ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻) 作:Edward
書く量が多くなりますがお付き合いの程お願い致します。
ジェノア城
「要は貴様は喧嘩を売りに来たわけだな。」
カルトは白銀の剣を一気に振り抜いて横一線する、驚愕に色塗られた青年は自慢の斧の柄で防いで止めた。
「貴様!何をやっているのかわかっているのか!」
「分かっているさ、喧嘩を売られたんだら買ったまでだ。」
カルトはすぐさま、ウインドを発動させて風の塊を至近距離からぶつけ後方の城壁まで吹き飛ばした。
エバンスにて一騒動が起きた。
エーディン公女の救出失敗を叱責していたドズル家のレックスがカルトに皮肉を交えていた時であった。
カルトは当初、その言葉を甘んじて受けていたのだが事態は変貌する。
シレジアの天馬騎士団、特にフュリーへの避難が大きかったのであるが、カルトは怒りを押さえ込み「天馬部隊の失敗は上官である私の責任、責めるのであれば私にしてもらおう。」と対応していた。
レックスはそのつまらない返答にカルトへの興味を無くしたのか、立ち去り際の一言がカルトに火を付けた。
「市民を連れ帰ってきてもエーディンを連れて帰れなければ何の意味もない。」
この一言が冒頭の戦闘のきっかけとなったのだ。
レックスは柄を持ち直してカルトに迫る、その立派な体格に圧倒的な筋力で遠心力を巧みに巨大な斧を操っている。ヴェルダン兵とは違うその扱いの高さにカルトも心底感心するが、今はこの馬鹿の鼻っ柱をへし折る事に燃えていた。
「ウインド!」カルトは再びレックスに向けて魔法を発動させる、その効力の予想にてサイドステップでかわそうとするが発動する様子はない。
「はははは!焦って精神が乱されたか!死ねっ!」
レックスも全く手加減する様子はない、その暴力の塊とも言える一撃をカルトの脳天に目掛けて振り下ろされた。
カルトは脱兎のようにその一撃をかわして距離をとる、レックスはその敵前逃亡のような逃げ方に呆れてしまう。
「威勢がいいのは不意打ちの時だけか、貴様のような奴がシレジアの部隊長とは人材不足な国だな。」
挑発を発するレックスにカルトは眉をひそめる。
「あんたは、自国の民がヴェルダンに攫われたのになぜあんな事を言ったんだ?エーディン公女も市民も同じ女性、意味がないとなぜ言う。」
「それが何だと言うんだ?貴様はエーディンを救出する事が目的だったんだろ?」
「確かにそうだ、しかしエーディン公女のみを救出しても自国の民が攫われたままでは彼女に笑顔は戻らない。あのお優しい公女はそう思うはずだ。」
「馬鹿な事を、エーディンと一般市民を同じに考えている貴様の方がどうかしている。話にもならんな。」
レックスは斧を肩に担ぎ、カルトを見下す。カルトは笑みを作ってレックスを見据えた。
「王族の繁栄を助ける市民を軽視する奴は俺が許さない、一度頭を冷やすんだな。」
カルトは右手を水平に流すとレックスも前方の空間が一気に爆ぜた。
「うおお!」
爆風にさらされたレックスはユン川からエバンスに引き込まれた生活水路まで吹き飛ばされ、頭から落ちるのであった。
カルトは先ほどのウインドをある所定の空間に作用させて圧縮弾を作成していた、タイミングを見計らって風の圧縮を解放し爆発のような現象を作り出したのだ。
手加減をしなければ手足ももぎ取ってしまうくらいの威力があるので魔力のコントロールを必要とする高等技術である。
「カルト!レックスは僕の友達だよ、何て事をするんだ。」
「すまん、俺もちょっとやり過ぎたよ。つい・・・。」
アゼルの叱責にカルトはお決まりの謝罪を口にする、彼の言葉を何度聞いてきただろうか。兄アルヴィスへも簡単に挑発をしてしまうふてぶてしさにアゼルはとても年上と思えなく感じる、まるで癇癪をおこした弟のように弟の思ってしまうのであった。
