ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻)   作:Edward

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ホリンと別行動となったカルトとマリアン。
カルトはバーハラで自身の出生を探り、この度の件で暗躍する存在の認識を確認。
ホリンは有事における緊急脱出時の秘匿先の確保をする為、ミレトス地方へ・・・。




二章 グランベル編
研磨


ダーナへ侵攻したイザークとグランベルの騒乱で交通封鎖を行われている中、煩わしい検問を突破する為、転移の杖でヴェルトマーへ飛ぶカルトとマリアン。

 

バーハラとヴェルトマーはシレジアで修練に励んでいた時にレヴィンと共に訪問した事があったので転移は容易であった。

バーハラに直接転移してもいいのだが、あの国は昼夜を問わず人が往来しているので比較的人が少なくなるヴェルトマーに転移した。

時刻は4時過ぎになる、この時間を選んだのは街に人が少なくて転移の光が朝日にまぎれるだろうという配慮であった。

 

魔道士、特にこのような奇跡に力を民衆に見られるのは非常に良くない。まだ地方ではかつての暗黒神の迷信があり、子供を火炙りをする非道な地域があるのである。光の中から人が出て来たとなれば一騒動起こるかもしれないのだ。

 

聖戦士の末裔などの顔のしれた英雄ではそのような事はないが、得体の知れない人物が人外な能力を披することは極力避ける事が賢く生きる事になる。

 

「ふう、マリアン疲れたろう。とりあえず宿にでも行こう。こんな早くから遠距離転移したから二人だけでも魔力が尽きかけてるよ。」

 

「もう、カルト様ったら。だからギリギリまで歩いて行こうと言ったじゃないですか。」

マリアンは微笑みながら返してくれた。

ホリンと別れてから二週間になるが、彼女の環境適応能力が高い。徐々に子供らしく、かつ知識の遅れを取り戻していった。

 

 

 

あれから俺とマリアンはダーナに転移し紛争後の様子を探った、本当はリボーで別れるのではなくダーナに転移してから別れることも手だったのだが交通封鎖はまだ解除されていない、ホリンとデューは自力でメルゲンを目指す形となったのであの場で別れる事とした。あの二人ならきっと辿り着けるであろう。

 

ヴェルトマー軍が占拠しているのならもしかしたらアルヴィスに会えるかもしれないと思い、しばらく駐留していたが、到着時にはドズルのランゴバルトとフリージのレプトールが駐留しておりアルヴィスと精鋭のロートリッターは一足遅く本国へ帰還していた。

 

俺はアルヴィスのいないこの街に残る滞在理由もなく、すぐさまヴェルトマーに向かおうとしたのだがここで大きな事件が起こった。

ダーナに向けて出立していたイザークの王マナナンと従者が全員何者かの奇襲を受けて全滅していたとの報告が入ったのだ。

 

ここで疑惑が駆け巡った。グランベルの策謀による奇襲、イザークの過激派組織による暗殺。

しかし、謝罪の意思を持ったマナナン王が死亡する事はイザークの民が黙ってはいない。グランベルの策謀であろうがなんであろうがマリクル王子を筆頭に反グランベル勢力となり、宣戦を布告したのである。

 

ホリンの父が予想するよりも酷い内容になっており、この中立区域はもちろんの事でイザークも焦土と化してしまうだろう。

大国グランベルの前にはイザーク一国では手が負えないのは明白、だが物量で負けていても何者にも譲れない精神が後押しし、悲惨な紛争に発展しようとしていた。

 

もしこのような事も計算に入れて暗黒教団の望む破壊と絶望を得ているとするのなら、彼らの計画はもっと先にある暗黒神の復活も考えているのではないかと思ってしまう。

しかしそれは、ないはずである・・・。百年前の戦争で彼らから取り返した自由の下で血縁に当たるものは全て粛清している、歴史書にも明記しているのだ。そんな事があってはならない筈である。

 

 

話を戻そう。イザーク軍とランゴバルド、レプトール軍は二度イザーク国境近くでぶつかりイザーク軍が退けた。

国境付近にて待ち構えていたイザーク軍に急襲された。その地点はまだ砂漠地帯であり、騎馬兵を主流とするグランベル軍は白兵戦を得意とするイザーク軍の前に苦戦した。

進軍中に砂漠を横断する事による暑さと消耗、休息地点を把握されていたグランベル軍など数こそ多いもののイザーク兵にとっては歯牙にも掛けなかったのだろう。

二度の戦いですっかり敗戦色が濃くなったダーナでは両軍の兵士達は疲弊と苛立ちを隠さないでいた、時にはダーナの一般市民 にぶつけるケースもあった。

 

グランベルの両名は自国より精鋭のグラオリッターやケルプリッターをダーナに派遣していない。

イザークの反乱兵を過小評価しているのか、または自国の兵士を過大評価しているのかは判断はつかないが相手の力量分析ができない御仁達でもないだろう。これにもなにか引っかかるものを感じるが、今はここで検証をしていても何も生み出す事はできない。カルトは早々とヴェルトマーに向かうことにし、今日に至ったのである。

