ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻)   作:Edward

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ジェノア城内戦闘を描いてみました。
大群戦闘と、個人戦闘をここで切り替えてみたのですが矛盾等があると思います。

このあたりの運びをよくご存知の方はアドバイス等いただけたらとおもいます。


決闘

ジェノア城前戦闘における雨も降り注ぎ熱を奪う中、漢共の怒号はいまだ衰えることはなく夜の闇に響き渡っていた。住民たちは怯えるように家に閉じこもり、嵐が通り過ぎることを待つかのように身を寄せ合っていると思われた。

 

そのような事をふと考えながら食料庫に向かっていたカルトは予想通り火をつけようとする悪漢共を見つけ出し捉え、同じような事をする連中の炙り出しを急いだ。

幸運にも雨という現状もあり火の回りはかなり遅いであろう、しかし一度炎にまでなれば消し止めることは容易ではなくなってしまう。慎重に事を運ぶ必要があった。

 

カルトは先陣を切って城内に入った精鋭を見送り後方部隊に回っていた、キンボイスを捉えると明言したが状況をみれば今は後方部隊の支援が優先する必要があった。

天馬部隊より雨の中の強行軍でエバンスから食料や医薬品が運ばれ、重症者への看護部隊を結成する為に必要な手配は山程ある。そんな中でレックスもホリンはともかく、エスニャや、マリアンまで行ってしまうとは思えず苦笑してしまう。

 

 

「カルト様、こちらはあとは私めでなんとかなるでしょう。そろそろ先陣部隊をおってはいかがですか?」

クブリは一通りの回復を終えた様子で、カルトに恭しく助言の一つを指し示した。

 

「ああ、そうしたいところだが実は魔力の使いすぎでね。もうエルウインドを使えば完全に空になりそうだ。」

ここまでの戦闘でほとんど死人が出ていないことが彼の魔力による支援の大きさを伺わせた。もちろんクブリの回復魔法もかなりの効果を得ているが、カルトの方が瀕死の者を優先で処置していたので魔力の瞬間的な消耗が大きかったのだろう。ほとんどリライブを使いっぱなしのように思えた。

クブリも魔力に自信を持ってはいるが魔法量においてはカルトに敵わない、推測するにクブリの倍近くは有していると判断している。

 

「それにね俺はここにいた方がいいと思うんだ、俺の中で何かがそうさせているんだ。」

カルトのあまりに直感的な感想にクブリは首を傾げてしまうそぶりをみせるが、カルトはフッと笑って再び眼前にそびえるジェノア城を見上げた。

街中には怒号の声が響く中、これが産みの苦しみである事をカルトは祈った。

「クブリ、明日はきっと晴れるだろう。朝日は俺たちを歓迎してくれるだろうか?」

「無論です、カルト様の御心のままに・・・。」

 

 

城内ではいまだ喧騒と血煙の舞う惨劇が続いている、レックスとホリンの二強が襲い来るジェノア兵をいとも簡単に撃退し、進路を確保し続けた。

外の戦闘と大きく異なるのは通路における戦闘が多く、対峙する瞬間は一対一になるケースが多い。そうなれば数における有利はさほどなくなってしまい、戦闘力の高い二人のみで先を切り開いてしまう。後ろに控えるマリアンもエスニャも付いて回るだけの存在になっていた。

マリアンもまだ年少兵、さらに女性ということより持久戦には不利があり、エスニャの魔法は屋内では自軍に被害をもたらす場合があるのでおいそれと魔法は使えない。

いざという時の支援程度で良いとホリンからは言われていた、しかし戦闘に参加できない歯痒さが心中にあるのであった。

 

一階の中庭に差し掛かった時、屈強な2名の戦士がホリンとレックスに立ちふさがる。

一名は今までのジェノア兵が使っていた粗末な斧ではなく戦闘用に作られた絵の長いバトルアックスを持ち、その武器を扱うための体格も良くレックスも長身であるがその身の丈を超えている。彼はレックスに挑発じみた態度でもってレックスに勝負を挑む。

もう一名は剣士、鋼の剣を持ちホリンに向きこちらも勝負を挑む、この者もその身のこなしをみて相当な熟練者である事が見て取れた。

ホリンはその男へと立ち向かうべく進み出すが、マリアンはその歩みを阻み剣を抜く。

 

