ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻)   作:Edward

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ようやく、あの最強剣士様登場です。
防御に見切り、攻撃に流星剣なんてまともに勝てるユニットなんて存在しないでしょうね。


秘剣

ホリンは突き進む、レックスとマリアンが譲ってくれた機会を無駄にはできない。抜き身の剣のまま中庭を越え、通路を突き進み玉座へ突き進んだ。

王の間はどの城にも特徴があり必ず一階に存在する、それはバーハラの城でもこのジェノアでも変わらない事がこのユグドラシル大陸の特徴である。

一階全体は王と近衛兵などが執務を行う場所であり、二階以降は宿舎と考えると分かりやすい。

 

ホリンは王の間に突き進むが肝心の主人はおらず、空の玉座が主人を待つかのように佇んであるのみであった。

(やつらはどこに!)

ホリンは見渡す、この騒乱の喧騒の中で脱出したのだろうか?いや、それでは先程の強者を使って足止めする理由がない。やはり時間を稼いで脱出する手段を講じている筈である。

しかしホリンは二人の間をかけ抜けて最短に近い時間で玉座まで侵入したのだ、多少のジェニア兵と切り結んで来たが、一人10秒も満たないうちに倒してきている。

 

(このどこかに、緊急脱出用の通路がある!)

ホリンはここで確信する。

もし、ここ以外にあったとすれば鉢合せをする筈である。それがないという事はこの間に隠し通路があると断言できる。

ホリンは部屋の様々な調度品がある中で怪しい部分を見渡して調査する。壁を探り、音で空洞を確かめて行くがそのような痕跡はなく他を当たる。

 

「不自然を感じる事が大事なんだよ。」ホリンは突然、デューが言っていたことを不意に思い出す。

以前に、イード砂漠でデューがいとも簡単に地下への隠し通路を見つけ出した事を聞いた時の一言であった。

 

デューはあまり物事を言葉にする事は得意ではない、彼の曖昧な言い回しで唯一わかった言葉がそれであった。

ホリンなりの解釈では物事には順序があり、矛盾点は存在しない。そして矛盾点は作為であり、意味を持っていると言いたかったのだろう。と思っている。

 

 

ホリンは一度深呼吸を行い、再度見渡してみる。

もし壁が動く仕掛けなら、足元の絨毯に皺ができる筈だがその様子はない。

絨毯の下に隠し通路があったとしても絨毯が綺麗に敷き詰められているこの状況では壁が動く事と同様に不可能である。

ホリンは絨毯を丹念に見つめているとある一部分が僅かに湿っている事に気付く、なぜこんな所に?

雨が入り込んだ事に、気付き上を見上げる。

するとある一角のみ人が一人出入りできるだけの大きさで、正方形を描くように染みを作っていた。それは先程のまで空いていて人がくぐり抜け、閉められた痕跡に違いないと断言した。

ホリンは王の間を出て二階に駆け上る、王の間の真上を目指し友人のデューに感謝をする。

 

 

王の間の上は大きなバルコニーになっており大きなガラス戸を観音開きに開く、雨はすっかり止んでおり漆黒の暗雲より、月が出てこようとしていた。

 

その月の光を頼りにキンボイスを見つけようとするが、気配にて目の前に誰かいる事に気付きホリンは身構えた。

 

「機転のいい男だな、しかしここを看破してしまった以上ここより先へ通すつもりはない。」

闇夜からテノールのよく響く声がホリンを制する、その声の持ち主は低いが女性の物である。

ホリンはこのするテラスの端を凝視した時、待ち望んでいた月の光が射し込んだ。

 

マリアンの髪よりもさらに深い漆黒の黒髪を持ち、腰まで真っ直ぐに伸びる長い艶やかな髪は月の光を反射させていた。端正な顔には強い意志を持ち、目の光はどこかやり場のない怒りを発していた。

 

ホリンはその鬼気迫るその迫力に息を飲んだ。初めて年の同じような剣士に、一瞬ではあるが気圧されてしまったのだ。

そしてこの女性剣士に確認しなければならない、父上とマリクル王子が命をかけて守ろうとしたお二方である事を・・・。ホリンは必死に声に出そうとするが、女性剣士から発する殺気にうまく声に出せずにいた。

ホリンの脳内は混乱に満ちている、そんな中でも必死に思考する。彼女は傀儡になっている可能性のみを思案する。

 

だが、これ以上の思案はできない。女性剣士は剣を抜き、ホリンに威圧し始めたからであった。

「どうした?ここを看破したほどの男だ、ここを通りたいのだろう。

私も時間がない、立ち去らないというのであれば不本意ではあるが排除させてもらうぞ!」

 

女性剣士は腰をかがめると一気に間合いを侵食する、ホリンはその速度に驚愕し剣戟を受け止める。

ガキィ!

