ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻)   作:Edward

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シレジア脱出編を書かさせていただきました。
大きな進展はありません、ゆっくりと暖かい眼で見守って下さい・・・。


脱出

俺がシレジアを旅立って一週間、シレジア領のザクソンの監視の眼が光る中で夜間移動に徹する。なんとか抜け出る事に成功するのだがまだまだ油断はできない、次のリューベック領を越えなければシレジア領を抜けた事にはならない。シレジア国の国境線があるのでさらに警備が厳重になる。

 

極寒のシレジアの森林地帯を夜間のうちに移動し、昼間は身を潜める隠遁生活を行っていた。今の時期のシレジアは昼夜を問わず灰色の雲で覆われており、風雪が絶え間なく襲うので視界はかなり悪い。

しばらくは見つかる事はないが国境近くは警備が厳重でそうは行かない。身を隠す森も少なく、監視用の矢倉や砦が点在する。どのタイミングで一気に国境を抜け出すかが勝負であった。

 

 

リューベック周辺にてシレジア脱出は相当な神経を使う事になる、最終的には強行突破も考えなければならない。シレジア兵と言ってもリューベック兵の所属は叔父貴の私兵だ、俺の謀略とわかれば親父と戦争になって共倒れもいいかもしれない。・・・そんな都合のいい結果には結びつかないだろう、親父の子供であるが身柄はシレジアである。そこを突かれるとシレジアにとっていい方向ではない。

 

リューベック城手前の森林地帯で夜を待っていた、今夜は新月なので一段と暗闇が濃く脱出には最適である。

後は現在止んでいる吹雪が再び吹き荒れてくれれば、行動できると踏んでいた。

この一週間、火は煙を出さないアルコールランプの熱で暖をとり、少ない簡易食糧で生命をつないでいた。いくら寒さに慣れているシレジアの民でも限界を迎えつつある、これ以上この寒さに晒されていれば凍傷が酷くなり切断にもなりかねない。暖を取るアルコールも残り少ない、今夜のうちに脱出しなければ・・・。

 

待てども暮らせど念願の吹雪はやってこない、そろそろ進まねば深夜に国境突破できないと判断した俺は意を決して進む事とする。

途中で襲われた雪熊の真っ白い毛皮を羽織り歩み始めた、見つからないでくれよ、と俺は小さく呟く。

できればリューベック城の手前にある村で少し休息を取りたいが、リューベック兵が待機している可能性もある。村を横目に見ながら森林際を伝うように歩き、異常が感じられればすぐに森林に飛び込む用意をする。

まっすぐに歩けば深夜にはリューベックを抜けられる距離まできている、しかし迂回をすればおそらく夜明け直前になるだろう、焦りを伴いながら足を運ばせた。

 

 

俺は魔道士だが、剣術を身につけたいと思っていた。

しかしシレジア軍に入隊しても魔道士か天馬騎士しか選択肢はない。

天馬騎士団は女性しか入隊出来ない上に、幼い頃から厳しい訓練を受けなければ天馬に乗る事が出来ない。

魔道士になるにも、生まれ持っての才能がなければ習得する事が出来ない。

魔法戦士と言われる存在も少なからずいるのだがとても剣士とまでは言えず、魔法の補助程度の物である。シレジアでは剣を指南してくれる人がいないので他国で修得しようと考えたのだ。

 

シレジアに剣士や騎士がいないのはこの厳しい気候に加えて山林が多い地形の為、それらがシレジアを襲ったとしても遠距離攻撃の魔道士と上空から襲うことのできる天馬騎士に苦戦を強いられてしまうからである。

 

そもそも剣を修得する理由だが、今後他国に訪れる上で剣術を見につけるのは必須項目と考えているからだ。

魔法も万能なものではない、奇襲を受けた時は動揺から集中力を欠いてしまったり、使い過ぎて精神力の低下により発動しなかったりと不安定要素が高いのだ。

安定した力を要求するならやはり己の肉体を武器に闘うのが一番だ・・・。精神的な動揺や疲労から万全ではない状態はあるが、魔法のように発動しない事はない。何より、魔法みたいな地味な攻撃より剣でなぎ倒していくほうがかっこいい!!と思っている。

レヴィンにこれを言ったら彼はあきれてしまい、

「本物の馬鹿だな・・・。」と言われてしまった。

 

くそ!見ていろ、俺は絶対に会得してやる!!

 

奴は将来のシレジア王になる男だから俺のような気苦労を理解してくれないかもしれないが、全てはお前の為だ!俺はお前が王になる為ならなんだってやってやる!

 

焦りを決意に変えていた時にわずかだが風が頬を撫でた、自然の風ではない・・・。風には獣の臭いが含まれている!

