彼氏が浮気したからボクも浮気する、彼女はそう言った   作:かりほのいおり

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大人気の後藤くんifルートです
後藤くんもボクっ子だしいいか……


お人好しのレゾンデートル

 僕、つまり後藤慎一が勇気を出し宮地綾さんに告白してから、幸運にもOKを貰って早くも二週間が経った日のことである。

 その日はなかなかにデート日和のいい天気で、けれども彼女をデートに誘う勇気もなかった為に、僕は一人で本屋に赴いていた。

 

 付き合うことにOKは貰ったけれども、いまだ恋人らしいイベントもなく。出来たことはといえば、連絡先を交換してメッセージのやり取りをするようになっただけだけれども、それでも十分に僕は幸せだった。

 

 綾さんは一年の時のクラスメイトであり、その時から僕は彼女に惹かれていた。

 人気者で、モチベーター。誰にでも平等に、きっちりリーダーシップをとってクラス全員を引っ張っていく姿が眩しかったから。それは気弱な僕が持ち合わせていないものだからこそ。

 

 遠くから憧れの視線を飛ばすだけだった自分が告白しようと思ったのは、二年生に上がってクラスが変わったからで。

 

 これを逃したら多分後悔すると。

 そもそもこれから先話す機会も殆どなくなるだろうし、三年に上がって同じクラスになったとしても、彼氏ができていておかしくはない。というか、今の彼女に彼氏の影が全く見えない方がおかしいのだ。

 

 だから僕は告白した。

 振られても別に良かったのだ、いや正直に言えば、きっと振られるんだろうなと思っていた。

 そうだとしても何もしなかったことを後悔するより、やるだけやって失敗したという結果が欲しくて。

 

 そして予想に反してあっさりと成功した。

 

 僕は今、幸福の絶頂期にある。

 今ならば何でもできる、そんな気さえした。

 もう焦る心配は無いはずだった。まだまだ時間はあるのだから、これからゆっくりと仲を深めていけばいい。

 

 事が起きたのは帰り道、適当に映画化が決定した文庫本を数冊買い込んでホクホク気分で家へと向かう途中であった。

 そうした本を選んだのは綾さんと映画を見にいくことを想定したからで、本屋についてから思いついたにしては、なかなかいいアイデアなんじゃないかと思っていた。

 

 僕は公園から出てくる彼女を偶然見かけてしまった――彼女が知らない男と一緒に出てくるところを、だ。

 一目で彼女だと分かった、自分が恋焦がれてる人の姿を間違えるはずもなく。それを否定しようにも微かに聞こえてくる声がそれを本当だと告げていた。

 

 ああ、あれは綾さんなのだ。

 こちらからは後ろ姿しか見えなかったけれども、日頃は制服姿しか見てこなかったから中々に新鮮だった。彼女のことだしズボンを履くのかと思っていたら普通にスカートだったというのも驚きで。

 

 なんでこんな風に知ってしまったのか?

 浮かれた気持ちに冷や水をぶっかけられ、僕は立ち竦んでいた。音が聞こえない、そう思ったのは痛いほど胸が高鳴っていたからだろう。

 知らないうちに取り落としていた本屋の袋を拾い上げ、ふらふらと彼女を追いかける。

 

 冷静になれ、そう自分に言い聞かせる。

 まだ彼女が二股してると決まったわけじゃない、ただの男友達かもしれないだろ?

 お粧しして男友達と公園で遊ぶ、多分よくある話だ。

 

 じゃあ、彼女が知らない男とキスしたとしても?

 

 キスをして、すぐに彼女と誰かは別々の道へ進んでいった。

 誰もいなくなった分帰路に僕だけが取り残されて。ほら見たことか、お前とはお遊びだったんだよと誰かが言っている気がした。

 

 

 

 そして気づけば天井を見上げていた。

 ベッドから身を起こせば窓から夕陽が差し込んでいた。

 もしかしてさっきまでの出来事は夢だったんじゃないか?そんな淡い期待をばっさりと、机の上に乱雑に置かれた本が声高に否定する。紛れもなく、実際に起きて、僕が見た現実だと。

 

 とりあえずスマホをとって彼女に電話をしようとして、ほんの少しの躊躇いののち、妥協して彼女へとメッセージを送った。

 

