ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻)   作:Edward

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ここでイザーク編が終わります。
ゲームではシグルドが各地で戦争をしながらグランベルに戻るまでの数年間、イザークではグランベルに対抗し戦い続けていました。
マリクル王子先導によるものなのか、残党の反抗なのかは作中でてこなかったのですが今後もこの辺りを描いて行きたいと思っています。


友愛

マリアンに言った話をつけたというのは嘘であり、正確に言うのなら話をつけるである。彼女にはこれ以上の心労は与えたくないと考えたカルトは彼女の保護を優先し、宿に引き上げさせたのだ。

湯を使って汚れを取り服も新調し、食事を一緒に取り落ち着かせた。

彼女の手が不意に止まり、カルトを見つめる。その瞳はまだ不安と困惑した様子であった。

 

先ほどのカルトの一緒に来い、の言葉に嬉しくて返事をしたのだが時間が経つに連れてカルトに対しての配慮を始めた。

 

「私、カルト様のおそばにいて何も役に立てない。こんな私を連れて行ってくさだるのですか?」

 

「マリアン、役に立たないと思うのが違っているところだ。子供は大人の都合のいい存在になっては駄目なんだ。

これからは自分を持って、どうしたいのか?してあげたいのか?を判断するといい。

それを俺にぶつけてこれば、俺もそれに同調するか反対するかを話し合う。その中から答えを見出していきながら大人になれ。」マリアンに笑顔で答えた。

 

彼女は今まで自分の答えを出すこともないまま、大人達に酷使されて来たのだ。

いまさらそのような生き方に変えて行くには時間がかかるだろう、しかしマリアンの為にカルトは自分の生き方の中の経験を彼女には伝えて彼女なりの判断が下していけるように論じた。

 

「難しい・・・。」マリアンはポツリとつぶやく、カルトはそれに笑って頭を撫でた。

 

「そうか、そうか、難しいだろうなあ。俺にもまだまだできてないからな。」

 

「意地悪ですね。」

マリアンは少し笑って食事を続けた、その笑みには無償の自由はないことを自覚してくれた。今はそこまで理解してくれたらいいと判断した。

 

 

 

「父上!!」

ホリンは実の父に切りつけられたが何も反応はできなかった、袈裟斬りに斬られた鎧は深く傷を残し鮮血がしたたる。

片膝を地につけ父を見上げる、そこにはいつもの穏やかな顔ではなく厳しい姿であった。

 

「クラナドの指令に時間をかけ、クラウスが躍起になってダーナに進攻したことの責はお前にもあるのだぞ!

それを踏まえず、ソファラの長に会いに来るとはあきれた心掛けだな。そして私の心配か?身のほどを知れ!」

 

「・・・・・・、申し訳ありませんでした。

私のおよび知らぬこととは言え、無礼でありました。」

ホリンはそのまま畏まり、顔をあげることはなかった。

 

「ホリンよ、貴様は任務失敗の責として離反とする。二度とソファラの地へ足を踏み入れることは許さん。」父の言葉にホリンは凍りつき、動くこともできないでいた。

 

「ガーラット殿、それはいささか過ぎた罰ではないかな?」

 

「こ、これは!マナナン王、お見苦しい所を・・・。」

ガーラットはすぐさま跪き、ホリン横まで下がった。広間の全ての物が跪く。

 

「よい、ここは謁見ではない。

ホリンよ、これはそちの責任ではない。イザークをもっと団結できなかった国王の所為なのだ。

クラナドも、クラウスもイザークを憂いての行動の結果に過ぎない。今はリボーの者達には自粛してもらっているが、いずれイザークと共に立ち上がって欲しい。」

途端にあたりの者より鼓舞の声が立ち上がった。

イザーク王の器の大きさ、そして今から向かわれる劣等を払拭してこられると兵士は讃えた。

 

「ホリン、ソファラに戻るな。どのみちソファラはリボーと同じ道をたどることになり、イザークは大変なことになるだろう。

お前はそれに備えて外部に安全な場所を確保するんだ。マリクル王子とアイラ王女、そしてシャナン様が国外へ亡命できるようにするんだ。」

歓声の中父上は辺りに聞こえないように私に話しかける。

やはり、父上はもしもを感じている。マナナン王をお守りできないケース、そしてさらにイザークとグランベルの戦争を意識した内容だ。

 

「しかし父上、私もイザークに居なければお三方と外部からの合流は難しいのではないですか?」

すると、父上はそっと笑った。

 

「構わぬ、お前の中にあるオードの血が必ずお前達を巡り合わせてくれる。私もマナナン王もそう思っているぞ・・・。

先ほどは斬りつけてすまなかった、わかってくれ。」

 

「父上・・・。なにとぞ・・・なにとぞ、ご無事で!!」

父上は腰にある、剣を抜いてホリンに渡す。

 

「この剣はこれからお前が使え、イザークを頼んだぞ。」

ホリンは一礼し、駆け抜けるように喝采の広場から飛び出した。

もう、自分には戻る場所もない。イザークを飛び出して自分にはなにができるにであろうか、今度こそ父上に顔向けをできるように誓う、ホリンであった。

 

