白兎が魔王の義息なのは間違っているだろうか(細部設定訂正中)   作:クロウド、

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宝物庫

「なんや……ここ……。」

 

「何って、《ヘスティア・ファミリア》のホームだろう?」

 

 唖然としたロキの呟きに隣に立つリヴェリアは淡々と答える。その表情はもはや諦めの境地に至っている。フィンもまた同様だ、そして、もう一人。アイズはただ、すごいな〜、としか思っていない。

 

 流石にあの場にいた全員で来るのは迷惑だと考えたフィン達は主神のロキ、団長のフィン、副団長のリヴェリア。そして、残るはずだったアイズが強く希望し、ついてきた。ベルも年の近いアイズなら気兼ねなく話してくれるという考えもあった。

 

 そして、ホームにやってきた四人はその外観に圧倒されていた。

 

「いや、え? 嘘やろ? 外観だけならウチらのホームの数倍立派やぞ?」

 

「というか、オラリオにこれに勝る建造物など数えるほどしかないだろう……。」

 

 ベルがリフォームした教会はカトリック教会を参考に作っており、外壁は白一色であり、屋根は鮮やかな緑色。大きさほどそこまではないが実に美しい外観だ。

 

 そう……『外観』はそこまで大きくない。

 

「取り敢えず、入ろうか?」

 

「そやね……。」

 

「ああ」

 

 取り敢えず、立派な入り口の前に立ちノックしようとしたが、

 

「ロキ」

 

「アイズたん、どないしたん?」

 

 アイズに呼び止められロキはアイズが指差したほうを向く。そこには、壁に設置されたスイッチ。そして、『御用のお方はこちらを押してください』と書かれたプレート。

 

「これ、なんだろう?」

 

「私達が見たことないものということは、ベルがいた世界のものを取り付けたのではないか?」

 

 興味津々のアイズはそのスイッチ、インターホンを押してみる。

 

 建物の中から『ピンポーン』という音が響き、続いて『はぁい!』というベルの声が聞こえ、ドタドタとこちらへ近づいてくる。

 

 そして、扉が開き中からベルが現れる。

 

「ようこそ、《ヘスティア・ファミリア》のホームへ。アレ、四人だけなんですか?」

 

「あ、ああ、流石に大人数で来るのはまずいと思ってね。それより、」

 

「……ベルたん、なんやその格好?」

 

 現れたベルは紅色のエプロンとスカーフ、そして、ふんにゃり帽子を被った姿だった。

 

「え? ああ、これですか。立ち話もアレなので上がってください」

 

 そう言って、四人を中にあげるベル。

 

 廊下の内装は外の神聖なものとはまた違い、カラフルでオシャレな内装になっている。

 

 そして、やがて一番広いホールに辿り着くとそこにはいくつかの正方形のテーブルと椅子が並べられており、テーブルクロスが引かれており清潔感が漂う内装をしている。

 

「いや、レストランやん!」

 

 ロキは思わず叫んでしまった。そこはどう見ても、オシャレなレストランそのものだったからである。

 

「ベルく〜ん、生地かき混ぜたよ〜!」

 

 ホールの奥、厨房からベルと同じエプロン姿で両手にボールをもったヘスティアが現れた。

 

「何やってんや、ヘスティアまで……。」

 

「ベル君が君達に地球の料理を振る舞いたいって言うから手伝ってたんだよ」

 

「え? そのためにわざわざこんなふうにしたのかい?」

 

「いやいや、流石の僕でもそこまでしませんよ。ご苦労さまです、神様。うんダマもないし、これなら問題なさそうですね」

 

 フィンの言葉に苦笑いしながらヘスティアから受け取った液状の生地を確認するとそれをテーブルの一つに持っていく。そこには調味料やら、食材が並んでいる、その中でも一際目立つのがーーー、

 

「な、何や、その赤いのは? モンスターの足か?」

 

「アレ? こっちの世界ってタコは知られてないんですか?」

 

 そう、そこにあったのは茹で上がり赤くなった吸盤のついた足、タコの足である。

 

「まさか、それを……?」

 

「食べますよ」

 

「食べられるものなのか、それは?」

 

「失礼な、タコは向こうの世界では結構親しみのある食べ物なんですよ」

 