『今日なにしてた?』と。

『一日中家にいたよ』、彼女はそう返してきた。

 

 ●

 

 それから先に、僕が踏み込むことはなかった。後回しでいいじゃないか、どうせ月曜日に会うのだから、と。

 遅いか早いかの問題でどちらにしろ向き合わなきゃいけない問題だというのに目を逸らしていた。

 

 実際話題に出さないで何事もなかったように過ごす選択もあったのだろうけれど、僕がそれに耐えられるとはどうしても思えなかった。

 

 いっそのこと全部忘れて仕舞えば良いのに。

 でも自分にはそんな器用なことはできない、しこりが残ることは必定、だから。

 

 そうして休みが明けた月曜日、彼女が嘘をついたという事実だけを握りしめて僕は学校に行った。刻々と迫ってくる期限に怯えて、あまり寝れずに寝不足の遅刻気味。

 これだけ遅いと朝に話に行くのは無理だ。そう言い訳を並べたのも、やっぱり確認するのが嫌だったからだろう。

 

 ほんの少し世界が色褪せて見えた。

 相変わらず退屈な授業。黒板の内容をノートに写すのを放棄して、ぼんやりと外を眺めた。

 そんなことをしながらも脳裏に思い浮かぶのは彼女の姿だった。授業に集中せず彼女もよく窓の外を眺めていた、時たま怒られることはあったけれどそれでも飽きずにずっと見ていた気がする。

 

 彼女と同じようなことをしている、そんな自覚があった。昔は遠かった窓際が、今はすぐ隣にある。

 彼女と同じように空を見上げて、けれども彼女が何を見ていたのかなんて、やっぱり僕にはわからなかった。

 

 

 

 四限目が終わり、片手には弁当箱を引っ提げてすぐさま立ち上がる。たっぷり四時間かけて覚悟は出来ていた、それでもなお重い足を引きずって彼女の教室へと向かう。

 

「宮地さん?今日は休みだけど」

「そうですか……」

 

 ピシャリと締まったドアを前に何故か安堵していた。なんの解決にもなっていないし、ただ後回しになっただけだというのに。

 

 だからバチが当たったのだろうと思う。

 教室の前に立つ彼をみて僕はピタリと足を止めた。

 昨日、綾さんとキスをしていた知らない彼。

 

 こちらの視線に気づいたのだろうか、こちらに視線を向けて、けれどもすぐに興味なさげに視線を戻した。どうやらクラスメイトと何かを話してる途中らしい。

 

「あー、後藤ならどっかいったみたいだ。また後で来てくれれば会えると思うけど、なんか言付け残しとくか?」

「そうか……いや、大した様じゃないから別にいい」

 

 そんな言葉がこちらに流れてくる。

 僕を探している?なら、なぜこっちをみて反応しない?

 同じクラスに他の後藤さんはいないし、まず間違いなく僕のことだろう。疑問はもう一つ、どうして僕に会おうとしたのか。

 

 話を終えてこちらに向かって歩いてくる彼は、廊下の真ん中で突っ立ってる僕を避けて通り過ぎていった。

 このまま話しかけれなければ、気づくことは無いだろう。

 

「あの!」

 

 なのに、勝手に口が動いていた。これが彼氏なりのプライドだった、誰にもみられてなかったとしてもここで引き下がる訳には行かない。

 

「僕が後藤、後藤慎一です」

 

 ゆらりと彼が振り返る。

 目の奥に剣呑な光が見えた気がした。

 

「片山直樹だ、ちょっとだけ話がある」

 

 場所を移そうか。そんな提案に頷いて、場所を移した先は中庭である。いい天気。けれども中庭で昼食を食べる様な人は殆どいなくて、誰にも話を聞かれる心配はなさそうだった。

 彼はベンチへと腰掛けて、僕は立ちっぱなしである。

 口火を切ったのは片山さんだった。

 

「なあ、お前が二股してるって本当か?」

「……は?」

 

 思わずぽかんと口を開けてしまうほど、彼のいったセリフが何一つ理解できなかった。僕が、二股?誰に?何で?