 

 

 

「そいつが、黒幕だ!俺はそいつにそそのかされたのだ!!」

ダーナの地下室でクラウスは声を張り上げた。

 

彼はダーナに子供の救出に向かった、ダーナの町に入る直前に暗黒魔道士達による一斉攻撃を受けた。

彼は出立時に漆黒のローブをきた女の助言と魔法の援護を受けて魔道士の駆逐に成功したのだ、だがその戦闘がダーナの町にも被害をもたらしたのだ。

 

ダーナはその被害、なにより暗黒魔法の攻撃を受けた畏怖よりグランベルに救援を要請した。

クルト王子は報告を受け、各公国に通達した。

アルヴィス卿はダーナに一番近い公国であり、かつ彼は主力部隊であるロートリッターは軍事訓練をしていたらしくロスなく出撃できたのである。

 

クラウスのリボー軍は子供の捜索に躍起になり、ダーナを捜索するが見つけることは出来ず市民に恐喝紛いまで行い始めた。リボー軍の中でも過激派な連中の為、横行は激しさを増していく。

ついに町に火の手まで上がりだし収集は付かなくなり、ロートリッターがリボー軍を制圧にかかったのだった。

 

リボー軍はグランベルの軍事力の前には半日もかからず壊滅した、郊外に逃げたリボー軍に大魔法メティオまで使う徹底ぶりは圧巻であった。

 

クラウスは馬車で逃走したが、交通封鎖していたグランベル軍捕らわれて、ダーナで拘束されたのだ。

 

アルヴィスは汚い言葉を使うクラウスを横目に隣に立つ黒いローブの女に視線を向ける。

 

「このように申しているが、スレイヤどうだ?」

アルヴィスの言葉を受けて彼女は妖艶にその唇を動かす。

 

「まさか、アルヴィス様はこのような戯れ言を真に受けられるのですか?

仮に私だとしても、名前も知らない女の話術にかかってダーナに攻めました。なんて話を誰が信じましょう。

なにより私はアルヴィス様とほとんど同行していましたでしょう?」

 

「確かに、スレイヤはここ一月は私の部下としてグランベルにいた。リボーへ行く時間などないはずだ。」

アルヴィスの言葉にクラウスはなすすべはなかった。

 

「リボーのクラウスよ、貴公はクルト王子が到着次第に罪状を言い渡す。それまでは心穏やかに待つことだ。」

アルヴィスは翻した、もはやこやつには用はなかった。

 

「うふふふ、アルヴィス様も芝居がお上手ですこと。」

プレイヤは前に回ってアルヴィスを悪戯に笑いかける。

 

「冗談はよしてもらおう、これでイザークはグランベルに戦争を仕掛けるのだな。」

 

「はい、アルヴィス様が真っ先にダーナの反乱を押さえましたのでランゴバルド卿やレプトール卿があわててこちらに向かっております。

功を焦ったこのお二人を使えば、きっとそのようになりますでしょう。」

彼女の言葉にアルヴィスも不敵に笑う。

 

「しかしですが、私たちにも不確定事項が発生しています。私たちが根城にしていた一つが壊滅しております。

ダーナで私たちが暗躍している最中に族が侵入し、同志を殺されました。」

 

「なんだと!」

 

「ご安心ください。そこからアルヴィス様に繋がる証拠はなく、暗黒教団の一つを壊滅させた位にしかなりません。

しかしながら守っていた者は我が教団でも上位にいた人物で、彼を倒した存在は見過ごせません。」

 

「気にはなるが、今はどうにもならんな。存在がわかれば俺も何とかしよう。」

 

「ありがとうございます、いずれ我が司教様もアルヴィス様にお会いしたいと存じています。」

 

「要らぬ、俺は利用できるものは利用するが暗黒教団を庇護するつもりはない。スレイヤ、貴様はそれを了承していたのではなかったのか?」

 

「こ、これは失礼致しました。以後お気を付けます。」

フレイヤは畏まった、アルヴィスのただならない殺気に気圧されてしまう。

不敵な笑みを讃えたアルヴィスが見る先はどのようなものであるかはフレイヤは計り知れないでいた。

 

 

「はあああ、お助けを!!」

体型の悪い男はとにかく許しを請い、この場を収めることに必死になった。

銀髪の男が自分の娘を売りに出そうとした日に突然家に入り込み、以前に売りつけた者と本日売りつける予定の男をふんじばった状態でなだれ込んだのだ。

銀髪の男、つまりカルトはマリアンの売り先の相手全てをダーナで見つけ出しそに代表格の者を捉えてこの場に乗り込んだ。

 

「貴様の画策は全てお見通しだ、さあどうする。

このままこいつらとともに衛兵に差し出してやろうか?それとも・・・。」

がくがくと震える男と奥より出て来た女は抱き合ってその尋問を聞き入る、二人はその予想だにしない状況に混乱の極致となっている。

「それとも、俺に抗って子供を救うか?

