ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻)   作:Edward

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アルヴィスとの戦います、下馬評ではカルトの勝率は一桁でしょうね。


聖痕

翌朝、まだ衛兵も動き出さない時間に魔道鍛練場に四人は集まった。

アルヴィス本人はすでにこの場にいており入る前よりその魔力を解放させようと精神を練っていた。

 

「よう、準備は出来ているみたいだな。」

 

「ふ、カルト公子もな。」

二人はかつて出会った時のように、しがらみを捨ててこの場に全ての力を注ぐべく望んでいた。

カルトは距離を取り、構える。

アルヴィスは構えることなくその場にカルトを見据えている。

場の空気が一気に変わる、アルヴィスからは魔力と共に熱気をはらみカルトからは冷気が立ち込める。

 

カルトはアルヴィスの炎対策に風による冷却作用により氷を作り出す。

以前は風で炎を押し返す事ばかり考えていたが、あれから応用と対策は充分練ってきた。

 

「ファイアー」アルヴィスの右手から下位魔法とは思えない熱量が発せられた。

 

「ウインド」カルトもまた下位魔法とは思えない風が巻き起こり炎を吹き飛ばそうと発せられる、その風には氷雪も混じり炎の温度も相殺する。

二人の間には炎が氷を蒸発させ、風が炎を引きちぎる。凄まじい自然現象と、魔力が辺りに溢れて傍観者まで迫る。

 

拮抗していたように思われたせめぎ会いは徐々にアルヴィス優勢となりカルトはその圧力で上体が揺らぎ表情に余裕がなくなってきた。

やはり聖戦士の神器を持つアルヴィスには能力値向上もあり、正面からの衝突には勝ち目はなかった。

アルヴィスはまだ余力がある様子でその表情は変わらない、魔力を少しづつ加えてカルトに圧力をかけていく。

 

「エルウインド!」カルトは双方のぶつかる魔法を強引に下方から上位魔法をぶつける事で上方に追いやった。魔力の制御から解放された魔法は蒸気を伴い相殺されていった。

水蒸気が晴れ、視界が鮮明になると場にはアルヴィスのみとなっていた。アルヴィスもすでに事態に気づいている、視線を動かして視認を急ぐ。

 

「ウインド!」圧縮空気がアルヴィスを襲う、即座にファイアーにて圧縮空気を熱膨張を引き起こさせて破壊する。

 

「くっ!」次はアルヴィスの顔にゆとりがなくなった。

カルトの連続魔法に、アルヴィスの連続魔法が追い付かなくなってきているのだ。

 

カルトは先程の魔法のせめぎ会いで発生した蒸気を目眩しに使い、その間にウインドを使い上空で姿を消した。天井の梁に隠れアルヴィスが視認行動をしているときに一気に魔力を解放、ウインドの連続魔法を繰り出したのだ。

とうとう連続魔法のウインドに対応しきれなくなったアルヴィスにその攻撃が当たり後方に吹き飛んだ、さらに追い討ちのウインドが吹き飛んだアルヴィスに襲いかかる、

一通り攻撃を与え終わるとカルトは地上に降りたって吹き飛んだ壁面に集中する、アルヴィスがこれくらいでまいるわけではない。

ここからが本番である、カルトはさらに魔力をあげようと精神集中を怠らなかった。

壁面では瓦礫となった壁からアルヴィスがゆっくりと立ち上がる、神器を持ち聖戦士と化したアルヴィスは自身の能力に加えて魔力と共に防御能力も向上しているとアゼルは言っていた。

カルトはここに来て、アゼルの言っていた負け無しの言葉を痛感した。

 

「神器がなかったら、今ので公子の勝ちであっただろう。だが武具能力も強さの一つだ。」

 

「ああ、気にしてねーよ。」内心では悪態つきまくりであるがカルトは笑ってもアルヴィスの挑発を受け流す。

 

「ねえ、やばくない?カルトに勝ち目ないよ。」ティルテュはアゼルの袖をつかんだ。

 