 

 

 

「マリアン、すまないがここに600Gあるから今日はこれで楽しんでくれ。

君の黒髪は素敵だがグランベルでは目立ってしまうのでこれを使って隠すといい、念の為リターンリングを渡しておくからいざとなればこれを使ってここに戻ってきてくれ。」

カルトはマリアンの髪に巻き布を施してうまく隠した、シレジアでは外を出歩く時に必ず巻くので手慣れたものであった。そうでないと極寒の中で頭の水分が髪で凍ってしまう、防寒以外にも必要な装備であった。

 

マリアンはこの過保護な対処にくすりと微笑んでしまう、いままで両親に邪険に扱われていた彼女にとってその暖かさはなくてはならない存在であった。

 

 

彼女を送り出したカルトは一気に表情を変えた、アルヴィスはバーハラでアズムール王の身辺警護の任も行っているのでヴェルトマーにはいないがその弟であるアゼル公子はここにいる。

ここでうまく情報を引き出し、かつバーハラに同行できればアルヴィスに接見でき、さらにうまくいけばアズムール王にたどり着ける可能性がでてくる。

 

かなり無茶があるかもしれないが、シレジアの傍系である位では直接陛下にお目通りすることなど叶う筈がないのだ。多少の縁ではあるが、地理的な状況と人間性を考えればアルヴィスに頼る他なかった。

 

性格は極めてクールで冷淡ともいえるが、根は悪いやつではない。口数は少ないが、俺とは妙に気が合い駐留中は奴と魔力比べに必死になっていた、となりでレヴィンがみていたっけ。

誰かに聞いたわけではないのだが、アルヴィスは父親と母親を一気に無くして時折暗い影を落としていた。その境遇と俺の境遇にどこか共通点があったのから気があったように思えた。

公私に厳しいやつのことだから、やつの独断では謁見は許可しないだろう。何か策がいると思うのだがその光明はまだ見出せない。

もやもやと考えることはやめ、まずはアゼルに会う為にヴェルトマー城へ向かった。

 

「私は、シレジアのカルトだ。アゼル公にお取り次ぎをお願いしたい。」

 

「アゼル公は公務中である、順を追って面会をしているので停泊先があるようなら日時を告げる手紙をお送りする。」

頭の固い兵士はこの言葉の一辺倒で話にも応じない、おそらく手紙が帰って来る事はないのだろう。

胡散臭い連中をいちいち通すわけがないので、適当な返事をして門前払いをしているのだ。

 

「では、この文をアゼル公にお渡ししてくれ。中身を閲覧しても構わない。」

こちらも考えなしに来ているわけではない、直接が駄目なら間接による準備をしていた。衛兵は無表情で受け取ると了承したのか、その文を持って内部へと向かった。

 

とりあえず、本日は文を持って行ってくれるだけで充分だった。彼の目にさえ止まればかならず俺に会いに来てくれると信じていた。

 

 

アゼルは兄とは対象的に優しい人柄で人望もあり頭の回転も早い、ただ多少臆病な所があって行動的ではない為か物事に対して躊躇う所がある。

おそらく、優秀な兄に対して多少のコンプレックスもあるのだろう。

しかしながら、そんなアゼルの愛らしく邪険にされる態度に兄のアルヴィスは内心微笑ましく思っている。俺がそれを看破した時のアルヴィスの顔は今だに忘れられないでいた。

 

 

その時だった、市街地の石畳をそんな思考を浮かべている時に強力な魔力を察知し立ち止まった。

自身に危害が及ぶような殺気混じりの魔力ではないが、近くで通常の術者とは一段上の魔力を感知したのだ。

一体どこからやって来るのか、五感を張り巡らせて集中する・・・。

カルトは感知した方向へと足を運ぶ、強力な魔力とはいえこれがこの術者の全力なら母親から受け継いだ現在のカルトなら対した術者ではない。だがこの魔力から察するにこの術者はまだ底を持っているように感じる。

カルトはその好奇心から足取りがどんどんと早くなっていった。

 

 

居住区の先には小川があり、その畔に魔力の元である術者が佇んでいた。

真っ直ぐな栗色の髪を頭頂部で結い左肩に流している、女性魔道士らしく術者のローブを纏っているがその高級な質感から上官の宮廷魔道士かどこかの公女様である可能性があった。端整な顔立ちで何より気品が感じられた。右手に持つ魔道書は雷魔法の書物でおそらくエルサンダーだ、見たことないが自身のエルウインドと似ていることからそう判断した。

 

彼女は瞑想状態らしく目を閉じて呼吸を整えている、魔力が華奢な彼女から溢れ出しあたりに緊張感を強制させる。みているカルトも息を飲んでしまう。

 

そして目を見開くと、前方にある地面に突き立てた金属製のロッドに向けて左手をかざした。

 

「サンダー!!」

左手より雷が迸り、紫電の光がロッドに命中し突き立てたロッドがその威力に宙に舞い上がった。

 

