ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻)   作:Edward

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すみません、今回は戦後処理の話が続きます。

やはりキャラが増えるとエピソードが膨大になりまして、文字数も進行も鈍感してしまいます。
一話大体5000文字をベースに作ってきたのですか、今後はこのような処理回は文字数を増やして対応に当たる予定です。

次回も少し、処理回の続きがあると思いますがお願いいたします。


休息

ジェノア城制圧の報がシアルフィ軍にもたらされたのは、シグルドが夜の進軍を強行する今しがたの時であった。

ジェノア制圧を信じなかったわけではないのだが、その朗報に背後からの敵襲は無くなると同時に後方支援も途絶える事がなくなる事を意味している。シアルフィ軍の士気は最高調のままに敵に有利な条件であるが裏をかいた夜襲を敢行するのであった。

 

騎馬部隊の駆け足である大地を揺るがす轟音は、マーファ軍を焦りへと追い込んだ。

連日の攻防戦において夜の進軍は無かった為、油断していたマーファ軍は後手の対応となりシアルフィ軍とは逆にジェノア城陥落の報まで受けたガンドロフは一層慌ただしくなる。

市街地のすぐ外ではすでに夜番である者が対応しているが、マーファ軍の全火力が整う前に前線が崩壊してしまうのではと思えるくらいシアルフィ軍の動きは早く烈火の如きであった。

 

 

 

「マーファもここまでのようだな。」迫り来るシアルフィ軍の怒号にジャムカは装備を整え、吐き捨てた。

ジャムカの私邸ではエーディン、デューに着替えを促し、外での敵襲を伝え準備させる。予定通り、従者を使って2人をシアルフィ軍に引き渡す為の手筈を説明していたのであった。

 

「ジャムカは、どうされるのですか?」エーディンは心配と不安を織り交ぜた言葉をジャムカに問いかけた。

 

「どうもしないさ、以前にも言ったがこれは兄上の失態だからな。

俺は父上の周辺を護る任務の過程でマーファに短期駐在しているだけさ、シアルフィ軍の動向がわかればヴェルダンに帰還するように言われている。」

 

「ヴェルダンへ、帰られるのですね。」

 

「そうだ君をシアルフィ軍、グランベルにお返ししてこの度の事を謝罪すればもしかしたらマーファまでで戦争は終わるかもしれない。以前の父上ならわかってくれると思うのだが。」

 

「以前?それってどう事なんだい?」デューは投げ掛ける、ジャムカは少し憮然な面立ちになり先を進める。

 

「サンディマという魔道士が来てから父上は変わってしまった、争い事など無縁な方だったのに兄上に突然グランベル侵攻を言い渡してその様だ。イザーク遠征中のグランベルに侵攻してもその後どうなるかんて俺にでも理解できる事を父上が決断するとは思えない。」

 

「そのサンディマという奴がけしかけたって事?」

 

「一国の王がヴェルダンの歴史を調査する名目で来た魔道士の言葉を鵜呑みにして、さらに出撃を決断するなんて愚行がある訳がない。」

 

「穏健な国王が決断した違和感にその魔道士が来たタイミングは都合が良すぎるんだね、ジャムカ?」

 

「・・・その通りだ、奴が来てから全てがおかしい。

父上の提案はもともと好戦的で向こう見ずなガンドロフの兄上や快楽的なキンボイスの兄上には麻薬のように浸透していったが、俺には受け入れられない。いくらサンディマが父上を唆したとしてもここまで事態が悪くなれば父上も再考するように願い出て見るつもりだ。」

 

「そうね、まずは話し合った方がいいわ。・・・でもジャムカ、危なくなれば戻ってきてね。事情が解ればシグルド様ならきっと協力してくださいます、だがらきっとまた会いましょう。」

 

「・・・ああ、約束しよう。」ジャムカは一つ微笑むとその軽快な体躯を闇に沈めていくのであった。

 

 

カルト達混成部隊がマーファ城入りしたのがシグルドが夜襲を敢行して2日後の夕刻であった。

 

カルト達はキンボイス捕縛後に事後処理に奔走し、グランベルからの役人が来るまでの間自治できるように手配する。ジェノアや周辺地区に対して城にあった食料を返納し、天馬部隊に配布を行うと同時に教会との連携で医薬品の配給を行い、急病人や怪我人の治療を急がせた。