「馬鹿な、これは俺の役目だ。」

「いえ、ここは私が引き受けます。ホリン様は先に進んでください。」

マリアンから確固とした眼光がホリンを制す、彼女の言葉は意志を持っているかのようでホリンは拒否することができないでいた。しばらくのにらみ合いで察したホリンは

「・・・・・・奴らの狙いはここで強者を縛り付けて、この先でなんらかの罠を仕掛けている。持久戦に持ち込まれるなよ。それと、奴の実力と君の実力は拮抗している。」とマリアンに投げかけた、彼はマリアンに背後を任せる決断をしたのだ。

「はいっ!かならず追いかけます!」

マリアンは自ら死と隣り合わせの死闘へと足を踏み入れるのであった。

 

 

 

レックスが先に動く、今回は徒歩での戦いを考慮していたのかいつも使っている馬上用の斧ではなくハルバードに持ち替えていた。槍のリーチと斧の破壊力を併せ持つ万能武具であるが相当のセンスと筋力が要求される、レックスの使用する第二の愛具である。

 

相手側のもつバトルアックスよりもリーチがある、全速からの刺突をくりだした。

ジェノアの戦士は身を捩って穂先の右側に回避し回転よりの横薙ぎを放つ、レックスも即時に穂先に回転を加え手元に引き寄せるとハルバードを縦に持ち直し横薙ぎを受け止めた。

二人の上腕筋が一気に膨れ上がり力量を測り合う。歯をむき出しにして噛み締め、全身の力が腕力に集中させた。

ジェノアの戦士の方に腕力勝負は分があった、体重差もあるのだろうがレックスの体は徐々に押し負け始め苦悶の表情をさらけ出した。ジェノアの戦士はそんな状況の中でも力の誇示はなかった。それは彼が本物の戦士であり、誇りを持っている証である。慢心から油断はなく敵であるレックスに敬意すらしているようにも伺えた。

 

とっさにレックスは重心をずらしてハルバードの受けている角度を変え、横薙ぎのバトルアックスに上からの力を与えて地に叩き落とした。そして柄の部分の下側からジェノアの戦士の顎を突き上げた。

「がっ!!」

鈍い音が響く、ジェノアの戦士は脳を揺さぶられ地に仰向けになり昏倒した。彼はしばらく脳震盪で動くことはできないであろう。

レックスはハルバードの斧部を目の前に突き出して勝負ありを宣言する。

「殺せ、もはや悔いはない。」

「・・・貴様の一撃には意思があった、ジェノアの兵士ではないな?何を隠している。」

「・・・・・・・・・。」

「まあ、いい。おい!誰か!こいつを捕縛しろ!!」

レックスはハルバードを肩にかけ、もう一人の決闘者を確認するのであった。

 

 

マリアンは中段に構えて相手の出方を待つ、そして相手の眼を見据えた。それはホリンから学んだ事である。

《全ての初動は眼から始まる》

マリアンはホリンの言う通り、眼の動きは身体と連動する事を知り一先ずは見るのである。

ジェノアの剣士は正眼に構えからじりじりと間合いを詰めていく、マリアンも少しづつ円を描くようにしながら間合いを逐一確認していく。

 

ジェノアの剣士が動く。正眼からの飛び込みからの刺突にマリアンは剣先を横薙ぎを入れて軌道を変えながら身を捩って回避する、剣士はそのまま体当たりを試みるがマリアンは予想をしていた。

女性であり、まだ未発達な体躯では力押しされると勝ち目はない。マリアンはその小柄な体格と柔軟な体を鍛え上げて短所を長所になるように研鑽し続けている。

 

マリアンは突撃するジェノアの剣士を見事な跳躍で回避する、前転宙返りで170㎝強もある剣士の頭上を越えたのだ。

彼女の身の軽さと身のこなし、柔軟さは特に素晴らしくカルトが見出して戦闘に応用するようにヒントは出したのだがここまで昇華せさるとはカルト自身も披露された時は驚きを隠せなかった。

 