「このまま正面から撃ち合えばカルトに勝ち目はないな、でもカルトの魔法速射能力と身体能力は兄上を上回っている。あとは兄上の防御を上回る魔法があれば勝ち目はあるよ。」

 

「カルトさん。」エスニャは祈るように手を胸に抱いて見つめていた、勝敗よりも彼の無事を願い続けていた。

 

 

「素晴らしい潜在能力だ、聖戦士でないのが不思議な位な。

しかし私が聖戦士である以上、聖戦士でない者に負けるわけには行かぬ。」

アルヴィスの表情に戦慄を覚えた。

その時に通常の炎とは違い、朝日のような山吹色の炎が立ち上ぼりアルヴィスの手のひらに圧縮されていく。早朝の肌寒い空気が一気に温度を上げていった。

 

「兄上!お止めください!!カルト公子を殺すつもりですか!」

アゼルは二人の間に入り制止する、炎の最大顕現とも言える聖戦士唯一の魔法ファラフレイム。

ひとたび放てば辺りは焼き尽くされ、魔法防御能力の無いものはこの世に残らないとまで言われる超魔法。

 

「カルト公子、どうだここてやめておくか?」

アルヴィスは笑みを浮かべて俺に語りかける。あの魔法は俺の通常の防御では即死だろう、絶対に約束された死の選択。

 

「まさか、それを防いだらお前に一撃を叩き込んでやる!」

カルトは聖杖を取り出してアルヴィスのファラフレイムを受ける覚悟を取った。

 

「や、やめて!アルヴィス様!カルト!!」エスニャの悲鳴が響くなか、アルヴィスはアゼルの足元をファイアーを爆発させて強引にその場から立ち退かせてカルトにファラフレイムを放つ。

 

「マジックシールド!!」

聖杖は光を放ちカルトを包み込む、しかしそんな防御魔法一つでアルヴィスの攻撃をなんとか出きるわけがないのは承知している。

が、カルトは全魔力を注いでシールド作成しているため幾重にも重なりファラフレイムがシールドを破壊しながらもシールドが作成されていく構図になった。

さすがのアルヴィスも防御されていることに気付き驚きの顔をしている、カルトの常識はずれた手段にただただ驚嘆するのみであった。

 

しかしながらこの硬直は長くは続かない、持ちうる魔力が尽きかけてきたカルトはマジックシールドにつぎ込める量を維持が出来ず。幾重にもあったシールドが薄くなっていき、ついにはファラフレイムが突き破った。

カルトは炎に包まれ後方に吹き飛んだ、アルヴィスはすぐさま魔法を停止させカルトに治療の聖杖で火傷を回復させていく。

この決戦にも近い勝敗はアルヴィスに軍配が上がったのだった。

 

 

 

「うう、アゼルか。俺は負けたんだな。」意識を回復させたカルトは心配そうにするエスニャとアゼルが視界に入り、その表情から読み取った。

 

「ああ、負けたね。でも善戦だったよ。」

よろよろと立ち上がるカルトにアゼルは笑みを称えてその勝負を労う。

 

「慰めはよしてくれ、アルヴィスはまだ全力ではなかったさ。それにファラフレイムも着弾の直前に足元に落として直撃させなかったからな。それに回復までしてくれた様子だし、完敗だよ。」

正直な感想だった、もし光魔法の最大顕現であるオーラを使用したとしてもあのアルヴィスに打ち勝てないと判断して光魔法は秘匿としたのだ。

 

「さ、言い訳はここまでにしてヴェルトマーに戻るとするか。魔力を結構使っちまったから歩いてだけどな。」

カルトはそういって立ち上がろうとしたとき、マジックシールドの聖杖をまさに杖がわりにしたのだが見事に粉砕してしまい再び床に戻ってしまった。

 

