とある弱小球団の代理監督の葛藤と、監督の教え、正義の心のお話。まとまらない。

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うん、自己満足小説なんだ。すまない。


お金と正義のまとまらない野球のお話

私が所属している青森オリオンズはいわゆる弱小球団というもので、最近の成績は振るわない。ただ、今季はAクラスに肉薄していた。

元オリオンズのエース、「青森の巨星」こと宮内が監督に就任して3年目。彼はできることはほとんどしてきた。前監督やオーナーに贔屓され、優先的に起用されてきたロートルを控えや2軍に落とし、2軍や育成登録の若手を優先的に起用し、育て上げ、試合後のブリーフィングにも工夫を加え、選手とのコミュニケーションもちゃんと行ってきた。もちろん自身が1軍のレギュラーから遠ざけたベテラン達にも。

しかし、権力のある者のコミュニティを荒らすと大きな仕打ちが待っていることに監督は気を回さなかった。そのために補強金は少なくなり、戦力を満足に補強できずになってしまった。トレードでやってきた若手や、年に2、3人入団する新人選手をろくに手入れされていない練習器具で育て上げ、なんとか使い物になるようにする。パリーグの強豪では簡単なことでも、うちでは難しい。

監督は自分の中で悩みを持ち続けるタイプだ。そもそも彼の周りに味方がいなかったこともあり、彼は彼自身の悩みを外に吐き出せなかった。まずベンチにいるベテランに殴られ、オーナーに嫌味を言われた。コーチは彼を腫れ物を扱うようにし、ファンは彼がグラウンドに姿をあらわす度、球場から自分の車に移動する度、テレビで映るたびに暴言を吐いた。体を、心を殴られ、悩みを溜め込み、そして容器に抑えられなくなったものは、樽の中に入った火薬は、導火線さえあれば火をつけるだけで爆発する。

私は今、監督代行としてベンチにいる。今シーズン最後の試合、対戦相手はリーグ1位の熊本ベアーズのこの試合、9回裏、2−2。ホームの青森アップルスタジアムは歓声に沸いていた。2アウトランナー3塁。うちのチームにおいて1番得点圏打率の高い蓬田が打席に入っている。

この試合の前日、私の家にオーナーが訪れていた。

「なあ、成山くん。君は今年幾つだね?」

「34になります。」

「そうか、もうそんなか。そろそろ引退を考えたりはしていないかね?」

「はあ、まぁ、レギュラーでもないので、あと数年後には引退してるだろうなとは思います。」

「だろう?それで、引退した後は考えているのかな?」

「いえ、僕は」

「ああいやいや、言わなくともわかる。考えていないのだろう?わかるさ。後数年後のことだ。今考えなくてもいいこと。そうだろう?うん、私もね、まだ辞職する時ではないなと、全く老後のことは考えていない。もっと、数年後、いや数十年後のことだ。だがね成山君、君はもう、もしかしたら今季にでも引退してくれと、この球団を出てくれと言われるかもしれない。ま、今年は私がやるんだがね。全く、宮内にも困ったものだ。ファンに罵声を浴びせられただけで精神を病むなど。最近の若者は軟弱なんだよ。ああ、それでね、やっぱりプロ野球選手の将来というものは、老後というものは何かと不安だろう?そこで、私が一つ手助けをしようと思うんだ。ここに100万ある。」

 

まくし立てた後、オーナーは前にある机に札束を置いた。

 

「まぁ、流石にこれをタダであげるわけにはいかん。だがね、私も鬼ではない。どうだ、明日の試合、負けてくれないか?」

「は?」

 

明日の試合、つまり今日、今まさに行われている試合。カウントは2−1。

 

「なに、君は何も考えずに負けるだけでいい。そうだ、ギリギリの試合展開になるとなおいいな。大差で負けるとバレかねん。ま、うちのチームではその可能性も薄いが。念には念を、だ。」

「何を、おっしゃっているのか」

「負けてくれ、と言ったんだよ。明日はうちのチームがAクラス入りできるかどうかという最後のチャンス、天王山だろう?そこを負けてくれと言っているんだ。」

「なぜ、負けなければならないのですか?オーナー、うちのチームが実に数十年ぶりにAクラスに入ろうというところ」

 

ドンッ!と、鈍い音がはしる。オーナーが机を叩いたのだと理解するのに時間はかからなかった。相手チームがタイムをとった。キャッチャーがピッチャーの元へ向かう。

 

「君は何も考えず、ただ負けてくれればいいんだ。負けてくれさえすれば、どうだ、1億やろう。ん?足りんか?なら2億、なら3億、5億、10億、100億!」

「少し!少し、待ってください。100億?何を言ってるんです?あなたは。」

 

妻が出してくれたお茶に口をつける。もう随分たつから冷めてしまっている。バッテリー間での相談は終わったようだ。試合再開。

 

「いいか?1つの試合に負けるだけで100億。100億あれば何ができる?何が買える?君の夢はなんだ?それは100億で十分実現できるだろう?できないなら1000億!1兆だって構わない!さあ!負けたまえ!負けて、くれたまえよ!」

 

唾を飛ばし、ソファから立ち上がり、大きく腕を広げて、叫び始める。空振り。ストライク2。

 