手配を一通り終えたカルトはすぐさまマーファに向かったのだがほぼ3日を有してしまった。

 

ガンドロフ王子の夜襲においてこちらも城内戦闘に持ち込み、城下町を最小限の被害にしてガンドロフ王子をグランベル侵攻の主犯としてその場で斬首を行った。

ガンドロフ王子の死によりヴェルダン以外の地はシアルフィ軍により制圧され、2人の王子が率いていたヴェルダン軍は全壊したと言っていい状況であった。捕虜からの情報によると、ヴェルダン城に残っているのはジャムカ王子が率いるハンター部隊のみと判明する。

 

エーディン公女救出により、シアルフィ軍はこれ以上の交戦は無意味である事を捕虜としたマーファ兵に手紙を認めて交渉の場に出るように促したそうであるが、バトゥ王からの返事はなくさらに2日が経過する。

シアルフィ軍は連日の激戦から開放され、一時の休息を得る事になった。

 

 

カルトはマーファにある一室に入る、部屋の手前には歩哨が2名立てており警戒している。

カルトを一礼をした後、歩哨の者は鍵を開けて入室を許可する。

 

中は簡素な作りになっており、ベッドには体格のいい男が横たわっていた。

体には包帯が巻かれているが、手足には錠付きの拘束具が装着され戦犯者である事が一目で判断できる。

男は体を起こす事はなく、こちらを見据える事となった。

 

「よお、体の加減はどうだ?」

「貴様がやっておきながらよく言いやがる・・・。」

 

「その傷もあんたの部下が付けたもんだ、返しただけさ。」

「・・・・・・、なぜ俺を殺さなかった?」

ジェノアの城内戦闘においてレックスに生きたまま捉える事を条件にされた対象者、キンボイスはカルトに吐き捨てた。

 

「まあ色々だ、こちらにはこちらで事情があるんだ。

死ななかっただけよかったじゃないか、と言いたい所だが一名お前の首を斬ると息巻いていた人がいるようだ。身に覚えはないか?」

 

「アイラか・・・。

今からでも連れてこい、奴に斬られた方がスパッと落としてくれるだろから苦しまなくていい。」

キンボイスは怒りでも悲しみでもなく、憑き物が落ちたかのように冷静に物事を捉えそう口にしている。

カルトはそう分析し、一つため息をついた。

 

「まあ、そう死に急ぐな。貴様には聞きたい事が沢山ある。まずは、この戦争の首謀者は誰なんだ?」

 

「親父に決まっているだろう、いくら俺や兄貴でも勝手に軍を率いてグランベルへ攻め上る事は出来ない。

親父から軍の指揮権を譲り受けて兄貴が向かった。」

 

「いや、バトゥ王は穏健派の賢王だった方だ。理由もなくグランベルを侵攻するとは考えにくい、何かあったのではないか?」

 

「・・・。」

 

「なにか、節があるそうだな。」

カルトはその表情を読み取り返答を待つ、彼の重い口は徐々に語り始めた。

 

「あれは、二月ほど前の話だ。親父には俺たち兄弟のさらに末に一人の妹がいてな 、その妹が病を患い手の施しようが無い程重症化してしまったんだ。年を取ってから産まれた初めての娘なもんで溺愛していた親父はある男を城内に入れたんだ。」

 

「男?」

 

「そいつは、各地の歴史を調査する魔道士で名はサンディマと言う奴だ。奴が妹を治療する事が出来ると言いだして疑いもせずに娘の部屋まで入れてしまったんだ。」

 

「サンディマ、魔道士・・・。」

 

「そのサンディマが妹を治療するたびに回復をしていくのだが、親父はそれから徐々におかしくなっていくように思えたよ。」

 

「どういう事だ?」

 

「感情を表に出さない親父が、攻撃的な口調をする時があったり部下の失態で牢に入れたりと以前の親父には考えられない行動があった。

なあ、あんたならどう思う?人が簡単に変わってしまう事はあるのか?」

 

「・・・、人の考え方なら解らなくはないが性格は簡単には変えられない。サンディマと言う男がなんらかの影響を与えているには間違いないな。」

 

