ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻)   作:Edward

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ヴェルダン編も仕上げ段階となりました。
もう少しペースを上げていきたいのですが、やはりキャラクターが多くなってくると出てくるオリジナルイベントが多くなりましてペースが上がりません。他の方の小説を見るたびに、テンポの良さに感服いたします。


不明

「ジャムカ!」

原生林の中、日が完全に落ちた頃にデューはジャムカの影を懸命に追いつきナイフを投げつけて制止をさせる。

背中を狙ったが、空気を切り裂くナイフの音で判断したのか命中寸前で空中舞い上がり回避する。

そこで体を捻りデューと対峙した。

 

「やはりデューだったか、エーディンも来ているのか?」

「うん、来ている。今ジャムカが撃った人を一生懸命治している。」

「悪いが俺の狙った者が助かった奴はいない、気の毒だがな。」

 

「・・・・・・・・・ジャムカ、オイラあんたが好きだよ。ここまで荒れ果てている国でも、見放すことなくジャムカなりに立て直そうとしている。見捨てないようにしている。

・・・エーディンはまた逢いたいと言っていたけど、ここで倒させてもらう!」

デューは剣を抜いてジャムカに殺気を向ける。

ジャムカも肩にかけた弓をいつでも射掛けるようにデューに向き直った。

 

デューが先に突進する。蛇行するようにステップを踏み、身は地を這うような前傾姿勢を保って突撃する。

ジャムカはその疾走からの一撃を再び跳躍により回避する、頭上にある木の枝を掴み半回転して枝に降り立つと即座に弓を射掛ける。

デューも幹に飛び込み矢を回避すると、ジャムカに負けない跳躍を見せて枝に降り立ち枝から枝へ走るようにジャムカに向かう。

 

デューもまたジャムカに勝るほど暗闇でも見える眼を持っていた。盗賊である彼は原生林の暗闇に慣れたジャムカとは違う環境でその眼を鍛え、実戦に応用している。

 

ジャムカの至近距離まで突進し、ショートソードの袈裟斬りにジャムカも腰にある剣で受け止める。

しかしその身体ごとの一撃に枝より二人は落ち、受け身をとって即座に相手を確認する。

 

デューはすぐさまサイドステップする、やはりジャムカは弓に持ち替え一擲放っていた。

空気の切り裂く音も最小の矢はデューのいた場所を確実に刺さっていた。

 

デューもまた、その剣尖は確実にジャムカを狙っておりジャムカの回避能力が少しでも狂えば確実に致命傷になるような一撃ばかりである。

連続攻撃の合間に足払いでデューのバランスを崩してようやく距離を取ることができた。

 

原生林は再び静寂に戻っていく。

距離を取られたデューは相手の気配が消されている事に気付いた、おそらくサイレントハントの名において最も得意な遠距離からの無慈悲な一撃を見舞うつもりだろう。デューも気配を消し、走行する音も最小にして辺りを警戒する。

先に相手を位置を認識された時に命を落としてしまう、無音の攻防戦が繰り広げられていくのであった。

 

(遠距離攻撃が強力な分、接近戦に持ち込めば勝ち目がある。と思っていれば勝機はないぞ、デュー!)

ジャムカは弦の加減を確かめつつ、デューの気配を探る。

デューの剣技は一流とは呼べないが、盗賊としての技能と剣士としての戦闘技術が合わさり独自の剣術として確立している。実際にジャムカと不利な地形で互角に渡り合っている事から油断はしていない、多少縁もあるが戦場における非常は理解している。

なのにここまでデューがジャムカと対等に戦っている事にジャムカは違和感を覚える。一瞬思考がずれてしまった時デューのナイフが飛んでくる、油断のない男である。

ジャムカは枝から飛び降り、降下しながらナイフの方向からデューの位置を割り出し弓を放つ。

 

デューはここで違和感を感じた。

矢の動きが先ほどとは大きく違っているのだ、鏃は異質な程先端分から左右の重りのバランスが違っていてとても命中できるような鏃ではなかった。それでもこちらに真っ直ぐ向かってくるのはジャムカの腕と認識し幹に回り込んで鏃の回避を行うのだがデューの意識が一瞬逡巡する、それはエーディンとデューが助けられて館にいた時のジャムカである。

