白兎が魔王の義息なのは間違っているだろうか(細部設定訂正中) 作:クロウド、
「いや、広すぎるやろぉぉぉ!!!」
案内されたトレーニングルームにロキの絶叫が響く、その広さに声が反響する。
ロキの言うとおりトレーニングルームは恐ろしく広く、小、中学校の体育館くらいの大きさは普通にある。ロキ以外はもう何も言わない、段々感覚が麻痺してきたようだ。
「これだけ広い空洞を地下に作って上は大丈夫なのか?」
「勿論、この空間そのものが"空間魔法"により拡張されたものですし、念の為"重力魔法"で圧力も調節してあるので崩壊する心配はありません。僕のアーティファクトは殆ど戦闘用ですし、そのための場所を作るのは当然です」
「君のこだわりはすごいな……。だけど、ここなら思う存分槍を振るえそうだ」
フィンは槍を持ってトレーニングルームの中央に立つ。工房で言われたとおり念じて、槍の魔法を発動させる。
「おぉ……」
白い雷がスパークする光景に魔法使いのリヴェリアが感嘆の声を上げる。フィンは雷を纏わせたまま槍を振るう。
「でもアレ、感電とかしないのかい?」
「そんな、初歩的なミスをする僕じゃありませんよ」
ヘスティアの素朴な疑問に答えるベル。
所有者に影響が起きたりしないよう魔法の制御装置はしっかり取り付けてある。
だが、相手に使う場合は象すら失神される超強力スタンガンに早変わりだ。
鎖を取り出してそれを蛇のように操ってみせたり、身体強化で能力が上がったのを確かめるように動き回ってみたりするフィン。
その顔はまるで新しい玩具を与えられた子供のようだった。
「フィンの奴、活き活きしてるな」
「余程あの槍が気に入ったんやろうね」
「うん」
ベルは《ロキ・ファミリア》の三人の話を聞いて、エプロンをヘスティアに預けて、Yシャツ姿で前に出る。
こちらへ歩いてくるベルを見て、フィンは演舞を止める。
「フィンさん、僕と賭けをしませんか?」
「賭け、かい?」
「その槍を使って、僕に傷をつけられたらその槍をお譲りしましょう」
「!?」
フィンは目を見開く。ベルの賭けの内容はあまりにもフィン側に都合がいい話だった。僅かにでも傷をつければこの槍を譲ってもらえるのだから。
フィンの答えは勿論、
「やろう」
「それでこそ、大手ファミリアの団長です」
フィンから少し離れたところで"宝物庫"から真打を取り出して、構えを取る。
「それが君の武器かい? アイズとベートから聞いてたものとは違うようだけどーーー」
「ああ、ドンナーですか。僕は戦い方を教えてくれた人が沢山いるので、いろんな武器が使えるんですよ。今回はこの刀でいこうかなと。おっと、その前に」
ベルは"宝物庫"から新たに鉄のような色の腕輪を取り出して自分の腕に嵌める。
「それも武器かい?」
「これはただの枷ですよ、このトレーニングルームでこれをつけると"重量魔法"が発動して周りの重力が3倍になります」
「参ったね……そこまで侮られているとは……」
明らかな手加減にフィンは眉をしかめる。オラリオでも生粋の冒険者である自分がここまで侮られているのはやはりいい気分ではないらしい。
「勘違いなさっているようですけど、僕の体は神の使徒の体をもとに色々改造が施されているので肉体の状態から言ってフェアじゃないんですよ」
フィンはロキに目配せをするが、彼が嘘をついていないのがわかる彼女は首を横に振る。
「まあ、僕も【大迷宮】を全て攻略した身、いくらフィンさんでも負けるつもりはありませんが」
ベルの気迫が高まっていく。フィンは目の前にいる絶対的強者に親指が疼くを通り越して吹き飛びそうだ。
「リヴェリアさん、合図をお願いしていいですか?」
「任されよう」
ベルとフィンの間にリヴェリアが立つ。そして、手を上に構え、
「始め!」
その言葉とともに旋風と金属がぶつかり合う音がトレーニングルームに響いた。
「クッ!」
一番近くにいたリヴェリアはその衝撃に吹き飛ばされかけるがなんとか持ちこたえる。巻き込まれないようヘスティア達のいる離れた場所で二人の戦いを観戦する。
