ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻)   作:Edward

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ようやく、ここで聖戦の系譜の事の発端を描くことができました。


侵攻

光の中で俺は自身の変化を如実に理解した、今までの自分は仮の姿で有ること、そして魔法力が全く違う物に変化していく感覚。

魔法の才覚はほぼ血統による要因が大きい、習得を望んでも自身に魔力の器がなければ一生使えない者がいれば全く魔法に縁がない者が突然何かをきっかけに覚醒する者もいる。

 

そして魔力の器には得意とする魔法も決まっており、俺の場合はセティの血統を継いでいる事もあって風の魔法が一番能率が良かった。ウインドと同じ魔力でファイアーを使用してもウインド程の威力は出ない、サンダーも同様である。

自身の魔力の器を理解し、修練を積んでいけばその差をなくしていけるようだが、その境地に立てる魔道士はユグドラシル大陸には十人もいないであろう。それほど魔力の器を変化させる事は筆舌しがたい物である。

 

今その魔力の器は全く違う物に劇的な変化していく。それは暖かくて力強い魔力、身体から溢れんばかりに膨れ上がる魔法量と魔法に対する抵抗力。

自身の中にあった忘却の風は暖かな陽光を浴びて鮮明な記憶を呼び覚まして行き、俺の中に眠っていたものが目覚めたのだった。

 

「ぬううう!き、貴様は一体何奴なのだ!」

老人にもはや威厳はなく、光の中から現れたカルトから後退しながら虚勢を張るだけであった。

ホリンはその劇的な変化を見張っていた。

カルトのくすんだ栗の髪は銀の髪に変わり、額にはサークレットが飾られていた。

右手にはまばゆいばかりの聖書を胸に抱き、魔道士の服の上に白と銀の刺繍が入ったマントを羽織っていた。

あのくたびれた魔道書を焼いた途端の変化にホリンは全くついて来れずにいる、老人も同様である。

 

「悪いが答える気はない、貴様はここで朽ち果てろ。」

右手の魔道書を開き老人を睨む。

 

「若造が言いおるか!ヨツムンガント!!」

 

辺りより無象の邪気が集まりカルトに襲いかかる、先ほどのカルトはこの一撃に瀕死まで追い詰められたのだが今回はまるで落ち着きを払っておりゆとりすら感じる。

 

「ライトニング!」カルトが左手をかざすとまばゆい光が集まり、邪気の魔法は霧散していく。それどころかその光は老人にまで届き浄化の光を浴びせていく。

 

「ぐああああ!や、やめろ!やめろおお!!」

老人は必死に暗黒魔法を使おうと抵抗するが、発動する様子はなく。杖を狂ったように降り続けていた。

 

「無駄だ、どんな暗黒魔法を使おうと光の魔法に打ち勝つすべはない。おとなしく、闇に帰れ。」カルトはその力を抜くことなく、老人に浄化の魔法を浴びせ続けた。

 

「ぐううう!ようやくここまで力が戻ってきて完全になるまでもう少しだったところにまたしても邪魔が入るとは・・・。

しかし、ここで終わるわけにはいかぬ!貴様は厄介だ、命に代えてもここで殺す!」

老人は光の魔法の中自身の魔力を高めて抗った、小さな結界を作りだし一先ず光に抗うことに成功した老人は暗黒魔法をぶつける。老人からさらに邪悪な魔力が放たれ、決死の一撃を見舞わんと最後の抵抗にはいった。

 

「ヘル!」

老人は両手を広げて発動した、辺りの空間が歪みだしカルトは包まれていく。

カルトもここでライトニングを一度止めて防御に入った。

空間の歪みはますますひどくなり、自身の意識が遠くなっていくが魔法防御を高めればきっと防御できると判断したのだ。しかし、この魔法は肉体にダメージを与えるものではなかった。

 

ヘル、それは対象者の精神を蝕み心の傷を容赦無く抉る悪魔の魔法である。

精神を崩壊し狂人となった者がいれば、完全に動かなくなり二度と正気に戻らない者などもいる。

暗黒魔法の中でも上位魔法に位置し、ごく一部の者にしか習得不可能な魔法である。

 

「くくくく!このまま精神の坩堝に飲まれて死ぬがいい!!」

カルトは自身を見失わないように、そして魔法防御を最大限に発揮させて抵抗する。しかし一度入り込んだその魔法の効力は恐ろしく、どす黒い感情が入り込み、憎しみや怒り悲しみを最大限にひきづりだされ、過去の傷をリフレインされていく。

 

俺の負の感情からくる過去は父親とのものばかりだった。

お袋を無茶な死地に送り、自身は保身と野心を募らせた愚物。お袋以外にも沢山の愛人を持ち、俺の知らない異母兄弟は多数といる。

その中で俺は母親を早くに亡くして他の兄弟の母親どもからのいわれのない虐げ、もしくは暗殺にもあった。

毒も何度盛られて死にかけたこともあった。

そんな中でも親父から差し伸べられる手はなく、幼少期は生き残るために必死に過ごした。

虐げられても、怒りは見せずに笑って誤魔化し食事も誰かと取ることもなかった。

ダッカーの叔父貴との一悶着で死地とも言える戦闘に参加させられても、生き残った。

 