 疑問符に頭を埋め尽くされるのを横目に片山さんは話を続けていく。

 

「正直他人の恋愛に口挟むことほど野暮なことは無いと思うんだが、こればっかしはきっちり蹴りをつけなきゃいけないからな」

「いやいや、ちょっと待ってくださいよ!!僕が綾さん以外の誰と付き合うっていうんですか!?」

 

 キョトンとした顔を浮かべたかと思えば、すぐさま口に手を考えて彼は何やら考え始めた。

 

「……前提が違うのか?口実、建前を嘘で固めて、あいつは何が欲しかった?」

「片山さん何をいってるんですか?」

「ちょっと待て、考えを纏める。30秒、いや1分だけ猶予をくれ」

 

 なんなのだこれは、そう呟いた。

 中庭で好きでも無い男と二人っきり。ぶつぶつ呟く彼が何を考えてるか全く予想もつかないし、まったく何を待たされてるというのか。

 手持ち無沙汰にぶら下げた弁当袋を見下ろした。自分が空腹だと気づいたのかぐぅとお腹が鳴って、それを気にすることなくようやく彼が口を開いた。

 

「……そういうことか」

「いや、勝手に納得しないでくださいよ」

「じゃあお前は何が聞きたいんだ?」

 

 いきなりの絶好球、これを逃すほど僕は馬鹿ではなかった。

 

「片山さんと綾さんはどういう関係なんですか?」

 

 後から考えても、その時の質問は正鵠を射たものだったと思っている。その言葉を聞いて彼は明らかにたじろいで、僕は確信を抱いてしまった。ああ、やっぱりそうなのか。

 

「ただの、友人だよ。少なくとも俺はそう思っている」

「へー、そう。これはほんの疑問なんですけど、ただの友人の関係でもキスとかするって本当なんですか?」

 

 ザクザクと身勝手に言葉を突き刺して、果たして誰を傷つけたのかといえば、きっと自分自身なのだろう。

 

「一昨日、デートしてたんでしょう?公園から一緒に出てくるのを見たんですよ、どういう理由で呼び出されたかは知らないですけど」

 

 今になって現実がよく見えた、目を逸らして気付きたくなかった現実を自暴自棄に振り返っていく。

 彼は僕に対して何か間違った印象を抱いている、誰がそんなことを言った?思い出せ、キスしたのはどっちからだった?

 

「キスしたのは綾さんからだった。ねえ片山さん、綾さんは本当に貴方のことをただの友達だと思ってるんですか?」

「……わからないよ」

「嘘、わかってて知らないフリをしてる。僕にいえたことじゃ無いですけど」

 

 ほぼ間違いなく、綾さんは彼のことが好きなのだ。だというのにその事実を認めようとしない彼のことが憎くて憎くて堪らなかった。ともすれば殴りかかりたいぐらいに、辛うじてそれを押さえ込むだけの理性は残っていた。

 

「なら、どうして綾さんは片山さんとデートをしようとしたんだと思いますか?」

「俺と自分の関係に区切りを付けたかったんだろ、多分。……そうでもしなければ前に進めないと思ったから」

 

 僕はお邪魔虫だったのだろうか?

 僕が告白しなければ、彼女は自分の恋を諦めることは無かったのだろうか?

 はたして恋を諦めて僕と付き合うことが彼女にとっての幸せなのだろうか?

 

「片山さんにお願いがあるんです」

 

 その後に続いた言葉を聞いて、彼は顔を苦虫を噛み潰したような顔をした。

 

「それでいいのかよ、お前は」

「みんなが幸せになる方法は、これしか無いと僕は思うんですよ」

 

 

 ●

 

 昼休みも殆ど終わりに近づいてみんな教室に戻る頃だというのに、僕はその流れに逆らって誰もいない場所に行こうと校舎裏に向かった。

 誰もいない場所、何を話しても聞かれない場所。ポケットから取り出したのはスマホ、コールするのは彼女の電話番号である。

 

 この決意が揺らがないうちにどうしてもやらなきゃいけないこと。頼むから出てくれと祈りながら心の片隅で、寝ててくれれば、電話を取らなければいいのにと願っていた。

 

 そうして自分の決意が鈍ってくれさえすればきっと普通に付き合えるのに。だけども、長いコール音の後に彼女は電話に出てしまったから。

 だから僕は開口一番、言った。

 言ってしまった。

 

「勝手な都合で悪いけど、別れよう」

 

 結論だけ押し付けた、あまりに言葉足らずな台詞。けれども僕に上手い言葉回しなんて出来るはずもないのだから、これができる精一杯。

 案の定戸惑った様子が伝わってくるけれど、それに構ってる暇は無い。

 

