ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻)   作:Edward

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この回、すこしらしくない回になってしまいました。
今後、すこし書き直す事になるかもしれません。



深緑

使者捕縛!

マーファにいるシアルフィ軍はその報告に落胆を露わにする。先日送り出した交渉による終結はなくなり、ヴェルダン国存亡の事態にまで引き上げられた。

 

グランベル本国から参られた使者は、戦犯であるガンドロフ王子に加えバトゥ王の処断を要求していたがシグルド公子はまず交渉による模索を探り始めていたのだ。その矢先に使者の捕縛という暴挙にとうとうヴェルダン国掃討の命が正式に通達され、即座に軍議に入る事となった。

 

円卓にはシアルフィのシグルド公子、レンスターのキュアン王子、ヴェルトマーのアゼル公子にドズルのレックス公子、ユングヴィのエーディン公女、フリージのエスニャを伴ってカルトが席に着く。

それ以外の者は円卓ではなく傍聴に近い形で簡素な椅子に座り、有力者達の言葉に耳を傾ける。

 

 

「カルト公、レックス公子、ジェノア攻略ありがとうございます。あなた方の力では問題ないかと思っていたがここまで早く落としてくれるとは思いませんでした、まずはお礼申しげます。」

シグルドのお礼に二人は頷いて返す、今からさらに大変な戦が予想される、浮かれるような言葉は必要ではないとの意思表示である。

 

シグルドはオイフェに合図を送り、次の進行を促すとすっと立ち上がり書面を読み上げる。

「では、これよりヴェルダン国攻略に向けての情報を整理したいと思います。

現在ヴェルダン国はキンボイス王子の捕縛、ガンドロフ王子の掃討により兵力の大半が瓦解しております。

しかしながら深い樹海に加えて山頂付近に立つヴェルダンまでの道のりは厳しい上に最後の嫡男であるジャムカ王子と率いるハンター部隊は侮れない力を持っています。」

 

「この混成部隊の大半は騎馬部隊だと思うが、山頂まで馬で登ることは可能なのか?」

カルトの発言にオイフェは慌ただしく紙面を探し出して情報を見つけ出す。

 

「不可能ではありませんが、馬に乗るより人が歩く方が早くつけるくらいひどい原生林との事です。

道を誤れば、精霊の森と言われる聖域があるそうで迷い込むと二度と出てこれないと麓の村では言われております。」

 

「つまり、これは・・・。通常攻略では打つ手が無い状態だな。」キュアン王子は冷静に分析し、シグルドに目をやった。シグルド公子もこれには案が出ていないようで苦虫を噛み殺している。

 

レックス「地の利はハンター部隊、迂闊に飛び込めば蜂の巣だな。」

アゼル「天馬部隊も下手に飛べば格好の標的になるし、ジャムカ王子の弓技はユングヴィのアンドレイ公子に勝るとも劣らない能力を持つと言われている。」

 

沈黙する、こちらの圧倒的不利とあちらの最大戦力が活かされるこの状況において数で圧倒しても惨敗してしまう恐れがあるので沈黙でしか返す事が出来ないでいた。

 

「少数精鋭でいこう。」シグルドの言葉に一堂が注目する。

「騎馬部隊はここマーファで待機し、徒歩部隊として経験を積んでいるもので部隊を組み山中を行こう。ハンター部隊は脅威だが数は少ない、こちらも少なくして的を少なくして臨む。」

 

クブリ「確かに、下手に大部隊で行進するよりそちらの方が魔法探知の誤差も少なくて済む。」

デュー「それならおいらは先頭を行けば暗闇でも目が利くから、視覚でやつらより早く見つけてみせるよ。」

 

カルト「それと、やつらにはサンディマという魔道士がついているらしい。」

その言葉に再度一堂はカルトに視線を集める事となった。

 

「エーディン公女救出時に天馬部隊のフュリーが遠隔魔法を受けたらしいのだが、かなりの手練れの可能性がある。そちらにも十分警戒して欲しい。」それには同意を示す頷きが返されるのであった。