「槍の身体能力を上手く使っていますね」
「ああ、本当に体が軽いよ。そういう君は剣を抜かないのか?」
「僕の得意分野は抜刀術と二刀流、長剣じゃ鞘だろうと抜身だろうと変わりませんよ」
「そういうことに、しておこうかッ!」
剣を弾き、そのまま体を捻りながらジャンプ。遠心力のかかった一撃が真上から叩き落される。
その一撃は見た目以上に重い。だが、ベルの口元は半月型に笑みが浮かぶ。
「ラァッ!」
正面からフィンの一撃を弾き飛ばす、そのまま上空へと飛ばされたフィンは槍を分裂させて上部を強化された筋力で全力で投げる。槍から逆に引っ張られるようにフィンがベルめがけて飛んでくる。風属性の魔法による推進力のなせる技だ。
「そんな使い方するか普通!?」
槍は真打で払いとばすが慣性の法則に従ってフィンが突っ込んでくる。そして、そのまま"豪腕"による拳がベルの顔に突き刺さった。
「ベル君ッ!?」
ヘスティアがベルを心配して叫ぶ。
殴り飛ばされたベルは空中で華麗に体を捻って着地する。普通の人間なら首の骨が折れてもおかしくない一撃だ。だが、ベルの肉体では多少痛い程度でどうということではない。
そこへさらに追撃とばかりにフィンが踏み込んでくる、既に組み込まれた"縮地"を使いこなしている。練度は低いが、最低限の技能は理解している。
だが、ベルもやられたままではない。槍の鋒を蹴り飛ばし、ガラ空きになった胴体に柄で殴りつけて逆に吹き飛ばす。
槍を地面に突き立て、吹き飛ばされた衝撃を相殺して体制を立て直して再び剣と槍が交差した。
「やりますね……ですが、それじゃあまだ僕には届かない」
「それはどうかな?」
フィンは槍を分裂させ、上部で剣を受け止めたまま下部を鎖で回転させその遠心力でまるでヌンチャクのように威力の増した一撃をベルの顎に見舞う。
すんでのところで後ろにジャンプし、ギリギリかわすが、思わぬ槍の使い方にベルも反応が遅れた。
「僕はそんなヌンチャクみたいな使い方考えて作ったわけじゃないんですがね……。さっきのアレも小人族じゃなきゃできない芸当でしょう?」
「使い方はそれを使う持ち主次第……そうだろう?」
「……そうでしたね」
大した戦闘センス、そして、頭の回転の早い人だと内心、フィンに感心するベル。
顎への一撃は殆どの生物の平衡感覚を失わせる一手。格上の相手に使う最良手とも言える。
(鍛え方次第では化けるな、この人。……だが、)
「残念、時間切れです」
次の瞬間、ベルはフィンの視界から消えた。
「!? 参ったね……。」
フィンの首元に黒く鈍い光が煌めく。彼の真横に現れたベルが膝立ちで彼の首元に真打の峰を沿わせるように構えていた。
「降参だ」
フィンが槍を手放し、両手を上げて降伏するとベルは真打を離して鞘に戻し、地面に置かれた槍を手に取る。
「驚きましたよ、僕のアーティファクトを初めてでこんなに使いこなすなんて」
「光栄だね、しかし、賭けは僕の負けかぁ。おしいなぁ……。」
「いいえ、貴方の勝ちですよ。ホラ」
ベルは自分の顎を指差す、そこには何かが掠ったような小さな切り傷のようなものができていた。
最後の攻撃、反応が遅れたせいで後ろに飛ぶ瞬間、僅かに顎を掠め傷を作っていた。"枷"がなければ余裕で避けていただろうが、そんなもの決闘においてなんの言い訳にもならないことはベルもよく承知している。
「ということは、つまりーーー」
「これは貴方の槍ですよ」
両手で差し出された槍をフィンは同じように両手では受け取る。
「やったな、フィン!」
「見事だったぞ」
「ありがとう、ロキ、リヴェリア。だけど、本当にいいのかい? こんな素晴らしい槍を、本気の戦いならともかく君は半分、いや、1割も力を出していないだろう?」
確かにベルは一度も技能を使っていない、あれは全てベルの肉体元々のスペックだ。彼の母の一人、秘術によって神の使徒と同じスペックを得た香織ほどではないが彼の肉体は人でありながら人の限界を突破している。3倍の重力負荷があろうとそんなものは多少体が重く、反応速度が鈍る程度だ。
