ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻) 作:Edward
アルヴィスの号令でシグルドを反逆者として動き出す、後方で待機していたシアルフィの混成軍は囲まれ、逃げ場を失った・・・。
北の一帯を切り崩して撤退を始めようとするが、バーハラの親衛隊は予想以上に訓練されたアルヴィス直轄の部隊、押し通す事は困難であった。後方の傭兵騎団を中心に撤退を第一に戦闘が始まった。
前線では過酷な絶望が包んでいた。
ロートリッターのメティオが繰り出されたのだ。シアルフィ軍の前衛はその凄まじい天空から降り注いだ炎が複数着弾し、轟音と共に大地が抉られ炎が上がった。
アレクもノイッシュも難は逃れたが、長くの激戦を潜り抜けたシアルフィ軍の部下たちはいとも簡単に戦死していく・・・。
「下がれ!下がるんだ!」アレクもノイッシュもその激しい攻撃に撤退を促す。シグルドの元に向かいたいが、あの丘には何人も近づかないように厳命されている。命を最優先する事、生き延びる事、それが彼らに下された命令である。
「しかし!このままではロートリッターが北上して全軍が射程範囲になるぞ!俺たちだけでも斬り込まないと・・・。」
「だめだ!ロートリッターの連中に切り込む前に狙い撃ちされる、届かない・・・。」
シアルフィ軍が葛藤する中、たった一人前線に立ってロートリッターに立ちふさがる・・・。魔道に通じる軍馬に乗る魔法騎士、アゼルが北上するロートリッターの前に出てきたのだ。
「私はヴェルトマーのアゼルだ!
お前達はヴェルトマーの汚名として真っ先に殺したいだろう!
出てきてやったぞ!私を殺して見せろ!!」アゼルの徴発にシアルフィ軍は慄く・・・。
「アゼル公子、おやめください!」ノイッシュはアゼルにも後退を進めるが彼は首を横に降る。
「君たちは後退するんだ!ここは私に任せて!!」アゼルの強い言葉にノイッシュは驚き、敬礼すると撤退を始めだした。
アゼルの挑発だが、メティオはすぐさま飛んでこない・・・。
代わりにアゼルを取り囲むようにロートリッターのメティオの使い手が姿を現わす、その中にはフィノーラで撤退したヴァハもいたのである。
「アゼル様、アルヴィス様はあなたに落胆されておりました・・・。
反逆者としてあなたは必ず抹殺するように命じられております。」ヴァハは残忍に宣告する。
「兄上なら、そういうだろうな・・・。だから出てきてやったんだ。
まずは見せしめに僕から殺せ、そのかわり相当な代価は要求するがな・・・。」
「おほほほ・・・。この場に及んでもまだアルヴィス様に刃向かうとは、泣いて詫びを入れれば多少の手心を加えてあげようと思ってましたが、アルヴィス様を裏切った愚弟として死んでもらいます。」ヴァハは手を挙げると総勢8名のメティオの使い手が詠唱に入りだした。
「さあ、アゼル様!あなたがたとえメティオが使えてもこの人数に一度に使えないでしょう、あなたの処刑は免れません。ご覚悟を!!」ヴァハの死刑執行に狂気じみた笑いをあげていた。
『アゼル!何をやっている!逃げろ!逃げるんだ!!』アゼルに伝心を行う者、カルトがアゼルに撤退を促す。
『大丈夫、僕に策がある・・・。やらせてくれ。』
『馬鹿な!俺でもその人数にメティオを集中されたら無事では済まないのだぞ、お前ならなんとかできるとでも思っているのか!』
『ロートリッターが全軍射程に入れば撤退以前の問題だ、みんな死んでしまう。・・・ここで食い止められるのは僕だけだ!カルト、やらせてくれ。』
『お前、死ぬつもりだな・・・。』
『命を賭ける価値はある!』
『馬鹿な弟だ・・・、お前には生きてここを離脱して欲しかった。馬鹿やろう・・・。』実体のカルトは唇を噛んで血が滲んでいた。
『カルト・・・、ありがとう、僕は君を本当の兄の様に慕っていた。アルヴィス兄さんとは違って、手がかかる兄だったけど・・・。あなたは僕の太陽だった。』アゼルは少しはにかむ様にして笑う。
『・・・。』
『さよなら・・・、兄さん。』
『お前の正義の家紋、炎の紋章を奴らに見せてやれ!
