白兎が魔王の義息なのは間違っているだろうか(細部設定訂正中)   作:クロウド、

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ベル・クラネル(裏)

 《ロキ・ファミリア》のホーム、『黄昏の館』の応接室には現在四人の人間が集められていた。

 

 フィン、リヴェリアと並ぶファミリアの古株で『重傑』の二つ名を持つドワーフの男性、ガレス・ランドロック。

 

 アマゾネスの姉妹、『怒蛇』ティオネ・ヒュリテと『大切断』の二つ名を持つティオナ・ヒュリテ。

 

 そして、ダンジョンでベルと出会った狼人々の青年、『狂狼』のベート・ローガと金髪の少女剣士『剣姫』アイズ・ヴァレンシュタイン。

 

 円卓に座っている5人の表情は決して穏やかではなかった。なぜなら、これからやってくる話し相手は存在だけで自分達を圧倒できる強者、下手なことを行って機嫌を損ねれば何が起こるかわからない。話し合いの前だというのにとても重苦しい空気が流れる。

 

 コツコツコツコツ……。

 

「「「「「!!!」」」」」

 

 やがて、複数の足音がこちらに近づいてくる。時が来たらしい、5人は覚悟を決める。

 

 そして、ゆっくりと扉が開いた。

 

「ねぇねぇ、いい加減機嫌を直してくれよベルく〜ん」

 

「いいですよ、いいですよ……どうせ僕のサングラスはダサいですよ」

 

「いやいや、君のサングラスはカッコよかったって、確かにイタかったけど、カッコよくはあったよ!」

 

「ああ、またイタイって言った! もう割っちゃおうかなぁ! こんなカッコイイだけのグラサン割っちゃおうかなぁ! どう思います、ロキ様ぁ!?」

 

「いや、ウチに聞かれても……。」

 

 入ってきたのは何故か黒スーツ姿で拗ねているベルと、それを宥めているヘスティア。そして、げんなりとしているロキ達。

 

 意味不明である。

 

 緊張などどこへやら、皆ポカーンとする。

 

「あの、ベル君。応接室についたし、そろそろ話をしないかい?」

 

「……ああ、すみません。今、終わったので」

 

「え?」

 

「やはり、サングラスはカッコいいという結論に至りました。」

 

 少し、目を離したすきに何があったのだろうか。ベルは再びスチャッとサングラスをかけると、どっかりと椅子に座る。ヘスティアも呆れた様子で椅子に座る。

 

 それを見て、既に疲れているロキ達も向かいに座る。

 

「それではまず、ご返事を伺いましょうか?」

 

 フィンは団員に目配せをし、各々が頷いたあと結論を述べる。

 

「……僕達は君達と同盟を組むことにしたよ」

 

「それは首脳陣たちによる決定ですか? それともここにいる全員の総意ですか?」

 

「後者だ」

 

「よろしい。では、約束通り話しましょうか。僕の正体を。まずはこれを見てもらったほうが早いですかね……。」

 

 そう言ったベルが目配せで合図をすると、ヘスティアは持参した一枚の紙をロキの方へ滑らせる。それを受け取った、ロキは目を見張る。

 

「なんや……これ……?」

 

「僕のステータスです」

 

 そこに記されているのはベルの背に刻まれた恩恵の写し。

 

「何が書いてあるんだ、ロキ?」

 

 それを見て一人慄いているロキにリヴェリアが尋ねる。

 

 ロキはその問いに絞り出すような声で答えた。

 

「ステータス……オールエラー……。」

 

「「「「「「「!!!!?」」」」」」」

 

 その言葉に幹部達もまた目を見張る。

 

「貸してみろ」

 

 椅子から立ち上がったリヴェリアがロキの手からかっさらうようにそれを奪い取ると、内容を確認する。

 

 

ベル・クラネル

Lv.???

