白兎が魔王の義息なのは間違っているだろうか(細部設定訂正中) 作:クロウド、
「ほ〜う、ベルたんはダンジョンでアイズたんにあったんか?」
「そうですね、ミノタウロスを追ってきたアイズさんとベートさんと鉢合わせまして。というか、ベルたん?」
「僕のベル君に馴れ馴れしいぞロキ!」
《ロキ・ファミリア》の豊穣の女主人での、遠征の打ち上げに何故かベルとヘスティアまで巻き込まれていた。
何故かベルはロキに気に入れられていた。
「アイズたんから、ミノタウロスを倒したのはベルたんって聞いてるけどホンマなん?」
「ええ、そうですが。それが、何か?」
「アイズから君は駆け出しだと言っていたときいたけど、いつオラリオに?」
小人族の少年、『勇者』の二つ名を持つ《ロキ・ファミリア》団長、フィン・ディムナが尋ねてくる。
「半月前ですが?」
「「「「半月ッ!?」」」」
ミノタウロスは本来Lv2相当のモンスター、しかし、恩恵のスタートは等しくLv1、ランクアップには最低でも一年以上かかるのがオラリオの常識だ。それを半月もしないうちに勝つことなどありえない。
ベルの答えにテーブルに座っている何人かが目を剥いた。フィンはロキに視線を送るがロキは首を横に振る。
彼ら神には地上の子供たちの嘘を見抜く力がある。それが反応しないということは本当なのだろう。となれば、あとは……。
「おい、ドチビ。まさかベルたんを改造したんちゃうやろな?」
ヘスティアが神の力を用いて、ベルを改造するという違法を犯していないかだ。そんなことをすれば神は容赦なく天界に送還される。
ヘスティアの答えは、
「すると思うかい? というかそもそも必要ないよ、ベル君に改造なんて……。」
「? それどういうことや?」
「おい」
ヘスティアの投げやりな答えにロキは追求しようとするが、それはベートの声に遮られた。
「お前、本当に昨日会ったやつか?」
我慢の限界を迎えた彼はベルの核心をついてくる。
ベルの視線が鋭くなったのをアイズをはじめとする幹部達は見逃さなかった。
「昨日はお前から感じられたあの妙な感覚が今日は感じねぇ。だがお前の匂いは昨日会ったときと同じだ」
「……さすがは狼人、鼻がいいな。本当は話すつもりなんてなかったが、下手に詮索されると厄介だからな。」
感じが変わったベルに《ロキ・ファミリア》は訝しげる目を向ける。
ベルは指輪型のアーティファクトを見せつけるように手を上げる。
「種はこいつ、僕が作ったアーティファクト」
「アーティファクト? 魔道具ではないのか?」
「本来なら既に失われた技術によって作られる強力な魔法の道具、それがアーティファクト。はっきり言って、魔道具の比じゃないんだよ。で、この指輪は装着者の周りからの認識を多少弄る効果がある」
「認識を弄るですって?」
「まぁ、口でいうより感じたほうが早いか?」
そう言ってベルは指輪に手をかけ、そのままゆっくりと指から外した。
瞬間、
「「「「「!!!?」」」」」
ベルから放たれる圧倒的なオーラが《ロキ・ファミリア》の幹部達の体が動かなくなる。まるで、獅子に睨まれた獲物のように。
(なん、っだ!? この力は……。)
(もはや人の域を超えている……!)
(こいつ本当に人間かいな……?)
彼らを圧倒しているのは力じゃない、彼らが強者であるが故に、高位の存在である神故に感じることができる圧倒的な存在感、それが彼らの体を縛る圧力の正体だ。
「み、皆さん、どうしたんですか!?」
しかし、この中で唯一Lv5に至っていないエルフの少女はそれを感じることができない。
「なるほど、やはり、Lv4以下じゃ感じられないか」
「一体、何を……。」
「次元が違うんだよ。今日までの感覚だと、多分神とLv5以上が僕の存在を感じられるボーダーだろうな」
そう言いながらベルは指にアーティファクトを嵌め直す。すると、先程までの圧倒的な存在感が嘘のように感じられなくなる。
息を吸うことすら忘れていた者達は一気に新しい酸素を補給しようと息をすう。
「フィン・ディムナ。神ロキ、アンタら、部下の躾はしっかりしといたほうがいい。僕みたいな化け物を敵に回すことになり得るからな」
「……どういう意味だい?」
「僕はヘスティア様の眷属になる前、いくつかのファミリアに入れてもらうよう頼みに行った。勿論、二代派閥と呼ばれる《ロキ・ファミリア》にも。そしたら、門番のやつに言われたよ、『お前みたいな貧弱そうな奴は《ロキ・ファミリア》にふさわしくないから消えろ』とな。」
それを聞いた瞬間、フィンは本気で門番の二人をぶん殴ってやりたくなった。
「正直な話、追い返されたときはどうしてやろうかと思ったよ。ロクに力も感じられないような奴に貧弱そうって言われたんだからな。父さんがあの場にいたら半殺しは確定の上、ファミリアぶっ潰してただろうけど」
「そんなこと、できるわけッ……!」
「出来るんだよ、あの人は。そういう人だ、自分や僕達に敵対する奴は組織だろうが神だろうが完膚なきまでにぶっ潰す。それがあの人《魔王》の、やり方だからな」
ベルの言うとおり、ハジメなら容赦なくそれくらいはやるだろう。その上、当事者には一生忘れられないような深い、それはふか〜い嫌がらせをするのは目に見るより明らかである。
(実際、最愛の人のために神一人ぶっ殺してるもんな)
ベルもまた聖歌隊の一人として参加した最終決戦。あのときのハジメの先導は幼かったベルの記憶に今も強く記憶されている。
「まあ……」
ベルは思考を過去から今へと引き戻し《ロキ・ファミリア》をグルリと見回したあと、
「僕にもそれくらいは、できるがな」
凶悪な笑みを浮かべながら告げる少年に、《ロキ・ファミリア》は冷や汗が止まらなくなる。
彼らはオラリオに数少ない第一級冒険者。
ーーーだからどうした?