剣士の背後を取り横薙ぎの一撃を入れる、辛うじて剣を受け止めて防御したが体勢が悪すぎる。マリアンはここを逃さず連撃を仕掛ける。

横薙ぎから袈裟斬り、切り上げ、唐竹割りと繰り出すが剣士に大きな一撃を入れることができずに距離を置いて間合いを取り直した。

 

剣士はマリアンがここで距離をとった事を悟り、攻撃に入る。

勝機とばかりに連続攻撃を繰り出し決定打を与え切れなかったマリアンは体力切れを恐れたからに違いない。と剣士は悟ったのだ。彼女の呼吸の荒さが物語っている、再び剣を交えて斬り結び始める。

 

「くっ・・・!」

マリアンは苦悶の表情を浮かべる、剣を打ち合うたびに手に衝撃が走っているのであろう。非力なマリアンは徐々に握力を失い打ち負けてきている。

 

とうとう剣圧に飛ばされたマリアンは体勢を崩した、剣士はここで強撃の一撃を加えんと追いすがる。

打ち下ろしの一撃をマリアンの肩口にふりおろす。

勝った!と剣士は疑わなかっただろう。マリアンは体勢を崩しておりとても回避も受ける事もできないで状態であるのだ。

 

なのに剣士の剣は空を切り裂き、地面に打ち付けるだけであった。

一瞬剣士の動きが止まる、思考の坩堝に入ったのだろう、マリアンはそれを逃さない。

剣士の胸部に袈裟懸けに斬りつけた。

「ぐはっ!」

胸部を抑えてうずくまる。マリアンは一歩下がって剣についた血糊を払い、鞘に収める。

 

「見事な一撃だったな。」レックスはマリアンに賛辞を送る。

「レックス様、有難うございます。」

「最後の宙返り、バックステップからのジャンプして斬りつけるあの一連の動作。カウンターで決められたらたまらないだろうな。」

レックスのその言葉は、マリアンにもだが剣士にも言った言葉でもある。

剣士は上を見上げ、敗因を知った事に納得がしたのか清々しい顔になった。マリアンはその表情を読み取り、彼とは違った顔をするのであった。

 

彼は剣を逆手に持ち自害する覚悟を決めていたのだ、自身の腹部につき入れようとした剣をマリアンは握り止める。

「・・・!!」

剣を伝って血に落ちる血は剣士の血ではない.、マリアンが鍔元を直接握り妨害した事による物である。

剣士は渾身で最後まで力を緩める事がなければそのまま自害できた、しかしながら敵に阻止された事による驚きにより止めてしまった。

 

「なぜ?そこまでして止める。」

「あなたは勝機があった時の一撃は私を殺すほどの一撃ではなかった。だから私もそうしただけです。」

「・・・そこまで見抜かれていたとは、・・・私の負けだ。」

剣士は剣を投げ捨て、敵意を喪失させるのであった。

 

 

 

ガンドロフはマーファに着くなりエーディンを手篭めにしてしまいたいところであったが、シグルド公子の策略で防衛準備に追われてしまう。

苛立ちを隠せないまま持ち場に着いたガンドロフは、エーディン公女を地下牢に放り込んでしまった。

それは他の荒くれどもが手を出す恐れがあるための防止策である、鍵は自身さえ持っていればとりあえず手を出される事はないからだ。

放り込まれたエーディンはシグルドが救出に向かってきている事に感謝し、無事にきている事を祈るのみであった。

静寂の暗闇で一人の祈りを続けている時、不意に雑音を感じ目を開ける。地下の牢屋から外の喧騒はかけ離れていて聞こえてこない、その中で何かをこすり合わせるような音が聞こえている事に気付きエーディンは牢屋の格子から外を確認する。

 

放り込まれた、隣の牢屋に誰かがいる。約1日ここに放り込まれたにも関わらず隣の存在に気付かないその希薄感に少し驚いた。

 

コトン!

