ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻) 作:Edward
申し訳ありませんが、伏線要因となっていますのでご容赦ください。
※期末の追い込みで次回更新は四月以降、異動があればもっと遅れてしまうかもしれません。
エバンスから一台の馬車が南下していた。
天蓋付きの馬車の為、内部をうかがうことはできないが馬を御している二人の男性をフュリーは確認する。
一時先頭を離れたフュリーの一個団体はユン川から南に下り、おそらく標的と思わわれる物を発見し、悟られないように上空で旋回を行っていた。
「カルトの言うとおりね。」
フュリーは彼の頭の早さに常に驚かせられるが、今回が一番冴え渡っているように思われた。
それはユングヴィでのことだった・・・。
「フュリー、君の天馬部隊が今回の騒乱を一気に終わらせる存在になる。危険を伴うがやって欲しい事がある。」
それはシグルド公子に対面する直前にかけられた言葉であった。
「私はあなたの部下として同行してるのよ、何でも言って。」
「ユングヴィで先ほどの青年を治療した時に思ったのだが、彼の傷はまだ受けてからそう時間は経っていなかった。市民の話によると内部まで制圧されていたのは2時間も経っていないと聞く、それならば捉えられた市民の中にエーディン公女もいるのではないか?
この街に押し入った首謀者は人相からガンドロフ王子と推測できるのだが、彼はマーファ城を根城にしている。エバンスには一時は待機しているだろうが時期を見てマーファまで連れ帰ると推測する。」
「それが、どうしたというの?だから早くエバンスに向かわないと。」
フュリーは少し苛立ちを見せる、このような説明では子供に説明しておるような物だと錯覚したのだ。
カルトは一層低い声で周囲を警戒しながらフュリーに説明を続けた。
「闇雲に進軍するだけでは色々と厄介な事もあるのさ、こと国家間となると思惑や利害が出てくる。
マーファにまでエーディン公女をガンドロフが連れ帰り、シグルドがマーファまで進軍するとヴェルダンの半分以上を侵略することになっちまう。そうなればもう一つの隣国のアグストリアにも余計な刺激を与えかねないし、グランベル内にシアルフィの領地拡大の思惑があるなどと吹聴を受ける可能性もある。
エバンスからマーファには向かうガンドロフ王子を止める事ができればエバンスまでの進軍でシグルドはシアルフィに戻り、政務は国家間の条約に則って処理できるだろう。」
「でも!悪いことをしているのはヴェルダンよ。どうしてそこまで細かいことにこだわる必要があるの、ヴェルダンに断固とした制裁を与えないとヴェルダンは味を占めてまた同じ事を繰り返すわよ。
カルトはユングヴィの人たちがかわいそうと思わないの?」
フュリーは周囲から聞こえる啜り泣く人達に感化しているのだろう、涙すら見せている。同じ女性としても感化されることは難しくない。
「気持ちはわかる。しかしだ、ヴェルダンも国王やそれに準ずる立場の人間がユングヴィを襲っただけで市民は無関係だ。それを一括りにして制裁を加えればヴェルダンの市民がユングヴィと同じように悲しむ人が増える。憎しみと悲しみを無用に増やさずに済ましたほうが本当の勝利者と俺は思う。」
カルトはフュリーの肩を叩いて自身の主張を言述べる。
カルトの説得はヒュリー心にと響いた、シレジアに戻る前のカルトが話せばフュリーはおそらく浸透しなかったのであろう。しかし、シレジアに戻ってきたカルトは自身の親ですら市民の為に犠牲にしようとさえ行動したのだ。
表面上はカルトの父親は何とも思っていない、レヴィンの邪魔するなら快く抹殺するとさえ言っていた。
この言葉通りの状態になったカルトは父親の喉元まで剣を迫らせていたのだ。レヴィン王が止めなければ、殺していただろう・・・。
カルトは顔面蒼白、全身を震えさせていた。眼からは止めどなく涙が頬を伝い、言葉にならない唇が無音の声を発していた。幼少時代にあったトラウマをもっていてもなお、彼の脳裏には父に生きて欲しいと言う願いがどこかにあったのだ。
市民の為に自身の父親すら手にかける意気込みがあるカルトがいうと説得力があった。
自身の国もどうようの事があっても彼は苦しみながらこの決断を選択し、市民に虐げられても、殺されても彼は曲げないのだとフュリーは感じていたので彼の言う言葉の重みを真摯に受け止めたのだった。
そのカルトに託された指令、必ず達成してみせる。
フュリーはその決意を持ち、眼下にいる悪漢に鉄槌を振り下ろすがごとく睨みつけるのであった。
「ガンドロフの兄貴、俺もう我慢できねえ。キンボイスの兄貴のところによってしけこみましょうぜ!」
品のない、言葉で兄貴と呼ばれた男はこれも卑下た笑みを隠すことなく部下に見せていた。
「もう少し我慢できねえのか、マーファにはキンボイスの城にはないような設備が整ってんだぜ!