「そんな魔法があるのか。」

 

「・・・ない、・・・はずだ。人の心まで、変えてしまう魔法など。」

カルトは目を瞑り答えるが、一つ何か引っかかる物を感じて断定できないでいた。

 

「そうか、残念だがあれは親父の意思なんだろうな。サンディマを締め上げて問い正したい所だが自身でその機会を潰した俺には資格は無いか・・・。」

 

「キンボイス、お前は・・・。」

「それ以上は言いっこなしにしてくれ、俺の首はアイラに飛ばされる運命だ。最後くらいは潔く行きたいもんだからな。・・・だからよ、一つ頼みごとを受けてくれねえか?」

 

カルトは今更ながらにヴェルダンを憂いた一言に彼もまた運命の歯車を狂わされた人間である事を理解した。その清算をする事も出来ない彼は託す人物がいるかのように見上げた顔は笑顔を作っていたのだ。

 

「いいだろう、言ってみてくれ。」

「ありがとよ、あんたと出会った時にシャナンを保護していたジジイがいただろ?

あれに捕虜の価値も、知識もない役立たずだし付いてくる部下もいない。釈放してやってくれねえか?」

 

カルトはキンボイスの顔を見る、彼にはもう快楽主義である仮面は取り払われ真意がそこにあった。

瞳は一時も反らすことはなくカルトの眼を掴むかのように見ている、それは嘆願そのものと理解する。

 

「いい世話人を得たな、キンボイス。お前は本当に馬鹿な奴だよ。」

カルトは唇を噛み締めて言い放つ。

 

「俺の国では政治の水面下は醜い勢力争いが続いている、みんな裏切りと陥し入れられる事に疲弊して正常な判断が出来なくなっているんだろうな。貴様には解らない事だ。」

 

「貴様だけとは思うな。」

カルトは小さく呟く、キンボイスがもう一度聞き返す時に同じ言葉を大きく叫び放つ。

その怒声に外にいた兵士が慌てて入ってきたくらいであった。

 

「俺は小さい時に、毒を何度も口にしてしまい死線を彷徨った。訓練という名の暴行も受けてきたし、死地とも言える戦場で放り出された事もある。

その時の俺には世話人もなく一人だった。諭してくれる人もなく、叱咤してくれる人も、優しく抱擁してくれる人もいなかった。・・・やけになる気持ちは解らんでもない。

しかしキンボイス、お前はなぜ腐ってしまったんだ。あれほどのいい世話人の話を聞いていてなお貴様は道を外してしまったのか!俺は一人だったが腐る事は決してしなかったぞ!」

 

「き、貴様も・・・?」

「ああそうだ。母親を早くに亡くした俺は権力争いの弱者として迫害され、聖戦士の聖痕が出てしまった事で嫉妬の対象になり、魔力が強大な事で実の父から畏怖される対象になった。

地獄のような日々だった、人格もなくして虚無の世界を生きているようだった。それでも俺は腐る事だけはしなかった、そこで立ち枯れてしまっては今まで生きてきた事を自分自身で否定すると思ったんだ。」

 

沈黙が流れる、キンボイスは先程のカルトの激白にショックをうけて項垂れている。自分よりも過酷な運命を受け入れて突き進んでいるカルトの行動に自身を重ね合わせているのであろう。一切の言葉が出ない状態であった。

 

「すまない、少し感情的になりすぎた。貴様の世話人の事はまかせてくれ、悪いようにはしないしない。

・・・アイラの判断がどのようになるかわからないが、希望は捨てないでくれ。・・・邪魔をした。」

 

「カルトさん、だったか?」

早々と立ち去ろうとドアのノブを手にした時、キンボイスの声がかかる。

カルトは振り返る事なく静止し、耳を傾ける。

 

「ヴェルダンを、頼みます。」彼の一言に満足したカルトは口角のみを上げて退室するのであった。

 

 

 

「エスニャか・・・。」

カルトはキンボイスの退室後、すぐの中庭の石柱を背に座り込んでいた。魔力の気配に気付いた彼は顔を起こす事はなくエスニャの接近に察知する。

 

「カルト様・・・。」

「キンボイスの会話、聞いていたんだな。」

 