「じゃあ……こっちのボコボコ凹んだ鉄板はなに?」

 

「ああ、それはたこ焼きプレートです」

 

「焼くのか、これで?」

 

「まあ、取り敢えずやってみせますかね……。」

 

 ベルは魔力によって動くたこ焼きプレート型のアーティファクトの穴の一つ一つに油を塗った布で油をひく。そして、スイッチを入れ熱を通す。

 

「続いて、生地を流し込みます」

 

 ボールに入れられた生地をたこ焼きプレートに流し込む、一つ一つの穴に切り分けたタコをポトリポトリと落としていく。

 

「ここからどうするの?」

 

「こうします」

 

 少し時間が経ったところでベルが長い爪楊枝のようなもので丸い穴の端っこからたこ焼きをひっくり返し丸く形作る。

 

「「「「おお!」」」」

 

 ヘスティアとロキ達から歓声が上がる。

 

 それを爪楊枝でさして皿に盛りつけソースを塗り、マヨネーズをかけ、青のりをパラパラと振りかけ、

 

「はいっ、特性たこ焼き一丁上がり!」

 

 ソースの香ばしい匂いがホールに広がる。ベルに言われたとおり昼食は抜いてきたので胃袋を刺激される。

 

 ベルの右手に人数分の爪楊枝が出現。

 

「さ、召し上がれ」

 

 ベルから爪楊枝を受け取るとそれぞれ一つずつたこ焼きを爪楊枝に指す。

 

「この白いのはなんだ?」

 

「こっちって、マヨネーズもないのか……。卵や油を混ぜた調味料ですよ。さっ、熱いので気をつけて食べてください」

 

 5人は揃ってそれを口に含む。

 

「「「「「!!?」」」」」

 

「「うまいっ!」」

 

「……美味しい」

 

「ああ、初めて食べるが美味いな……。」

 

「中の足の食感がまたいいね」

 

 こちらの世界でもたこ焼きは好評なようだ。5人(特にヘスティアとロキとアイズ)は次々と新しいたこ焼きを口に放る。

 

「あっ、ドチビ貴様ッ! それはウチの分やぞ!」

 

「へへ〜ん、早いものがちだ!」

 

「(パクパクパク)。」

 

「はいはい、おかわりはまだまだありますからね〜」

 

 微笑ましい食事光景を眺めながら、たこ焼きを量産するベル。足りなくなったら、宝物庫からタコの足を取り出す。こんなこともあろうかと、昨日のうちに結構な量のタコを茹でてあるのだ。

 

「ベル、その指輪もアーティファクトか?」

 

 たこ焼きから一度離れてリヴェリアが訪ねてくる。

 

「ああ、"宝物庫"ですか? そうですよ、と言ってもこれは父さんが作った複製品、オマケにオリジナルは父さんじゃなくて別の人が作ったものですがね。なので、父さんほど早く作れないし大量に作るのは無理ですね。それに、これの存在だけで動く馬鹿はいますから」

 

「そうか、それがあれば遠征も楽になると思ったのだがな……。」

 

 ファミリアの実力者数名でダンジョンに長期間潜る遠征、ベルの宝物庫があれば食料や武器などの心配もなくなると考えていたリヴェリアは残念そうに笑う。

 

「だが君でも、君の父上でもないのなら誰が作ったんだ?」

 

「"オスカー・オルクス"。七大迷宮の一つ、オルクス大迷宮を作った解放者ですよ。これは元々、攻略の証の一つだったんです」

 

 焼き色のついたたこ焼きをひっくり返しながらベルは語る。

 

「"解放者"……昨日の君の話にも出てきたね? 詳しくは話さなかったけど。」

 

 たこ焼きの刺さった爪楊枝をもったフィンが話に入ってくる。

 

「どういった人物なんだ?」

 

 リヴェリアも興味がわき、プレートに新しい油をひくベルへと質問する。

 

「これは僕より父さん達のほうが詳しいんですがね……"解放者"、かつて狂った神エヒトに破れ、後の世に願いを託した、神の支配から人々の自由を取り戻そうとした七人の賢人のことです。僕達が手に入れた"神代魔法"は元々彼らが持っていたものなんですよ」

 

 話しながら新しいたこ焼きを皿に盛りつける。

 