叔父貴との長い騒乱の中、親父の子供で唯一の聖痕を持っていると知った途端手前勝手に英才教育を施し、いよいよ魔力がシレジアでも有数の実力者とまでいわれだした頃になると次は俺に恐れをなして騒乱のいざこざの中で暗殺まで計画したのだ。未遂に終わり、計画も露見しなかったので親父自身が手を下したのかわからず闇に葬られたが明らかであった。

 

その頃の記憶が溢れ出し、最大限に負の感情を高められた俺は狂気に心を委ねて行った。

憎い!俺を都合のいいように扱われた後暗殺まで企んだ親父、兄弟やその母親共。今すぐ、シレジアに戻ってこの手で・・・!!

 

「おやめなさい、カルト。」

 

「!!・・・、母さん?」頭の中で女性の声が響く、懐かしいその声に俺は驚愕し狂った感情の暴走を堰き止める。

 

「闇に飲まれないで、あなたにはレヴィン王子をシレジア国王にしたいのでしょう?昏い感情では成し得る事は破滅にしかなりません。」

 

「そうだ、俺はレヴィンを王になってシレジアの安寧を願いたい。親父の手から救い出してくれたレヴィンとラーナ様の為に尽くしたい!!」

 

「さあ、行きなさいカルト。あなたには正義の風と導きの光を持つ聖戦士。強く心に願えばあなたを挫く闇はありません。」

 

「!」

ホリンは老人に剣を袈裟斬りに払った、胸部より出血が吹き出して倒れこむが奴の笑い声が不気味に響き渡った。

老人を倒してももうこの魔法を解除するすべはないのだろう、カルト自信が破る事を祈った。

カルトは闇の魔力を受け、光の魔力が目に見えて落ち込んでいくが突然開眼し今まで以上の光の魔力を放ち出した。

ホリンは闇の魔力から脱した事に理解し、笑みを浮かべる。

 

「オーラ!!」

カルトから力強い魔法力が溢れだす。先ほどまでの魔力も素晴らしかったがさらに力強く、優しい光が辺りを包み始めたのだ。

 

「カルト!」

ホリンはその力の主を見た、彼は再びその力を解放させ老人へと向かった。

 

「まさか、ヘルまで破るとは・・・。儂にもう貴様を倒す術はない。

だが、いずれこも世界は我らの物となる。」老人はよろよろと立ち上がるが、おそらく魔力を使い果たしたのだろう。転移の術も使うこともできない老人は観念していた。

カルトの上位魔法であるオーラは発動してヘルの精神攻撃を完全に撃破、さらに浄化の光は老人に移ろうとしていた。

 

「終わりだ、ロプト教団に慈悲を与えぬことはこのユグドラル大陸の決定事項。

情報を得たいが、貴様らは絶対に口は割らない。ここで執行させてもらう。」

カルトの慈悲なき、光のオーラが闇を照らし出さんと迫った。

 

「そうするがいい、闇を否定すればするほど闇の色は濃く残る。

いつの日か貴様らが絶望し、呪いの言葉を吐くその日まで待つとしよう。」

オーラが彼の体を照らした時、一瞬で肉体は消えるように白い閃光も彼方にかき消えていくのであった。

 

 

地下の禍々しい雰囲気は、カルトの魔法で浄化されたかのような印象を受ける。先ほどのオーラの魔法は頭上の障害物を吹き飛ばし、光が差し込んでいた。

暗くて辺りを見回すにも不自由であった視界は明るく、ここでの調査が程なく終えていた。

 

 

 

やはりここ運び込まれた子供達はほとんどがロプト教団の贄として犠牲になってしまったようだ。幸いにも少女のみ無事に救出する事ができ、今は気を失っているのでホリンが背中に背負っている。

凄惨な祭壇を必要な遺物のみを回収して火を放つ、その後地下の部分を封印して一階へ戻ってきた。このまま戻ってもいいのだが、少女背負ったままではホリンの戦力が落ちてしまう。出来るのであれば少女の意識の回復を待ち、話をした上で決めた方がいいと考えたのだ。

それに俺の魔力が回復すればそれなりの手を打つことができる、とも考えていた。

 

「あんた確か俺たちがイザークに向かっている時にホリンの攻撃を避け続けた盗賊じゃないか、仲間はどうした?」カルトは突然の訪問者であった盗賊に話しかける。

ホリンは火を熾して少女の体温が下がらないように配慮をしている、その間に彼の事を確認を急いでいた。これから下手をすれば彼の盗賊団とも事を起こさねばならないようなら非常に不利な状況である。

盗賊はあっけらかんとしており、手を振って笑い出す。

 

「あははは、大丈夫だよ。あれからもうあの盗賊団から取るものとって抜けたんだ。

やつらの追手から逃れて暫くほとぼりを冷まそうしていた時、以前ここで見つけた遺跡を思い出したんだ。そしたらいつの間にかあんな奴がいたから驚いたよ。」

 

「なるほどな、名前は?俺はカルトであの男はホリンという。」薪の準備をしつつ名前が呼ばれたホリンは会釈のみする。

 