迂闊だったここはシレジアである、シレジア王以外にも親父と叔父貴が天馬騎士団も有している、上空の警戒に散漫になっていた。やはり上空には一体の天馬が上空を旋回しておりこちらを見据えている・・・。

俺はまだ未達の鉄の剣と魔法の準備に入る為、意識を集中させていく。単騎とはいえ天馬を悠然と操っている飛空能力からしてかなりの腕前である、上空の風は強いにも関わらず天馬はその場を停滞飛空をしており従者も緻密な制御を行っている。

迂闊に手を出せば、逆に殺されてしまうだろう・・・。

シレジアの魔道士が天馬騎士にサシで勝負をするなど愚の骨頂である、天馬は魔法の抵抗力が強くて従者を守っている・・・。

よほど強力な魔法を行使しないと勝ち目はない、奥の手はあるにはあるが運よくこの場を退けたとしても体力も精神力も低下した状態で脱走者の存在が知れれる事になる。次に見つかればその場で処刑される可能性もあるし、国境警備も厳しくなる・・・。

ここは様子を見よう、俺は剣をしまい両手を挙げて降参の仕草をとる。

卑怯だがこの降伏を前面的に信用して無警戒に降りてきたら万々歳だ、剣を突きつけて脅してイード砂漠まで乗せてもらおう・・・。

俺はありえない計画を思いつくが、無駄な足掻きを考えてしまった・・・。馬鹿だな、俺・・・。

 

旋回していた天馬騎士はゆっくりと俺の前に降り立った、細身の槍を携えているがまるっきりの少女である。天馬を操る能力はあるが降り立ってしまえばこちらのもの、懐の短剣を確認しながら素振りに気付かれないようにその場で畏まった。

顔を雪原に伏せているようにしているものの、相手の動向の監視は怠っていない・・・視線に気付かれないように伺っていた。

しかしその天馬騎士はなんと天馬にその細身の槍を収納部に差し入れてこちらに来るではないか!俺はあっけにとらわれてしまうがここはチャンスだ!

もう少し近づけば馬鹿な思いつきが行動できる、ほくそ笑みを抑えつつ体勢を維持する。彼女は私の行動距離まで歩み寄り、言葉を発しようとした瞬間を狙った!

「!!」

彼女に動揺の顔がうかがえた、視線の端でしか捕らえていないが今は生き残る為に最善を手段をとる。

あらかじめウインドを使用して畏まっていた自分の地面の雪を固めていた、足場が出来上がれば一気に彼女との距離を詰めて手を取り背後に回り懐の短剣を首筋に当てた。俺って、魔道士より暗殺者に向いているかも・・・・。

「俺の言う事を聞いてくれれば危害は与えない、イード砂漠まで俺を乗せてくれ・・・。」出来るだけ低音の声で彼女に囁い。

「・・・・・・、レヴィン様にそのように仰せつかっていましたのでそのつもりでしたよ。」返ってきたその回答はなぜか一面の雪原が春の草原のような、のどかで牧歌的な口調であった。

俺は短剣をしまうと彼女の正面に回る、そこにはマーニャの妹で同様に天馬騎士のフュリーであった。

「おっ、お前!まさか俺を探して?」

「カルト様をお探しするのは苦労しましたんですよ、でも見つけたと思いましたら突然襲ってきますし・・・。何をなさるのですか?」

マーニャの俺に対する警戒に対してフュリーの天然には姉妹そろって苦手である・・・、調子が狂って頭までいたくなってきたぞ。

「ああ、そういうことか・・・。マーニャーに言われて俺を国外まで手引きしてくれる予定の人物ががフュリーだったんだな」

「そうです、もう少し付け足しますとレヴィン様は即日に行動起こすかもしれないから監視するように言われたんですが部屋に赴いたときにはとっくにいなくなっていて驚きました。」

レヴィンの奴、俺の行動を見抜いてやがるな。舌打ちをして奴の頭脳の良さに辟易した、将来のシレジアには結構なんだがな・・・。

「立ち寄りそうな村を寄ってみたんですが、カルト様のような人物は見ていないというものですからこの一週間地道に探したんですよ。」

「な、なに・・・。俺の素性を言って回ったのか!やばいじゃねえか、さっさと俺を送りやがれ!!」

何、陽気に事の事情を伝えてやがる!これじゃあどんなに俺が頑張っても国境近くは厳戒態勢じゃねえか!!もう手段は考えられるものは無かった、フュリーの天馬で一刻も早く天空からの脱出しか手は残されていなかった。

「え?・・・なに、なにかいけないことしましたか?」天然娘の疑問は後回しに俺は天馬に飛び乗ってフュリーに騎乗を急がせた、陽が昇れば俺の脱走計画手段が全て使えなくなる・・・。

レヴィンの奴、頭脳は最高だが意地の悪さは筋金入りだな、これも見越してこんな天然フュリーをを俺にあてがったんだな!あんにゃろう、いつか絶対に俺の存在をありがたく感じて涙するくらいにまでなってやる!!

フュリーはレヴィンの思惑も、俺の怒りも、全く気にする様子も素振りも無くいつもの調子で天馬を南の方向へ飛ばすのであった。




フュリーいいですよね。
本編ではお間抜けキャラのイメージが強いのですが皆様はいかがですか?シャガールの言葉を鵜呑みにしたりシルヴィアとの舌戦は戦場最中とはいえないほのぼのさを感じていました。
次回はイード砂漠~イザークの模様を独自視点から書いて見たいと思います。

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