・・・少しの間寂しいだろうが、すぐに大勢連れて行ってやる。』
『はい!』
アゼルの頭上に絶望的な数のメティオが打ち込まれる。
見せしめの為でもあるだろうが、ひとりの魔道士に打ち込むにはあまりにも多い数・・・。アゼルの体など肉片一つ残らないだろう。
アゼルは頭上のメティオの数を見て笑いを見せる。
丘の上からアルヴィスと対峙しながらアゼルのその顔をカルトを見ていた。アゼルは何をしようとしているのか・・・、いや何ができるのか?カルトはそれを見届ける事しか出来ない。
「見ろ、カルト。アゼルの最期だ。」アルヴィスは指差してカルトに挑発した。
「お前の弟だろ、少しは悲しまないのか?」
「悲しいさ、だが世界を変えるには痛みが伴う。私だけが範疇外とは思っていないさ・・・。」
「今のお前が言ったところで、なんの感慨も浮かばないな。
・・・アゼルがお前に最初で最後の反抗を見せる、お前こそ弟の最期を見届けろ。」
「何を馬鹿なことを・・・、まあいいだろう。」アルヴィスはアゼルを見下ろした。
アゼルは魔力を全開させる、何が魔法を打ち出す様だがヴァハの言う通り今更発動させてもアゼルの死は確定している。
後数秒後にはメティオが着弾し、あたり一面は炎に包まれるだろう。
一番近くにいるヴァハはアゼルの魔法に対抗する準備をしているが魔力を全開にしただけでまだ打ち出す様子はない。
「おーほっほっほ!虚勢をはるだけですか、見苦しい。実に見苦しい!アルヴィス様の愚弟はこれほどまでとは、ここで死んでしまいなさい。」ヴァハの高笑いの中でもアゼルは含み笑いを崩さない。ひたすら自身を高め続け、奥底に眠る魔力を引き出していく。
頭上に迫るメティオがある中でなんて精神力、通常の魔道士なら死の恐怖にここまで自身を高めることなど出来ない。
カルトはアゼルの意思の強さを、彼の乗り越えたい目標に到達していたことに気づく。
そして、とうとうメティオは着弾した。轟音と共に炎が立ち昇り、あたりは火に包まれた。
「ほーほっほっほ!アルヴィス様、アゼル様を処刑しましたよ!」再び高笑いするヴァハ、アルヴィスの方向に向かって報告するように宣言する。
炎が立ち昇る中、一つの異変が発生する・・・。
大地の振動が起こり出したのだ。その揺れは徐々に大きくなっていき、明確な地震となり出した。
「な、なんだ!この揺れは・・・。」アルヴィスは狼狽する。
「アゼル・・・お前と言う奴は・・・。」カルトはアゼルの意図に気付き、こうつぶやいた。
地震の揺れに中心地のロートリッターは動くことも出来ない、そんな中で大地があちこちで裂け出して内部から光が漏れ出す。
これはアゼルの最後の魔法、ヴァハはようやく事態に気付いた。
「ボ、ボルガノン・・・!」戦慄する様に呟くヴァハ・・・。
「我らのメティオの膨大なエネルギーを利用して大地に働きかけた?このボルガノンは、もう・・・。」
ヴァハはようやくアゼルがなにをしでかしたのか理解する。
メティオが大地を穿つ天空の炎、それに対してボルガノンは大地を裂き底に眠る炎のエネルギーを立ち昇らせる炎、その相反するエネルギーを合成して一つの大魔法を作り上げたのだ・・・。大地を穿つメティオが着弾する瞬間、大地が振動により弱くなっているところにボルガノンで大地に働きかけて通常より奥底に眠る大地の熱エネルギーを解き放ったのだ。
このボルガノンは、すでに魔法の領域を超えている。ヴァハはそう言いたかったのだろう・・・。
