白兎が魔王の義息なのは間違っているだろうか(細部設定訂正中) 作:クロウド、
「メーテリア」
ベルとアルフィアしかいない廃教会でアルフィアが口にした何処か耳に残る名前にベルは呆けた表情を浮かべる。
「え?」
「メーテリア、それがお前の母親の名。そして、私の妹の名だ」
「……は?え……?ちょっとまってくださいよ……それじゃあ、僕と貴女は」
「あぁ、私とお前は血の繋がった肉親ということになる」
いきなりのアルフィアの告白にベルは目眩がする。ふらついた足取りで教会のなかを歩き、椅子に足を取られそのままそこに腰掛ける形になる。
その様子にアルフィアが心配してベルに駆け寄り、手をのばす。
「おい大丈夫か、ベル?」
「―――ふざけるな」
しかし、その手は払いのけられた。
「どうしたんだ、ベル?」
「気安く名を呼ぶなッ!!」
「ッ!?」
アルフィアの手を払い除けたベルは椅子から立ち上がりアルフィアをにらみつける。
「アンタは最初から僕のことを知っていたんだろう!?だったら、この時代の僕のことも知ってたはずだ。僕に、僕達に他の血縁者がいないと知っているのにアンタは唯一の血族よりも人類の未来とやらを選んで死のうとしたってこどだ!」
「ッ……!」
ようやく納得がいった、何故彼女から自分と近いものを感じたのか。なぜ、他人と思えなかったのか。血の繋がりがあるのなら当然といえた。自分自身、それを本能的に感じていたのだろう。
だが、だからこそ許せなかった。
「妹の忘形見を放置して、勝手に死んで……その癖に生き残ったら、家族ヅラをするのか?巫山戯るな……巫山戯るなよッ……!?」
「それは……。」
「アンタに……!あの試練に打ち勝って帰還した世界でたった一人、家族に残されたオレの……僕の気持ちがわかるか?わからないだろうな!わかってたまるものかよ!!」
そこには先程まで優しい表情をしていたベルも、戦闘時にハジメのように冷酷になるベルもいない。そこにいたのは……癇癪を起こすただの一人の子供だった。
苛立ちを隠そうともせずに恨み言を吐き出す彼はやがて、怒りを孕んだ冷たい目をアルフィアに向け、彼女の隣を素通りし教会を出ていく。
「―――僕はアンタを家族だなんて死んでも認めない」
すれ違いざまにそう呟き、ベルは教会をあとにした。残されたのは空虚な教会の中で一人佇むアルフィアだけだった。
皮肉なことにその姿は彼女の二つ名をこれ以上なく現していた。
そして、その姿を教会の物陰からいくつかの人影が覗いていた。
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教会から駆け出したベルはオラリオの城壁で先程まで癇癪を起こしていた、一人の少年は夕日を眺めながら黄昏れていた。
「……………やっちまった」
ベルは囲いに体を預けながらがっくりと項垂れた。
時空を超えて出会えた肉親、それを感情に任せあろうことか罵倒し、家族ではないとまで言ってきてしまった。
今、ベルの中には様々な感情が行き交っていた。肉親と出会えた喜び、幼き日の自分を蔑ろにしたことへの怒り、そして、あんなことを言ってしまったことへの後悔。
「ユエ義母さんも、こんな気持ちだったのかな?」
彼女の義母の一人、ユエ……かつてアレーティアと呼ばれていた吸血鬼の女王は信じていた肉親に裏切られオルクス大迷宮に封印されていた。だが、それは狂った神の真意を悟った肉親が彼女を守るための行動だったのだ。
その真実を知ったときの彼女もこんなふうに様々な感情がおしかっていたのだろうか?
