ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻)   作:Edward

12 / 107
少し、暗い話になります。


離別

ダーナの紛争による交通閉鎖を跳躍し、リボーに転移した四名は各々の地へと散って行った。

マリアンは実家へ

デューはガネーシャへ向かい

 

ホリンとカルトはリボーの館へと急いだ。

リボーの街は賑やかで交易の行商人や旅人などで活気に満ちていたが、今はイザークより派遣された軍の巡回により厳しく規制されていた。

リボーの族長による他国侵略はダーナでのリボー軍壊滅では済まされない証と見て取れた。

ホリンはクラナドの無事を祈りつつ、このような惨状に陥った真実を知りたかった。確かに彼の息子であるクラウスは短気で結果をすぐに求める男であったが、言葉のみのもので行動力は反作用している男だ。そうそう行動に出るとは思えなかった。

 

カルトの言うように裏で手を引いているものがいるとすれば、クラウスは焚き付けられてクラナド様の意見を聞かずに暴走させてかもしれない。

しかしながらクラナド様の右腕には最も信頼し、進軍には副長が全権限を持っていたはず。クラウスの意見のみで進軍は考えられないのだ。

 

様々な憶測が頭の中をよぎる中、館に到着した。館にはやはりイザークより派遣されたイザーク軍が歩哨に立ち館の侵入を拒んでいた。

ホリンは何一つ動じる様子はなく、歩哨の兵士に内部への接見を試みた。

兵士たちに多少の緊張感が現れるがホリンは歩調を乱すことなく歩み口上を述べる。

 

「私はソファラのホリンだ。ここのかつての主、クラナド様の依頼の報告に参った。」

 

「リボーの自治はイザーク直接管理となった、事情は推し量れるがここに入ることは許されぬ。かつてのリボー兵は街の東に駐在している、そこで詳細を確認するがいい。」

 

「かたじけない、失礼する。」

ホリンはすぐに指定された地へ急いだ、カルトがまだ魔力の回復と精神力の疲弊はわかるが今は一刻も早く情報が欲しかった。

 

イザークの兵士より聞いた場所はあまりにもひどい場所であった。旧市街地の旧館であり、衛生も資材もなく生気を失った兵士達の姿であった。

前回リボーを訪れた際の気さくな兵士でさえ、ホリンを見ても表情は好転せず地を見るだけであった。

 

「おい、どうしたんだ。俺がダーナに行っている間、何があったと言うんだ。」

気さくな兵士はゆっくりと顔を上げ、時間をおいてから徐々に瞳に涙が溜まって行った。

 

「クラウス様が副長を惨殺して、一部の過激派兵士を扇動してダーナに向かったんだ。子供達を誘拐した組織をあぶり出す為に街に火まではなったらしい。

そのひどい横行にグランベルの精鋭部隊に鎮圧されたんだが、その責を追ってイザークでクラナダ様が処刑されてしまったんだ。」

 

「クラナダ様が!!」ホリンは覚悟していたとはいえ、やはり相当なショックを受けたのだろうかその場で片足をつき目を閉じていた。

 

「話の途中済まない、今この現状はどう言う状況だ?かつてのリボー軍がここにおいやられたと言うことはイザークはクラナダという族長の処刑し、首を身印にグランベルへ謝罪するように思えるにだが・・・。」

 

「そうです、マナナン王はもうじきリボーに到着されここで一泊したのちバーハラに向かわれるようです。」

 

「なるほど、だから今リボーの街は物々しかったのか。」カルトはその状況を即座に理解した。

このように部下の者の不始末を王自らが謝罪の為に相手国へ赴くことは珍しくはない、無事にイザークまで帰還するように手配をする副官達は必死の対応に追われているだろう。

 

「そ、それにホリン様・・・。マナナン王と共に向かわれるのはソファラ城主様です。」

 

「な、なに父上も向かわれるのか。」

 

「はい、自ら同行を嘆願したようです。」

 

「ち、父上・・・。」ホリンは父の覚悟をそこに垣間見た、カルトもその真意に気づき俯いた。

 

おそらく、ダーナにいる駐留部隊に赴きマナナン王は謝罪と首謀者の首を差し出す事だろう。ダーナとグランベル軍に対しての賠償を受け入れたとしてもその責の追求は免れない、マナナン王はイザークの象徴的な存在であるのでその場で処刑はないが、それ相当の人柱は必要となる。

父上はその役目を買って出たということになるのだ、リボーと協定を強く持つソファラの代表ならグランベルも落とし所としては最適となるからだ。罪人をグランベルが処刑することに意味があり、国内にも威厳が保てる。そういう落とし所なのだ。

 

国家間このような無意味な落とし所と体裁を保つ政はカルトは吐き気がするくらいだが、その真意にホリンの父親の高潔さを垣間見させられるのであった。

だからこそ、ホリンも高潔であり自身の正義を貫いてきている。この親子の殊勝さに、カルトは賛辞を讃え、しかしながらこの世に散る者を惜しく思う。

 

「ホリン様、お父上はまもなくリボーの館に到着なされます。一度お会いになられた方がいいかと・・・。」

 

