ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻)   作:Edward

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しばらく更新が遅くなりまして申し訳ありません。

バーハラでの一件の後にシレジアに戻り、国王崩御の話を作っていたのですがグランベル編においてシレジアを書くことはおかしいと思いました。
さらにシレジアでの内容が膨大になっていまい、話がダラダラとしている感じが否めませんでしたので本編のシレジアの時には挿入する形に至ってしまいました。

時を数ヶ月移行させ、ヴェルダンの侵攻から始めさせていただきます、申し訳ありませんがお願いいたします。


開戦

イザーク滞在中で日夜の気温が激しくて感覚を忘れていた時期があったが、あの時は冬であったが時は移ろい春を迎えていた。久々に訪れるグランベルはシレジアとは違い、樹々は鮮やかな緑を讃えており陽射しは穏やかであった。

シレジアの春は著しく遅い、雪解けにはまだまだかかるのでカルトの心は少し綻んでいた事を後ろにいるマリアンは悟ったのだった。

 

その時に上空を飛来している一頭のペガサスが降下しカルトの馬に速度を合わせてきた、疾風が一瞬立ち込めマリアンは目を細める。

「カルト!急ぐわよ!ここで出遅れてはシレジアの名折れよ。」

緑髪の女性はカルトにさらに進軍を早めるように急かした、山道に近いこの街道を天馬に任せて話しかけるところに彼女のスキルの高さをうかがわせた。

「戦場に入る前に一度休息を取れせないとこちらにも無駄な被害がでるぜ、後続の徒歩部隊と合流するまで休息してから前線になだれ込みたい。」カルトはそこで彼女の提案を却下する。

「しかし!」

「フュリー、焦るなよ。心配いらないさ、残留部隊とはいえどもシアルフィの次期当主はかなりの御仁だと聞く。物の数だけの蛮族どもに遅れをとることもないだろうしシレジアの部隊が全面に戦えばシアルフィの威信にも傷が付く。

俺たちは無理せずに合流して、足を引っ張らないように戦う事だ。」

「・・・わかったわ、でもシアルフィ軍が劣勢とわかったら私たち天馬部隊は真っ先にいくわよ!」

 

彼女の天馬は一度嘶くと、再び上空の天馬の群れに戻っていった。

真っ白い天馬の群れは美しく、飛び去った後に舞い落ちるその翼の羽根は雪のように舞っていた。

マリアンはその姿を眼で追いかけていた。

「マリアンも乗ってみたかったか?」カルトは語りかける。

彼女は首を横に振って見せたのだった、そしてカルトの腰に回した腕に力を入れて背中に顔を埋める。

 

カルトは苦笑する。

マリアンは一度天馬乗りになってみたいと練習をしたのだが、一向に成果はなかった。

天馬に乗れるのは基本は女性のみである、伝承によれば穢れをしらない処女のみとあるがそのような制限はない。

しかしながら、天馬は幼い時に訓練を始めていれば始めているほど天馬の心を通じやすい。この謂れが捻れて伝わったのではないかと現在では言われているのだ。

マリアンも十分に幼く、資質は持っていると思ったのだが天馬は彼女と意思を通ずることなく断念しざるを得なかった。

 

「私はこの剣でカルト様に役に立ってみせます、馬も天馬も私には必要ありません!」

彼女は意気揚々として腰に吊った剣を叩いた。

「ああ期待してるよ、だが全面には立たないでほしい。今は経験と場数を踏むことだけを意識していてくれ。

君を失うと悲しむ人がいる事を忘れないでくれよ。」

カルトのこの言葉だけでマリアンは満ち足りていく・・・。

 

マリアンはイザークで未来を閉ざされた小さな世界を生きていた、笑顔で取り繕いその場をやり過ごすことだけを考えてきた。

家事を全て押し付けられて苦しかった、食事を作っても自分に行き渡らずひもじかった、そんな小さく暗い世界をこじ開けて助けてくれたのがカルトだ。

マリアンの今の世界は、カルトに与えられた世界。だからこそ彼女はカルトについていき、いつか彼の役に立てるように自身を研磨すると決意したのだ。ヴェルトマーでカルトと別れたわずかな時間で教えてもらった剣の扱い方、そして何より大切な心構え。