「その迷宮はどれほど昔に作られたものなんだい?」

 

「……さぁ、千年か二千年か、はたまたもっと昔か……彼らはただ待っていたらしいです。例え、永遠に近い時間待つことになろうとも、後の世の誰かが自分達の意志を引き継ぎ、誰もが自由に生きられる世界を勝ち取ってくれるように」

 

 そうやって語るベルの顔はあまり晴れやかではなかった。同じく七大迷宮の一つ、ライセン大迷宮。そこにあった解放者のリーダー、ミレディ・ライセン、彼女の部屋の日記を読んだことがあるからだ。

 

 彼らが一体どんな生き方をし、どれだけ強い意志を持って迷宮を作ったのかがその日記には綴られていた。

 

「錬成師の父さんが初めて攻略したのが"生成魔法"のオルクス大迷宮だったんです。ユエ母さんが封印されていたのもその迷宮だったのは運命、だったのでしょうね、きっと……。」

 

 話を終えるとへんにゃり帽子を外す。さて、自分も食べようかと皿を見るが……。

 

「アレ、僕の分は?」

 

 そこにはソースが僅かに残っているだけの白い皿のみ。

 

「「「あ……!」」」

 

 ソースを口元につけた三人組がやっちまったみたいな顔をする。

 

「え? 全部食べたの? あの量を?」

 

「い、いやあ、あんまりうまいもんやから……。」

 

「えへへ、思わず……。」

 

「……美味しかった」

 

「そ、それは……お粗末様です……。」

 

 目を泳がせる神二人と素直な感想をくれる無表情少女にガクッとうなだれるベル。昼飯抜き確定である。

 

 同情の眼差しを送るフィンとリヴェリア。しかし、声はかけない。さり気なく自分達も結構食べてるからである。大変、美味しゅうございました。

 

「はぁ、まあいいか。これだけ美味しく食べてもらえるなら客にも出せるとわかったし」

 

「そ、そうや、ここの内装どうしたん? どう見てもレストランやないか?」

 

「そうですよ、レストランにするつもりでリフォームしたんですから。まぁ、どちらかというと喫茶店とかに近くなりそうですけどね」

 

 何を当たり前のことを、と言いたげな目を向ける。

 

「いやいや、ベルたんなんのためにオラリオに来たのか忘れてない?」

 

「英雄になるためですが?」

 

「え? ベルたんの中の英雄像って喫茶店開くような人なん?」

 

 ロキがヘスティアにこの子大丈夫みたいな顔を向ける。

 

「正直な話、Lv1のはずの僕が持っている収入はちょっと多すぎるのでヘスティア様に仕事をさせるついでにカモフラージュの一環ですね。大体、英雄なんてなろうとしてなれるものじゃないでしょう? 僕は僕の出番が来るまでこうして喫茶店をしようかな〜って、実はちょっと憧れてたんですよね。お店開くの」

 

 ベルは地球に行ってからよくハジメにある店に連れてもらっていた。そこはハジメのクラスメイトの親が経営している洋食レストランだ。あそこの料理はいつも美味しかったとまだ一月しか立っていないのに懐かしさを感じるベル。

 

 ベルのエプロンや帽子もそこのものをコピーしたものだ。

 

 ちなみにベルとハジメ、そして件のクラスメイト"園部優花"が微笑ましく話している光景を別のクラスメイトはこう語る、

 

『なんつうか、愛人との間に出来た子をこっそり連れてきてる男みたいになってるな』

 

 その日、その男の口いっぱいに野菜スティックがつまり、半ば窒息している姿が見られたとか見られなかったとか……。

 

「僕は僕のやり方で英雄を目指しますよ。それに、喫茶店ってことにしといたほうが密会とかしやすいでしょう?」

 

「それはそうだが……。」

 

 なにか言いたげなリヴェリアを無視して食器を厨房に持っていき、水につけておく。

 

「さて、それじゃあ今度は僕の工房に行きましょうか」

 

「工房、というと……アーティファクトのか?」

 

「ええ、色々と作りかけのものもあるので散らかってますが。見ていかれますか?」

 

「是非とも」

 

 フィンとリヴェリアは息を呑む。ようやく、彼のアーティファクトを作っているところが見られる。二人は期待に胸を膨らませるのだった。


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