白兎が魔王の義息なのは間違っているだろうか(細部設定訂正中) 作:クロウド、
「さっ、ここが僕のプライベートルームです。工房はこの隣です」
ロキ達が連れてこられたのは一人で暮らすには少し広い程度の部屋で机、ベット、漫画や本が詰まった本棚、そして、来客用のソファーと特に変わったところのない普通の部屋だった。
「思っていたより普通だな……だが、なぜわざわざ地下に部屋を作ったんだ?」
そう、この部屋ベルが廊下に作った隠し階段から下に降りた先の部屋である。因みに地下3階まであると聞いたときの彼らの表情は語るまでもない。
「変な奴が忍び込んだら面倒ですからね、まあ、警備用のアーティファクトかなりセットしてあるのでここを落としたかったら『魔王』かその伴侶連れてこいって話ですがね」
「警備用のアーティファクト?」
「邪な考えを持つ人間や敵意のある人間が入ってくるのを阻害するアーティファクトですよ」
サラッというがそれがどれだけ価値のあるものかわかる、約数名が頭を抱えた。
「ベル、これはなんだ?」
そんな中リヴェリアは机の上においてあった一冊の本を気付きそれを開く。中には、四十人程度の人間がこちらに向かって微笑みながらVサインを送っている絵、いや、写真が収納してあった。そう、これはベルが地球に行ってからの思い出のアルバムだ。
そして、写真の下にはこちらの世界の共通言語で『地球に到着!』とかかれたラベルが貼られていた。
「これは写真と言って、その時の光景をこうして形に残せるものなんです」
「では、これはトータスから帰ってきたときに?」
「いえ、流石に皆さん家族と会いたがっていたのでその翌日に」
「あっ……これひょっとして……」
アイズが写真の一部を指差す。そこには黒い髪の青年の足元で笑っている見覚えのある白い髪の少年がいた。
「ええ、当時8歳の僕です」
「じゃあ、この青年が君の?」
「はい、僕の義父"南雲ハジメ"です」
そこには嬉しそうに笑うベルの父の姿があった。このときには出来るだけトータス以前の姿に戻っていたが、ベルとしてはトータスでの白髪のほうが親しみは深かった。きっと、自分と容姿が似ていただけでなくあまりにも濃い旅だったからだろう。
「ん? ちょっと待ってや、ベルたん。こいつが父親ってことは、この隣にいる肩を抱かれてる美少女はまさか……。」
「ユエ母さんですけど……。」
ハジメに肩を抱かれているの長い金髪の少女は彼の最愛の吸血姫、ユエ。【オルクス大迷宮】の地下深くに封印されていたところをハジメに救われ、ずっと彼を支えてきた。彼女がいなければハジメは本当にただの化け物になっていたかもしれない。
「ほえ〜、凄い美少女やなぁ……。一度会ってみたいわぁ」
「あったとしてセクハラでもしたら父さんだけじゃなく、シア母さんあたりに血祭りにあげられますよ」
「え? なにそれ、怖い」
ベルは割と本気で言っている。あの二人は絶対にやるという確信があった。実際、ユエの体を乗っ取ろうとしたリヒトぶっ殺してるし……。
「しかし、この見た目で300歳を超えているとは……にわかには信じられないな」
「リヴェママの約3倍やもんね」
「え? つまりリヴェリアさんって……」
ベルが何か言おうとする前にロキの頭にリヴェリアの杖がヒットした。ロキは目を回して床に倒れる。
「どうかしたか?」
「……なんでもないです」
ベルはハジメからの教えを思い出した。
『いいか、ベル。女性に年齢の話は絶対にNGだ。よく覚えておけ』
なるほど、気迫のあるリヴェリアの顔でよく理解できた。
次のページを開くと、そこにはハジメによく似た二人の男女とベルを抱き上げるハジメ、ユエ、さらに先程の写真にも映っていた複数の美女、美少女、美幼女の写真。
ラベル名は『新しい家族』である。
「この二人は君の父のご両親かい?」
「はい、向こうのじいちゃん愁じいちゃんと菫ばあちゃんです。それと、この子が義妹のミュウです」
「では、他の女性達がその……魔王の嫁達というわけか」
「はい」
若干戸惑いながらもリヴェリア尋ねる。
青みがかった白い髪の兎人族の少女、シア・ハウリア。
和洋折衷の着物を来た色気のある雰囲気を醸し出す龍人族の姫、ティオ・クラルス。