「一昨日、綾さんが片山君とデートをしてるところを見たんだ」

 

 それを伝えれば彼女もようやく状況を理解したのだろう。長い間の後、彼女は言った。

 

『……見られちゃったか』

 

 嘘でもいいから否定してくれと思っていたのに、彼女は何一つ言い訳もせずごめんなさいと言った。

 

「別に、謝る必要はないんだ。どういう理由で彼とデートをしたのかは予想がついてるから。好きだったんだろ、片山くんのこと。でも僕に告白されたから諦めることにして」

 

 彼女は何一つ否定することなく、僕の言葉を聞いていた。僕が暴かなくていい事実を掘り起こしてるなんて、そんなこと当然わかってる。

 

「だから最後に思い出が欲しかったんだ、そうでしょ?自分の恋に区切りを付けるために。でもデートしてる時点でそんなの、諦め切れてるわけないじゃないか」

 

 そこまでするぐらいなら僕の告白に答えないでくれよ。さっさと告白して付き合って、こっちの希望を絶ってくれよ。

 

「なんとか言ってくれよ、綾さん」

『想像通り、だよ。だいぶ前から彼のことが好きだった』

「それってさ、いつぐらいからの話?」

『……小学生ぐらいかな、多分』

「ッなんだよ、それ。幼馴染みってありきたりすぎる設定。僕よりずっとお似合いの相手じゃないか」

 

 自分よりずっと長い関係だった。僕の彼女とあって一年、その何倍も彼は過ごしていた。そりゃ勝てるはずもない、こんなの結果のわかり切った出来レース。

 彼も彼で、ただの友達だなんて嘘をついて。もしかして自分のことを思って隠してくれていたのだろうか。

 

「ねえ、綾さん。なんで貴方は僕の告白に答えてくれたんですか?なんでばっさりと振ってくれなかったんですか?なんで淡い期待を抱かせたんですか?――なんで」

 

 壁に寄りかかってしゃがみ込む。地面が揺れてる気がするほど、酷く気分が悪かった。

 

『僕が今、何を言っても信じてくれるとは思わない。だけど、これだけは信じて欲しいんだ。キミなら付き合ってもいいと思ったのは本当だから、彼のことを忘れることが出来ると思った』

「……そう、それはちょっとだけ嬉しいかな」

 

 なら付き合う前に関係を精算してくれと思うのは間違いではないだろう、けれどもそれを口にする事はない。

 だってどちらにしろ、もう終わった関係なのだ。そして多分、先にそうしたとしても、僕は今と全く同じ事をするだろう。

 

「でも僕は綾さんとは付き合えない、知ってしまったから。僕が恋したのは、片山君に恋する綾さんだったんだって気づいちゃったから」

 

 どうしようもなく残酷な現実。

 そして、ようやく気づいた。どうして彼女が外を眺めていたのか。きっと、別の教室に居る彼と同じ物を見ようとしていたのだ。

 僕も彼女と同じ様に空を見上げる、彼女もいつもと同じ様に窓の外をぼんやりと眺めているのだろう。

 

「僕が好きになったのはそういう宮地さんなんだから、だからお願い。僕に二度と顔を見せないでくれ、同じ学校だし結構無茶な事だとわかってる、だけどお願いだ。そして」

 

 一旦、深呼吸をして僕は言った。

 

「可能な限り、早急に、片山君に告白してくれ」

 

 彼にお願いしたのはこの事だ。事情を知っている彼ならば、彼女を振る可能性が高いと見たから、だから先に釘を打っておいた。『僕を理由にして彼女の告白を断るな』と。

 

「二つだけ、とっても簡単でしょ」

『……それで後藤君はいいの?』

「いいんだよ、好きな女の子に尽くすのが男の子って奴なんだから」

 

 親切の押し売りだと分かってるけれども、それが彼女にとっての1番の幸せだと僕は思っている。

 

「これでサヨナラだ、最後に何か言うことは?」

『後藤君はさ、お人好しすぎるよ』

「履歴書の長所に『優しい』しか書けないって話したっけ?」

『それは、初耳だけど』

 

 彼女の笑い声を今日初めて聞いて、ふっと肩の力が抜けた。

 通話を切ったら完全に関係が絶たれると分かってるから、その先の言葉をどうしても思いつかない。

 

