ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻) 作:Edward
暖かい光がラーナを照らす・・・。
まるで微睡の中で朝日が差して、まだ眠い瞼をゆっくり開けるような・・・。長い夜が開けて、新しい一日が始まるような・・・。
そんな優しい光に誘われていくような感覚を覚えて、ラーナは現実へと誘われた。
でもそれは、絶望だった・・・。
目を開ければ血に染まるシグルドの身体、急激に冷える体温を感じながらラーナはシグルドの腹部に深々と漆黒の大剣を突き立てていた。
「あ、ああああ!」ラーナはその大剣を離して瞬時に全てを察した。これは自身が犯した罪、シグルドを刺したのは紛れもなく私・・・。
混乱した脳内にその情景が一瞬に入り、後悔が流れ込んだ。
「・・・ラーナ様、目覚められましたか。」
「シ、シグルド様!」ラーナはシグルドにリライブをかける、淡い光を腹部に当てるが、とめどなく吹き出す出血を抑えることはできない。それでも止めることはできずにリライブを重ね掛けする。
「よかった、ラーナ様・・・ご無事で・・・。」
「な、何を言うのです!そのためにあなたが、私などのためにこのような・・・。」
「うっ!・・・ごほっ!・・・・・・いいのです。
これで・・・カルトが安心して戦えるようになるなら、これで・・・。」
「バカを言わないで!シグルド様がいるから、カルトはここまでやってこれたはずです!私など、こんな年老いた私が生き延びても・・・。」ラーナは必死に魔力で治癒を行うがシグルドの身体はどんどん冷えていく・・・。
「そんな事は、ありません・・・。私は・・・、たくさんの人に救われてここまできました。・・・ラーナ様、あなたもその一人です。
・・・もし、私があなたを犠牲にして生きながらえても・・・、私は死んだも同然です。・・・死ぬのなら、誰を救って死にたい・・・。」シグルドは首の力を失い、その場で動かなくなる。
「だ、ダメよ!シグルド!私のために、命を・・・。」ラーナは必死に回復を続ける、自分の命を燃やすようにシグルドに熱を与えていく・・・。
「シグルド!」カルトの絶叫が飛ぶ、彼の体から生気が失われていった。このままでは・・・、その焦りがカルトより悲痛な声が生まれた。
「くくく・・・。カルトよ、あっちは決着がついたようだな。そろそろこちらも終局といこう。」アルヴィスは懐から真っ黒い本を取り出して左手に持つ、魔力を込め出すと吹き出していた炎が黒く染まり出した。
「アルヴィス・・・、お前それは!」カルトの驚きにアルヴィスは笑う、右手をかざすと魔力を放出させる。
「ブラックファイア!」黒炎が広がり出しカルトを襲う、すかさずカルトは冷却を伴うエルウインドで対抗するが、まるで払うことができない。
とっさに回避するが、地面を伝って生きているかのようにカルトは延焼していく・・・。
「なっ!・・・ライトニング!!」とっさに溜めた魔力を光魔法に変換する、炎の形状に惑わされたが先ほどのエルウインドの影響を受けないあたりでとっさにカルトは変更したのであった。
黒い炎は強烈な光の照射に当てられ、縮小していき・・・。通常の炎となり消えていった。
「アルヴィス、どういう事だ。・・・身も心も闇に堕としたか!」カルトの怒りにアルヴィスは不敵に笑う。
「貴様らが俺の心をざわつかせるからだよ。
・・・どうだカルト、俺の闇は深いだろ?」
「やめろ!アルヴィス!!これ以上そちらに踏み込むな!
お前は必死に己の内と戦ってきたんだろ?」
「・・・もうそんな事はどうでもいい。お前にさえ勝てば、俺は・・・。」
「・・・・・・。」
「くくくっ!お前が求めてる書はこちらに向かっているぞ。だが皮肉にもアゼルが作った山が邪魔してここまで来れるかどうか、それまで俺の力から逃げ切れるかな・・・。」
カルトは焦る、ラーナの魔力ではシグルドを救う事は出来ない・・・、しかしここを離れることも出来ない。
どうする・・・、どうする!