もし、その気なら場を設けてやるぞ・・・。俺に勝てば不問にしよう。」

 

「そっ!そんな!!騎士様に私どもが抗うなんて!!もし、娘が気に入ったのなら連れて行ってください。

娘はもう、従順で・・・。騎士様の思うがままで・・・。」

 

これは、カルトの一縷の望みであった。

しかしながらこの父親の回答に苛立ったカルトは下衆な笑みで近づいたこのバカを力一杯の右ストレートを左頬に入れてやった。

ほお骨を砕き、歯も地に数本落ちた彼は痛みのあまり地に伏したまま動くことはなかった。

マリアンの母は甲高い声を上げて絶叫するが、カルトは構うことなく言い捨てる。

 

「もう、あんた達にマリアンを連れて来ることはない。

子供を痛めつけた事をあんた達は後悔することになるだろう。」

その場を去ったカルトにも、涙が溢れていた。

 

「マリアン、できればここに返したかった。」

カルトは涙を拭き取り、その歩みをさらに早めた。

 

 

 

 

各々がイザークでの一日を過ごした翌日、四人は再び合流した。

デューのように晴れ晴れしい顔をした者ななく、三人は何かの決意を持った面持ちに変わっていた。

 

ホリンは厳しく

カルトは何かを見据え

マリアンは何かに決意する

 

ホリンからの状況でイザークにいてはまずくなった為、国外へ脱出することを選んだ。

イザーク情勢が悪くなった時の受け入れ先の手配、と彼は言っていたが父親にはもう一つの画策があることをホリンはまだ理解していないのだろう。

マナナン王やマリクル王子、その一族がイザークで戦い続けてしまった時のことまで考えていることだ。

オードの血を絶やさない為にホリンにイザークを脱出して欲しい、父としてイザークのリーダーの一人としての決断にカルトと感銘を受け、ホリンに伝えることはなかった。

 

デューの周辺情報によると

ダーナからグランベル領のヴェルトマーに向かう、もしくはフィノーラ経由でシレジアに向かう。

メルゲンからマンスター地域に向かう。

メルゲンからミレトスのペルルークに向かう。

 

という、陸路がある。

しかしながら、ダーナからヴェルトマーは紛争による交通封鎖があるのでイザークの民であるカルトを除くメンバーには多少のリスクが生じた。

 

その他の経路も考えられるのだが、何よりカルトはグランベルのバーハラにむかいたかった。

イザークの紛争とグランベルの動向を知り、今なにが起こっているのかを掌握する為にも一度むかいたいと考えていたからだ。

以前シレジアとグランベルで魔法戦術における討論にてバーハラに駐留しヴェルトマーのアルヴィス卿や弟のアゼル公、フリージのブルーム卿などと顔合わせをしたことがある。

とくにヴェルトマーのお二方とは懇意となり、意見交換をレヴィンも交えて討論したことがあった。

アルヴィス卿はバーハラで近衞隊を指揮しているのでうまく行けばなにか情報が引き出せるのではと考えていた。

 

「カルト、一度私たちは別行動するのはどうだろうか?」

 

「む、どういう判断だ?」

 

「カルトの目的と俺の目的は違っている、カルトはバーハラに向かいたいのだろう。

私は自由都市のミレトスに向かい、確認をしたいのだ。」

確かにそうだ、敵国のグランベルにホリンが王子達の匿う場所に選ぶはずがない。

 

「確かに、ではホリン二人ならヴェルトマーからバーハラに安全に行ける方法がある。俺はそのルートで向かう、ホリンとデューはペルルークからミレトスだな。」

 

「ああ、二人とも気をつけてくれ。」

 

「ホリンも、辛いだろうが今はできることからこなしていこう。

・・・この瑪瑙の石を持っていてくれ、これがあればマリアンを救出できたように魔法で追跡できる。」

カルトはその石を渡した時、ホリンは頭を下げた。

 

「カルト、君に会わなければあの任務を全うできなかった。おそらくダーナであの紛争に巻き込まれて死んでいた。デューも遺跡で暗黒魔法で殺されていたし、マリアンも暗黒神の生贄になっていた。

ここにいる三人は君に救われたんだ、代表して君にこれを贈りたい。礼として受け取ってくれ。」

ホリンは背中に担いていた袋から一本の剣を取り出した。

イザークに来て所望してやまなかった、マリアンと始めて出会い笑いかけてくれた白銀の剣をカルトに渡した。

カルトは受け取ると、鞘から抜きその眩しく光る刀身を見る。確かにあの時の剣であった。

 

「ホリン・・・ありがとな。」カルトも、先ほどのホリンと同様に頭を下げて感謝を伝えた。

 

二人にもはや言葉は無かった、互いに一つ笑みを浮かべると互いに違う道を歩み始める。その歩む先に彼らは必ず出会うと信じ、友愛に陰りはなかった。たとえこの先敵同士になろうとも・・・。

 




次回からはグランベル編となります、このあたりでようやくゲームの序章に当たる部分を描けるかと思います。
拙い文章でご迷惑をおかけしておりますが、よろしくお願いいたします。

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