 

 

「カルト公、少しお話がある。」シグルドが軍議を終えて足早に退出するカルトを引き止め、私室に招かれる。

私室に入ったシグルドはワインを取り出してカルトのグラスに注ぐ、アグストリア産のワインは芳醇な葡萄の香りが強くて他国の貴族には有名であった。カルトも何度か味わったことはあるが有事中、それもヴェルダンで飲めるとは思えずに首を傾げる。

「この間エルトシャンから譲り受けた物だよ、味が変わる前に君と飲み交わしたかった。」

 

「私のような辺境の一貴族にこのような待遇をしていただけるとは、光栄の極みです。」カルトは礼節に従い一口含む、芳醇な香りが一気に脳髄へ浸透して深いあじわいが広がった。喉を越えると一気に冷たい液体が熱を持ったかのように腹部を暖めた。シグルドも続いて飲み干す。

 

「シグルド公子、私に何か聞きたい事があるんじゃないか?」カルトの言葉にシグルドは一瞬動揺をしたかのようにかんじた。あのような大胆な作戦を打ち立ててきた彼とは思えなくらいでカルトも一瞬警戒してしまう。

 

「もう少し酔ってから言おうと思っていたのだが、キュアンに聞くには少し距離感が近すぎてな・・・。

カルト公なら聞けるんじゃないかと・・・。」ぶつぶつと何か煮え切らないような言葉を口にする、カルトは一瞬壊れてしまったのか、とまで思う程であった。

 

「シグルド公子?」カルトの問いかけに意を決したようで、振り向き直った。

「先ほど、マーファ城下で戦後処理中に美しい娘に出会ってしまったのだ。」

《は!はいいいい!!》

 

「彼女は精霊の森に住んいると言われていて、人と接触してはいけないらしい。私には意味がわからないのだが、どうしても彼女にもう一度会って話がしたいのだ。

あなたなら何か彼女に会える手段があるんじゃないかと思って声を掛けたのだ!どうだろうか?」

初めは色恋沙汰と思い、思考を停止していたカルトであるが精霊の森にいつものカルトに戻る。

 

 

精霊の森

それは、祖父であるアズムール王との謁見にて聞いた言葉の一つ。

ロプト帝国血脈の一人、マイラが反旗を翻して聖戦への道が始まった。その功績により血の粛正で唯一生き延びた者。その者が世俗を離れてなおも子孫が生きているなら会わなくてはならない、現状はどのようになっているのか知る必要があるとカルトは感じた。

 

シグルドがいう女性は、人と接触してはならない事よりマイラの末裔である事が予想できる。

マイラの血族を脅かそうと森に入り込めば磁石も効かず、魔力も探知できない聖域に常人が入り込めば二度と戻る事はかなわない。古来より人と獣を棲み分ける地として精霊の森と言われているそうである。

 

「シグルド公子、おそらくあなたが見初めてしまった女性は精霊使いの者だろう。彼女達は外部の接触を極端に拒み、自然の摂理に従って過ごしている。悪い事は言わない、彼女の事は忘れた方がいいだろう。」

 

「な、なぜだ!精霊使いと言えども同じ人間、分かり合えない事など・・・。」

シグルドは立ち上がり誰にでもなく非難する、カルトはグラスのワインを一口飲んでシグルドを見る。

 

「そうでしょうか?シグルド公子は本当に互いをわかり合えば気持ちは通じるとお思いですか?」

カルトの言葉にシグルドはゾクリとする。

まるで言った言葉を否定するような物言いにシグルドは対抗して否定したいところであったが、彼の生気を失ったような口調にその先が言えないでいた。

 

「会話をすることで分かり合える事があるのは知っています、だが今の私の話している次元はもっと先にあります。シグルド公子、あなたはその見初めた女性の本質を知った時に同じ事が言える自信がありますか?」

 