ヴェルトマーを離れシレジアに行ってからも鍛錬を続け、彼女はこの度のグランベルとの不可侵条約を反古にして攻め込んだヴェルダンの応戦に志願した。

もちろんカルトは最後まで反対していたのだが、マリアンの強い意志により彼はとうとう折れてしまいそばを離れないという条件付きで参加を許したのだ。

 

 

カルトはバーハラに赴く際にマリアンをヴェルトマーに預けたのだが、戻ってきたときに彼女の心が著しく力強くなっていたことに気づいた。そこからシレジアに戻り数ヶ月でさらに強く成長し、今では剣の鍛錬とともに心身が良い方向に向かっていた。

彼女をイード砂漠の遺跡で救出してから明るくなったのだが、カルトに依存している行動が目立った。

バーハラから戻った時にアゼルから聞いたのだが、残されたマリアンは不安げに部屋から出ず、カルトの名前を呼んで泣きじゃくっていたらしい。

みるにみかねたアゼルは、自身の部下にいた女性の聖騎士にマリアンを託したそうだ。自分ではどうしようもなかったので同じ女性同士、解決策があるとみたのだがそれは物凄い荒療法となってしまった。

彼女はマリアンを鍛錬場で模造剣を用いて実戦さながらの鍛錬を行い出した、マリアンはひどく打ちのめされていたらしいが彼女の一言一言に呼応されるように眼に力が宿りいつしか気合いの声と剣戟が響きだした。

終わった頃には、全身汗と泥と傷だらけになりながらも剣を握ったまま息も絶え絶えに倒れていた。

おそらくその荒療治と女性騎士から何かを掴み取ったようだが、マリアンはその話をしてくれることはなかったのだった。

 

 

グランベルにはシアルフィ軍と合流して救援の書状を送っている、海路でフリージに到着したシレジア軍はフリージ城を駆け抜け森林区域にて徒歩部隊を待ち、その徒歩部隊を第二波として休息と待機を命じて騎馬部隊と天馬部隊が一気に戦場に躍り出た。

フュリーから上空での戦場様相によると少数部隊の個々戦闘が行われている状況で、ユングウィ周辺が激戦区となっているようだ。

そこへまっすぐ向いつつ応戦体制をとることになった。

 

村を襲っているヴェルダン正規兵か単なる賊かわからない連中をフュリー率いる天馬部隊が始末にかかった。

騎馬部隊はそのまま南下し、ユングウィの北に駐留する一個部隊と戦闘となるがヴェルダン兵は背後にユン川の支流に阻まれて撤退はできない、橋を渡ろうとしても一気には渡れないので迎え撃つしかないのだ。粗悪な武器を手にした集団はカルトの部隊へ怒声とともに襲いかからんとした。

シレジアの騎馬部隊はカルトが作り出した少数部隊、グランベルから贈られた良質の騎馬を活かすためにカルト自ら率先して乗馬技術と騎乗訓練を行ってきたのだ。今、その部隊が始めて実戦で効果をあげんと統率された部隊は応戦に入る。

「ウインド!」馬から降りたカルトは魔法をあらん限り、撃ち放つ。騎乗はできるのだが、魔法の行使となると馬上では不可能なカルトは白兵状態になるしかない。馬を従者に任せて、マリアンを自身の護衛に魔力の開放から苦戦を強いられている騎士へ援護攻撃を行う。

 

魔法を使えるものは皆無なようで、魔法の抵抗のないヴェルダン兵はその摩訶不思議な攻撃に為す術はなく倒れていくのであった。

風の魔法は三大魔法の中でも威力は低いと言われているが、速射ができて応用の効く魔法と自負している。火も雷も威力は絶大な攻撃力を誇るが、その分応用することは難しいとカルトは捉えている。

風は突風を起こせば火を助長し、風を妨げて雷を通さない真空を作り出す。真空の刃は無二の刃を発生し、風の冷却作用は氷を精製するのだ。

 

騎馬部隊の陣形を崩さない突撃にヴェルダン軍は為すすべもなく倒れていくが、槍の突撃をよけて懐に潜り込まれた敵兵に斧による重攻撃をうけて負傷したものを少なからず発生していた。