「ああ・・・、わかった。情報感謝する。」ホリンは辿って来た道を折り返し始めた。

先ほどは入館を拒否されたが、父上が館に入ればホリンは入館を許可されるだろう。

他国であるカルトはここで別れ、市街地に足を運んだ。

 

市場では、先ほどの物々しい雰囲気から解放され市民の買い物で多少の賑わいはあった。

カルトはその雰囲気にそっと安心し、宿に戻る前の食事を考えていた。

そこで、マリアンがいたのである。彼女は買い物をしているだが顔には憂いの表情をしており、安堵の雰囲気はなかった。

 

カルトはその雰囲気に、おかしいと思い後をつけることにした。

彼女の家のことは聞いていないが普通の家庭なら彼女の帰還に多いに喜んでいるはず、別れて数時間で買い物をしており、憂いていることにカルトはただならないと思ってしまった。

マリアンはメモを片手に市場のあちこちにを周り、少女一人では持ちきれない荷物を日課でこなしているからか持ち上げ帰路についていた。

 

 

俺は彼女の幸せを願って助けたんだ、彼女の憂いの顔は許せない。

カルトはおそらく自身の結論に行き着いた事を必死にそうでないと言い聞かせながらつけて行った。

 

カルトも母親を失い、肩身の狭い思い幼少期を過ごした。

毒で意識を朦朧とし、義理の母による妨害で医者にもみせず三日間生死を彷徨った事もあった。

自身の回復力で床から這い上がり、奴らの前に姿を見せた時にあくびれる様子もないあの悪魔達はその日に暗殺者まで使った。

やつらがここまでする理由が自国でもない女がマイオス様の長男を産んだ事が憎らしい、だった。

 

勝手な大人の行動だが当時の幼い俺には、逃げるとか戦うとか以前にそのような自衛する術すら知らないのである。

ひたすら大人の機嫌を伺い、殴られても笑ってやり過ごしたり命令を聞いて従って行くしかなかったのだ。

 

マリアンも同様の事をされていると思うと、カルトは吐き気を催す。

そんな事はないと言い聞かせるが、虐待に敏感に反応するカルトにとってマリアンの行動は当時の自身のと当てはまる部分があり確信とばかりに脳裏が反応する。

 

マリアンは一件の藁葺きの質素な家に入っていった。

彼女の自宅らしき家は荒れており、子供を慈しみ育てていくような環境ではなかった。

家は質素でも子供のためなら掃除をして衛生を保つ、子供のために食事を作り成長を期待する。子供のために安息の場所を確保する。

内部を見てそれは保てていなかった。

 

生活用品は散乱し、外から差し込める陽が内部の埃を写していた。

眠るべきベッドには大柄で腹部が太鼓のように張った男が酒をのみ正反対に妖艶な女性が隣で寝息をたてている。

 

「マリアン!買い物が終わったらさっさとつまみと酒を出せ!お前がいなくなってから仕事はたまってるんだ、さっさとしな!」

 

「はい!ただいま」マリアンは精一杯の笑顔を向けて言われたように食事を作り、家事を必死にこなしている。

 

彼女の体に生傷があったのだがそれが暗黒教団に受けていたものだと思っていたが、それは間違いであったのだ。彼女の日常は怒声と暴力で押さえつけられ、空腹も相まって考える力を失っていたのだろう。

 

宿で一緒に食事をとり、清潔なベッドで眠っていた彼女はとても嬉しそうで、満ち足りた顔をしていた。普段の彼女には届かない願いであったのだろう。

 

カルトはいつの間にか涙が溢れていた。

本当はマリアンは俺たちに助けを求めたかっただろう、打ち明ければホリンと俺は彼女にできうる限りの支援をしたはずだ。

でもしなかった。いや、できないんだろう。子供の頭ではそれをするとまた家に戻ったときに両親から逆恨みをされるのではないかと考えるのである。

自身の辛い経験が彼女の心理を痛いくらいに共感できた。

いますぐにでもマリアンを救いだしたい、しかしここで彼女を両親から救いだしても、第三者からみればそれは暗黒教団の人拐いとなんら代わりはない。

 

カルトは飛び込みたい気持ちを押さえ込んで事態を見守る。

マリアンは水を汲みにいくのだろうか、水桶をもって外へ出ていった。

 

「ねえ、どうしてあの子帰ってきたの!あんたちゃんとあの子を売ったんでしょ!!」

いつの間にか目が覚ました女性は声をあげる。

 

「確かに売ったさ!金もここにあるだろ、しかし不味いな。あいつらに見つかったら騙したと思われたら俺たち殺されちまう。」

 

「どうすんのよ!私まだ死にたくないよ!」

 

「さっき別の仲介を頼んだ、やつらに見つかる前に別で売ればまた金が手にはいる。」

 

まさか、マリアンはさらわれたと思っていたが売られていたとは。カルトはその事態に目眩すらしていた。

自分も殺されかけた事はあるが実の親から金目当てで売られるなんて経験はもちろんない。

殺される事以上の過酷な現状にカルトは意を決した、彼女を今すぐ救い出すために!