長い髪を後ろに垂らしたおっとりした雰囲気のハジメのクラスメイト、白崎香織。
同じくハジメのクラスメイトで髪をポニーテールにまとめたキリッとした目つきの少女、八重樫雫。
背が低いことが特徴的な小動物のような女性、ハジメの恩師、畑山愛子。
そして、美しいブロンド髪のミュウによく似た女性、レミア。
ここにハイリヒ王国の元王女、リリアーナ・S・B・ハイリヒを加えた計8名がハジメ伴侶、通称嫁〜ズである。
「くぅ〜! こんな美女達を侍らせてるやなんて、なんてうらやまっーーーじゃなくてけしからんのや!」
「君もタフだね……。」
いつの間にか復活したロキが憤慨しているがベル達はそれを無視しさらにページをめくる。
そこからのページは地球での楽しい思い出の写真、『初めてのクリスマス!』や『ハロウィンパーティ!』など、向こうの行事のものや『先生が二人目のお嫁さんを見つけてきた!』とか『リリィ母さんの初ライブ』など、家族や友人特有の写真。さらには、向こうで美しい景色とされる場所の写真もいくつもあった。
「美しいものだな……こんなものがある世界、私も一度直に見てみたいものだ」
「なら、今度来てみますか?」
「なに?」
リヴェリアがポツリとこぼした言葉に反応するベル。
「あと一月もすれば、向こうで父さんがこちらの世界と地球を繋ぐゲートを確立してくれます。そうすれば移動もほぼ自由になりますから。そうしたら、リヴェリアさん達でも地球に来られます」
「へぇ、それは僕も興味があるな」
「ウチも行ってみたいなぁ」
「私も」
フィンとロキ、アイズも食いついてくる、3人とも未知の世界への期待があるのだ。ヘスティアは「ボクはハジメ君から直々に招待されているから行くのは確定だけどね!」と得意げに言う。
ベルはかつての自分のような反応に苦笑しながら、ページをめくる。次のページには左右見開きに七枚の写真、そこにはそれぞれ『〇〇〇〇〇〇攻略』と書かれたラベルとボロボロになりながら笑ってピースを送るベルの写真。
「これは、ひょっとして……。」
「僕が七大迷宮を攻略したときの記念写真ですよ、いやぁ、迷宮に潜るたびに何度死を覚悟したか」
「……どうかしたのか?」
「なにが、ですか?」
「今の君はとても無理をしているように見えるよ」
写真を指差しながら笑うベルの横顔はリヴェリア達にはどこか無理しているように見えた。
「……やっぱり、沢山の団員をまとめているだけあってそういうのバレちゃいますか?」
アルバムを閉じたベルは優しい手付きで表紙を撫でる。
「このアルバム……本当はじいちゃんへのお土産の品だったんです」
「「「「「…………。」」」」」
この話はヘスティアも初耳だった、だが、地球で暮らしていたベルのアルバムのラベルがこちらの世界の言葉だったことで腑に落ちた。
「本当は帰ってきたとき……これを一緒に見て、僕はこんなふうに生きたんだって、自分の力でここまで帰ってきたんだって! はなしたかったなぁ……。」
ベルの祖父の遺体はモンスターに襲われた際下が川となっている崖から落ち、未だ見つかっていないという。遺体がなければ"魂魄魔法"による降霊はできない。
今にも泣きそうな顔をしているベルを見て、彼への認識を改める。
ああ、この子はやっぱりまだ子供なんだ、と。悲しいことを自分の中で必死にこらえて強がろうとして、それでも感情を抑えきれないただの子供だと……。
「もし……もし、僕が変な意地を張らずに父さんの力を借りて帰ってきていれば、もっと早く迷宮を攻略できれば……じいちゃんと再会出来たって……それだけがずっと胸につかえてるんですよね……。」
「……私はそうは思わない」
「……え、リヴェリアさん」
「君の祖父は、君に『英雄』になってほしかったのだろう? ならば、君の行動は決して間違いではないはずだ、力のある者に頼ってばかりの奴が英雄になれるわけがないのだから。私は君の祖父のことを知らないが、生きていたのならきっとこういっただろう……。」
リヴェリアは彼の頭を自分の胸に抱き寄せる。
「『よく、頑張ったな』」
「………………………すみません、もう少しこのままでいていいですか?」
「ああ」
甘えるようなことを言うベルにリヴェリアは頭を撫でながら答えた。