「へええ、君は雷魔法の使い手なのか。その若さでその威力は筆舌しがたいな。」

 

「誰!!」彼女はびくりと肩を震わせて振り返る。

カルトは空中に舞い上がったロッドをキャッチし、彼女の眼前に躍り出た。

 

「これはすまない、街中を歩いていたら強力な魔力を感じたものでつい・・・。」

ロッドを同じ場所に突き刺して答えた。

 

「俺の名前はカルト、これでもジレジアの血筋の者だ。」カルトは右手に小さなつむじ風を起こして魔導士であることを証明した。

 

「あ、あなたも・・・。」

 

「ああ、魔道士だ。」

カルトは軽く笑って会釈をした、だが彼女はアゼルよりも臆病なタイプらしく警戒を外してくれなかった。カルトは少し苦笑いをして話を続ける。

 

「君、少し魔力を練ってから発動までの間が遅いね。せっかくそこまで魔力を体に纏えているのに発動のタイミングが遅いから無駄になってしまっているよ。」

 

「え、ええ?」彼女は突然の言葉に理解がついて来ていなかった。

 

「はい、魔力を練って。」

 

「は、はい!」彼女は相当の素直な性格らしく、再び瞑想して内なる魔力を呼び起こす。

内より呼び起こされた魔力は次第に彼女の外へ溢れ出し、停滞させた。

そう魔力は普段は体の内に眠っている、それを精神の力で対象魔法に必要な分の魔力を体から放出させてその場に留める。そして一気に魔力と精神を混ぜ合わせて魔法へと変換する。

 

彼女はその魔力の停滞が苦手と見えた、なので停滞を訓練するよりも停滞時間を短縮させて一気に魔法に変換した方が能率がいいと思ったのだ。もちろんデメリットもあり停滞時間を長い方が一定の魔法攻撃が可能である、溜めが短いので一発一発の魔力が安定せず同じ精度がでないのだ。

おそらく訓練場でもそのように言われて、彼女なりに改善をしているのだろうがそれが原因でスランプとなり自身の長所が失われているとカルトは感じた。

 

「はい、発動!」カルトはロッドに向けて指差すと彼女は言われたとおり放った。

 

「サンダー!」

彼女の指先から放たれたサンダーは先ほどとは大きく異なり、ロッドは紫電の一閃を受けて熱に変換され歪な形に変形しその場に崩れ落ちるように転がった。地面に抜けた電撃は辺りの草を焼き、その威力は先程とは大違いであった。

 

彼女はその違いにまるで自身が打ち出したのではないというような錯覚を受けたのか両手を見ていた、カルトはニッと笑って彼女が落とした魔道書を拾い上げる。

 

「なっ、まあ訓練所ではどう言われたのか察しはつくが自身の長所は崩すなよ。君はすごい魔力の持ち主だ、それゆえに精神力が追いついていないんだよ。焦らず精神訓練をすればじきに使いこなせるさ。」

彼女に魔道書を手渡した、彼女は上目遣いにカルトを見上げた。美形である、カルトの胸になんともいえない衝撃を与える。

マリアンのような、意思と芯の強さからくる美貌とは違った。儚げな一輪の花、守り慈しみたくなるようなこの感覚にカルトは新鮮さを抱いた。

自身の周りにいた、あの天然のフュリーやマゾヒストにはたまらないフュリーの姉であるマーニャではこの感覚は抱かせない。

 

少し、トリップしたカルトは精神のみどこかに旅立ったのかその場で立ち止まってしまった。

 

「あ、あの・・・。ありがとうございます。わ、私・・・。フリージのエスニャといいます。」彼女はペコリとお辞儀し、先程の拒否反応を和らげていた。

 

「あ、ああ。よろしく、エスニャさん。」

 

「カルトさんは、どのようでこちらに・・・。」

 

「見聞を広げる為にあちこち旅をしていたのだが、ダーナの紛争であちらに行けなくなってヴェルトマーで足止めだったんだよ。ここには知人のアゼル公がいらっしゃるから、この足止めを機会にお会いしようと思ったんだが門前払いでまたまた途方にくれていた所だったんだ。」

 

「まあ、それは大変な事で・・・。ヴェルトマー公国は特に他国の方が直接謁見を願い出てもお会いできるには稀なこととお聞きしたことがあります。

よろしければ、私の姉とアゼル様と親しいので頼んでみましょうか。」

 

「それは助かる、是非お願いしたい。」

 

「いきなり正面からはお姉様でもご無理というものですので文を頂戴してもよろしいですか?お姉様がアゼル様に直接渡してくだされば、アゼル様も動いてくださると思います。」

 

「わかった、すぐに準備しよう。」

 

カルトは再び文を作成し始めた、彼女の雷魔法をみてからここまで予想どうりの筋道となり彼女には申し訳ないが予想どうりの運びとなったのだ。

それと共に、美しいエスニャの姉とも会えることは予想外の楽しみでもあった。




ヴェルトマーで鼻の下を伸ばすカルト
シレジア人とは違う女性達に出会って多少舞い上がっています。


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