大地はみるみる内に裂け、広範囲に点在していたロートリッター8人にまで及ぶ。地震により足元がおぼつかず思うように逃げる事は叶わず、とうとう最終段階へと突入した。
裂け目から炎が立ち昇る、高圧ガス、噴石が、舞い上がり粘度の高い溶岩まで溢れ出したのだ。
ヴァハはもちろんのこと、ロートリッター8名は全員その場で焼死し、周辺の敵味方は散り散りに撤退する。
「な、なんだと・・・。あのアゼルがあんな・・・。」アルヴィスはその最期の魔法を見て驚く・・・。
「アゼルはな、お前を止めることができるのは自分だけなのに、逃げ出してしまったと悔やんでいた。
当時は未熟だったからお前から逃げ出すのが精一杯だったんだ、仕方がないことだったと思うんだが、力をつけてからあいつはそう言い出したんだ。何故だかわかるか?」
「・・・・・・。」
「お前は優秀だが、わかってないことがある・・・。アゼルにあってお前に無いものを一度よく考えてみるんだな。」
「貴様、俺に説教をする気か?今から処刑されるお前達に、言われる説教などない。」
「あれを見ろ・・・。」カルトが指差す方向には、ボルガノンが落ち着ち変わり果てた大地を指す。
粘度の高い溶岩はすぐさま冷えて固まり、この丘を超える大きさまで隆起していた。表面こそは固まったが内部はまだ相当の熱を持っており、高圧ガスと共に時折吹き出しては固まっていく・・・。
「あのガスは火山性のガスに近いから吸えば人体に影響もあるな、まだ温度もあるからあの丘を登って越えることも今は難しい・・・。
討伐隊の本隊はまだバーハラ付近だろ?どうやって混成軍を全滅させられる?」
「アゼルめ!そこまで・・・。」アルヴィスが激昂する、初めて見るアルヴィスの顔にカルトもシグルドもアゼルの死は無駄ではないと証明された。
「アゼルが遺したお前への戒めだ。
ヴェルトマーの初代当主、聖戦士ファラは反乱軍をいち早く組織して戦った人物で正義の象徴と言っていた。
炎の紋章は汚させない・・・、これがアゼルの意思だ!」
「・・・だ、黙れ!何も成し遂げてない者が正義を語るな!正義を貫くには力がいるのだ!それ為には俺は犠牲も厭わない。」
「だからアゼルは自分を犠牲にして正義を貫いたじゃねえか!」
「自分の正しい信念を貫くものに正義は宿ると信じている。・・・誰かを犠牲にして作る正義など、存在して言い訳がない!」
各々の正義を主張する。カルトはアルヴィスの理論からくる正義を、シグルドは自身の正義を・・・、内外からえぐられたアルヴィスはもう答えることはできなかった。
「さあ!アルヴィス!!アゼルに詫びを入れに行け!」カルトは白銀の剣を振りかざして迫るが、横に待機していた側近の魔道士はローブを捨ててその剣を止めた。
金属を打ち付ける撃剣にカルトは目を鋭くする。
「またお前かフレイヤ・・・、それに今度はラーナ様に・・・。
お前は何度俺の逆鱗に触れれば気が済む?」
ラーナの額にあの銀のサークレット、奴の意識が入った魔法具であり、相手の意識を乗っ取る事ができる。
「カルト、お久しぶりね・・・。
まさかあなたがここまで力をつけて私たちの計画を狂わせてくれるとは思わなかったわ・・・、でも結局は私たちの引いた運命に乗るだけ・・・。もうあなたに用はないわ、終わりにしなさい・・・。」
「お前達こそ、この世にお前達は必要ない。大人しく闇に帰れ!」鍔迫り合いだが、力はカルトの方が圧倒的押し出した。