ジャムカはあの時弓の訓練をしていた、最後の一撃が的を貫通した光景を思い出してデューは幹の回避を取りやめさらに後ろに飛び退く。

予想を的中したその矢は幹を貫通させて、デューの先ほどまでいた場所 に鋭く突き刺さる。汗を拭き出させたデューはここで懐に手を入れて球状の物体を地面に投げつけると大量の煙が辺りを包み始め、さらに視界が悪くなる。

即座に距離を取ろうと後退を続けた所に矢がデューの左肩に突き刺さる。

「くっ!」走る激痛を奥歯を噛み締めて殺し、転がるように岩の陰に潜んで息を飲んだ。

 

デューはすぐさま解毒薬を飲み、刺さった矢を抜いて止血を急いだ。

煙玉を使ったのは迂闊であった、おそらくジャムカは煙の動きからデューの身のこなしを予測して放ったようである。そうでなければ心臓を射抜かれていただろう、視界のないあの場面で心臓に近い肩を射抜いたジャムカは経験値も実力も一級品のハンターであった。

岩場の後ろからせせらぎの音に気付き、ジャムカの警戒をしつつ川の水を一口飲んだ。

冷えたその水はデューの脳に酸素を送り込み、癒していく。

 

(このままでは、いつか射殺されてしまう。)

デューの率直な感想であった。接近戦にまともに持ち込めない状況では常にアウトレンジから襲われるジャムカの矢に神経をすり潰している、疲労にて先に参るのは自分であるのだ。

しかし焦れて飛び出しても狙い撃ちされてしまうだけである。

 

思考の袋小路に陥ったデューは、再度逆転の望みを考える。煙玉の効力が残っているうちに何か足掛かりになるものが必要である。

口元の先ほど飲んだ水を拭いとった時、デューに一つの光明を思いつくのであった。

 

 

 

 

エスニャとエスリン、クブリの懸命な止血により、エーディンが臓器や血管の再生に注力し生命危機から脱する事に成功する。

カルトの顔から力が抜け血色が戻っている、あとは本人の覚醒が必要なのだが普段の疲労もあるのだろうか意識を戻す様子はまだなかった。

 

レックスの活躍により被害は出たものの、尾根の制圧に成功する。

デューがジャムカ王子を足止めしている為指揮官不在による指揮の低下も大きな要因になっている、ハンター部隊は不利となると早々に撤退した節がある。

尾根の野営地を手に入れたシアルフィ軍はカルトを連れて移動する。既に闇に包まれた森での移動は松明の灯のみの移動であり、余計に時間を要する。敵ハンターが潜んでいる危険もあり軍内のストレスは最大の物なっており、誰一人として話をする物がいないでいた。

 

「な、なんだ!」そんな中で後方部隊から聞こえる慌しさに気付く。

後方には、徒歩部隊としてあまり戦力にならないが前線部隊の補充と補佐部隊としている部隊が追従しているにだがその部隊に何かあったようで後方から慌ただしい混乱状態に陥っていた。

そして間も無く、伝令から衝撃の報告がもたらされる。

 

それは遠隔魔法による後方部隊に多数の被害、シグルド公子の消失である。

衝撃の報告に前線部隊は推進力をさらに失う事となるのであった。

 

 

 

野営地を手に入れたシアルフィ軍、いや指揮官不在の為今は連合軍といった方がいいのかもしれない。

残されたレックスを先導に明日からの会議を行うが、それは決していい議題ではない。

険しい顔のレックスと精彩を欠いたアゼル、無理な魔法を使用したエスニャや高度な魔法制御で回復に徹底したエーディンは疲労困憊で会議にも出席できないでいた。

会議を開いたのだがその重々しい雰囲気に先を切って話す者はなく議題の消化が著しく悪いものである、それほどシグルドの指揮官能力と潔い決断による進軍により、知らず知らずの内に誰もが指揮官として認めてきた証でもあるのだ。

 

