ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻)   作:Edward

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時間がない、ですが頑張りました。
誤字チェックに時間をかけられませんでしたので間違っていたらごめんなさい。

※ここでグランベル編は終わりとなります。


死生

ガツン!!

フュリーを押さえつけていた圧力と重みがなくなり、身体が自由になる。

ゆっくり瞼をあげると、部下の男は天馬の体当たりによって吹き飛ばされフュリーの前に立ちふさがったのだ。

 

ガンドロフにより臀部に深い傷を負い、その斧を抜かれたことにより夥しい量の失血があるにも関わらずに主人を守ろうと奮闘していた。

「このやろう!やりやがったな!!」再び逆上した悪漢は斧を持ち天馬に襲いかかる。

 

「や、やめて!この子に手を出さないで!!シュリー、逃げて!!」

逃走するように指示するが、天馬のシュリーは逃げることをしなかった。

 

もう飛ぶことのできない天馬は大地を駆けて体当たりを繰り出すが普通の馬よりも駆け足の遅い天馬の体当たりなど当たることはなかった。シュリーはそれでも何度も切り返して当たらない玉砕を続ける。

 

「シュリー・・・、もうやめて・・・。」

フュリーは消え入るようにつぶやく、切り返すたびに滴る血液であたりは赤く染まっていく。

それでも必死にフュリーを守ろうと奮闘するシュリー。

 

必死に立ち上がってシュリーを助けようとするが、悪漢との攻防で精根が果てているフュリーにうまく力が入らないでいた。

 

「このやろう!」悪漢は斧を振り上げて体当たりを繰り返すシュリーに応戦する。

フュリーはぞくりと悪寒が走る、次の一撃をシュリーが受ければ間違いなく絶命してしまう。

シュリーは切り返す度に体当たりの速度が落ちてきているのだ、自分が何とかしないといけないのに・・・。

どうしてここで動けない、自身の身体を呪った。

 

「やめて〜!!」

フュリーの悲鳴は二人に向けられた、悪漢を止めるため、そしてシュリーを止めるために叫ばれた物であったが中身はまるで違う想いであった。

 

しかし無情にもその想いは届く事は無く、シュリー体当たりを繰り出して悪漢は斧を振りかざした。

 

シュリーは首筋に斧の一撃を受けて大量の血液が飛び出す。動脈を切断されながらも、シュリーは最期の力で悪漢の首に噛みついて同様に動脈を切断する。

その刹那に二人は血飛沫の中、無音でその場に崩れていった。

 

ブチン!フュリーの中で何かが切れる音がした。

形容のし難い感情の濁流が飲み込まれていくが感覚を無くし時間が止まる、思考は停止しているがその場の光景だけは鮮明に記憶され、次第に目の前が暗転していった。

 

 

 

「フュリー!しっかりしろ!!まだだ、君には成す事がある!」

倒れて行きかけた体を受け止めていたカルトは檄を飛ばして暗転する世界から引き戻す。

 

彼は帰還してくる天馬の群れにフュリーがいない事を即座に確認し、帰還ルートを地上から追跡してきたのだ。応援を呼ぶ時間が惜しく、砕けた杖の魔力探知をかけながらの到着であった。

 

 

カルトは同時に回復魔法を施してくれていたようで、痛んでいた四肢も疲弊した筋肉も落ち着きを取り戻していた。

しかし、疲労から回復した魔法は精神を癒したわけではない。突然その喪失感と、無力感が自身に襲いかかった。

涙が溢れかえるフュリーに再びカルトの檄が走った。

「まだだ!フュリー、君にはまだこの子に出来ることがある。

祈りを捧げているんだ!」

カルトはシュリーの元に先ほどガンドロフが砕いたフュリーの細身の剣の柄を持って歩んでいく。

「カ、カルト・・・。何を・・・。」

 

「残念だが、死者を生き返らせることなど出来ない、だが魂の想いが強く残っているこの子の願いを遂げさせてやる事はできるかもしれない。だからフュリー、祈っていてくれ。」