カルトは回復に切り替え、瀕死状態のものから手当てしていく。

 

「マリアン回復中は周りに意識が集中できない、周囲の監視を頼む。」

「は、はい!」 抜剣状態のマリアンは再度周囲の警戒を行う。交戦中において背後からの奇襲が一番警戒するべき状況である。カルトとマリアンは後方にいるのだがいまだに後方からの奇襲がないのは、予定通り天馬部隊と徒歩の魔道士部隊が背後を守っていると思われる。

 

重傷者を瞬く間に安静状態まで回復していく、この度の戦いには参戦はできないが命を失わない限りまた戦場に復帰してくれる事を祈りつつ回復の聖杖を振りかざすのであった。

一通り命に関わる者の手当てを終えたカルトは後方の弓騎士部隊まで進み出た。

 

「状況はどうだ。」

「敵部隊さらに後方よりシアルフィの騎士団と思われる一個部隊が参戦しています。」

「そうか・・・一気に片付けるぞ!合図にてアーチの陣を伝えろ。」

従者が即座に伝令部隊を使って陣の変形を送る、突撃と後退を繰り返す現在の攻撃から後退し迎え撃つ陣形に切り替えた。

普通ではこの陣形は守り一辺倒の援軍を待つための時間稼ぎや相手の攻撃を凌ぐために使用される事が多い、だがカルトの軍ではこの陣形は別の意図がある。

 

カルトは魔力を大きく開放し精神の集中を行う、常人でもみらるくらいの魔力が体を覆い発動の時を待つかのように対流している。

そしてその半不可視の魔力が徐々に金色に変化していきカルトを輝かせた。

右手に持つ魔道書を胸に抱き、左手で降りかざす。

 

「オーラ!!」

カルトの発動の一言で天より光の柱が落ちてくるかのように敵陣に一筋の光が降り注ぐ。

光に飲み込まれたヴェルダン兵は一瞬で倒れ、残った者たちはその惨状に恐慌状態となり陣形が瓦解。逃げ道を求めて散り散りに逃走を始めだした。

 

「す、すごい・・・。」

マリアンはこの光景をみて立ち尽くした、一個部隊が一つの魔法でほぼ鎮圧させてしまう程の能力に驚くだけであった。

 

「威力は大きいから使いどころを間違えると仲間まで被害が出る、陣形がはっきりしている時だけしか使えないけどね。」

さすがのカルトも一気に魔力を消費してしまい若干の疲労が見えるが、まだまだ余裕ぶっている。

マリアンは少しほころんでしまうのであった。

 

 

この度の各戦場にて一番のヴェルダンの一個部隊をカルト率いるシレジア騎士団がほぼ撃破したことにより数の有利はなくなり、各地の部隊は残党の処理となった。そこはシアルフィの救援に来た者たちが撃破していると報告が入ってきたのでカルトの部隊はその場で待機し、ユン川の跳ね橋を上げて警戒しているエバンスからの増援警戒に当たらせた。

その間にヴェルダンに奪われたユングウィの奪還にシアルフィ軍が突撃を敢行しており、シグルドの元へ各国の猛者どもが集結しつつあった。カルトもまたマリアンとフュリーを連れてユングウィの前に向かう。

 

「カルト様、シアルフィ加担には大義名分があると思うのですが随分物々しい感じですね。攻略前だからでしょうか?」

連合軍は各国の混成部隊となり、意思統率は取れているが物々しい雰囲気を醸し出していた。伝令のみが交錯し、部隊間には一切の干渉を持たず淡々と事を運んでいるようにマリアンにも感じた。

 

「いや、この部隊には各国の思惑と奸計ががあるからだ。同盟とは言っても政治部分での優劣や他国との複雑な関わりがこの部隊を支えているんだ。一つ何かが違えた時には隣の同盟が敵対するからな。お互い余計な火力を見せたくないのさ。」

マリアンはその異様さをまじまじと見据えながらカルトに向き直る。

「カルト様も、ですか?」彼女の真っ直ぐな眼差しをカルトは受け止める、彼女には説明してもなおこの状況に理解ができないのであった。

 

「そうだな、本心といえば自国の為でもない事にここまで真摯になる必要はないかもしれないな。」

「そうですか・・・。」マリアンが少し俯いて応える、カルトはすっと笑って彼女の頭を撫でた。

 