「・・・・・・・・・どういう事だ、カルト公。あなたは何を知っておられるのだ。」

「彼女の事が知りたいですか?」

「無論だ、知った上で彼女にもう一度話がしたい。」

 

「私も確証はないのでこれ以上はその彼女に会うまで何も言う事はありません。しかし、私の予想通りなら・・・あなたに恨まれてでも2人を止めるかも知れません。その時が現実になった時、あなたは私と戦う気概はありますか?」

カルトは魔道書を取り出してシグルドと対峙するかのように構える、シグルドも咄嗟の動きに腰の剣を確認するかのように身構え、カルトを見据えた。

2人の空気が途端に怪しくなる、殺気は無いが相手を見極めんが如き物々しさに眼だけが鋭く牽制している。

 

「カルト公、私にはあなたの心中はわからないが私の為にそして彼女の為に言っている事は理解した。

しかし困難は回避する事だけが最良とは私は思えない、その困難を乗り越えて支え合う事が出来る道があると信じている。」

 

「シグルド公子・・・。」

「もしカルト公の言う事が本当であれば私を止めて欲しい、彼女が私を受け入れてくれるようならカルト公の意見も聞かないだろう。

この度の戦争で数々の恩を受けた身だ、カルト公の判断において私の始末をお願いする。」

彼はここで腰の剣を鞘ごとカルトに渡す、つまり彼はどこで私に殺されても文句は言わない。

命をカルトに委ねると言うのだ。

シグルドの言う、困難を乗り越えて支え合う事にシレジアのカルトも含まれている事を意味していた。

カルトは、魔道書の持つ左手が震えていた。

 

今までシレジアとグランベルの意識しながらここまで戦ってきた、シレジアは同盟の立場でグランベルの決定に忠実でいようとするカルトの行動。

グランベルの勝利をあくまで補佐するように考えていたのだが、シグルドは参戦した時からシレジア軍にも同じ国の戦友のように振舞ってきた。これは味方の士気を上げる為のものであり彼の戦場での胆力と思うところがあったのだが、彼には表裏なくどんな国の者でも受け入れ自然体に接する。

 

いつの間にかカルトも人の裏を読んでばかりしてしまい、シグルドのような高潔な意思を読み取れないようになっていたのである。

かつて無償の愛情を注いでくれたラーナ王妃にひどい事を言ってしまった時のような気分になる。

 

 

カルトはいつの間にか持つ魔道書を下ろしていた。

「・・・シグルド公子、私こそ申し訳なかった・・・その御決意お見事です。

私はあなたの決意に従います。シレジアもグランベルも関係無く、あなたとの約束を全うしましょう。」

魔道書を胸に抱き、シレジア宮廷魔道士の御意を示す一礼をする。

 

「カルト公・・・、ありがとう。君の協力頼もしく思える。」

「憂うる問題は私におあずけください、打破して見せます。」

カルトとシグルドはワインのグラスを交わすのであった。

 

 

シグルドの部屋を出たカルトは再度考える。

もしシグルドの見初めた女性がマイラの子孫であり、その血脈の者であればロプト教団は見逃さない筈はない。精霊の森を出るという事は彼女は見つかってしまう恐れがり、捕縛されればロプトウス復活の鍵が一つ開いてしまう事になる。

さらにロプト教団がもしあの魔道書を手に入れていたとすれば、世界に再び百年前の地獄が始まる事になる。

 

いや彼女は直系ではない筈・・・、マイラが粛正を逃れた厳しい制約の中に2人以上の子を設けない事が条件だった。その条件を遵守させる為に精霊の森の精霊使い、シャーマン達監視の元で生活しているのだ。

ロプト教団が彼女を手に入れてもすぐにはロプトウス復活にはならない。

それならまだ打てる手はある、失敗しても次の手、また次の手と打てるのであればシグルドの思いを遂げさせてもいいのではと思ってしまう。

 

一度、アズムール王にお会いしてご意見を聞くべきかもしれない。そう思ってしまうカルトであった。

 

 

 

 

 

