程嬉しかったのね……ほら、ベル君こっちじゃミュウちゃんと違ってお友達作らなかったでしょう?それがこんなに大人数連れて帰ってきてくれるなんて……。」

 

 話している内に愁と菫もウルウルし始めた。この二人にも心配かけたんだなぁと思うベル。

 

「おまけにこんなに美人なお嫁さん沢山見つけてきて!曾孫の顔が見れる日もそう遠くないぞ、菫!」

 

「ええ、そうねあなた!」

 

「台無しだよっ、コンチクショウ!」

 

 ただの漫画家とゲームクリエイターのサガ的なアレだった。

 

「およ、お嫁さん……。」

 

「レフィーヤ、真に受けなるなよ……。」

 

「ベル様っ!リリはいつでも準備できてます!」

 

「あっ、ズルいぞリリ君!」

 

「人の話聞こうか……。」

 

 二人の言葉に何人かが錯乱状態である。そこで、いつもならいる人物がいないことに気付いた。

 

「ミュウは?」

 

「ああ、ミュウちゃんは今回サーカス側だ。レミアちゃんもそれに付き添ってる」

 

「ミュウが?」

 

 ミュウの能力ははっきり言って同年代ではかなり高いほうだ。オラリオで言えばLv.4は硬いだろう。

 

 これから始まるハチャメチャなサーカスについていけるかと少し不安があるが……。

 

(今のミュウなら大丈夫か……。)

 

「それじゃあ僕、始まる前に皆さんに挨拶してくるから」

 

「面白そうだな、俺もついてくぜ」

 

 未だに二人の言葉に回復していない何人かを置いて挨拶周りに向かった。

 

 まずは、

 

「シャロンおばあちゃんに、国家保安局の皆さん!」

 

「ベル……お久しぶりね」

 

「ベル君、元気そうで何よりです」

 

「おう、ベル坊。随分でかくなったな」

 

「お久しぶりです、アレンさん、バーナードさん」

 

 英国国家保安局局長シャロン=マグダネスとその部下の中でも何回か会っているアレン=パーカー捜査官と特殊部隊総隊長バーナード=ペイズに挨拶をするベル。

 

 彼らとはとある卿が遭遇した英国の薬物テロ事件で魔王の存在を知り、現在帰還者をまとめる魔王と協力関係にある。

 

「皆さん、お仕事は大丈夫なんですか?」

 

「問題ないわ、潰すはずだったテロ組織を貴方のお父さんが先んじて潰してくれたもの……。」

 

「なんか……すみません……。」

 

「いいえ、手間が省けたのは事実だし、そろそろ息抜きしなければと思っていたもの」

 

「そうですか……なら良かった」

 

 流石に自分の帰還を祝してのためだけに集まってもらったんじゃ楽しいサーカスを楽しめない。

 

「あれ?ヴァネッサ姉は来てないんですか?」

 

「ああ、パラディならエミリー嬢ちゃん達と少し前の席にいるぜ」

 

「挨拶してくるといいわ」

 

「はい」

 

 シャロン長官に言われたとおり前にいた四人横に並んだ女性達に声をかけた。

 

「ラナ姉、エミリー姉、ヴァネッサ姉、クラウディア姉、久しぶりっ!」

 

「若様っ!お久しぶりです」

 

「ベル君、久しぶり!」

 

「お久しぶりです、ご子息様」

 

「ベルさん、お元気そうで」

 

 上からハウリア族のウサミミお姉さん、ラナ・ハウリア。

 

 次にサイドテールの少女、英国で若くして博士号を持つ天才学者エミリー・グラント。

 

 続いて国家保安局、シャロンの部下で生粋のOTAKUSOUSAKAN、ヴァネッサ・パラディ。

 

 最後にローマ教皇直下、対悪魔組織"オムニブス"所属のエクソシスト、聖女の異名を持つクラウディア・バレンバーグ。

 

「皆さんも来てくれたんですね!」

 

「当然です、若様!我らハウリア、ボスのお呼びがかかれば例え異世界にだろうと参ります!」

 

「魔王様が誘ってくれたの、コウスケのカッコいいところ見たくないかって。ヴァネッサも丁度非番だったし」

 

「私もです」

 

 ああ、それでホイホイついてきたの。とは口には出さないベル君。

 

「ベルよ、この娘たちは?」

 

「ああ、タケミカヅチ様。この人達は僕の先生、遠藤浩介さんの恋人の方達です」

 

「「「「「エンドウコウスケ?」」」」」

 

 ベルの紹介に全員が全員首を傾げた。はて?一体誰のことだったかしらみたいな顔をしている。

 

「ほら、こっちに来る前に話したじゃないですか!」

 

 少し間をおいてアッとヴェルフが思い出したように声を上げた。

 

「あの惚れた女のために【大迷宮】を単独で攻略したっていう人かっ!」

 

「そうっ!その人!」

 

「魔王殿に一撃見舞ったというあの方ですか!」

 

「魔王の右腕って言われてるあの人か!」

 

「旅行の先々で面倒事に巻き込まれてそのたびに女の子を惚れさせてるっていう彼かっ!」

 

 命、桜花、ヘルメスがヴェルフに続いて思い出しに言葉を漏らす。それで全員思い出したようだ。

 

 そして、同時に思った。

 