両者の剣が交錯する、がこの交差は一瞬であった。体を入れ替えた女性剣士はこれもまた凄まじい速度でホリンの死角である右側面に剣を支点に高速移動し、その支点から起動を変えてホリンを切り上げた。

「!」

速度は凄まじい物ではあるが、正面から勝負を挑まれて競り負けた事などここ数年なかった。父上ですらホリンから一本をとったのはもう四年ほど前であり、最近では負けなしであった。

 

今の一撃は、模擬戦では一本を取られてもおかしくない程の衝撃であった。しかし今は実践であり、死闘である。命の灯火が消えるまでに至っていない一撃に弱気になるわけにはいかない、ホリンは気迫を絞り出し女性剣士に対抗の一撃を見舞った。

 

女性剣士は一気にホリンの間合いの外へバックステップし、構え直す。

「ほう、あれをうけて戦意をなくさないとは。グランベル軍にも少しは骨のある男がいたようだな。」

 

「グランベル軍?」

「ああ、憎いグランベル軍とは幾度となく手合わせさせてもらったが集団でなければ吠える事も出きないような軟弱な連中ばかりであった。」

 

「なるほど、イザークの君にはさぞ屈辱の仕打ちであっただろうな。

そんな烏合の衆に国を滅ぼされつつあるなんて事は。」

ホリンのその言葉に女性剣士は殺気に続いて怒気を孕ませる。

 

「貴様、言ってはいけない事を言ったな!」

この言葉にホリンは断定する。月夜で顔を全て見たわけではないがイザークの珠玉を守る姫君、アイラ王女である。この挑発に彼女を傷付け、全力になってしまった事は痛恨であるが思考が不器用なホリンにとって自分ができる最良はこれしか方法がなかった。

こうなっては自分の命をかけて彼女に想いをぶつける事しかない!そい悟ったホリンもまた闘気を呼び起こし、彼女の全力に答える事にする。

 

暗雲が徐々に晴れていき、十五夜の月が剣士を照らす。冷たい光を照らす二人の剣に輝きを宿った時、行動に移す。

 

先手はアイラ、闘気をまとった彼女は初速から最大速度を発揮する。

それは闇夜に流れる流星群のようで瞼の瞬きも許さ神速剣、一瞬で間合いを侵略されたホリンではあるがまだ彼は動かない。まるで力を直前まで溜めて一気に打ち出すかのように闘気を内に秘めていた。

アイラの初撃がホリンの額に差し掛かった時、ホリンの初撃が打ち上げられた。

 

アイラの秘技流星剣とホリンの月光剣が相対した瞬間であった。

アイラはその初撃を撃った所で第二、第三の太刀がホリンを襲うつもりであったがその剣技は強制的に遮断された事に即座に理解する。

 

それは刀剣である。彼女の剣は半分の所で裁断され、使い物にならなくなっていた。

アイラはグランベルの剣士の技量に驚き、理解する。

 

「き、貴様は一体!」

剣を無くした剣士は、剣士ではない。ホリンは父上の言葉を反芻する。

《話を聞く耳を持たぬ剣士は、剣を叩き壊せば良い。》

ホリンには、この道しか残されていなかった。カルトのように言葉を相手の胸に響かせる事ができないホリンにとって唯一の方法であり、実行できた事を父に感謝する。

 

「アイラ王女、私はソファラのホリンです。不躾な対応で申し訳ないと思っていますが、おそらく監視が付いている可能性があったので剣を破壊し、捕縛されるように致しました。」

「・・・・・・。」

「私は、マナナン王と父上よりアイラ様とシャナン様の亡命先を手配する命を受けておりましたがアイラ様に余計な苦労をかけてしまいました。申し訳ありません。」

頭を下げ、謝罪を口にする。

「もし、よろしければこれからでもアイラ様のお力になりたい・・・」

ここまで口を出した時、ホリンの頰を強かに打った。乾いた音が闇夜に響きわたる。

 

「ふ、ふざけるな!そのような命を受けていたとはいえ、グランベル軍に身を置くなど以ての外だ!

散っていった者達に何と説明するのだ!」

アイラの怒りが再びホリンに襲いかかる、剣としては無類の強さを発揮する彼女ではあるがイザークから一度も出た事がないお姫様である。世間には疎く、融通も利かない。

 

ホリンは今一度、カルトに出会ってから行動で持って示した若き指導者の行動を振り返り、国家間の蟠りを消していく姿を言葉で表現した、拙い言葉であるが彼は紡ぎ出す。

「確かに、イザークにとってグランベルは憎い存在であります。しかし戦争はそんな国家間の諍いであって、人々の心まで同じではないのです。

シアルフィのシグルド殿、そして友と言うだけで国家間の枠を越えて救援にこの地に入ったレンスターのキュアン殿、親族間で諍いはあっても正義の志しを同じくするレックス殿は敵国でありながら我らの剣士の志しと同じではないですか?」

「・・・・・・・・・。」

「アイラ様、力になります。シャナン王子を救出しましょう!