「トルネード!!」カルトの右腕、クブリがアルヴィスに攻撃魔法を放ち体の自由を奪う。
「カルト様!行ってください!私のリライブ程度ではラーナ様と力を合わせても助けられません!!」
「ば、バカな!今のアルヴィスはお前の手では・・・。」
「行ってください!必ずシグルド様を助けて戻ってきてください。」
「・・・すまん、クブリ!!」カルトは一目散にシグルドの元へと走る。クブリは笑って送り出し、再びアルヴィスを見るやトルネードに力を入れる。
大出力の竜巻がアルヴィスを襲っているが 炎が竜巻より現れ、まるで風を食いつくさんと覆い出した。
「風魔法の竜巻は、局地的な気圧の低下による吹き下ろし現象・・・。炎の熱は上昇気流を生じる、相殺できるさ・・・。」アルヴィスは冷ややかに言いすてると強風の中から出てくる。
(この人、魔法物理にも精通している。強い・・・。)
クブリは魔道書を持ち、対抗する。
「やめておけ、カルト以外魔法で勝てる奴はいない・・・。黙ってそこを通してもらおう。」
「わかっている、僕はここで命を捨ててでも主君に時間を与える。」クブリは汗を流しながら虚勢を貼るが、アルヴィスは冷笑を絶やす事はなかった。
「ほう・・・、では私の魔法に何分耐えられるかな・・・。詫びを入れて道を譲れば見逃してやる。」
クブリは瞬間に遊ばれていることを悟るが、チャンスとばかりの乗る。拷問による攻撃なら即死魔法はない、耐えることができれば時間が稼げる・・・。
「僕はカルト公の最も信頼を受ける賢者クブリだ!主君に背く真似はしない!!」クブリの言葉に苛立つアルヴィスは、黒い炎を上げ出すのであった。
ラーナの必死のリライブだが、全く状況は改善せず、流れる血液も止められないでいた。
「ラーナ様!」カルトが到着するなり、リカバーの光がシグルドを照らす。
「ああっ!カルト!ごめんなさい、あなたの大切な・・・。」
「大丈夫です!シグルドは死なない!!こんなところで終わる男ではない。起きろ!シグルド!!」カルトの到着で止血するが、次は大剣を抜く時に同時に細胞生成を行う必要がある。
ヴェルダンでカルトを回復させたように、複数人の癒し手と生成する為の熟練の回復術が必要だが、ここにはクロード神父もエーディンもいない。カルトは止血で手一杯、ラーナの魔力では追いつかず、クブリもアルヴィスと戦ってくれている。手詰まりであった。
「くそっ!このままじゃあ・・・。」カルトはリカバーをさらに出力を上げて止血と生成を同時に出来るか試してみるが、それは不可能であった。クロード神父が二人いなければ今のシグルドを救う事は出来ないだろう。
「カルト・・・、私がやってみます。」ラーナは意を決してシグルドに淡い光を当て出す、それはリライブとは違う命の光。ラーナの淡い桜色のような光がシグルドを包んだ。
「ラーナ様・・・?いけません、あの魔法は以前一度私を救うのに使っています!次使えば必ず命を落とします!」
「いいのです、あなた達をここで見殺しにするようならレヴィンに母親として会うことなどできません。」
ラーナは命の光を燃やしてシグルドに再起を願うのであった、だが・・・。
(ダメ・・・。魔力も、私の命も、サークレットの主に奪われて足りない・・・。)
ラーナは悟っていた、自身の残りの命を差し出してもシグルドを再び立ち上がらせる確率は極めて低い・・・。
それでもかける価値はあった、ラーナの体はすでに骨という骨が砕け、全身に痛みが襲っている。気を抜けば痛みと疲労で気を失ってしまうほどの状況で、魔力と命を振り絞ることなど限界をいくつ超えても不可能だった。
ラーナの命の光が損なわれていく中、意識に語りかける者がいた。
それはサークレットに長年体を奪われて、母子で死闘まで演じさせららたカルトの母・・・、セーラだった。
(ラーナ様・・・、お久しぶりです。カルトをここまで守ってくれてありがとう。)
(セ、セーラなの?ああっ、あなたサークレットの中に・・・。)
(はい、私の魂の一部ですが・・・。封入することができました。
事情は知っております、私の命も使ってください。)
(セーラ、ありがとう。一緒にいきましょう!)