力:ERROR 耐久:ERROR 器用:ERROR 敏捷:ERROR 魔力:ERROR

《魔法》

【錬成(+鉱物系鑑定)(+精密錬成)(+鉱物系探査)(+鉱物分離)(+鉱物融合)(+複製錬成)(+圧縮錬成)(+高速錬成)(+自動錬成)(+イメージ補強力上昇)(+消費魔力減少)(+鉱物分解)】、【全属性適正(+雷属性効果上昇)(+雷属性耐性)】、【複合魔法】、【生成魔法】、【重力魔法】、【空間魔法】、【再生魔法】、【魂魄魔法】、【昇華魔法】、【変成魔法】

《スキル》

【魔力操作(+魔力放射)(+魔力圧縮)(+遠隔操作)(+身体強化)】、【気配感知(+特定感知)】、【魔力感知(+特定感知)】、【気配遮断(+幻踏)】、【高速魔力回復】、【剣術(+斬撃速度上昇)(+抜刀速度上昇)】、【縮地(+爆縮地)(+重縮地)(+震脚)】、【先読(+投影)】、【限界突破】、【言語理解】、【魔王憧憬】

 

 

 

「馬鹿げている……。」

 

「同感だね」

 

 それを見たリヴェリアは頭を抑え、ベルを眷属にしたときと全く同じ感想にヘスティアは心の底から同情する。

 

「リヴェリア、その中に聞いたことのある魔法は?」

 

「……ないな。一つとしてこんな魔法は聞いたことはない。なにより、説明が一切記されていない」

 

 オラリオでも最高峰の魔法使いであるリヴェリアですら、これらの魔法の名をを見たことはなかった。

 

「当然ですよ、それは神代魔法。この世界には存在しない魔法、この世界の神の恩恵がそれを記せているだけ奇跡ですよ」

 

 サラッと口にした言葉に幹部達の視線はベルへと集まる。

 

「僕は6年前……こことは違う世界、トータスと呼ばれる世界に迷い込み、つい一ヶ月前この世界に帰ってきた人間です」

 

 その突拍子もないベルの言葉は何故か酷く現実味を帯びていた。

 

 

 

 

 

 

 

 僕が一番最初に覚えているのは故郷の村で唯一の家族であるじいちゃんと一緒に暮らしていた記憶です。

 

 そんなある日僕が8歳の頃見覚えのない場所に迷い込みました。そこはこことはよく似た全く別の世界、たった一柱の神を崇める世界。トータス。

 

 なぜ僕がその世界迷にい込んだのかは今でもわかりません。ですが、頼るものもない僕は人身売買の組織に捕まりました。

 

 見ての通り僕は男には見えないので、そっちの気がある変態あたりにでも売られるところだったんでしょう。

 

 そこからは酷かった、劣悪な環境、物のような扱い、そして、灼熱の砂漠を渡る中生き残ったのは僕と海人族の少女、こちらの世界では魚の亜人とでも言えばいいんですかね? 周りの子供たちが冷たくなっていく中、僕達だけが生き残った。

 

 それでも、僕は生きることだけは諦められなかった。そんな中、フューレンと言う商業都市でその女の子は組織からの脱出に成功しました。

 

 しかし、すぐに捕まりオークションにかけられました。僕も同じくね。だけど、そのオークション会場をぶち破り現れた人がいたんです。

 

 その人はその女の子が逃げ出したときに助けてもらった方で、その報復と女の子を助けるために組織を潰しに来たらしいです。僕はそれのついでのような扱いで助けられました。

 

 今でもよく覚えてます、街にあったいくつかの組織のアジトのもとに雷の龍が落ちたときの光景を……。

 

『ハジメさん、その子は?』

 

『ああ、なんかミュウと一緒に捕まってたから助けたんだが、こいつの顔になんかついてるか? そんなに食いついて』

 

『いやだって、この子……。』

 

『……ハジメにそっくり』

 

『は? そんなわけ……』

 

『いやいや、瓜二つじゃろう? 白い髪に赤い瞳まで同じじゃ。名をなんと言う?』

 

『ベル、です……。』

 

『ベル君ですか〜、私シアって言います。ハジメさん、どうします、この子?』

 

『どうするって、お前……。こんなことがあったあとに何処かに預けるわけにはいかねぇしなぁ……。って、ユエなにしてんだ?』

 

『小さいハジメみたい……この子も可愛すぎる。……ちょっと並んでみて』

 