《ロキ・ファミリア》はオラリオの双璧をなす、巨大ファミリア。
ーーーだからどうした?
そんなもの、圧倒的な理不尽の前では砂の城のようにもろく崩れるのみだ。
圧倒的な理不尽の前に心が折れかける幹部達、重苦しい空気が流れる。
しかし、それを打ち破ったのは意外な人物、
「ベル君、そろそろ脅かすのはやめてあげたらどうだい?」
まさかのヘスティアだった。
「ええ、ここからがいいところだったのに……。」
口調と雰囲気が豹変したベルを丸い目で見る席の者達。
「いや、ボクもロキの子供達の悔しそうな顔は見ていて楽しいけどさ、悪役ぶって話してるベル君、ちょっとイタイよ?」
「カハッ!」
敬愛する主神様からまさかのイタイ発言。ベルのHPはレッドゾーンに突入だ。
「そ、そんな……僕が愛読している漫画ではこういうダーク系の主人公が人気があるのに……」
「いや、確かにそういう漫画はボクも読ませてもらってるけど、明らかに君のキャラじゃないよベル君……。」
「ガハッ!」
女神の攻撃は魔王の息子にヒットした。魔王の息子は怯んで動けない。
「ベル君にはもっとこう、カワイイ系の主人公が向いてると思うよ」
「……………。」
「アレ? ベル君? ベルくーん!?」
返事がない、ただの屍のようだ。
ヘスティアの言葉は彼の急所にヒットした。それはもう深くにヒットしていた。ベルのライフはもう0である。
「ベル君、しっかりしろ! 傷は浅いぞ!」
「……何だアレ?」
「さ、さあ?」
さっきまで自分達を圧倒していた存在は主神の言葉だけで沈んだ。さっきまでの覇気のある姿はどこへやら、今の彼はあまりにも情けない姿になっている。
「なあ、さっきまでのはなんだったん?」
「……ただのキャラ付けですけど」
「「「「アレがッ!?」」」」
なんとか復活したベルの答えにロキの眷属達はいやいやいやと手を横に振りながら信じられないという表情をしている。
あれは誰がどう見ても天然だった。さすが魔王の息子、父から受け継いだ脅迫術は大したものだ。
「まあ、《ロキ・ファミリア》の門番の方にイラッときたのは事実なので、ちょっと脅す気はありましたけど……」
「ちょっとどころか、肝が冷えたよ……。」
フィンが珍しくストレートな弱音を吐く。それはそうだろう、長年冒険者をしていた彼がここまで命の危険を感じたのは初めてだった。
帰ったら門番とはじっくり『お話』をしなければならないと心に誓った。
「なぁ、ベルたん。自分、一体何者なん?」
「……それを話すには条件があります」
キリッとした表情に戻ったベルはロキを指差すとゆっくり人差し指を自分の胸に当てる。
「僕達と同盟を結んでください、秘密を尊守し後ろ盾になるという同盟を。そうすれば、僕は自分の正体を明かし、それなりの対価も与えることを約束しましょう」
「対価ってなに?」
「それは、同盟を結ぶことを決めてから話しましょう。神様、行きましょう」
「あっ、うん」
ベルはヘスティアを立たせて会計を済ませる。
「明日の昼過ぎ、貴方方のホームにお邪魔します。答えはそこでお聞きしましょう。ですが、二度目はありませんよ、同盟のことも門番の方の態度についても」
最後に一瞬威圧を込めて振り返ると、ロキはコクコクと頷いた。
「それじゃ、シルさん。また来ますね」
「はい、またいらしてきてくださいね」
「勿論」
ニコッと笑って一礼し、ベルとヘスティアは帰路についた。
明日のことを考え胃に穴が飽きそうな主神と幹部達をその場に置き去りにして。
シリアスだと思った?残念シリアルでした!