再びラーナから命の光がほとばしる、カルトは再び取り戻す命の光に驚き。これがラーナだけのものではないと悟った。
「セーラ、母さん?」カルトはラーナを見て、母親の影が重なって見えていた。
ラーナは一つ、頷くと再び光を発した。
みるみるうちに組織が生成されていくが最後の工程、大剣を抜く際の血管の修復させるほどの光ではなかった。
カルトのリカバーはシグルドの生命維持に精一杯、再び追い込まれていく・・・。
その中でもう一つ奇跡が起こる。カルトの体が光り、ラーナの額にあるサークレットが共鳴したのだ。
(セーラ・・・。)ラーナの意識の中でもう一人の人格がセーラを呼ぶ、セーラは直感でその者を理解した。
(・・・あ、あなた?)
(ああ、マイオスだ・・・。)
(ど、どうして・・・。)
(最後にカルトの意識の中で死んだ、そしてここにいる儂はお前と似たような物だ。)
(最後はカルトの意識に触れたのですね。)
(ああ、お前たちに償いきれない罪を犯し続けた。今更許してくれとは言わぬ・・・、やるべき時は今だと悟ったから出てきたまで・・・。セーラ、儂の魂を使え!)
(あなた・・・。)
(頼む!使ってくれ、最後はカルトの役に立って死にたい。
・・・カルトは儂を許さないだろうが、せめて孫たちの世代のために・・・。)
(はい・・・、一緒にいきましょう・・・、あなた・・・。)
閃光がシグルドを襲い、黒い大剣は溶けるように腹部から消える・・・。シグルドの顔色は血色を帯びていて命の危険を脱していた。
ラーナは糸が切れたようにその場で崩れる。額のサークレットは自然と外れて地面に落ち、ラーナは解放された。
しかし、全ての命の根源を使い果たし命は消えようとしていた。
「ラーナ様!嫌です、起きてください。」
「カルト、あなたの両親がシグルド様を救ってくれたのですよ。あなたは両親の愛を感じたのではないですか?」
「・・・はい、私にも感じました。最後の最後に・・・親父も、お袋も、俺に大事な物を残していった。・・・私は幸せ者です。」
「そうね・・・。私も幸せよ、カルト・・・。あなたがいたからレヴィンはシレジアの王になって、私に孫を見せてくれた・・・。
もう私も悔いはありません・・・。カルト、あなたに看取ってもらえて嬉しいわ。」
「だ、ダメです!ラーナ様、目を開けてください!ラーナ様!!」
ラーナは安らかに息を引き取った・・・、カルトの慟哭が丘中に響いた。
「どうだ?クブリとやら・・・。俺のブラックファイアの味は?」
アルヴィスの黒炎がクブリを焼いていた・・・。
左腕は炎に包まれ、右足も足先から膝あたりまでに及んでいた。
ブラックファイアの恐ろしさは痛みだった・・・。
通常の火傷でもかなりの痛みなのに、痛覚増幅作用がある黒い炎はその数倍の痛みを伴う、温度以上にやけど裂傷の痛みが数倍となり脳内に響いた。
「あっ!あーーーー!!」クブリの金切り声の悲鳴が上がる・・・。
涙を流し、激しい動悸と息切れで意識が何度となくとばされそうになるが必死に堪えて、頭をあげた。
その反抗的な目にアルヴィスは苛立ちを見せ、前髪を握ると引き上げた。
「どうだ、そろそろ命乞いをすればとうだ?成人に達した人は七割を超えて火傷すれば死ぬと言われているが、俺のブラックファイアでは三割で死ぬ。お前はすでに三割を超えようとしている、その意味がわかるな・・・。」クブリは痛みで憔悴した顔を上げるが、少しいびつに笑う。