カルトは右手を水平にかざすと、光の魔法陣が出来上がりシュリーの遺体が呼応するように光り出す。

カルトが何をしようか理解できないが、カルトにならシュリーの何らかの助けをすることができる。

フュリーは両手を握りしめ祈りを捧げた。

 

 

カルトはさらに魔力を放出し輝く魔法陣をシェリーの遺体に移動させると暖かなその光はシェリーの体を光の粒子に変えていき、溶けるように遺体が消えていく。

そして完全に遺体は消え失せると虹のような粒子がカルトの持つ細身の剣に纏っていった。

 

「体を失いし者よ、恭順せし者に還る為に新しい命を生成せよ!」カルトの祈りとも言える言葉の後、剣の柄を一振りすると、一気に形付いた。光は霧散し、柄だけであった剣に刀身が宿ったのである。

カルトは一息つくとフュリーに歩み寄り、その剣を祈っていた手に添えたのであった。

 

「フュリーともっと共にしたい、君を護りたいあの子の心が自身の体を剣に変えて宿ったんだ。

この細身の剣も長年フュリーと共にあった剣、二つの心と体が今君の手に形を変えて帰ってきたんだ。」

 

「カルト・・・、ありがとう・・・。でも、今は泣かせて欲しい。」

彼女の嗚咽が森林に悲しく響き渡る。深き森はこれから彼女をどの様に慰めていくのであろうか、それともさらに過酷な運命があるのか。カルトにも予想がつかないのであった。

 

 

 

 

カルトとフュリーは一先ずエバンスに向けて帰還の徒についていた、カルトの頬には立派な紅葉が付いており、いまだに痛みが引かず熱を帯びた頬をカルトは撫でながら涙していた。

そう、カルトは上半身の裸体のフュリーをほとんど無視し、大魔法を使いしばらく会話していたのであった。

我に帰ったフュリーから早速のお礼、いやお釣とでも言うのか左頬を強かに打たれた。

 

「乙女の双丘を見た罰よ。」今はカルトのマントを上半身巻き、切られた胸当ての革を布で補強しての出で立ちである。

「へいへい、でも言い訳ではないぞ。あのエンチャント魔法の奥義は死んで間もない状態でしか使えない大魔法なんだ。それに、フュリーの乳に欲情していたら集中力が持続・・・」

再び、カルトの反対の頬に紅葉が打ち付けられた。

「そんな言い方をしないで、あなたはシレジアの王族なんだから。」

「はい・・・、反省します。」

カルトはとぼとぼと歩き出す、がフュリーはその頬に口づけをする。

「あちっ!」

唇の感触よりも頬の傷みにカルトは飛び上がる。フュリーは少しはにかんで笑いかけた。

「カルト本当にありがとう。

でも残念だったわね、唇の感触がなくて。」

 

「フュリー、お前・・・。」

喪失感から、彼女は自暴自棄になってこんな事をしたのかと一瞬思ったのだが彼女の瞳にはさらに力強い光が宿っていた。

 

「安心して、カルト。私は負けない、この剣に誓います!

だからカルト・・・お願いがあるの。聞いてもらえる?」

「ああ、どういう内容だ?」

彼女の口から出た内容にカルトは驚愕を隠せない物であり二人はしばらく問答の末、彼女の考えに賛同してしまうカルトであった。

 

 

 

エバンス攻略!

押し寄せた大量のヴェルダン兵をごく少数で撃破、ヴェルダン王国の一部まで制圧した報告はグランベル内外に及んだ。グランベルでは大きな歓声と喝采が響き渡り、隣国であり大国のアグストリアでは震撼に見舞われてとうとう二国間では済まされないような激動の前触れをカルトは感じていた。

 

まずはエーディン公女の救出失敗、これによりシアルフィはエーディン公女を救出する為のさらなる戦争を仕掛ける大義を持てた事を意味する。

前回のヴェルダン侵入ではユングヴィの金品を略奪などで痛手を負ったが、今度からはグランベルによる制裁と救出という名の侵略が可能になりシグルドはヴェルダン王国から恨みを一身に受ける事になる。

 

そしてその後はグランベルの役人共が押し寄せてきて、属国扱いとなっていくのであろう。アズムール王が如何に博識高く、良識を持っていても足下の事情にまで精通は出来ない。