「離せロキィ! ベル君が、僕のベル君がぁ!」
「空気読めや! 今は引っ込んでろ!」
暴走しかけている彼の主神をロキが背負いじめしている光景など気づかず、に。
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暫く、リヴェリアの胸で心を癒やしたベルは続いてお待ちかねの工房の紹介に移った。
しかし、勢いであんなことをやってしまったリヴェリアは恥ずかしさからかもう少しアルバムを見たいと部屋に残り、神二人はヘスティアが勧めたドラえ○んを揃って夢中で読んでいる。
結果、彼の工房にやってきたのはアイズとフィンの二人だけとなった。
部屋に入った二人はまず床に散乱した指輪やらネックレスやらのアクセサリーに目がいく。次に棚に部屋の壁際に置かれている武器が陳列している棚へと。
「これ、全部アーティファクト?」
「ええ、と言っても皆失敗作か試作品ですがね」
「凄い量だね、これ全部こっちに来てから作ったのかい?」
落ちていたネックレスを拾いながらフィンが尋ねる。
「そうですよ、リフォームが終わってしまうと体が鈍らない程度にダンジョンに潜ることとヘルメス様のところにアクセサリーを持っていく以外やることありませんから。あっ、それ爆発するので気を付けてください」
フィンは慌ててそれを棚においた。
「……なんでこんなもの作ったんだい?」
「いや、父さんが『自爆はロマン』だというからなんとなく……。」
なんとなくでこんなものを作るなと言いたげな目を向けるがその前に棚に置かれたある物に目が行った。
「ベル君、この槍は?」
フィンが指差したのは棚に飾られた一本の黒い槍。「ああ、これですか」と言って槍を手に取る。
「これは僕が趣味で作った槍です、様々な身体強化の技能やら魔法やらを付与して風の刃やら、電撃やらを纏えるように作りました。さらにーーー」
ベルは左右の手で槍を引っ張ると槍が上部、中部、下部の3つに分離し、中からジャラジャラと鎖が出てくる。
「中は空洞になっていて、"空間魔法"で拡張した内部に結構な長さの鎖を仕込んであるんです。応用次第では遠距離攻撃も可能。"魂魄魔法"と"重力魔法"を併用していて、持ち主に最適な重さになるようになっています。勿論、強度に関しては向こうの世界でも指折りの硬い鉱物を圧縮して作ったので折れる心配はありません」
「いやいや……趣味で作っていい次元の武器じゃないと思うんだけど……。」
フィンは珍しく本気で困った顔になる。こんなとんでもない武器を量産されたらオラリオが魔境になる……。額に汗が浮かぶ。
だが実際、この槍。訳あってほぼ徹夜状態だったベルが深夜テンションで作った品である。あっ、そうだ!中に鎖とかカッコいいなという小学生レベルの安直な考えで作った代物だ。
「ベル……剣はないの?」
「いやないことはないですけど、あれは僕ように父さんが作ったものですからね。僕以外は使えないんです。というか、アイズさんって『デスペレード』とか言いましたっけ? その『不壊属性』のついた剣持ってるじゃないですか」
「……? なんで知ってるの?」
「ヘルメス様からこっちの有名なファミリアの情報は聞いてあるんですよ、情報収集もしてないのに同盟の話なんて持ち込めるわけ無いでしょう?」
ベルがダンジョンでアイズとベートと出会ったとき、《ロキ・ファミリア》だと知っていたのはそういうことなのだ。他にもいくつか情報源があるが、今は語る必要はあるまいと話すことはしない。
「まぁ僕、槍は使わないので"宝物庫"の肥やしにでもしますかねーーー」
「ちょっと待ってくれないか」
そう言って、槍をしまおうとするベルをフィンが止める。
「その槍、少し触らせてもらえないかい?」
「いいですけど……。」
真剣な眼差しで頼んでくるフィンにベルは断らずにそれを渡す。
(なるほど、しっくりくる重さだ。軽すぎず確かな重量感がある。それに確かに体に力が溢れてくる)
振ったり、突いたりしてを槍の性能を確かめる。
「電や風はどうやって使うんだい?」
「念じれば使えるようになってますよ。あっ、でもここでは勘弁してくださいよ、繊細なものばかりなんですから」
「そうか……じゃあ少し外に行って……」