二日後、シグルドの思いは届かず、ヴェルダン攻略へと進軍を始める。

先頭にはデューがハンターの察知役で進軍し、シアルフィの下馬したノイッシュとアレク、重装備ではないアーダンがデューを護るように側に待機する。

その後ろには魔法探探知で索敵に徹するクブト、遠隔攻撃に優れたアゼルとエスニャとミデェール、攻守に優れたカルトとお付きのマリアンが控えている。

 

若干離れて後ろにはシグルドやレックス、エーディンを戦闘に、徒歩となった精鋭部隊が進軍する。

第一陣が安全を確保しながら進み、その安全エリアを進軍する事により第二陣がハンターの的にならないようにする。ハンターが射的範囲にいる場合は目視感知するデューと魔法探知するクブトで認識し第二陣の進軍を止めて排除にかかる作戦である。

 

やつらは山中で待ち伏せし、テリトリーに入ったものを射殺す事に長けた部隊であり正面から戦うタイプではない。単独行動が多いので固まって進軍するよりも能率がいいとの判断であった。

 

険しく、道とも言えない道を進む。昼にもかかわらず頭上を覆い隠す深緑により陽があたらない、その為雑草はほとんどないが木の根っこに蹴躓き声を上げそうになる。

 

「いるよ・・・。」

デューが足を止めて警警戒する。

クブリの探知魔法は自分を中心に魔力が放射され、動く物があれば反応するのだが初めから動いてなければ人がいても反応できない。その欠点を埋めるべく眼のいいデューが探知に成功する。

 

ノイッシュ、アレク、アーダンは盾を掲げて弓の襲撃に備える、いつもは接近戦用の系の小さな円型の盾を使用するシアルフィ軍だが今回は弓用に系が大きくて方形の盾を持参している。弓が通らないように陣形を組んでデューの警戒する方向へ掲げた。

その瞬間にノイッシュの盾に鋭い一撃が当たる、もしデューがいなければノイッシュの心臓を貫いて一瞬で即死していただろう。

 

ミデェールはすぐ様反撃の一撃を放つが手応えはない、おそらくこちらの作戦と動向を知る為の偵察と思われる。一射放った瞬間にその場を離れたのだろう。

こちらの手の内を報告される事は痛手ではあるが、これは仕方がないと頭を切り替えた。

 

 

「みんな駄目だよ、見つけた以上は確実に倒さないと。」進行方向からデューがハンターを引き摺りながら姿を現わす。

「い、いつの間に・・・。」アーダンが呆然とする。

「盾を掲げた瞬間だよ。それよりも気をつけたほうがいいよ、これ・・・。」

デューはハンターの遺体から装備品を抜き取り一本の矢を見せる、矢には液体が塗布されており滴っている。

 

「毒か・・・。」カルトは険しく告げた。

アレク「これは戦争ではないな、手段を選ばない連中ってわけか。」

ノイッシュ「呑気な事を言ってる場合か。」小言で一括する。

 

「でも、こういう場合は・・・。あった♪」

さらに遺体を物色する、騎士である面々はどうしても死んだ者への侮辱行為と思うのだが盗賊であり生きる為の技術に秀でたデューを非難するわけにはいかない。まさに毒で持って毒を制するわけである。

 

デューはこの手の猛毒は取り扱いが非常に難しい事は知っていた。致死にまで至る毒は当てる事が出来れば急所を狙わずとも相手を毒殺できる、しかしながらそれは諸刃の剣である。

矢を使う者ならよく分かる事だが、矢尻で自身を傷付けてしまう事があるのだ。だからこそ必ず解毒剤を持っているのである。デューは小さな袋を見つけてカルトへ渡す。

 

「なるほど・・・。」カルトも感心する、デューがいてくれて心強く感じるのであった。




極力、自身の世界観をわかりやすく書きたかったのですがなんだかごちゃごちゃしてしまいました。
カルトがどこまでディアドラの事を知っているかを書きたかったのですが不充分になってしまいました。

なんとか今後に、説明したなあと思います。

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