「いってえー!いってえなー!!」

カルトは床で頭でも打ったのだろうあわててアゼルは助け起こそうとしたのだが、その痛みは床にぶつけた物ではない事に気付いた。

カルトの大粒の涙は自身の力不足を悔いるものであり、その魔道に純粋な探求から来ていることを知ったアゼルは胸を打たれた。

兄上には誰も勝てていない事実を知っても諦めず、負けて悔しがるカルトを見て自身に足りていないものがまざまざと見せられたのだ。兄へのコンプレックスが魔道の向上の弊害になり、目を背けていた自分が途端に恥ずかしい存在になった。

自分にもこの涙を流せるようになろう、彼は密かにそう決意したのだった。

 

 

 

アゼルはヴェルトマーに帰還するために馬車を手配しに鍛練場より離れ、フリージの姉妹もバーバラに来ているレプトール卿の元へ向かった。

特にすることもなく、鍛練場から宛がわれた部屋に戻ろうと足を運んでいた。

しかし、バーバラの城は広くて考え事をしながらのカルトは完全に迷っていた。

 

「君、そこの君!そちらは王家の居住区だよ。」

 

「あ、ああ。すまない。どうやら迷っていたらしい。」

カルトは声をかけられた男性に謝罪し、別の通路に足を運ぼうとするが呼び止められる。

 

「君は、グランベルの人間ではないね。

もしかして、昨日騒ぎになった渦中の人かい。」

 

「そうだ、転移魔法の失敗でな。お騒がせして申し訳ない。」

 

「それは嘘だね、転移魔法の失敗でそんな都合のいい事はないだろう。」

カルトは考え事をしていてその男の言う事をうわべでしか聞いていなかった。突然転移の魔法の特性を見抜いていたのでようやく男の話をまともに聞く気になり顔をあげたのだった。

 

そこにいたのは、以前に一度だけ見たことのある人物だった。ブロンドの髪をまっすぐに伸ばし、品位のある端整な顔。そして気品のある出で立ち。

グランベル国王アズムール王の一子、クルト王子であった。

突然の出会いにカルトも一瞬呆けてしまう、言いたいことがたくさんあるにも関わらず目的を忘れてしまっていた。

 

「君は、何か目的があってバーバラに来たんだろう。

私で良ければ話を聞こう。」

クルト王子の気さくな対応にカルトは動揺の局地にいた、しかしカルトは冷静さを取り戻して頭を回転させていった。

 

「先程の非礼をお詫びします。私はシレジアのマイオス公の長兄、カルトと申します。

殿下の言うように、邪な思惑もあり友人のつてを使って強引に侵入致しました。

アルヴィス公に看破された私は、彼との勝負に負け、ここを去る約束をしております。

ですので殿下にお話をする資格すらありません。どうか、このまま静かにお見送りしていただけますと助かります。」

カルトは頭を下げて、クルト王子の申し出を断った。

 

「あっはっはっはっ!!すまない、君達は相当の頑固者だね。

カルト公子、実はこの話はアルヴィス公から頼まれてきているんだよ。」

アルヴィスが!カルトは頭の中で叫んでいた。

 

「彼は、あまり私と話をする事は無いのだが突然私に申し出て来たので驚いたよ。君に会ってあげてほしいとね。

だから、少しで申し訳ないのだが君の話したいことを聞かせてもらっていいかい?」

カルトはアルヴィスの計らいに感謝する。

彼は、この度の勝ち負けで面会の許可を決めたわけではなかったのだ。

その面会にどこまで決意があるのかを試された気が、今になってしてきた。そう考えると彼の一言一言が、意味を為していく。

ファラフレイムを使う直前に続けるか否かの確認が最もであった。

 

「それでは私の私室で話を聞こう。」

と言うとついてこいとばかりに踵を返して王室のみの廊下へ歩いていく。カルトは無言で従った。

 

 

「アルヴィス様、よいのですか?あのような者にお会いさせて。我らの計画に支障はでないのですか?」フレイヤは回復魔法を施しながら心配を口にする。

 