「そんな賢い生き方を俺は知らないしこれからもする必要はない、俺が俺でないやり方をしてしまってはマリアンに今まで言ったことが嘘になるだろう?だから、マリアン。俺がおかしいと思った時は君が俺を止めてくれよ。」

「!・・・。はい、私が止めてみせます。だからカルト様は立ち止まらないでくださいね。」

カルトは混成部隊の奇異な視線の中を突っ切っていくのであった。

 

 

ユングウィ城内戦と化した戦いにおいてヴェルダン兵は孤立している状態の為、戦意は低く次々と投降を呼びかけており制圧をほぼ終えていた。

前線までカルトは突き進むと一人の騎士が重傷を負っていて騒然としていた、一人回復に憶えのあるものが必死の手当てを行っているが、ライブ程度では間に合う状態ではないカルトは走り寄った。

「手を貸そう、それでは間に合わない。」言うなりカルトは聖杖を取り出して、魔力を解放させる。

「え、それはリライブ?」回復をしている騎士よりもさらに明るい光が重傷者の傷をみるみると塞いでゆく。

絶望が漂う中、突然の来訪者の強力な回復に歓声が上がる。

「これでよし、大量の血液が失われているからしばらくは動けなだろうが危機は脱した。」血色の失った顔をしておるが、規則正しく上下する胸部に安堵する。

 

「あ、あなたは?」回復を行ってた騎士はよくみれば女性である、それも身分のあるものとすぐに伺えた。

「俺はシレジアのカルト、グランベルとの同盟により救援にまいりました。」

「あなたは高度な魔道士なんですね、この部隊には回復魔法が使える者がおらず助かります。

私はエスリンと申します、兄に変わってお礼申します。」

「兄?ということはシグルド公子の妹君ですか?」

「はい、今はレンスターに嫁いだ身でありますがこの度キュアンと共に救援に来ております。」

レンスターとグランベルとは同盟関係ではないのだが、シアルフィとの政略結婚によるものだろうか?

いや、たしかシグルド公子とキュアン王子は懇意の関係もある。その線が有力だろう・・・。カルトは思考を拡大して結論に至る。

 

「私たちシレジアとほぼ同じでありますね、早速ですがシグルド公子にお会いし是非共闘の意をお伝えしたいのだが。」

「わかりました、あなたのような御仁がいてくだされば兄もきっと心強く思うでしょう。こちらへ・・・。」

 

 

ユングウィの内部は短期間とはいえヴェルダン軍に制圧され、ひどいものとなっていた。

戦利品とも言える金品はすでにヴェルダン兵に持って行かれており、男は抵抗した挙句に斬り殺され女は嬲りものになった挙句に殺された者や、ヴェルダンに連れ帰られたものもいた。

残された家族のすすり泣く声が無情にもあちこちから響いてくる。マリアンはカルトのマントの裾を握り、怯えている。

 

「これが戦争だ。負けた国は人の命も、尊厳も、権利も奪われる。一番に犠牲になるのは何も力のない市民達だ。

だからこそ、地位のあるものは率先して市民を守る義務があると俺は考えている。」

「カルト様・・・。」

「マリアン、君にはもう二度と辛い思いをしないようなシレジアをレヴィンと共に作る。

だから、戦争が終わったらシレジアで暮らしてくれ。」

「はい、その時をお待ちしております。」彼女は一筋の涙を流して答えるのだった。

 




数ヶ月、シレジアでの内戦により、さらにLVアップしています。
今回もあえてファイヤーエムブレム風にステータスを作るなら。

カルト LV17
マージファイター(に近い)

HP 35
MP 44 ※ゲームには存在しないです、あくまで私の主観。
力 9
魔力 17
技 12
速 16
運 10
防御 8
魔防 13

剣 C
光 ☆
火 B
雷 B
風 A

スキル

追撃 連続 見切

さらに魔力と速さが上がりました。

魔法名 MP消費量
ウインド 3
エルウインド 5
ライトニング 4
オーラ 9

ライブ 3
リライブ 5
ワープ ※ 人数と距離による。
マジックシールド 8 杖を失った為、現在使用不能

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