そしてシグルド殿やカルト殿に事情を説明しましょう、きっと彼らの処遇は私達の恐れる結果にはなりません。」

ホリンはうずくまるアイラに跪き、決断を委ねた。自身の思いは全て伝えたつもりである、あとは彼女の心のみ。嘆願するようにホリンは瞳を閉じて決断を待つ。

 

 

朧となっていた月が再度光を射し込んだ時、アイラは決断する。

「私は負けた身だ、イザークの教えがそうであるなら強者の裁きに従えだな。

ホリン殿、先程は失礼した。今からでも間に合うなら力を貸して欲しい。」

 

ホリンはいつの間にか立ち上がり儚げな笑顔を見せている彼女に魅了される。あの時戦場で見た彼女を見て魅了されたあの時と同じ思いが湧き上がる。

月の光を受けている彼女の笑顔は真の笑顔ではない、シャナン王子を救出し本当の笑顔を見るまでホリンの戦いは終わらない、決意を新たにし彼女の差し伸べる手を握りしめるのであった。

 

 

 

暖炉で炎に包まれた木材が爆ぜる音にエーディンは目覚める、豪華ではないが平民では決して住むことができない質実剛健な家財道具に包まれた部屋で覚醒した。

マーファの地下牢に閉じ込められていた彼女の思考は現状を掴めない、微睡みの中で必死に思考し始めた。

 

不意にドアを叩く音がし、給仕の者が入る。

若くはないが老人といえば失礼にあたる夫人がバスケットに軽食を入れているのか、鼻腔から食欲を掻き立てる匂いを携えて入室する。

彼女は穏やかな笑みを送り、話しかける。

 

「お目覚めになりましたか、体調のすぐれない点はありますか?」

「大丈夫です、ご看病ありがとうございます。」おそらく、意識を失っている間彼女が世話していくれていると思われたエーディンは感謝を伝える。

 

「いえ、私はジャムカ様の命に従ったまでです。お気になさらずに。」彼女の言葉に彼女の記憶は一気に回復する。

「!・・・。デュー、デューさんはご無事ですか?」

 

「え、ええ。もう一人の少年のことですか?大丈夫ですよ、彼は元気にしています。

それよりもあなたの方が心配でしたのですよ。」

 

「・・・?」

「冷たい水入られて濡れた服で無茶なさったのですね、意識を失って高熱を出したのですよ。

ジャムカ様がお連れしなければどうなっておられたか。」

夫人はそう言って、軽食を差し出して退出する。エーディンに食事の邪魔をしたくないという配慮だろう。

しかし、彼女は食事に手を出さずに俯いてしまう。

 

「食べた方がいい、体に触る。」

横たわるベットの窓から声がかかり、エーディンは外に顔を向ける。

 

立派な樫の木の的に向かい、弓を引くジャムカである。

彼の正確無比な矢は既に命中している矢を見ればわかる通り、ほぼ全てが真ん中を射抜いていた。

今放った矢も、30メートルはあるであろう距離を瞬く間に空を裂いて真ん中を射抜いた。

 

「ジャムカ様。」

「様は余計だ、ジャムカで結構。」再度弓を放ち、真ん中を射抜く。

 

「あ、ありがとうございます。」

 

「礼も不要だ、この度はこちらに非がある。

あんたは体力が落ち着けばデュー共々シアルフィ軍に身柄を渡すつもりだ。」

 

「ジャムカ、あなたはどうするのですか?」

 

「俺は、兄上には協力する気はない。兄上であっても今回の件は自身でけじめをつけてもらうつもりだ。

だがシアルフィの軍がヴェルダンまで侵攻するのであれば容赦は、しない!」

ジャムカの弓がさらに力強く放たれ、的ですら2つに割れて樫の気を深く抉る。

エーディンを振り返ってみる彼の目には鋭く、そして悲しく輝いていた。

 

「あなたに次お会いする時、そのような目をされない事を神に祈ります。」

 

「祈りは、届かないさ。この国はもう神には見放されている。」

ジャムカの絶望の表情が、エーディンの心に無情の想いが響くのであった。




この度のホリンとアイラの決闘はいかがでしょうか?
私なりにかなりの時間と、校正に時間をかけて温めていた文面であります。

連撃の流星剣ですが、一撃必倒の月光剣を受けて剣が破壊したという結果にしました。

ゲーム上では防御力無視という、比較的地味な能力でしたがこの小説では斬鉄剣に近い能力も有していると独自解釈の上での内容となっています。(鎧を切り裂いてダメージ、剣に当たれば武器破壊)

秘剣には剣士の持つ闘気を加味しております、心と体の充実感、一体感がなければ成功しない物と解釈を私自身は思っています。

皆様もいろんな解釈をお持ちとは思いますが、よろしくお願いいたします。

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