『ほほう、並んでみるとますます親子みたいじゃな』

 

『親子……お父さん?』

 

『おいおい、お前もか……。』

 

 そこからは波乱万丈の旅でした。父さん達と一緒に短い間でしたが色々な場所旅をしました。その旅の途中で父さんが僕と同じ異世界からの迷子だと知りました。そして、その世界は狂った神が人間を駒として操っているとも。今、思えば僕もその一つとして紛れ込んだのかもしれません。

 

 父さんは故郷に帰るため七大迷宮と呼ばれる迷宮の攻略の証として手に入る『神代魔法』を得るための旅をしていました。それらを手に入れることで元の世界へ帰れると解放者の一人に言われたそうです。

 

 ですが、そんな危険な旅に僕達のような子供が同行できるわけもなく、僕と少女、ミュウは彼女の故郷で彼女の母であるレミア母さんのもとで父さん達の帰りを待つことになりました。

 

 その時、父さんは約束してくれました。

 

『必ず迎えに来る、それで、俺の故郷、生まれたところをみせてやる。……ベル、お前が望むなら必ずお前を故郷の世界へ返してやる』

 

 そこからは狂った神の使徒に人質にされたり、最終的で聖歌隊として参加したり色々ありましたがそこは端折りましょう。

 

 え? そこが一番大事だろって? いやいや、ここからは父さんと母さん達の惚気になるので僕の口からはとても……。

 

 僕は結局、父さんの世界、地球へ行くことを選びました。ですが、僕はあくまで自分の力で元の世界へ帰りたいと考えていました、父さんのように。たがら、父さん達のもとで修行して、トータスの七大迷宮を攻略する道を選びました。

 

 勿論、母さんたちに猛反対され十歳まで迷宮に行くのは禁止されていました。そして四年かけてようやく七つの迷宮を攻略し、『神代魔法』を進化させた『概念魔法』によって一月前この世界に帰ってきました。

 

 僕が住んでいた家には既にじいちゃんはいませんでした。僕が帰る数日前にモンスターに襲われて……亡くなったそうです。家に残っていたのはじいちゃんの最後の手紙でした。

 

『オラリオにいけ』、それが手紙の内容でした。

 

 オラリオのことは昔よくじいちゃんが話してくれました。人々が夢を叶える場所だと。そして、じいちゃんが昔よく話してくれた内容を思い出しました。

 

『ベル、お前もこの物語に出てくる英雄のようになれ』

 

 僕はじいちゃんへのせめてもの恩返しとしてこの『オラリオ』に来ました。

 

 

 

「まっ、僕の身の上はこんなところですかね?」

 

 話を終えるとベルを腕を組んで背にもたれかかった。

 

「トータス、七大迷宮、地球、信じられないことをいくうでもあるが、君のステータスが何よりの証拠か……。」

 

 フィン達は文字通り頭を抱える。もしかしなくてもとんでもない案件を抱え込んだと。

 

「この【全属性適正】や【複合魔法】というのはわかる、いや、できればわかりたくないが、では、【錬成魔法】とはなんだ?」

 

「【錬成魔法】は僕が元々適正のあった向こうの世界ではありふれた魔法です。」

 

「どんな魔法なんだ?」

 

「そのままですよ、物質の形を変えたり、組み合わせて新しい物質を作ったり、向こうでは鍛冶職が多く持つ魔法です」

 

「? よくわからないね」

 

「ええ」

 

 ベルの説明にアマゾネス姉妹は首を傾げる。他の者もよくわかっていないようだ。

 

「まあ、要するに……こういうことができる魔法です、"錬成"」

 

 ベルが呟くと彼の掌に白い魔力光が迸り、それが収まると彼の手には美しい大粒の宝石が施され、美しい装飾のされた指輪が握られていた。

 

 その光景にまたしても目を見開く幹部陣。

 

「元素物質さえ理解していれば、こういうこともできる」

 

「元素?」

 

「ああ、そっか。こっちではそういうのは知られてないのか……。物質を構成する極小の物質とでも考えてください」

 

 適当な回答をして、ベルは作った指輪をリヴェリアに放り投げる。

 