この百年大国として安泰し続けてきた国家体制はとうに腐敗し、破綻している。属国となったその末路は想像に容易く、吐き気を覚えるのであった。

 

 

エバンスはヴェルダンに位置しながらグランベル領とアグストリア領に隣接し、有事の際に起こる小競り合いには常に名前が挙がる土地である。その為民は圧倒的に少なく軍事拠点としての意味でしかない場所となっており、街というより砦の印象が大きい。

 

以前はアグストリア領であったのだが、かつてここよりグランベルに攻め込もうとした際にエバンスをヴェルダンが侵攻しアグストリア軍がグランベルに内で孤立し全滅した歴史があった。

 

その時よりエバンスはヴェルダン王国の領土になったのだがこの歴史を物語るように、迂闊にここから進軍を進めると第三国の侵攻で攻略されてしまい退路を断たれてしまって全滅するケースがある。

 

エバンス内にてバーハラから派遣された将軍などとエーディン公女救出の軍議をするのだが、シアルフィに退路を護る後衛部隊に割く戦力は無く、他の諸公達もイザーク遠征の最中でもある現状ではヴェルダンに派遣する程の戦力は建前上では持ち合わせていなかった。

 

軍議が難航を極める中、アグストリア連合王国ノディオン王であるエルトシャンの従者がシグルドの背後を守るとの書状が持ち込まれた。将軍たちは罠だと騒いだが、シグルドはアグストリアとは無関係に友人の申し出を快諾し、感謝の書状を即座に作成し従者に渡したのであった。

 

シグルドの、どんな状況下においても友の申し出を損得なしに受け入れるその情の厚さにカルトは笑みを浮かべた。これからのグランベルに必要な人材が彼であるのだろう、クルト王子が彼と同様の気質を持つバイロン公と懇意にしている理由がよく理解できる。

しかし懇意にするということは、特別扱いされない者の嫉妬は計り知れない。グランベルの不穏な空気をカルトは感じていた。

 

 

軍議にてノディオンの使者の申し出を乗るか反るかの軍議になるが、シアルフィの部隊が率先していることからシグルドの提案通りになった。バーハラに将軍達も強く反発すれば侵攻に成功した時の立場はなくなるとの判断だろう、逆にうまくいかなければシグルドに全ての責任を負わせればいい。

やはり連中は気に入らない、カルトは会議場に興味はなくその場を後にしたのだった。

 

 

「カルト様・・・。」呼び止めるのは従者であるマリアンであった。

「やはり俺にはお偉いさんが行う会議には参加しない方がいいようだ、聞いているだけで眠くなる。・・・ところでマリアン、また闘技場に行ったな?」

カルトは彼女の纏う雰囲気からすぐに察する、少しづつではあるがホリンのような剣士としての実力をつけているように感じた。

 

「あうう、やっぱりばれましたか・・・。」彼女の言葉にやはりと思い、軽く拳骨を落とした。

「・・・それで、今回はどこまでやったんだ?」ギロリと彼女を睨み付けて正直に話すように仕向ける。グランベルに来てから隙を見ては闘技場に通うので心配の種が後を絶たずに頭痛がしてくるのだった。

 

「5連勝しました、けど次の方の雰囲気がすごかったので始めの斬り結びで降参しました。私と同じ女性剣士で、あんな早い剣捌き始めて見ました。」

 

「何だって・・・。」カルトはその言葉に少し引っ掛かる物を感じて聞き返す。

「もしかしたら、その女性剣士・・・。黒髪の剣士ではなかったか?」

「はい・・・、よくご存知ですね。長い髪の女性で凄く美人な剣士でしたよ。」

 

「この馬鹿、それはきっとホリンが探している女性だ。」

「えっ!じゃあそれはイザー・・・、ムグッ!」彼女の口を押さえる。

(馬鹿を続けるな、ここでそれを言って誰かに聞こえたらどうする?)

「むぐむぐ」(すみません。)カルトは手を離して開放する。

 

「しかし、何でまたヴェルダンに来ているんだ?