そこで楽しんだ方が百倍はいい思いができるだろう。」
「でもよう、味見くらいしても・・・。」
部下の男が物欲しそうに馬車の幌の中にいる、うなだれた女どもを見る。目線が合う度に怯えて啜り泣く度に部下の男は一層卑下て見せた。
「もう少しだ!マーファまで帰り着けば、たっぷり遊ばせてやるよ!
それにあの、エーディンって女はサンディマに渡せば次はアグストリアのゴタゴタにも便乗させてくれるそうだぜ。」
「兄貴、本当ですか!俺は金髪美女が多いあの国の女を一度でもいいからコマしてみたいと思ってたんすよ。」
「だったら、早く仕事を終えようぜ!ほら、急げ!」部下に、馬を鞭打たせ速度を早めさせようとした時だった。
ガンドロフはこの山道における奇襲には場慣れしており、柄の悪い荒くれ者が多いこの国では王族の者は特に奇襲される。兄弟は現在は三人しかいないが、本当は妾を合わせて二桁もの兄弟がいた。
弱い王族は奇襲や、罠にあい次々と命を落としてしまうこの国で生き残るには天性の勘と戦闘経験が必要であった。
その勘が突然、自身のに危険が迫っている!と感じ取り、一瞬で部下を馬車から突き落として自身も跳躍で飛び降りたのだ。
馬車の馬は天空から降り注いだ槍に貫かれ、自身が座っていた部分にも数本の槍が突き刺さり地面にまで貫かれていた。
ガンドロフの勘は一瞬の影に反応していた。
フュリーももちろん光と影による察知は充分に警戒しており、太陽の位置と高さでそれを察知されないように行動していた。そして太陽が雲により陰った一瞬で頭上に回り込み一団の投擲を行ったにもかかわらず、ガンドロフは影の中にあるさらに暗い影に反応して回避に成功したのだった。
ヴェルダン深い森の中の移動では昼にも関わらず夜の如く暗い場所があり、その移動の経験がここで活きたのである。
フュリーは奇襲に失敗し、彼らの行く手を阻むように降り立った。馬車の中からは歓声と助けの声を混じらせて、フュリーたちの善戦を希望した。
「このまま投降して人質を解放するなら命まで取る気は無いわ、ヴェルダン国のガンドロフ王子。」
槍から剣に持ち替えたフュリーは警戒を解くことなく、ガンドロフに挑発に近い口調で投げかける。
ガンドロフは奇襲による危難を振り払い、怒気に近い感情を表に出していたが今は平静を保とうとしている。
自身の戦力はたった2名に対して、天馬の数は15にも及ぶのである。さすがのガンドロフもこの状況で下手な動きは致命的であることを察知している、野生の勘が彼の行動を抑制していたのだ。
「こりゃ、参ったな。まさかエバンスで交戦中にこのルートに目をつけた奴がいるなんてな。
グランベルにも、お坊ちゃんやお嬢ちゃんではない泥臭い奴がいたもんだ。」
ガンドロフは右手に持つ、自慢の斧を地面に放り投げて手を挙げた。部下もそれに従い抵抗をしない真似をする。
「私は、あなたと話をしたくもない。抵抗する気がないのなら縛につきなさい。」
「へいへい、よーござんすよ!っと」
天馬の騎士団のメンバーが天馬のから降り、ガンドロフの腕に縄を巻く瞬間を狙っていた。
彼の強靭な跳躍は街道脇の木に飛び立ったのだった。
部下と、自身が抵抗しないことを見せて天馬から降りて制空権を減少させてからの跳躍に天馬騎士団も反応できないでいた。部下を見殺しにガンドロフは脇目も触れず森林にその身を隠していく。
「あばよー!」
「待ちなさい!」フュリーは天馬に戻り、天馬に合図を送るが反応しない。
天馬にはガンドロフよりも警戒するべき者を認知し、フュリーに警戒を呼びかけていたのだ。
他の天馬にもフュリーの天馬の警戒がつたわり、一瞬にて一団は固まりその異様な天馬達の警戒に神経を傾けたのであった。
ユン川の攻防に決着がついたシアルフィの混成部隊は立てこもるエバンスの攻略に急いでいた。
ユングヴィではシレジアは全面に立ち過ぎたこともあり、城内戦闘には参加せず周囲の警戒に務めていた。
「フュリー達は上手くやってくれているだろうか。」
負傷兵の回復をシレジアの魔道部隊が受け持ち、慌ただしく出入りする野戦病院でカルトは不意に心配する。
あのマイペースなフュリーがカルトとの旅からシレジアの内戦の戦闘経験で一気に逞しく成長している。
引き際も要領を得ていると感じての任命だったのだが・・・、カルトは一抹の不安をつい口にしてしまった。
「大丈夫ですよ、フュリーさんはきっと帰ってきます。」
マリアンは優しい笑みを見せてカルトを和ませる、カルトはその黒髪をそっと撫でて笑顔で返すのだった。
「カルト様」
「クブリか、どうした?」
クブリは魔道士隊の指揮をとる、フュリーと並ぶ存在で常に深いフードを被り顔が見えない。