 リヴェリアはそれを光に当ててよく観察する。

 

「……正真正銘の宝石だ。それに、それ以外の部分もかなり凝った装飾だ、売りだせばそれなりの金額になるだろう」

 

「それだけじゃないですよ、嵌めてみてください」

 

 リヴェリアは怪訝な顔をしながら言われたとおり指輪を嵌めてみる。

 

「これは……。」

 

「どうかしたのか?」

 

「……体が軽くなった」

 

「これが『神代魔法』の一つ、"生成魔法"の効果、魔法や技能を物質に付与する能力。錬成師のためにあるような魔法ですね」

 

 それはつまり、こんな小さな指輪を嵌めるだけでかなりの強化が期待できるということだ。

 

 その指輪の話を聞いている内にロキが何かを気付いたような顔になる。

 

「どうしたんだい? ロキ」

 

「いや、リヴェママ達は遠征行っとったから知らんやろうけど、ヘルメスんところの店で似たような効果のあるアクセサリーが販売されてたな〜と思ってな……。」

 

 幹部達の視線が一気にベルへと注がれる。ベルは実にあくどい顔を見せながら、

 

「いや〜、本当に、魔法のアイテムは魔法のように売れますね〜」

 

 『なんだこの兎の皮をかぶった悪魔は……。』それがこの場にいる全員の総意だった。ヘスティアまでもである。

 

「というか、これを売りに出してるってことは……。」

 

「ああ、ヘルメスと団長のアスフィ君には話してあるよ。どうも、ヘルメスはベル君のおじいさんと友人だったらしいからね」

 

「話して大丈夫だったのか? 神ヘルメスが信用に値するとは思えないんだが……。」

 

 ヘルメスと言えばいつもオラリオの外をふらふらしており、なんというか……だらしなさに定評のある神である。

 

「そこらへんは問題ありませんよ、ヘルメス様には誓約のアーティファクトで余所へは話せないようにしてますので。因みに破ったら……。」

 

「や、破ったら?」

 

「一生、ゲ○に追いかけ回される悪夢を見るように設定しました……ヘルメス様には特にお辛いでしょうね。」

 

 クックック、とまるで悪の組織の大幹部みたいな笑い方をするベルを見て一歩後退る《ロキ・ファミリア》。

 

 実に陰湿な嫌がらせである。

 

「容赦ないのう……。」

 

「いやいや、僕だってじいちゃんの友人であるヘルメス様にこんなことはしたくなかったですよ? ですが、下手に外に情報が漏れると変な虫が湧いてくるので苦渋の決断ってやつですね、はい」

 

「そんな笑顔で言っても説得力がないぞ」

 

 それはもう満面の笑みで答えるベル君。まあ、ぶっちゃけああゆう化け物に追いかけ回される苦しみを味わえとか思っていない、思っていないったら、思っていない。

 

「ん? じゃあ、ロキにもつけなくていいの?」

 

「ちょ、ティオナ! 何言ってんねん!?」

 

「え? 付けてほしいんですか? じゃあ、"魂魄魔法"を付与して作った誓約を破ったら一生お酒の飲めなくなるこのネックレスをーーー」

 

「やめろや!」

 

「ベル、それを売ってもらえないだろうか? いい値を払おう」

 

「リヴェママ!?」

 

「いいですよ、これ説明書です」

 

「ありがとう、これでうちの駄神に灸を据えられる」

 

 ロキのセクハラ案件に割とストレスが溜まっていたリヴェリアは実にいい笑顔でネックレスと説明書を受け取った。ロキの顔は真っ青だ。

 

「……ハハハ、それでなんでロキにはそれを使わなかったんだい?」

 

「あ〜……なんといいますか。僕達って同盟、所謂、身内になったわけじゃないですか?」

 

「? そうなるかな」

 

「僕ら親子は基本敵には容赦しませんが、身内になった以上仲良くしていかないと」

 

 そう、笑って言うベルの言葉に嘘はなかった。

 

「それに、この同盟はこちらから言い出したのに誓約をつけるというのは、公平じゃあないでしょう?」

 