「はぁ……それで?他人の家庭事情に聞き耳立てるなんていい趣味とは言えませんよ?」
城壁の上へと上がる階段へと視線を向けて、声をかける。気配感知でそこに誰がいるのかは既にわかっている。
「あはは、やっぱりバレてた?」
「違うわ、アーディ。多分、教会から来る途中で気づいたのよ。でなきゃ、あの時点で追い返してたと思うわ」
出てきたのは申し訳無さそうに顔を出すアーディ、特に悪びれた様子のないアリーゼ、そして、何処か気まずそうな顔をしたリューと輝夜。
アリーゼの言う通り四人につけられていると感づいたのは教会からここへ来る途中、歩きながら登っていた血が下り頭を冷やしているうちに気づいた。
普段のベルならありえない失態だが、あのときの彼は本当にそれどころではなかったのだ。
「……どこから聞いてた?」
「お前がアルフィアの妹の息子という辺りだ」
「最初からじゃねぇか、趣味悪ぃ……。【正義の眷属】の名がなくぜ?」
つけられた挙げ句、自分が触れられたくないことを知られたことにさらに機嫌が悪くなる。そんななか、リューが一人ベルの前に出て声をかける。
「クラネルさん……」
「……なんだよ?」
「
リューが口にした言葉にベルの表情に目に見えた動揺が浮かぶ。戦闘時にすら全く、動揺を見せない彼の心がリューの一言で穿たれた。
「ッ!……アンタにオレの何がわかる」
「ええ、この世界の私は未来の、いえもう別世界なのでしたね……その世界の私ほど貴方のことを多くは知らない。しかし、それでもわかることはある」
自分を真っ直ぐと見据えるリューに自分が知っているもうひとりのリュー・リオンを重ねる。ベルによって歴史が大きく変わった以上、この世界はベルがいたオラリオではなく全く違う歴史を辿るパラレルワールドとなることだろう【アストレア・ファミリア】が壊滅したのはここからさらに少したった時間だが既に【ルドラ・ファミリア】はベルの催眠によって立派な慈善団体へと変わった。その心配は既にない。
なにより、アーディ・ヴァルマ。先の大抗争で死ぬはずだったこの少女の生命もベルの干渉によって救われた。彼女だけではない、アルフィア、ザルド、闇派閥に利用された子どもたち。
この世界はきっと、ベルがいた世界より―――優しい世界になることだろう。
何故ならこの小さな魔王はバットエンドを何より嫌う。英雄が生まれるために命を落とす人々?都市を護るための名誉の死?知ったことか、そんなものはクソくらえだ。どんなに都合が良かろうと誰もが笑えるハッピーエンド。
それが傲慢にして強欲な英雄、『ベル・クラネル』が望む未来だからだ。
彼は今も正義の女神や遊戯神、民衆の主に街の復興の手伝いとしてこき使われているであろう絶対悪の神にこういうだろう、『ざまぁみやがれ、バーカ!』と。
そして、そんな
「私もさっきのお前とアルフィアを見て確信した。お前の口調が戦闘時に変わるのは、自分と父親を重ねて自らを強く見せようと鼓舞し、自身の中にある寂しさを隠すため。違うか?」
「ほんっと、いい目を持ってますね輝夜さん……。」
「ふふふ、心を覗ける目をお待ちになる貴方様ほどではありません」
【アストレア・ファミリア】の中でも輝夜やライラは人の本質を見抜くことに長けた目を持っている、それはベルの魂魄魔法とは違い生い立ち故のものだろう。
リューの言うとおり今のベルは強がっているのだろう。でなければ、自分のことを『オレ』とは言わない。
ハジメの影響を受けて口調は多少荒くなることはあるが、それでも一人称まではそう簡単には変えられない。
「―――ここからは僕の独り言です、興味なければ聞き流してくれて結構」
「ホントに素直じゃないのね……ここまで来たら素直に話したほうが楽じゃないかしら?なんなら、お姉さんが一緒に謝りに行ってあげましょうか?」
「重力魔法でバベルまで吹き飛んでみますか?アリーゼさん?」
「……………え、遠慮しま〜す」
「団長……。」
「「アリーゼ……。」」
ベルが片手に黒い重力の塊をチラつかせて凄みのある笑顔を向けるとアリーゼは震えてリューの背後に隠れた。彼女の明るさは美徳だとベルも思うが今はちょっと黙っててほしかった。割と勇気のいる話をするのだから。
そんな彼女に呆れた視線を向ける三人を他所にベルはふぅと息を吐くと彼女たちに背を向け沈みゆく太陽を眺めながら意を決したようにベルは口を開く。
「ずっと、羨ましかったんです。父さんやシア義母さん達が……じいちゃんやばあちゃんみたいに血の繋がった家族がいるのが……。ほら、やっぱり血の繋がりって他にはない繋がりでしょ?」
紅目に夕焼けのオレンジがさした瞳でベルは今までハジメやユエにも話しことのない心の空白をアリーゼ達に語り始める。
彼女達は彼の独白を何も言わずに聞き届ける。
「ユエ義母さんにも家族はいなかったけど……思い出はあった。ただ、僕にはじいちゃんとの思い出だけで親の記憶がなかった」
「ベル……。」
「わかってます、こんなのは八つ当たりでしかないって……どの道僕がこの世界に迷い込まなかったらあの二人は死んでた……。だけどさ、」
ベルは瞳から溢れる雫に『あぁ、まだ自分にもこんなものが流せる心が残ってたのか』と思いながら上ずった声で口にした。
「思い出だけでいい……家族でいて欲しかったんだ」
【アストレア・ファミリア】をどうしても出したかった!となればもはやこれしか手がなかったんだ!ホムンクルスとして疑似蘇生という手も考えたが流石にそれはまずいと思い没にしましたのでもうこれしか手がなかったんだ!