かつては父マイオスの部下として魔道士隊を指揮していたが軍縮したマイオスから引き離され、カルトの部隊に編入したのだった。
風魔法と聖杖の扱いはシレジア屈指の者で、フードの中を見た者は驚くらいのあどけない少年なのだ。
「はい、紛争中でしたので報告が遅れたのですがフリージの縦断中にカルト様に会見を求める者がいましたものでここまでお連れしております。丁重に同行のお断りをしたのですが、地位のあるものでしたので我らの権利では拒否できず。お連れ申しました。」
「なに?いいだろう、ここにお連れしてくれ。」
クブリは部下のものと一緒にその人物はやってきた、部下が杖と魔道書を持ち無抵抗をしめしている。
栗色の髪に、雷の文様の魔道書にカルトは場所を忘れてしまう。
「エスニャ!どうしてここに?」
「カルト様に、どうしてもお会いしたくてまいりました。」
カルトは部下から彼女に杖と魔道書を返還するために受け取った、もちもん彼女に敵意はないのは明白である。
「すまないこのような無作法を、さあ・・・!」
エスニャに杖と魔道書を渡そうとした時に彼女はカルトに抱きつき、親愛の証を示したのだった。
カルトの思考も、クブリの「ほお!」という言葉に飲み込めれて停止するのであった。
「すみません、感極まってしまいまして。」
「あ、ああ・・・いい・・・ってことですよ。あはは」乾いた笑いでその場を取り繕うので精一杯であったカルトは、必死に話をきりかえる。
「しかし、まさかエスニャがフリージを飛び出してきたとは驚いたよ。」
そう、彼女はシレジアがフリージを縦断中に瞬間的に思い立って魔道士部隊に追いついて無抵抗になってまでここまで追いついてきたのである。
以前見たおどついた雰囲気のある彼女とは思えない行動にカルトは意表をつかれてしまった。
「カルト様、私をこのまま魔道士部隊に入れてください。」
「な、なんだって・・・しかし、君はフリージ家の・・・。」
「お父様にはもちろん、お兄様にもお姉さまにもお伝えしてません。」
エスニャの顔が曇り、俯いてゆく。彼女の動向にゆっくり聞くため、同じ目線になりその先をまった。
「グランベルにヴェルダンが侵入したにも関わらず、お父様もお兄様も関心を示さないのです。
シレジアやレンスターまでグランベルに、いいえシグルド様の助力に駆けつけたのに政治的な牽制の為に沈黙を続けるお父様に反感を感じました。
お姉様も色々思う事があったようですが、今はエッダのクロード様にご執着のようでフリージにとどまると言われておりました。」
「お年頃とはいえ、お前の姉さんはなんというか・・・天然だな。」
「・・・・・・、お姉様は周りが見えなくなる人なもので・・・。でもいつかお姉様もフリージを出る事になりますでしょう。」
「そ、そうか。事情は理解した。しかし、シレジア軍に入るには少し強引すぎるところがある。
シグルドの所に行って、エスニャも助力する事にすればいい。」
「あ、ありがとうございます。」
「君がいれば、頼もしい事この上ないよ。私の風、アゼルの火、そしてエスニャの雷。三大魔法の終結だな。」
「はいっ!」彼女の笑顔が戦場に咲いた瞬間であった。
「シグルド公子、久しぶりだな。」
「アルヴィス卿、どうして卿が・・・。」
「陛下が心配されていてな、私に見てくるように命じられたのだ。
戦況はどうだ?」
「はい、なんとかエバンスまで戦線を押し戻せました。
敵国に入っての攻略には不本意ではありますが、ユングヴィのエーディン公女の早期救出により突入いたしております。」
「うむ、それを聞いて安心した。エーディン公女の無事救出を陛下も私も願っている。
ところでアゼルが君の軍に加わっていると聞いたのだが。」
「はい、黙ってきたようでした。戦力に厳しい我が軍には心強くあります、できればこの戦いの間だけでもご助力いただきたいと思うのですが。」
「そうか、無事ならいいんだ。アゼルは私にとって残されたたった一人の弟、できればヴェルトマーにいて欲しかったがやむを得まい。アゼルをよろしく頼む。これは陛下から君に渡して欲しいと頼まれた物だ、受け取ってくれ。」
「陛下が私に、なんと名誉な事だ。陛下にシグルドが感謝していたとお伝えしてください。」
「承知した。
では私は陛下をお守りせねばならない、王都へ戻らせてもらう。シグルドよ、武運を祈る。」
エスニャ
LV3
マージ
雷 B
炎 C
風 C
力 1
魔力 9
技 10
速 6
運 7
防御 2
魔防 6
スキル
必殺
魔法
サンダー 3
エルサンダー 5
※この世界では複数の魔法を扱える人間は稀と説明しておりますが、実際にいうと戦闘に使えるレベルを指しています。カルトもエスニャも火起こしレベルくらいなら火も扱えます。