使ってみて槍の価値を改めて理解したフィンが尋ねるが、ヘスティアにフィンに殴られた顔をペタペタと触られながらベルは構わないといった顔だ。
「いいんですよ、武器というのは持つべき者が持たなければ価値がない。少なくとも、槍の使い方なら僕なんかより貴方のほうが優秀だ」
「なら……ありがたく受け取らせてもらおう」
「あ、そうだ。ちょっと失礼」
ベルはフィンが持った槍の下部に手を翳す、白い魔力光がスパークし、槍に文字が刻まれていく。
「"マク・ア・ルイン"? ベル君、これは?」
「その槍の銘です、地球の神話に出てくる貴方と同じ名前の英雄が使った槍の名です。これで名実ともにこの槍は貴方のものです」
フィンは自分のものとなった槍、"マク・ア・ルイン"を強く握りしめる。
「"マク・ア・ルイン"……大事に使わせてもらおう」
「ああ、そうそうメンテナンスは僕以外のところでやらないでくださいね。特に鍛冶系のファミリアなんて……考えただけでゾッとする……。」
「確かに……《ヘファイストス・ファミリア》の団長あたりは突っ込んできそうだね」
「でしょう?」
以前ヘスティアから神友の鍛冶神ヘファイトスとそのファミリアについて聞いたことがある。鍛冶系ファミリアでオラリオで有名なのはそのヘファイトスが主神を務める《ヘファイストス・ファミリア》と《ゴフニュ・ファミリア》の2つに分けられる。
特にヘファイストスのところの団長は鍛冶に対する情熱が凄いらしい。
「まぁ、バレたらバレたで身内に引き込むんでいいですが、バレないならその方がいいじゃないですか」
「《ヘファイストス・ファミリア》とも同盟を組むつもりかい?」
「まだ未定ですが、いずれそうなるかもしれませんね。正直言って、いつかはバレることですし。隠し通せるものじゃないでしょう?」
「……それもそうだね」
「ウチとしては別に反対する気はないけど……ファイたんがベルたんの作品見たら目ぇ回すんとちゃう?」
「その時は"魂魄魔法"で魂から回復させますよ」
憐れファイたん……と合掌するロキ、いずれ襲い来る胃痛に心の底から同情していることだろう。ヘスティアも同様だ。
「そういえば、ベルの秘密を知っているのは私達と神ヘルメスのところだけなのか?」
「いや……もう一つバラしてるところがあるんですよね……。」
リヴェリアの質問にベルはバツが悪そうに頭をかく。
「どこなん?」
「ウラノス様です」
ロキ達は頭を抑えて天を仰いだ。
ウラノス神と言えば冒険者達を纏めるギルドのトップ、絶大な神威によってダンジョンのモンスターを抑え込んでいる張本人である。
「どういう経緯でバラしたん?」
「ヘルメス様経由です、ギルドは一番バレやすいところですからね。向こうは向こうでなにか目的があるらしいので黙認してくれてますが、偶にフェルズさんがアーティファクト作成の依頼やモンスター大量発生討伐の依頼を持ってくるんですよ」
「アカン、この子着実にオラリオを手中に納め始めとる……早く何とかせな……。」
フェルズというのはウラノスに仕える魔導師だ。いつも、ローブに身を包んでいてその正体はウラノス以外誰も知らない。
「それで、ギルドにはどこまで話した?」
「ウラノス様とフェルズさん以外にはなにも。お陰でアドバイザーの女性からあまり潜りすぎるな! って怒られました」
「笑えない話だね……。」
フィンは微妙な笑みを零す。
「なので、これからはフェルズさんを見習って顔を隠して潜ろうかなと。問題はなんて名乗るかなんですよねぇ……。何かカッコいいものはないでしょうか?」
「そんなことに悩んでるのかお前は……。」
「いやだって、どうせならカッコいい名前がいいじゃないですか、どうせ僕ランクアップできないし二つ名がほしいんですよ!」
「こんなものの何がいいんだ……。」
呆れ果てるリヴェリア。だが、やはり中身は子供かと若干安心している気持ちも確かにある。
そこへ、今まで静観していたアイズが歩み寄る。
「ベル」
「はい?」
「私とも戦って」
「…………はい?」
珍しくベルが間抜けな声を漏らした。
感想アーンド評価、おなしゃぁす!