「よく、よく考えてあしたの試合に臨んでくれたまえ。負ければ1兆、覚えておけ。」

 

今まさに、私は1兆を手に入れられるチャンスを目の前にしている。負ければ、負けさえすれば、1兆。なんだってできる。妻に新しい服を買ってやれる。新しい車だって買える。この試合に負けるだけで、そう、監督代行だ。負けても仕方ない。リーグ4位で終われたのが奇跡だ。仕方ないこと。残念ながら、オリオンズは今日も負ける。4位で、シーズンを終える。

 

「…督!監督!監督代行!」

 

緑谷ヘッドコーチに呼ばれ、ハッとする。カウントは依然変わらず2−2。ファールで粘っている。

 

「どうしました?ヘッドコーチ。」

「なあ、ここだけの話なんだ。少し、耳を貸してくれ。失礼。…実は、オーナーに、この試合に負けたら100万もらえる約束をしている。」

 

眼を見張る。まさか、ヘッドコーチにまであんなことをしていたとは。もしかしたら、投手コーチも、打撃コーチも、守備走塁コーチ、選手、ブルペン捕手、ファンの一部、審判、ウグイス嬢。

 

「それは…本当ですか?」

「嘘をつく必要がないだろう!?それで、ものは相談なんだが、負けてくれないか?負けてくれさえすれば、俺は100万のうち、20万を君にあげよう。これは取引だ。負けるだけで20万。豪勢に飲めるぞ?どうだ?いい話だろう?」

 

1兆が、1兆20万に。どんどん金額は上がっていく。監督、実は私も、実は俺も、監督、監督、監督!20万は40万に、40万が80万、80万が100万、1000万、1億。

 

『なあ君、1兆だ。』

『分け前は20万。』

『監督、負けたら20万。』

『半分でもいい。50万』

 

いくつもの声が上がり、そして最後は一つの言葉に。

 

『『『『負けるだけで!』』』』

 

宮内監督は、病院のベッドの中で、こう言っていた。

 

『正義の心をな、他人に優しくしよう、困っている人を助けようという心を失ってしまえば、それで終わり。一度でも正義を裏切れば、後悔が付きまとってくる。罪の意識だな。あの時ああしていなければ、やっていなければ、ってな。だからな、正義の心をなくすな。大事に大事に持っておけ。いつかそれがお前を、俺を、他の誰かを救う。』

『正義の心…ですか。…宮内監督、辛く、ありませんでしたか?』

『倒れるまではなぁ、辛くなかった。楽しかった。代打起用すべきベテランをベンチに下げ、若手を育成し、そうだ、育成出身の、あいつ。蓬田が3番に入った時なんかは感動した。コーチ達は切り捨てようと、見捨てようと言ってきたがな。わかるか?育てれば育つ。今季はホームランを何本打った?何打点稼いだ?グッズの売り上げは?ファンの声は?どうだ、俺の、俺だけの正義の心が、蓬田やチーム、みんなを救った。それはもうたくさん。一人一人の声が聞こえなくなるほどな。もう、この両腕に抱えきれないんだなと思った時、涙が、流れてな。もう、救えないのかと。いっぱいだったんだよ、俺の手は。救っても救っても、押し合い、蹴落としあい、落ちていく。それを俺のせいにして、自分は悪くないんだ。勝手に救われただけだからなぁ。』

『そんな理不尽があっても、正義の心を持てと、おっしゃるのですか?』

『俺一人を犠牲に、何千、何万人が助かるなら安いだろう?なぁ、成山。お前もさ、誰かを救えよ。正義の心で、さ。』

『…では、監督を。監督を救いましょう。何をすれば、私は監督を抱えられますか?』

『そうだなぁ…』

 

「いいえ。」

「…な?だから、負け…。今、なんて言った…?」

「いいえ。うちは、青森オリオンズは負けません。監督が救った蓬田が、選手達が、ファンが、このチームを、青森オリオンズを勝たせます。勝ちます。」

「お、おい。なぁ、考え直してくれ。おい、まてよ!監督代行!成川!」

 

そう、正義の心。どうせ俺だってロートルだ。もうあと数年。それならば、たった一人を助けるくらい、そう、そんな時くらい、正義の心を持ってもいいんじゃないか?

ベンチから身を乗り出し、観客席をぐるりと見渡し、そして最後に打席に立つ蓬田を見て、

 

「打てぇ!蓬田ァ!」

 

快音が響いた。4−2。

 

『そうだなぁ。うちのチームが勝てば、それに勝る特効薬はないかな。』

 

自分で言って照れ臭くなったのか、苦笑いしながら言っていた。外野のファンは総立ち。応援団の演奏が鳴り響き、蓬田がホームベースを踏んだ瞬間、スタジアムはさらなる熱気に包まれた。

 

「監督。私は、救えたでしょうか。」

 

少なくとも私は監督の、投球する姿に、監督として、指示を出すその姿に、暴力に屈しないその姿に救われたのだ。少しくらい恩返しをしても、バチは当たらないだろう。

今度は、蓬田だろうか。

 




意味がわからないだろう?俺もわからない。

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