 ベルの言うことは最もだ、同盟とは傘下とは違い互いに公平な立場でいることが第一前提なのだ。

 

「じゃあ、次の質問や。なんでウチらと同盟を組むことにしたんや? ドチ……ヘスティアとも仲悪いし、ヘルメスんところがあるやろ?」

 

「僕が同盟を組むことにしたのはダンジョンを探索してればいずれ僕に目をつける奴等が現れるため、その抑止力とするためです。商業が本業の《ヘルメス・ファミリア》では抑止力としては薄いかな、と。その点、2大派閥の《ロキ・ファミリア》がベストではないかという結論に至りまして」

 

「テメェが言うと皮肉にしか聞こえねぇな……。」

 

 ベートは不満げな声を漏らす、それは幹部達も同意見だが、この同盟が大きな益のあることなのは事実なので突っ込みはしない。

 

「ヘスティアはそれでいいんか?」

 

「ボクもベル君の考えに同感だし、ボクの個人的な理由で反対するわけにはいかないよ。それにロキは力を持ってる神の中でも比較的良識的だしね」

 

「あ〜、そういやウチ以外の大手ちゅうたら……。」

 

 ロキが真っ先に思い出すのは色狂いと言ってもいい美の女神……。あそことだけは仲良くなりたくないわぁ〜、と声を漏らす。

 

「そういや、ベルたん。同盟の対価って、ベルたんのアーティファクト、やったっけ? をうちらに回してくれるってことかいな?」

 

「ええまあ量産型のアーティファクトをいくつか。あとは地球の知識の提供とか、ですかね?」

 

「この世界より文明が進んだ世界、だったかのう?」

 

「ええ、まあ。あそこは魔法とかが表立ってない代わりに、結構文化が進化してますからね。食は勿論、服飾や建築、何より娯楽は遥かに進んでますからね」

 

 表立ってないというのは、言葉の通り一般的には決して知られていないが、そういうものも確かにあるということだ。某深淵卿は特にそれらに好かれているらしく、京都の陰陽師から、英国の薬物テロ、バチカンの悪魔騒ぎなどなど……。旅行の先々でエライ目にあっており、しかしながら、そのたびに女を引っ掛けてくる天性のハーレム野郎であり、その度にかつてのクラスメイトの一人から燃やし尽くされそうな嫉妬の炎がほとばしることとなっている。

 

 ゴホン! 今はあの影の薄い人は放っておきましょう。

 

「例えばどんなのがあるんや? 因みにウチら神は娯楽にはうるさいでぇ?」

 

 元々、神が眷属をつくるのは娯楽の一環だったりする、眷属の成長を時に優しく見守り、時に面白おかしく眺めるのが彼らの楽しみなのだ。

 

「そうですねぇ、これなんかどうです? 向こうではかなり人気があったんですけど」

 

 そう言ってベルが差し出したのは一つの折りたたみ式の財布だった。

 

 娯楽やないんかいな……、と残念がりながらもそれを受け取る。そして、二つ折りのそれを両手で開く。

 

 ベリベリベリベリベリ……。

 

「?」

 

 ピトッ。

 

 ベリベリベリベリベリ……。

 

 ピトッ。

 

 ベリベリベリベリベリ……。

 

 ピトッ。

 

 ベリベリベリベリベリ……。

 

「いつまでやっている?」

 

「ハッ! 未知との遭遇に我を忘れてしもうた」

 

 何故かマジックテープの新感覚にとらわれる遊戯神。ベルがこれを出したのは父の部下であるバーサークウサギの集団が日本にやってきたときそれに夢中になったからである。

 

(なんで、ただのマジックテープでここまで夢中になれるんだろう?)