「なんなら、下に行って試してみますか?」
槍を試すために外に行こうとするフィンを床を指差しながらベルが呼び止める。
「そう言えば、ここの下には何があるんだ?」
アルバムを見終わったらしいリヴェリアが話に合流してきた。
「空間魔法で広くしたトレーニング用の部屋があるんです。かなり広いのでそこなら思う存分暴れられますよ」
「そんなものまで作っていたのか……。」
リヴェリアはベルの万能性につくづく呆れる。
「因みにその下には温泉があります」
「「温泉!?」」
突然出てきたワードにアイズ以外の二人は揃って驚きの声を上げる。
「ええ、僕も驚きました。リフォームの途中地下を調べていたら偶然にも温泉の源泉を発見しまして……なんとかパイプを繋いで温泉を完成させました」
自信満々に言うベル。フィンとリヴェリアは困った子を見るような目をする。
「あそこは地球から持ってきた岩風呂用の岩を丁寧に並べ、風流を損なわないよう向こうの銭湯をイメージした映像が壁に流れるよう改良に改良を重ね、さらに! 温泉を流すパイプには"回復魔法"や"再生魔法"を付与! これに入ればおそらく、3年は若返れることでしょう!」
途中から語気荒く自分が作った温泉について熱く語るベル。フィンが今持っている槍はそのために夜遅くまで地下で作業していたことによる深夜テンションの産物なのだ。
「なぜ、風呂のためにそこまで……」
つい口を滑らせてしまったリヴェリアにベルが激昂する。
「何言ってるんですか!!? 風呂こそ人類の叡智の結晶でしょうが!」
「「「ええ……。」」」
とうとう風呂を叡智の結晶とか言ってしまうまで逝ってしまったベル。流石の第一級冒険者も引いてしまう。その気迫はサングラスのときとは比べ物にならない。おそらくベルが日本という温泉を重要視する国で6年も生きたことが原因だろう。
風呂に妥協は許さんッ!
「と、ところであの二人はいつまであれを読んでいるんだい?」
話題を変えようといつまでもドラ○もんを読んでいる二人について尋ねるフィン。仕方ない、と部屋に戻り二人の肩をポンポンと叩いて漫画から顔をあげさせる。
「神様、ロキ様、そろそろ次に行きますよ」
「……なぁ、ベルえもん。この通り抜○フープみたいなアーティファクトあらへん?」
顔を上げたロキは漫画のページを指差しながらベルに尋ねる。
「誰がベルえもんですか。いや、作れますけど絶対作りませんからね、主に《ロキ・ファミリア》の女性陣から苦情が来そうなので」
「だったら、この着せ替え○メラっちゅうのを!」
「嫌ですよ。"宝物庫"と併用すれば作れるかもしれませんけど、作りませんからね。」
以前、ハジメがミュウの頼みで"誓約のきらめき☆"というアーティファクトを与えたことがある。
魔法少女お馴染みのステッキ型でハジメの宝物庫から衣装をクイックチェンジして着替える代物だ。本来はハジメが各国から干渉してくる馬鹿共へのストレスが原因で作った、"魔王流嫌がらせ百八式"の一つというものの一つ、"俺と誓約して魔法少女になってよ(強制)!"のために作られたものだったりする。
どんな嫌がらせかというと無理矢理着替えさせた大の男に"魂魄魔法"によって正気のまま流れてくる音楽とともに決められたふりつけを踊らせる悪夢のような一品である。
それの技術を応用すれば作れるだろうが、作ったら布面積の薄い服にされた《ロキ・ファミリア》の人から苦情が来ることだろう。
「そうだぞ、ロキ。僕のベルえもん君にそんなもの作らせるんじゃない!」
「神様、アンタもか……。」
『ブルータ○、お前もか』みたいな目をわざとなのか天然なのかわからない様子で呼ぶヘスティアに向けるベルえもん。確かに彼の万能性については未来から来た猫型ロボット並みだが……。
そこへ翻訳眼鏡をかけてロキが開いている漫画のページを見ながら、リヴェリアが絶対零度の声音でーーー
「ロキ……あまりふざけたことを言っていると、本当にこれをつけるぞ?」
「……すんませんでした」
リヴェリアの片手には昨日ベルが渡したネックレスが怪しく輝いている。ロキの酒好きはギルドでも有名なので、それだけは勘弁してもらいたいのだろう。
一瞬でしおらしくなるロキ。ベルは対ロキの最終兵器を与えてしまったのかもしれない。