「僕の名前はデューよろしく、とりあえず悪さはする予定はないから同行させてもらうと助かるんだけど。」

 

「ああ、それはこちらが頼みたい。女の子を護衛してダーナの砂漠を越えないといけないのは正直二人ではきつい、ホリンとあそこまで切り結んだ腕があるなら助けて欲しい。」

これは本音ではない、例え少年とはいえ彼は盗賊である。狙いがどこにあるのか、または本当のことをいっているのかはまだ判らないが警戒されるよりもここはこのように答えておくのがベストだろう。反論はホリンがしてくれる。

 

「カルト、盗賊を同行するなんて正気か?いつ食料や資金をもっていかれるか知れたものではないぞ。」やはりな。

 

「たしかにそうだが、先ほど述べたように今は一般女性を同行して砂漠越えをしないといけないんだ。仲間は多い方がいい。

それにデューはこの辺りを熟知している、イザークに早く帰りたいなら彼を同行してもらう方がリスクよりリターンが多いさ。それに、俺やホリンから盗むのはこの間の盗賊より難しいだろう?」俺はニヤリとしてデューを見る。

 

「あんた達から盗んで逃げるのは可能だろうけど、どこまでも追ってきそうだ。そういうのはわりに合わないし、あんた達の物を盗んでも金目のものは無さそうだ。」彼は優秀な盗賊なのだろう、この場面で盗めるとはなかなか度胸があると捉えてもいいがデューは本当に可能なんだろうと認識した。そしてその読みも当たっている、おそらく俺はあらゆる手段を使って捜索する男だ。

 

「そうか、本音を行ってくれて感謝する。ホリン、ダメだろうか?」

 

「・・・仕方があるまい、一度斬り合ったからわかるが剣の手ほどきをイザークで受けているな。それを信じよう。」ホリンはやれやれと言った感じだが、受け入れてくれたことに感謝しよう、とにかく今は休息をとって魔力の回復を急ぎたかった。

 

「デュー、ここは危険だから近くで休息をとれる場所はないか?」

 

「ダーナまで戻るには時間がかかるけど、メンゲルならここから半日もかからないよ。でもイザークに帰るなら反対方向なんだ。どうする?」

 

「構わないさ、魔力が回復すればあとはなんとかなる。案内してくれ。」

 

カルトのこの一言が多いにに運命を変えてしまうことになった事をまだ誰も知らなかった。

ホリンの言うようにデューに同行を許さなかったら、カルトが魔力の回復を優先しなければ

この運命はどのように分岐していくのか想像はできないでいた。

 

 

 

「たっ!大変です!!我が軍が、ダーナを攻撃しているとの報告が、指揮官はクラウス様です!!」

 

「なんだと!」リボー族長のクラナドは部下からの報告をイザークの客間で受けた。

本日はイザークにて定例の会議がある日で、リボーを留守にしているが守りは副官に細々と説明したはずである。特にクラウスの言動には耳を貸さないようにしていたのにもかかわらず、このような報告が上がってくるのかクラナドは混乱を極めた。

 

「さらにですが、この進軍にてグランベル公国ヴェルトマーのロートリッターが動き出しているとの情報も入ってきています。」

 

「一刻も早く、このような馬鹿げた事をやめさせねば。」クラナドは間にも合わないこの事態を収集させようとばかりによろよろと扉に向かって歩き出す。精神はもう正常を保ってられないようで足取りは不安定であった。

 

「失礼する!」よく通るその声はクラナドの意識を集中させた、そこにはイザーク王であるマナナン王とその息子であるマリクル王子が険しい顔で現れた。事態を知っているようで、そこに歓迎の世辞はなかった。

 

「マナナン王!申し訳ありません!!クラウスの独断がイザークを!!」クラナドはその場で膝と手を地に臥せ王に決断を委ねた。

 

「クラナド、貴公の人柄やイザークに対する忠義は本物であった。こんな事を起こそうとする本人がこの場にいることから奸計ではないことも存じておる。だが責は取らねばならない、この意味わかってくれるな。」

クラナドはゆっくりと王の真意を見るべく顔を上げた、そこには厳しい表情の中に悲しみをたたえた王の姿があった。クラナドはその瞬間に、いつもの取り乱すことのない族長にもどっていた。

 

「マナナン王、いままであなたにお仕えすることができた事を喜びに感じております・・・・・・。どうか、ご武運を!!」目を閉じた瞬間、クラナドは二度と瞳を開くことのできない眠りについた。マナナン王はその神剣にて一刀の元で首を撥ねた。

そのあまりの速さにクラナドは一瞬で絶命し、熱い血潮が溢れかえる。血糊がマナナン王の全身にこびりつくことも厭わず、その中で涙し。

 

「クラナド、俺もすぐにいく。待っていてくれ!」誰にも聞こえない声量でつぶやいた。

紅く染まった神剣バルムンクは明友に血を吸い、その輝きは悲しく光を放つだけであった。




誤字報告ありがとうございます。2016年3月にようやく修正できました、まだ誤字がありましたら報告の程お願い致します。

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