「でも、たしかにエーディンがあの場にいればカルトの言う通りになると思うよ。彼女は思いやりがあって、みんなから愛されるような方だからね。」
「そうだなあ、アゼルも愛している人だからなあ。」
「カルト!」アゼルが振り向いた時には逃走していたカルトであった。
「カルト様・・・。」
アゼルから逃げ出した後、エスニャとマリアンが城内に入る手前で声を掛けられ立ち止まる。
「マリアンにエスニャ、どうしたんだ?」
「フュリー様はどちらに行かれたのでしょうか?まだ手当も十分にされていないのに。」とマリアンが
「やはり、エーディン様を救出できなかったことが原因なのでは。」とエスニャが語りかける。
「今の彼女にはそんな心配は無用さ、きっと彼女は大きくなって帰ってくる。
信じて待とう。」カルトは二人に笑顔で答えた、無論カルトの内心心配ではあるが彼女の意思をあの時挫けば成長する機会がないのかもしれないと思い許可したのだ。
「しかし、天馬の失った彼女は・・・。」マリアンはこの数ヶ月でフュリーの原動力に相棒のシェリーが拠り所になってのは承知している、だからこそ精神がタフではないフュリーを心配してくれているのだ。
「彼女は次の相棒を探しに精霊の森に向かったんだ、きっとシェリーの剣が導いてくれるさ。」
カルトは命を散っても尚、彼女を護る存在にもう一度信頼するのであった。
「ところで、二人ともどうしたんだ?俺を探していたように思えたのだが・・・。」
「!すみません、うっかりしていました。ホリン様がノディオンのエルトシャン様とエバンスに来訪されています。」マリアンが慌てて話す。
「何!?ホリンの奴、無茶をするな。」
「今、シグルド様とお会いしており、その後カルト様にも是非おはなしがしたいとの事です。」
「わかった、すぐに行く。」
「貴公がシレジアのカルト公か、ホリンやレヴィン王からも度々話しを聞くが随分と型破りな御仁と聞いていたがここまで若いとは思わなかった。」
エルトシャンは清々しいとまで思えるほど率直な感想にカルトは好感の印象を与えた。
自信があるからこそ揺らぐことのない意志、後悔をしたくないからこそ言いたい事を伝えるその目に最近では見ることのできない王としての器を垣間見たかるとであった。
「さすが、隣国にまでその獅子王の名を轟かせるエルトシャン王、その気概の鋭さに圧倒されてしまいました。
シレジアのカルト公です、お見知り置きいただきまして恐縮でございます。」
カルトは大きく頭を下げて、礼を尽くす。
エルトシャンは一つ笑みを作るとさらに歩を進めてカルトとの距離を詰めた。
「レヴィン王からも聞いていると言った筈だ、貴公はそんなに殊勝な男ではないのだろう?」
再開の挨拶を後回しにしているホリンはこの2人の動向を見守った。
エルトシャンがエバンスに来た理由の最大は友であるシグルドに会いに来たのだが、それと同じくらい意義があるカルトへの訪問はホリンには些か理解できないでいた。
頭を上げたカルトはいつもの口調や物腰に変わっていた。
「レヴィンの奴め、余計な事を・・・。
エルトシャン王、あなたの言う通り私は少々言葉が悪い。構わないようならいつも通りに言わせてもらう。」
「ああ、俺も腹の探り合いは苦手でな。できれば単刀直入が俺のスタンスだ。」
カルトは笑みを作った。
「では、シレジアとしての話しをさせてもらおう。
現在エバンスにシレジア軍が駐留しているのはグランベルに対して同盟国と宣言したレヴィン王の意思であり、俺はその意思の元でシレジア軍の統率をしている。
ヴェルダン国が今後ユングヴィのエーディン公女の引き渡しを拒否し、紛争になった場合はこのままシレジア軍も参戦する。
しかし、アグストリア連合王国がヴェルダン側と同盟等を締結している場合、我らは即刻全軍引き上げる事をセイレーン公カルトの名を持って約束する。」
ホリンはその言葉を吟味する。