エスニャは申し訳ないように俯き、肯定する。

彼女は俺の心配から後を追ってきてくれていた、非難する気はないのだが先程の会話を彼女に聞かれたくは無かったのがカルトの本音である。

 

「ごめんなさい・・・。私、あなたの事を知らな過ぎていた。

なのに、私・・・。自分の感情を押し付けてばかりで、カルト様申し訳ありません。」

エスニャは顔を手で覆って涙する。

 

おそらく、先日の平手打ちの事を言っているのだろうか。いや彼女はもっと心因的な事を言っていると思われた。静かに肩に手を当てて彼女を落ち着かせるように振る舞う。

 

「カルト様はずっとお一人で闘われていたのですね、人間不信になっておられてもおかしくないのに一人奮起してこられた方に私のような者がカルト様を支えるなんて・・・。おこがましいです。」

嗚咽が堰を切ったように漏れ出していく、彼女の気持ちが自身の胸に吸い込まれて癒されていく。

 

(忘ていたよ、この感情・・・。安らぎを・・・。)

あの頃、ラーナ様に救出される直前の俺はすっかり魂が擦り減ってしまって心が乾ききっていた。来る日も来る日も戦場に赴いて敵兵を屠る毎日、希望もなくただ黒い世界を歩む・・・。

そんな中でラーナ様と出会い、レヴィンに助けられて過ごした日々を愛おしく感じたあの頃を鮮明に思い出した。

カルトは少し、笑って彼女の髪を撫でた。

 

「俺の為にそんなに泣かないでくれ。

シレジアのレヴィン王やラーナ様に助けられてここまで歩んできた。そして今はエスニャ、君やこのシアルフィの連合軍のみんなに支えられながら進んでいるんだ。恐るものはない。」

 

「・・・はいっ!」彼女は涙を拭ってははにかんだ。

 

 

 

二人の様子を上階のバルコニーで伺っていたアイラとホリン、それにデューとマリアンとシャナンは二人を見守っていた。

当初はカルトがキンボイスの元に向かうとの事でその後、アイラはキンボイスの処断しようと画策をしていた。

カルトが情報を聞き出した後であればいいだろうと思っていたのだが、そのやりとりをみて興が冷めてしまったのか息巻いていた時の抜き身の剣はすっかり鞘に収まり、腕組みをしている。

 

「ふん、まあいいだろう。シャナンは無事だった、奴を殺しても何も始まらん。」

ホリンは笑みを浮かべて同意する、できればアイラには余計な殺害に加担はして欲しくないのがホリンの意見であった。

 

「しかしホリン、奴がお前のいう信頼できる男か・・・。」アイラはカルトを見ながらそう言うと

「ああ、奴がいなければここに俺もマリアンもいなかっただろう。シャナン様もアイラも奴がいなければどうなっていたか。」ホリンは返した。

「確かに、感謝せねばならないな。」アイラは再度笑みを浮かべる。

 

「アイラ、俺たちはこの後早々にヴェルダンを抜けてアグストリアに向かう。

シャナン様がシアルフィ軍に駐留すればシグルド公子のグランベルに対して在らぬ噂が立つ恐れがあるとカルトが言っていた、エルトシャン王にも手引きをお願いしているそうなので準備が出来次第向かうとしよう。」

 

「そうだな、恩義を仇で帰るわけには行かぬ。そうするとしよう。」

「デュー、君はここに残って俺たちとのパイプを頼んだぞ。」

「うん、わかった。」

「マリアン、カルトを頼んだぞ。」

「はいっ!」

イザークの三人は次の目的地、ノディオンへと向かうのであった。




ヴェルダン国

湖が国土の中心に存在し、その豊富な水源の恩恵を受けて大森林が存在する美しい国。
主生産業が農業で、食料事情には明るい国であるが秩序の乱れが酷く山賊や盗賊が跋扈し国軍でもってしても手を焼く荒くれどもが多い。

バトゥ王の政略により、一時は穏やかな国であったが疫病の蔓延から兄弟間の軋轢や家臣達の暴走によりガンドロフ王子やキンボイス王子の抑制が効かなくなり秩序の崩壊が訪れた。
サンディマの干渉によりさらに国内は混乱し、シアルフィ軍と対峙する事となる。

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