「わ・・・たしは、カルト・・・様の・・・。ぶか・・・、あなたのような人の、ことばに・・・。」アルヴィスは明らかに不愉快になり、怒りを露わに苛立たせた。
再びブラックファイアで、クブリの右足を鼠蹊部から焼き払う。
「あ、ああああああ!」クブリの悲鳴が再び上がる、首を振り痛みを拒絶するが脳内に増幅された入る信号に神経が焼き切れそうなくらいに稲妻が走る。
クブリの精神が気絶を要請しているが自身が拒絶する、気絶をすれば無抵抗のカルトに被害が及ぶ、そうなれば二人の生存確率は一気に下がってしまう・・・。
クブリは自身を生贄に、時間を作り出していた・・・。
(まだ、時間は・・・。全然進んでいない、いつまで耐えられるのだろう・・・。)クブリの精神が弱音を吐く、それでもやれるところまでやり抜くしかない・・・。
「見ろ、水だ。かけて欲しいか?それとも飲ませて欲しいか?」アルヴィスは丘の所々に溜まる水を手で掬い取りをクブリの眼前にちらつかせる。
クブリの喉がなる。喉も悲鳴で乾ききり、炎で焼け爛れた皮膚は熱を帯びて冷却を求めた。
「さあ、カルトを裏切れ!罵れ!呪え!」アルヴィスの言葉が甘美に聞こえる、楽になりたい・・・。クブリの欲求は自身の脳裏に響いた。
「わ・・・たしは、・・・カルト、様の・・・。」意識が朦朧とする中でもクブリの感情は思慕と尊敬のみ、アルヴィスの苛立ちは最高潮となった。
「もういい、貴様の忠誠心はわかった。今楽にしてやる。」アルヴィスは黒炎を上げてクブリに迫る、次は一気に全身を焼くだろう。そうなれば火傷の痛みで精神が崩壊するのが先か、焼死が先か・・・。
覚悟を決めることとなる。
「待て!」アルヴィスを止める声が上がる、アルヴィスはピクリとして振り返るとデューがいた。
「なんだ、盗賊風情が俺を止めるとはな・・・。」
「僕だけじゃないよ!」デューの振り返りを合図に飛ぶ一矢、アルヴィスの腕に深々と弓が当たり、吹き飛んだ。
クブリの横を抜けて10メートルほど転がり止まる。
「ぐあああ!この威力、この矢・・・、まさか・・・。」アルヴィスは立ち上がり、弓を引き抜くとデューの隣には聖弓イチイバルをもつブリキッドがアルヴィスを見下すように見据えていた。
「ふんっ!海賊も、貴族も、弱いものいじめをする奴にはあたしの矢をプレゼントしてやってるよ!」
「だってさ!」デューは風の剣を抜き、ブリギットと共にアルヴィスと対峙する。
「お、おのれ・・・。どいつもこいつも・・・。」
「これがシグルドを慕い、集う仲間の力だ・・・。お前が失望して捨てた物がここにある。」シグルドの治療を終えたカルトは、クブリの元に駆け寄りリカバーを施していく・・・。
「お前が思うほど人は愚かではない・・・。確かに俺たちは幼少期にひどい扱いを受けてきた、それでもお前には一握りの暖かい光を持つ人がいた筈だ。何故その人達の為に信じることをしなかったのだ!」
「何を、馬鹿な・・・、俺には・・・。」アルヴィスの否定の言葉を遮るようにカルトを挟む。
「なら、あの新山を見ろ!アゼルは最後までお前を信じて命まで賭けたんだ!何故その人達をお前は信じない!!」
アルヴィスは黒い本を落として、髪をぐしゃぐしゃと掻き毟る・・・。自身の中の幼かった時のアゼルの笑顔が離れない・・・、アルヴィスの葛藤は胸の奥で濃くなっていくのである。