つまりグランベルとの同盟を結んではいるがアグストリアともなんらかの盟約を持っており、シレジア国としては大国グランベル以上に重要な盟約である事が伺えた。
「了承した、しかしアグストリアとしては全く知る由もない事だ。
ヴェルダンとアグストリアには交易はない、シレジア軍が侵攻しても問題はない。」
「では、王は私になぜお会いしているのですか?」
「これはシグルドにも伝えたのだがヴェルダンと事を起こした場合、野心あるアグストリアの貴族どもがグランベルに諍いを起こそうとする存在が多少ならずといるのだ。
私が背後を守るのだが、間違ってもシレジアは参加しないように心がけて欲しい。」
「と、いうことは貴族と言うのは西側か?」
カルトのその言葉にエルトシャンは頷く、カルトはその厄介な人物を思い浮かべて苦笑いをするもだった。
「お気遣い感謝いたします、その情報がなければレヴィンに顔向けできなくなるところでした。」
「察しがいいな、我が軍が君達を護る。背後を任せてくれ。」
「心強いです、できればヴェルダンもここでエーディン公女を引き渡してくれれば大人しく全軍祖国に帰還できるのですが・・・。」
「難しいな、近年ヴェルダンはバトゥ王の統治により随分大人しかったのだが血気盛んな王子達の鬱憤が一気に上がったのだろう。グランベルのイザーク遠征が引き金となってしまったな。」
カルトの意見にエルトシャンの的確な意見が暗い影を落とすのであった。
「ホリン道中の話は楽しかった、姫君救出がうまくいったらまたノディオンに来てくれ。歓迎する。」
エルトシャンは室内退出にてホリンにも笑みを送り、この場から颯爽と出て行った。
獅子王エルトシャン、黒騎士ヘズルの血筋で魔剣ミストルティンの使い手。
その必殺の一撃を受けたものは間違いなく絶命すると言われている絶対の剣。
彼やアルヴィスのように神器を持つ者と自身のように持たない者では同じ直系でもここまで明確に差が出る事を意識してしまうのであった。
ナーガの書を手に入れた時どのように変化するのであろうか?
彼らと肩を並べられる存在になれるとは思えないカルトであった。
カルトの願いも虚しく、ジェノア城よりキンボイス王子率いる一団が出撃しているとの情報からシグルドは迎え撃つ体制をとった。
マーファに使者を送ろうとした矢先の出来事で、やはりヴェルダンは強硬な姿勢のようであった。
出撃しているキンボイスの軍勢は先の戦いの数に任せた連中とは違い、多少の訓練はされているのかそれなりに統率は取れているらしい。油断するわけにはいかない情報がもたらされていた。
フュリーがエーディン公女と接触した森のさらに南側にジェノア城があるらしく、その森を抜けるか迂回してジェノア城に向かう必要がある。さらに敵には地の利があり大軍を擁している。
彼らの戦術を読み切らないと包囲され、下手をすればエバンスを奪還されてしまう恐れまである。
退路と補給物資の供給元を奪われた軍に勝ち目はない、部隊の侵攻状況を逐一確認する必要があるのだ。
カルトは即座に上空からの目があるシレジアの天馬部隊に侵攻状況の確認と奇襲を、魔道士部隊は後方待機からの魔法支援を命じてカルト本人はシグルドと共に騎馬部隊の後方へ付く事とした。
魔道士部隊とは伝心の魔法でクブリと連携できる、がそれは滅多に使用することはない。
それ程クブリは優秀な魔道士であり指揮官でもあるからだ、カルトが指示を出す前に対処をしている為に使う事は皆無に近かった。
「シグルド公子、ジェノア兵が森を抜けた所で迎え撃とう。森の中では奴らの方が戦術に長けているだろうし、後続部隊に被害が出る。注意を前衛に引きつけて天馬部隊をジェノア城に送って奴らの陣形をみだす。」
「しかしここ数戦の戦いで奴らも空中への警戒を意識しているはず、大弓など準備されていたら天馬部隊に被害が出るぞ。」