ホリンの予想ではミレトス辺りに逃げるのではないかと言っていたはずだ。」

 

「世間知らずで適当に逃げていたとか・・・。」マリアンは軽く答える。

カルトは軽くマリアンを睨み付けて小さくさせるのだが、あながち間違っていないのかも知れない。

 

それとも、剣の腕に過信してグランベルを突っ切ってきたのかもしれない。

いや、剣の腕に過信している可能性があるとすれば、グランベルに敵対しているヴェルダン王国に傭兵として参加して復讐をするつもりではないかとまで考え付いた。

王子を匿っているとはいえあの気丈なイザークの民の気質を考えれば、そのくらいの可能性もある。

 

どちらにしてもホリンと連絡を取る手段が出てきた。奴はまだミレトスにいるのだろうか・・・。

 

 

 

 

ホリンはなんとアグストリアのイディオンにいた。彼はグランベルの動乱前にエバンスに着いた時、アイラはどちらに向かったのかわからずホリンは予想の本命アグストリアに向かいデューは意外性な一面を考えてヴェルダンに向かった。

 

イディオンで情報を収集している時にグランベルとヴェルダンの動乱が起きてしまい、アグストリアからヴェルダンに戻る術を失っていたのだ。

情報収集を行っていてもアグストリアには情報が一切ない事から、ヴェルダン領にいる可能性が高くなり、ホリンは焦りを覚えていた。

 

僅かな希望に賭けてイディオンの城主、エルトシャン王に謁見を願い出てようやく会見できる場へと進むことが出来たのであった。

城門の歩哨兵に謁見嘆願を申し出て早四日が経過していた、父から譲り受けたイザークの国家紋章の剣を見せてようやくの対応であった。

 

 

「お初にお目にかかれて恐縮でございます、イザークのホリンと申します。」

会見の場にホリンは方膝を付け、足許から視線を外さずに申し上げた。

イザークの貴族とは言え、亡国となる寸前の状態になっているので国家威信はない。アグストリアのイディオン王に謁見として当然の対応であった。

 

「ホリン殿、頭を上げていただきたい。イザークの状況はアグストリアにまで報告は来ているが痛み入る状況に心中をお察しする。」

ホリンはゆっくり顔を上げてその姿を見上げた。獅子王と二つ名を持つエルトシャン王は力強い眼光を放ち、気遣いの言葉を発してはいるが相手を見下すことも過小評価をする様子はなくホリンの本質を見抜くが如く見据えていた。

「エルトシャン王、心遣い感謝いたします。実はこの度お願いがありまして参上いたしました。突然の申し出とは申しますが、どうかまずお話を聞いていただきたい。」

 

家臣たちは値踏みするようにホリンを見据える、彼はイザークのソファラ城主の息子である。対応を間違えればグランベルに敵対の意を持つ事になりかねない状況で素直にホリンの言うお願いを聞けるとは思えなかった。

しかし、この交通封鎖を突破するにはイディオンの許可がどうしても必要となる。ホリンは賭けに出たのであった。

 

家臣たちの同様の中エルトシャンが進み出る。

「申してみろ、グランベルからはイザークの姫と王子が立ち寄れば身柄引き渡しをアグストリアに要求されているが亡命者まで引き渡せとは言われていない。できるものなら協力しよう。」

家臣どもが一層ざわめきたつがエルトシャン本人は歯牙にもかけぬとは言わんばかりの立ち振る舞いであった。

ホリンはこの男の人格に感謝する。自身の中でも話ができることから徐々に伝え、ヴェルダンへの交通封鎖を解いてもらう事に尽力しているのであった。




フュリーの剣 シェリーソード

剣 フュリーのみ使用可能

威力 10
重さ 2
命中 100
防御 +5
魔法防御 +5

カルトのエンチャントマジックを用いて、天馬のシェリーの体と魂を細身の剣に封入し具現化した細身の剣。
カルトの作る武具の中でも突出した名剣だが、複雑な条件をクリアした事によりつくる事に成功した。

複雑な条件 武具も愛馬も大切な存在だった。
二つとも破壊されて間も無い状態だった。
使っていた主人が側にいた。

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