「問題ない、奴がどのような情報を持って面会を求めてきたのかは知らんが私を気取っている様子はない。」

 

「会話を傍受したいのですが、クルト王子が我らの魔力を感知されると厄介ですので控えております。」

 

「それでよい、クルト王子は本日にでもダーナに向かわれるからな。」

アルヴィスの口に笑みが浮かぶ。

 

「そうでございましたね、入らぬ心配申し訳ありません。」

 

「かまわぬ、それよりフレイヤ。イザークに配下の手配は問題ないか?」

 

「ぬかりはありませんわ、イザークに足留めするために活きのいい生餌をまいておきます。」

 

「クルト王子がいないバーバラはさらに忙しくなるからな、汚れ仕事は任せたぞ。」

 

「仰せのままに!では」フレイヤは転移を行い、アルヴィスから消えるのであった。

 

 

クルト王子の私室に入ったカルトは、勧める通りに椅子へ腰掛けた。

王子の部屋は調度品に溢れ、さまざまな文献や著書で溢れていた。博識なアズムール王に匹敵する幅広い知識と、文献の解析に優れているクルト王子は王子であり学者である。魔法の能力も非常に高いらしいが、公式な場での披露はなくベールに包まれている。

 

カルトの魔法探知でクルト王子を探る、さすが聖戦士のトップに位置するナーガの末裔。底の知れない大海を見ているように感じるがその暖かな魔力に不思議な安堵を覚えた。

 

「さて是非君の話を聞きたいところだが、君は不思議な雰囲気がある。まず君は一体何者なんだい?そこが君の聞きたいことにも繋がるような気がするよ。」

 

「お察し頂き有りがたく思います、まずこちらをご覧下さい。」

カルトは額にあるサークレットに手を伸ばし、魔力を込めた手でゆっくりと外した。額にはセティとは違う聖痕が現れる。

 

「!!そ、それは!なぜ君が。」クルト王子は自身の聖痕に手をやり驚愕する。自分と全く同じ物がそこにあるからだ。

カルトは再びサークレットを身につけ、話しを続ける。

 

「私もこれがあることを最近気付きました、母の魔法により封印されていまして暗黒教団との戦いで覚醒致しました。」

 

立ち上がって驚いたクルト王子は椅子に座り直し、落ち着きを取り戻す。彼の頭の中で様々な憶測と推察をしていたのであろう、まだ結論よりもカルトの話しを聞く方が大事と判断したようだった。

 

「まさか、君はシギュンの子なのか?」

 

「?いえ、私は名乗った通りマイオス公の子です。

母の名は、セーラと申します。」

 

「失礼、今のは忘れてくれ。」クルト王子は顔色が悪くなった、何かとんでもないことを暴露したような気がするがカルトはできるだけ考えないようにして話しを進める。

 

「私は自分がなぜ、このような力を持つのかが知りたくてここにきました。母から受け継いだこの力はどこから来たのか、そして私は何者であるのかをアズムール王かクルト王子に見ていただきたかったのです。」

カルトはその思いを打ち明ける、私はまた厄介者の血でしかないのなら悲しいがそれでも自分の存在意義を見出だしたかった。

 

「君は事はおそらくお父上が全てを知っていると思う、私の口からは断定できないので控えさせて貰うが父上にに今から君と会うように工面しよう。」

 

「ありがとうございます!」

カルトは深々と頭を下げて、敬意を表したのだった。

 

「君と私が親族とは・・・、確かに先ほど初めて会った時言いようのない親近感を感じたが・・・。

いやはや、こんな事があるとは・・・。」クルト王子は動揺しているのか、独り言に近いように語り出す。

直系ではない者にここまで聖痕がはっきり浮かんでいる事に人為性を感じているのだろう、カルト以上にその事を父親であるアズムール王に問いたがっているのはクルト王子の方だ。

カルトは一抹の不安を感じながらアズムール王に真実を聞く覚悟を決めるのであった。




次回、カルトの運命。

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