「ファイアー」アルヴィスはラーナごとカルトに放つ、その業火球に対応できない。そこはシグルドがティルティング一閃にてファイアーを断ち切った。
「アルヴィス、私が相手だ!」
「くっ、シグルドめ・・・。」アルヴィスはエルファイアーを放ちシグルドを牽制する。再びティルティングで膨大な炎を斬り裂く、黒曜石の剣のように魔法を無力化するわけではないが、聖剣はすべての物を切る事ができると言われている。
かつての聖戦でもロプトウスの化身にとどめを刺したと言われる聖剣ティルティングは、魔法に対して絶大な威力を誇っていたそうだ。
「クブリ!お前は加わるな!援軍が来たらそちらに対応しろ!!」後方に待機するクブリにはこの戦いに加わらないように忠告すると、フレイヤのヨツムンガンドにライトニングで応戦する。
フレイヤ得意の連続ヨツムンガンドにカルトのライトニングが追いついている・・・、フレイヤの表情が険しいものになった。
「いつまでも、同じ戦術にかかるほど俺は停滞していねえ!」光の大爆発にフレイヤは吹っ飛びその魔力を受けて初めて悲鳴を上げた。
うずくまるフレイヤにカルトは歩み寄り見下ろす。
「お前は確かに強い。だがそれだけだ、肉体を持たず人に憑依できるがお前自身の力は停滞したままで成長はできない・・・。
強い肉体を欲していたのは相手の力を手に入れる為、違うか?」
「・・・相変わらずよく分析している、憎たらしい子ね・・・。」フレイヤは立ち上がると、ゾクリとする笑いを向ける。
「仕方がないわね・・・。あれはマンフロイ様から常々使うなと言われていたけど、解放しないとあなたを殺す事なんて出来ない。」そう言うと、額のサークレットが不気味な光を放つ・・・。
「カルト、私の名はフレイヤと名乗ってるけどこれは仮の名前よ。
・・・私は失敗作。」
「失敗作?」
「十二魔将、そのナンバリングに選ばれなかった失敗作・・・。ヌル、と呼ばれた失敗作であり、試作体よ。」
「何だと・・・。」
「さあ刮目なさい、私の最後を・・・。」がくっ、と魂が抜けたようにその場に崩れるラーナ。
しかし、その後にゆっくり立ち上がるラーナはもうフレイヤですらなかった。
生気はない、まるで人形のようである。
一体どんな能力が・・・、カルトは息を飲んだ。
ラーナと言う人形は手をあげる。すぐさまどこからきたのか魔獣は黒く染まったファルコン、ラーナはすうっと乗ると、それもどこから出してきたのか黒く染まる大剣を片手で持ちカルトに向けた。
「・・・洒落にならねえな、あれ・・・。」吹き出る汗、もうあれは人としての規格が外れている。ラーナを助ける、なんて考える余裕はなかった。
ファルコンが地を駆る、その瞬間にカルトの間合いを侵食し体当たりに吹き飛ばされた。
「ぐはっ!」大地に叩きつかけられるが、受け身が追いつき体勢を立て直す。だがすでに追撃されており、目の前にはすでにファルコンが迫り、大剣が突かれていた。それもなんとか紙一重が躱したが、頰を擦り突風が吹き荒れる。
「!・・・」切られた瞬間に、体力と精神を削られたような感覚を覚える。
あの剣には人の血肉どころか精神まで食い尽くす力がある、カルトは再び戦慄に震えた。
「あれが、失敗作?試作?・・・洒落にならねえ・・・。」ガタガタを震えだす、しかし顔は絶望していない。
暗黒神の力の一端を見て、運命に抗う事を誓うのであった。