 

 あのときはまだ幼く、カム(バーサークウサギ、ハウリア族の族長)達の気持ちが理解できたが、今は不思議でしょうがない。

 

 ついでに気泡緩衝材(商品の梱包に使うあのプチプチしたやつ)をそっと出してみる。すると、ロキはしばらく眺めたあとひたすらにプチプチし始めた。

 

 アイズとティオナがちょっとウズウズしている。やってみたいのだろうか? と思い、余った気泡緩衝材を渡してみると3人仲良くプチプチし始めた。

 

 他の者も興味だけはあるのか止めようとはしない。

 

「ま、まぁ、今日はこんなものしかありませんが、興味があるなら明日あたり僕等のホームにも来てください。地図書いといたんで。ああ、それと、僕等の関係は外聞には傘下ということにしておいてほしいんですが。勿論、僕等がそちらの傘下で」

 

 未だ眷属一人のファミリアが大手の《ロキ・ファミリア》と同盟を組んだなど、怪しまれることは間違いないのでこの提案の内容は理解できる、だが、

 

「流石にそれは無理じゃないか? 昨日の一件で同盟につてはこちらの団員の何人かには聞かれているはずだ」

 

「あ〜、その辺は問題ないですよ」

 

「…………………ウチの団員になにかしたのか?」

 

 リヴェリアは長い沈黙の後、出来れば聞きたくない内容を尋ねる。考えてみたら今日の会合のことで頭が一杯であそこにいたもう一人の少女を忘れていた。

 

 普通なら何があったのか気になるはずなのに全く質問してこない。なぜか? そんなの決まっている。

 

「……(ニヤァ)。」

 

((((((やっぱり、こいつか……。))))))

 

 もう驚かない、というか疲れた。と言いたげに頭を抑えるリヴェリア。どんな方法を用いたのかは知らないが、おそらく精神だか記憶だかに干渉したのだろうと思い当たる。

 

 なにせ、彼の保有する"神代魔法"の中には"魂魄魔法"といういかにもな魔法があるのだから。

 

「害はないんだよね?」

 

「勿論、相手に負荷のかかるような半端な仕事するわけ無いじゃんありませんか」

 

「胸を張って言えることではないんだがのう……。」

 

 もはや何も言うまい……。彼こそ理不尽の塊なのだと諦めるしかあるまい。

 

「それじゃあ、僕等はこの辺で」

 

 話を終えたベルはヘスティアと一緒に立ち上がる。たが、

 

「ベル、最後に一つだけ聞かせてくれないか?」

 

 リヴェリアは真剣な眼差しでベルを呼び止める。それを見返しながらベルは質問の内容を待つ。

 

「私達がその七大迷宮に挑戦して、攻略できる確率はどれほどある?」

 

「ゼロです」

 

 即答だった。

 

 それはもう条件反射とも言えるほどの即答だった。しかも真顔の。だが、少し考えるような素振りを見せたあとにもう一度口を開いた。

 

「いや、そこの二人ならまだ可能性はあるかもしれませんね」

 

 ベルが指差した先にいたのはベートとアイズだった。

 

「なぜ、この二人なんだい?」

 

「中途半端じゃないからですよ、二人とも。まぁ、今は無理でしょう、三人とも弱すぎる」

 

「「ーーーッ!」」

 

「まあ、それに至っては他の皆さんも似たようなものですけど」

 

「テメェッ!」

 

「ティオネッ!」

 

 自身が愛しているフィンを貶されたと感じたのかティオネは実力の差を忘れて声を上げる。だが、

 

「……ハッキリいいますけど、この中で一番中途半端なのはフィンさん。団長である貴方ですよ」

 

「……その根拠は?」

 

 フィンはティオネを手で制したままその答えを尋ねる。

 

「僕は七つの【神代魔法】の中でも、【魂魄魔法】が一番あっていましてね。他人の魂の本質を見抜くなんて朝飯前なんですよ」

 

(本当に恐ろしい魔法だ……。それ故に惜しい)

 

「本当に恐ろしい魔法だ、それ故に惜しい、ですか……。そう言ってもらえるのは光栄ですね」

 

「……本当に怖いな、君は」

 

 自分が考えていることを一言一句違わず言い当てられたことでフィンは更に萎縮する。

 

「それじゃあ今後こそ僕は帰ります。あっ、明日ウチにくるなら昼食は抜いてきてくださいね」

 

 それだけ告げるとベルは懐から透明な鍵を取り出して空中に突き刺す。すると、光の門が現れる。

 

 その光景にまたしても声を失う、幹部陣。

 

 ベル達はそれを無視してゲートを潜って帰路についた。

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