 

 

 

家からしばらく歩いた先に井戸がある、私はそこで水桶にロープで結び放り投げる。イザークの水脈は深く、水桶を上まで戻すのは子供では重労働である。私はこの作業をどの子供よりも早くからしていた。

何度もうまくいかずに時間をかけてしまい、母からよく叩かれた。それでも私はお母さんとの暮らしはおどおどしながらも耐えられた。

 

 

その生活は続くことなく、突然大きな男の人が家に出入りし初め、ついには居着いた。

初めは優しく接してくれた義理の父親に母も少し穏やかになった、安息の日が少しだけ続いたがすぐに今のようになってしまった。

二人は働くことなく、男の人は酒をのんでわめき散らし、母は男に依存した。

 

私はあの日、あの男から住み込みの働き口が見つかったと言われてショックをうけた、家事を放棄して家を飛び出し宛もなく町をうろついた。

そんな時、不意に目に写った人が武器屋さんとのお話が凄く面白くて聞き入ってしまった。

私は自分の母親にすら、まともに話も出来ないのにこの旅人さんは初めての土地で初めて出会う人と値切交渉しているのだ。

 

私の興味は別にもあった、この人は私と同じように思えてならなかった。

てもどこが?私にはあんな風に人と接することは出来ないのに、どうして?

でも一つ確かなのは彼からあふれでる雰囲気は優しく、包み込むような慈愛に充ちていた。

 

彼は私と少し話をして髪飾りをくれた、初めて人から頂いたプレゼントに浮かれてしまい私は帰り道に住み込み先の主人と名乗る人に連れて行かれた・・・。

そのあとの記憶はなく、気付いたら窓もない部屋に閉じ込められていた。

周りから私と同じように連れて来られた子供達が日に日に減って行き、最後には私だけになる。

こわかった、はじめは仕事が決まり一人づつ出されていくんだと思っていた。

いえ、そう思い込んでいた。

 

助けて!いつも心の中で叫ぶ、誰にでもなく、どことでもなく・・・。

私を助けてくれる人なんていない、私を見てくれている人もいない・・・。

絶望の中、普段からの空腹とここにきて食事もまともにでない為気を失う。

 

真っ暗な中で町で少し話した旅人さんが頭をよぎる、もし助けてくれるならあの人がいいな。あの髪飾りをつけてくれた優しい手で私をつかんで欲しい、見て欲しい、抱きしめて欲しい、話を聞いて欲しい。

 

その願いは通じて私は助け出される、暖かい食事と綺麗なベットで休んで故郷まで送り届けてくれた。私は言いたかった。助けて、と・・・。

でも旅人さん、カルトさんにうちの現状を話しても困惑する、なによりカルトさんから拒絶する言葉を聞きたくない。それも怖い・・・。

 

リボーに帰って来た時、お母さんは心配してくれている。一縷の望みを込めて帰宅したが、何も変わっていなかった。

 

 

 

いつの間にか井戸の作業中に思考の渦に飲まれていたみたいで、作業の手は完全に止まっており頬に涙が伝っていた。

涙を手で拭き取り、再度水桶を引き上げようと力を入れるが一向にあげることができない。

空腹で力が入らない事と久々の帰宅を拒絶された母の態度のショックが大きいのだろう、彼女は懸命に引き上げようと試みる。

 

カルトはその手を包むようにロープを持ち、力強く引き上げる。

 

「カルトさん!」

 

「よう、マリアン!大変そうだな、手伝うぜ!」

マリアンが必死で引き上げる作業をカルトは軽々と引き上げて大きい水桶に移し替え、数度の作業を行い満たした。

 

「カルトさん、ありがとうございます。」

 

「いやそれほどでも、マリアンを探していたんだ。」

マリアンは首を傾げて何用かカルトの言葉を待つ、彼女の髪飾りが陽に当たり鈍く反射した。

 

「俺、またイザークを発つ事になりそうなんだ。」

マリアンの顔が暗く写る、これでもう助けてくれる人がいなくなる。私の心はなにかに鷲掴みにされたような気持ちになった。

 

「そうですか、寂しくなります。・・・・・・またイザークに、きっと来てくださいね。」

懸命に笑顔を作り、カルトに向けた。

カルトはしゃがみこんでマリアンと目線を同じにし、そして彼女の瞳を見つめる。

 

「マリアン、一緒に来るか?俺と一緒に世界を回って、自分の生き方を選べるようになりたいか?」

カルトの唐突の言葉にマリアンは言葉を失った、どうしていいかわからない表情だ。

 

「君の両親から話をつけて来た、君が家を出ると決めたのなら好きにすればいいとおっしゃられた。

だからマリアン、俺と行動を共にしよう。いつか君が君で居られる場所を見つけてそこで活躍して欲しい。」

 

「あ・・・、ああ・・・。カルト様、私・・・・・・。」

彼女はカルトに抱きつき、言葉ではなく体全体でその意思を伝えた。

彼女にはあの暗い表情はさせない、カルトの想いは少女を明るい道へと進めていくのであった。




マリアンはカルトの付き人的な存在で、シグルドでいえばオイフェのような感じです。しばらく女性キャラが居ないのでマスコット的な存在が必要と思いました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。