「情けないな、これが大国の公子達の会議か?まだ負けたわけでもないのにもう敗戦処理の準備を考えているのか。」キュアンがエスリンを伴い、会議の場に入る。彼もヴェルダンの遠隔魔法の攻撃を受けたのだが、うまく回避して大きなダメージは回避したのだが足を負傷してしまいエスリンの回復魔法で歩けるようになったところである。

「馬鹿な!俺たちに敗北などない!しかしながら奴らの遠隔魔法を対処する術もなく突っ込むのは無謀、まだハンター共もまだ残っている。このまま無策で突っ込むわけにはいかない。」レックスはキュアンの挑発に舌戦する、彼も聖戦士の血を引く者、戦いにおいて萎縮する訳にはいかない気概は強く持っていた。

 

「だからこそ、カルト公の知識とシグルド公子の決断を仰ぎたいのではないか?

今シグルド公子達はいない、あの二人に報いる為には残された者で打開するしかないんだ。シグルド公子も、カルト公も必ず戦線に復帰する。それまで信じてヴェルダンへ進むんだ。」

 

キュアンの鼓舞がグランベルの諸侯達に再び力が宿っていく、大国グランベルの若い息吹はまだまだ成長途中であることをクブリは目を細めて見るのである。

 

 

 

「あ、ああ・・・・。」苦悶の表情で川に両腕を晒して喘ぐエスニャの姿があった。

(こ、これがアゼルの言っていた禁忌を犯した罪なの?)

両腕には焼き焦げた痕が残り、川から腕を上げるがその痛みに川面の上まで持ち上げることが出来ないでいた。

 

少し時を遡る。

カルトの回復を終え、彼の仮設テントから出て自身の魔力を感じて見る。

無理に使えない魔法を使った反作用はどうなるのかわからない、アゼルはそう言っていたがエスニャは自身に魔力を秘めている事を感じ取り安堵する。そして軽く雷魔法を使用した時に事態が起こる。

 

自身の魔力が調節出来ないのだ、魔力の器から必要分魔力を注ぎ出そうとしても一気に魔力が溢れ出す。

溢れ出た魔力は雷に際限なく変換され自身の体を中心に纏わりつき出したのだ。放とうとしても放つ事は出来ず、雷の帯電は体を媒介にし始める。

そしてある一瞬、帯電した電気はエスニャのすぐ近くの木に放電され、放電された腕が焼けてしまったのだった。

 

「大丈夫ですか!」エーディンが轟音で事態を確認し、エスニャにリライブを使用する。

「エーディン様、有難うございます。」焼けた腕がみるみる内に治癒されていく。もう少しでも放電が遅ければ腕はおろか全身が黒炭と化していたであろう。

 

「やはり、あの時の影響ですね。」エーディンは語りかける。

 

「・・・カルト様が助けてくださった命です、魔法くらい使えなくなっても大丈夫です。

魔力がなくなった訳ではありません、きっと使いこなしてみせます。」

彼女は健気に、気丈にエーディンに答えを返した。エーディンもその気丈さに笑顔を見せて微笑みあった。

 

「エスニャはお強いのですね、私は・・・あなたの強さが羨ましい。

・・・・・・ごめんなさい、今のあなたにはお辛いですのに。」

彼女からはエスニャと違い気丈ではあるが故に弱さを吐き出す。

 

「エーディン様?」

「・・・ふふっ、ごめんなさい。あなたとカルト様を見ていると羨ましくて。」

エーディンは一瞬弱さを見せるそぶりであったがすぐに立て直し、エスニャの話題に引き戻す。

エスニャは途端に真っ赤になり下を向いてしまう、気丈な彼女もここまでのようである。

 

「あ、あのあの・・・。」エスニャの思考は完全にパニックに陥る、今までカルトとの経緯などストレートに聞くものはいなかった事と、エーディンからそんな話題を投げかけてくるとは露とも思っていない事から最高潮に困惑した。

「エスニャもフュリーさんも、そしてデューも。カルト様に慕われているにですね。

私はカルト様と話をした訳ではないけれど、あなた達からカルト様の話を聞くたびに彼の温かみを知ってみたくなります。」

 