乾いた音がすると、次は何か金属と金属が当たる音がする。

 

カチャカチャ・・・カチリ!キィー・・・。

牢が開く音がした。

 

ここでようやくエーディンは脱獄している事に気付き声をかける。

「もし・・・もし!」

 

するとすぐにあどけない軽装の少年が表した。少年は一度小さな声で喋るジェスチャーを送りエーディンが了解したと返されてから声をかける。

「こんばんは、君がイザークのお姫さん?」

「えっ?私はユングウィのエーディンです、違いますよ。」

「そっかあ、ここに姫さんが囚われていると聞いたからコソ泥の真似までして捕まったんだけどなあ。

エーディンさん、だっけ?ここから出たい?」

無言で頷くと少年は笑顔で鍵に細工を施し出す。

「待ってて、ここの鍵なんておいらにはあってないような物だからね。

おいらの名前はデュー、少しの間よろしくね。」

 

牢から脱出し、デューと名乗った少年はまるで自分の庭を歩いているかのように熟知した足取りで城外へのルートを歩き出す。デューは夜のこの時間帯が昼夜の切り替えのタイミングである事が月の位置から割り出していた。

人の出入りが多いが引き継ぎが曖昧なこの城ではデューの事もエーディンの事もどこまで認識しているかはっきりしていない。今夜が脱出のタイミングと認識していた。

 

牢からすぐに客室の鍵を開けて窓より中庭にでる、茂みを使用して身を隠匿しながら中堀へ向かっている。

この中堀から外堀まで繋がっている事を知っているデューは水路から脱出を選んだ。

「エーディンさん、泳ぎは大丈夫?」

「え、ええ溺れない程度に・・・。」

「一応この浮き袋を使って、極力頭を出さないようにしてね。夜でも夜目の効く連中ばかりだから音は立てないようにしてね。」

「わかったわ。」

二人は中堀にゆっくり近付き体を水に沈めていく、まだ春になったばかり水はかなり冷たいが連中もそこに頭がある。警戒は緩い事からの判断であった。

 

 

二人は無事に中堀から外堀、そして城下街の川まで脱出に成功する。

岸から上がった二人はすぐに地下水の入り口で一度周囲の警戒と休息を取ろうと移動を始めた時であった。

デューの足元に一本の弓矢が刺さり、行く手を遮る。

 

「貴様は地下に囚われていた者だな。・・・!あなたは・・・?」

宵闇から声をかける者がいた、エーディンには闇を見通せる目はないがデューにはある。

即座にその者を認識して、声を発した。

「ジェムカ王子・・・。」

デューにとってはこの場面で一番であってはいけない者に会ってしまったと思えた。

バトゥ王の中で一番の切れ者であり、王の懐刀に近い存在のジャムカには生半可な小細工は通用しない。

彼の弓の能力は随一で、狙われた者は必ず屍になってしまう事より付いた第二の名は《サイレントハント》と呼ばれ畏怖されてきたのだ。

 

「まさかつけられていたなんて・・・、参ったな。」デュー後ずさり言葉とは裏腹な態度をとってみせる。

ジャムカはそのデューの行動をほとんど無視し、隣にいる美しき公女に再び返答を求めた。

「私は、ユングヴィのエーディンです。」

 

「まさか、あなたが・・・。」

ジャムカは弓を下ろす事なく、デューとエーディンに近寄る。月夜の闇で二人の確認ができていないのであろう、警戒しながら視認を急いだ。

その一瞬を見逃さないデューはジャムカに不意の一撃を決めるべく、ジャムカに挑むのであった。




人物紹介

レックス

ドズル家のランゴバルト卿の次男坊として育つ。
彼は父上や兄であるダナンとは違い、次男としての奔放さからか権力や政権には囚われず自身の正義を拠り所にしている節がある。
曲がった事を特に嫌う事が特徴であるが、父の対面もありシグルドとは必要以上に親交を深める事はなかった。唯一アゼルとは年が近くヴェルトマーと親交があった為、仲が良い。
騎士として貴族としての素養は高く、攻撃力とタフさから常に自ら前線に立って敵軍を屠る姿は味方の士気を高める起爆剤となる。



クブリ

シレジアの魔道士
かつてはトーヴェのマイオス公に仕える司祭として活躍していたのだが、シレジアの内戦によりマイオス公は敗北し武力放棄を命じられた。
クブリは息子であるカルトにその身を委ね、彼の魔道士部隊の責任者として行動を共にする。
ゲーム上のグラフィックではフードを被ったおっさんでだったが、この小説内では若干の年齢で相当な魔力を持った少年である。フードの中を見た者は少ないがかなりの美形である。
風の魔法と聖杖を使いこなすシレジア一の魔道士。

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