「ねえ」

『何?』

「僕は、後藤慎一は、貴方のことが好きでした」

『……うん、知ってる』

「いつもクラスを引っ張る姿に憧れて、人気者の貴方の姿は日陰者の僕にはあまりにも眩しくて。時々話す機会が堪らなく幸せでした」

 

 前の告白の焼き直し。けれども今度は彼女はここには居ない、もう会うこともない。

 

「僕は綾さんのことが大好きです。だから陰ながら貴方の幸せを祈ることにします、さようなら宮地さん」

『……さよなら、慎一君』

 

 ツーという通話の切れた音を耳から離して、僕はようやく立ち上がった。昼休みはとっくに終わって、授業の遅刻扱いは免れないだろう。

 

 目元を拭って歩き出す、もう振り返る事はない。さようなら好きだった人よ、さようなら青春よ。

 

 もうしばらく恋愛はお腹いっぱいだと、僕はそう思った。

 

 ○

 

 もう去年のこと、入学したばっかの頃の話だ。

 私は入学したてでウキウキで学校を探索していた、そうしてある場所へと差し掛かったのだ。

 

 校舎裏の人気のない場所、としか説明できないのだけれども妙に収まりのいいところで、今誰かが告白している場面に私はやって来てしまったのだ。

 

 果たして彼らは私に気づくことなく、二人して仲良くその場所からさって行ったのだけれども、私は暗い愉悦に身を震わせていた。

 

 それ以来、私に趣味が一つ増えた。

 悪趣味かつ、人に言えないようなもの。つまりは他人の告白を隠れて覗くという趣味である。

 

 校舎裏のその場所は人気が少ないから告白の場所としてもってつけなのだろう、本当にたくさんの人が来るのだ。時たま先生に告白したり(当然ながら先生がきっちり断って終わるのだが)、女の子同士で告白したりする人がいたり、本当にさまざまな人たちが交錯する場所だった。

 

 そうして上手くいったり、失敗したり、その悲喜交交を一人で出歯亀して、堪能して。

 人に言えない趣味だと分かってはいたけれど、そこらへんの巷でよく聞くラブストーリーや恋愛体験談よりずっと実感が伴ってリアリティがあるからこそ惹かれていた。

 

 その日もよくある昼休みだった。残念ながら告白の現場は抑え切れずに、つまらないなと思って帰ろうとしたときのことである。

 

 彼が現れたのはそんな時、ほんの偶然だった。期待外れから僅かなためらいなどなければそのまま帰っていただろう。

 

 微かにその容姿に見覚えがあった、それも最近。

 ほんの少し考えて、なるほどと閃いた。

 確か二週間ぐらい前に告白してた彼だ、彼女の返答までやけに時間がかかったから失敗したと思わせて成功した彼。

 

 失礼ながら容姿が釣り合ってるとも思わなかったし、そこまで深い関係だと思わなかったので、まさか告白に成功するとは思わなかったから印象深い。

 

 ちゃんと思い返せば鮮明な記憶が思い出せる。

 たしか後藤くんとか呼ばれていた気がする。その彼はスマホを取り出して何処かへと電話をかけ始めていた。

 

 片方の声しか聞こえないけれど、要約すると別れるということらしい。別れて、好きだった人に告白しろと。

 

 呆れてため息が出るぐらいお人好しである、自己犠牲に浸ってるだけの馬鹿とも言える。

 告白にOKした時点で彼女も分かってるはずなのだ、それは元の恋を諦めるってことだって。

 

 それをわざわざ掘り起こす必要なんて、私からしてみれば理解不能である。

 

 でも、悪くはない。

 少なくとも私はそう思った。

 その選択を選ぶのも彼の自由なのだから、それを咎めることなんてできないのだ。本当に馬鹿だと思うけど。

 

 そうして彼は一通り電話の向こうへと勝手に言葉を叩きつけて、電話を切った。

 目をグイッと拭って歩き出す。悠々堂々と自分の行動になんの疑問も抱いていないかのように、それが正解だと確信してるようで。

 

 だから私は彼に興味を抱いたのだ。

 一度面と向かって話してみたいな、と。

 




これにて完全に完結です
本筋でもななしの彼女と後藤くんは遭遇するので、遅いか早いかの問題です

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