「「「「「なんでこんな濃い経歴の持ち主忘れてたんだろう?」」」」」

 

 これが遠藤浩介の生まれつきの特性、その異常なまでの影の薄さ。コンビニの自動ドアは勿論、親にまで気づいてもらえないほどの影の薄さである。

 

 人づての噂ですらその記憶から抹消されてしまう。

 

 神話対戦ではその影の薄さを活かし神の使徒共を倒し、仲間内でも最大のキルポイントを稼いだ。

 

 あのハジメにさり気なく人類最強格とまで言わしめる男だ。

 

「それで、そのエンドウというのは何処だ?」

 

 椿が尋ねるとタイミングを図ったかのように舞台袖から声が聞こえてきた。

 

 ーーー離せぇ!俺を開放しろぉぉ!!チクショウ!なんだこの椅子、魔法が使えねぇ!

 

 ーーーお前の拘束のためにわざわざ作った魔封石で錬成した特別性の椅子だ。お前には大人しくあのときの再現をしてもらう。

 

 ーーーおまっ!お前、ふざけんなよっ!俺は二度とあんなのやるか!

 

 ーーーコウスケお兄ちゃん。お前の意見は求めん、なの!

 

 ーーーミュウちゃん、どこでそんな言葉覚えてきたの!?あっ、やめてユエさん!【神言】を使うのは、俺の中のアイツを呼び出すのはやめてくれ!

 

 ーーーエンドウ、力を抜いて

 

 ーーー誰かぁ!ラナっ、は駄目だから……エミリーッ!クラウディアッ!この際ヴァネッサでもバーナードでもいいから誰か助けてくれえぇぇぇぇぇ!!!

 

 舞台袖から聞こえてくる非痛感漂う叫び声がやたら広い会場に木霊した。

 

 その声の主を知るベルはサイドテールの博士さんに目を向ける。

 

 博士さんは両手で顔を抑えている。

 

「ごめんなさい、コウスケ……私にあの人を止める力はないの……。」

 

 つまりはそういうことらしい。

 

 しくしくと泣き続けるエミリーにクラウディアがそっと肩を抱く。流石同じ男に惚れたもの同士、いつの間にこんなに仲良くなったのか?

 

 奥側に座るSOUSAKANとウサミミのお姉さんはこれから現れるであろう卿に胸をふくらませているのか、目がキラッキラしてる。

 

「ベル君、今の叫び声は……。」

 

「なにか聞こえましたか、エイナさん?」

 

 事情を知らない者を代表してエイナが事情を知るベルに尋ねるが、はて、何かありましたかな?という顔をするベル。

 

「え?今、凄く苦しそうな声が……。」

 

「ハハハ、アレは演出ですよ!何言ってるんですか」

 

「いや、ベル。アレは演出で出せる声では……。」

 

「え・ん・しゅ・つ・な・ん・で・す!OK?」

 

「「あっ、ハイ……。」」

 

 リヴェリアもエイナに加勢しようとしたがベルの有無を言わさぬ迫力に押し負けてしまった。アレは演出と言ったら演出なのだ!例え、後で正気に戻った卿とエミリーの心に深い傷を作ることになっても、演出と言ったら演出なのだ!

 

 そこから他の人にも挨拶していく。トータスからやってきたハウリア族や竜人族、地球からは警察庁警備局魔王課……もとい、帰還者対応課の皆さんにオムニブスの皆さん。更には何年か前にハジメとティオが迷い込んだ世界で出会ったアーヴェンスト王国の皆さんまでやってきている始末。どんだけ張り切ったんだあの魔王。

 

 あらかた、挨拶が終わるとそれぞれ空いている席に腰を下ろす。何故か魔王の身内以外ガラガラだというのにベルの周りだけ人口密度がとんでもない。

 

 両隣にヘスティアとアルテミスその奥には春姫とシル、前の席にはリリ、レフィーヤ、アイズ、ティオナ、後ろの席にはリヴェリア、リュー、エイナ、カサンドラそして、椿。

 

「なんでこんなに密集するんですか……。リヴェリアさんまで」

 

「お前が近くにいたほうが説明が聞きやすいからだ」

 

 涼しい顔でそういうが、理由がそれだけでないことはヘスティアとアルテミスは理解している為、頬を引つらせる。

 

「じゃあなんで他の人達は滅茶苦茶生暖かい目でこっち見てんですか!?」

 

 何列か離れてるところでこちらを見ている神々とその眷属。親友のヴェルフと桜花に助けを求める視線を向けるが二人はベルにサムズアップするのみだ。

 

 まるで、『お前も早くキメろよ!』みたいな顔をしてる。

 

(アイツらあとで絶対しばこ……。)

 

 心の中で密かに誓う。

 

 しかし、そんな彼を見つめる人物がいた。

 

「……………。」

 

「フィルヴィス、お前は行かなくていいのか?」

 

「なっ、何を言っているんですかディオニソス様ッ!?」

 

「わかっている。お前が私に感じていたのはあくまで依存。だが、今のお前がベルに感じるそれは違うだろう?」

 

「……………。」

 

「私にその資格は既にないだろうが……親心だとでも思ってくれ」

 

 そんな会話があったことをベルは知らない。

 

 やがて開演の音が響く。

 

 サウスクラウドサーカス、ついに開演だ。


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