「えっ!それは・・・、駄目です!エーディン様までカルト様を狙われたら、私!!」

エーディンは硬直する、彼女にそういう意味をとられない様にデューの名前を出したのだが混乱しているエスニャには通じていなかった。エスニャも今になってその意味を感じ取り、さらに顔が真っ赤になる。

 

「%€~?£¥*^.?」エスニャがもう壊れたと言っていいほど訳のわからない言葉が飛び出す。

回復が終わったその手を振り回していた。

「ふふっ!」エーディンが吹き出して笑った頃、エスニャも落ち着きを取り戻していくのであった。

 

 

不意に川の対岸の草むらが動き出す。

「誰!」エーディンの凛とした声が対岸の来訪者に浴びせた時、姿を現わす。

 

「エーディン様・・・よかった。無事にここまでの来れたんだね。」

その声には聞き覚えがある、エーディンをマーファの外まで助け出してくれた恩人である。

 

「デュー?なの?」

川の対岸間際に歩み寄ってきた時月明かりが彼を、いや彼らを映し出した。

デューは全身泥と血で塗れており、右目は傷を負っている様子はないが閉じられている。

肩には敵であるジャムカを縄で縛った上で背中に抱えていた。

 

「デュー?あなたまさか・・・。」

「・・・うん、約束通り連れてきたよ。」

「デュー・・・!」彼女は祈る様に対岸のデューに涙を流して見つめる、彼は敵国であるが必ずエーディンともう一度会う機会を作って見せると言っていたのだ。

敵国の、それも腕利きの王子を捕縛するなんて簡単なことではない。殺す以上に難しい事をエーディンとの約束一つで達成させたのだ、エーディンはその感謝を言葉に乗せる事は出来ず涙が流れるのみであった。

 

対岸からフラフラと渡ってくデューをすぐさま軍が救援し、こちら側へ引き入れすぐさま治療が施される。

デューは解毒薬を持っていたとはいえ、複数の矢を受けておりここまで来るだけでも大量の出血と猛毒で意識を保っていた精神力に驚かせられた。

対するジャムカは目立った外傷はなく意識を失っているだけであった、どのような状況でこのような結果になったのか判断できないでいたが彼の勝利は薄氷での戦いであった事が理解できた。

エーディンの懸命な治療と解毒でデューもようやく一安心できるくらいにまで回復する、さすがの彼女も心労が心配になるほどである。

 

「エーディン・・・。」

「ジャムカ・・・、またお会い出来ましたね。」彼女は微笑む。

 

「デューのお陰だな、あいつが命をここまで賭けなかったらこんな結果にならなかっただろう。

例えデューを倒したとしても、俺もシアルフィ軍に倒されただろう。」

ジャムカはやはり決死の思いで戦場に望んでいた、だから勝っても負けてもエーディンに会う事はないと思っていたのだろう。しかし、デューの意志力がジャムカの決死を振り落としエーディンの願いを果たしたのだ。

 

「ジャムカ・・・。」

「俺はヴェルダンの王子だ、捕縛された以上抵抗する気はない。

だが、もし生きる事が出来た時は君の指示に従おう。」それはマーファの街でジャムカに言った一言だった。

 

(シアルフィのシグルド様に相談して、話し合えばきっと分かり合える。)

エーディンは涙を流して何度も頷く。

 

シグルドは行方不明、カルトは意識不明のまま不安な一夜は、わずかな冷光発する月明かりの元で更けていくのであった。




エーディン

プリースト
LV 8
杖 B

HP 18
MP 19
力 7
魔力 10
技 12
速 16
運 15
防 3
魔防 10


ユングヴィ家の二女、ウルの傍系の能力を持った美女。
一見聖職者のパラメーターを持っているが、弓を扱えばなかなかの腕前である。
姉と離れ離れになってからのショックにより聖職者の道へ進み出すが、未だに見つからない状況でも気丈に見つかる事を信じて祈りを捧げている。
回復技術は相当であり、止血はおろか組織を再生させる事も可能。
エッダのクロードの手解きにより、血筋の枠を超えてそれ以上の能力開花した稀な人物。

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