「確かにそうだしかしながら我らには時間がないぞ、ジェノアを叩いてマーファに攻め上る時間が。」
カルトの言う時間はもちろん、エーディン救出における時間の事である。
ジェノアから敵軍が出撃してきたのはガンドロフ王子の発令があったからであろう。それは南の森で逃げた王子がマーファに辿り着いたことを意味し、エーディンもマーファに連れ帰られた事になる。
彼女が城に囚われながらも彼女の無事を保証させる為には、この進軍でマーファ城も緊急事態にさせて人質に手を出す時間を無くさせる事が先決となるのだ。
「分かっているさ、しかしここヴェルダン国には弓の名手の部隊がいると言われている。
シレジア部隊に大きな被害があってはグランベルとしても申し訳ない、君が優れた頭脳の持ち主とは知っているのだがここは私の作戦に乗ってくれないか?」
総指揮官のシグルドにここまで言われてはカルトも何も言うべき言葉は無かった、カルトは笑みを浮かべてその言葉に従うのであった。
キンボイスの部隊はまさに力押ししか考えない猪突猛進ともいえるスタイルで、自慢の森林戦には持ち込まず突撃を繰り返すのみであった。いくら統率が取れていても実戦で効果がなければ意味がない、それはなによりキンボイスの指揮官としての能力の低さが伺わせた。
初戦の戦闘では森林内での交戦となったが、グランベル軍は退却と見せかけた後退にまんまと突撃し、現在は平野での交戦に移り変わった。
平野になれば騎士達にとっては水を得た魚、騎馬による移動力駆使し陣形をくんだ突撃にて瞬く間にジェノア軍が劣勢になっていった。
そこへ、シレジアの魔道士部隊の魔法攻撃とユングヴィにて重傷を負いつつも今回参戦したミデェールの弓騎士部隊が後方攻撃も前衛に貢献し被害も少なくしていた。
ジェノア軍は撤退し、増援部隊と合流して再度進行する予定のようであった、そこはシレジアの天馬部隊がその動向を天空からの伝令によりもたらされた。
この瞬間をシグルドは待っていたのであった。
シグルドの騎馬部隊は一気に森林の西側から駆け抜けてマーファ城に向かったのだ、残された一部の騎馬部隊と徒歩部隊がのみでキンボイスのジェノア城を攻める形をとった。
確かに本部隊が半壊したキンボイスの部隊は増援を隠し持っているとは言え本部隊より火力は劣る、部隊を二つに割ることは一つの賭けに近い。
マーファ城にはキンボイスの部隊を大きく上回る数の戦力が温存されているのだ、しかしシグルドはその大胆な計画を自身を先頭に実行する事を迷いなく決めた。
彼は自身の騎士団にキュアン、ミデェール、アゼルの部隊を引き連れてマーファに全速で向かった。
残されたレックスの部隊にカルトのシレジア部隊と混成部隊が参加する形となり、ホリンやエスニャもこちらに残る形となったのであった。
この小説内でのルールを少し書かせていただきます。
ゲームでは特性上剣は斧に強く、槍に弱いというような設定はありません。
魔法も同様で優劣はありませんが光と闇は互いに打ち消しあう存在です。
魔法はMPがあり、無限に打ち出せるわけではありません。
精神力や感情が大きく乱れているときは魔法もまともに発動しない時があります。
スキルは存在しませんが、太陽剣、月光剣、流星剣は物語上面白くしたい意味で取り入れています。ゲームのように反則的な強さではありません。
聖遺物を持っている者の能力値上昇はこの小説でも取り入れています。
よって彼らにまともに戦えるのは同じ直系の聖遺物を持った者でないと対抗できません、ゲーム上では装備していないと能力値上昇できませんがこの小説では手元にあれば能力値が上昇しています。
直系の者でも、聖遺物を持たないと聖光は発しません。
ただし、聖痕を持つ者の中にはわずかな聖光を察知する者がいます。
以上となります。
この小説のルールに疑問等がありましたら連絡いただければ私なりの見解を追記いたしますのでお願い致します。