ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻)   作:Edward

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いつもの事ながら更新が遅くなり申し訳ありません、なんとか今回から入るアグストリア編の冒頭が作成できました。

いつくもの伏線を作っていたのですがここで多少合わせていかなければならないと思い、作成していたのですがうまくいかずに時間だけを浪費してしまいました。

相変わらず、確認ができておりませんので脱字などありますが温かい目でみていただけたらと思います。


四章 アグストリア編(内乱)
捕縛


カルトが婚礼の儀を終えても彼の激務は変わらない、戦災に見舞われてたヴェルダンの復興を支援し続けていた。

世界は各地で不穏な動きを見せており、いつまでもこの地に留まっていることはできないだろう。

カルトはそう確信し、今出来うる限りの事を行う。

 

その一つにはアグストリア諸公連合にて、賢王と噂の名高いイムカ国王が病没されてしまったとの報がここヴェルダンにも届けられた。

その訃報により各国は新たな次期王となる者に注視されていく事になる。

イムカ国王は先の王による反グランベル体制を破棄し、国内の平定と維持に尽力した。軍縮を行い逼迫していた国益を公共事業に注力し、中央に位置する大森林の開拓に成功し莫大な富を得ることができた。

隣国との関係修復を行い、不利な条件も受け入れて不可侵条約をグランベルと交わしたのである。そしてそんな折にシレジアとアグストリアは同盟条約を結んでおり、グランベルよりも関係は深かった。

 

シレジアは、一年の半分が雪に覆われてしまう大地の為農耕には向かないので輸入に頼らざるを得なかった。幸いにも鉱物資源が豊富な為、アグストリアに鉱物資源を提供して食糧を譲り受けるシステムが出来上がった。

それそれまでのシレジアは慢性的な食糧難で、頼みの綱は海洋に出ての漁か山中の大型動物を狙った狩猟しか得られなかった。大陸の北端であるシレジアは海の時化が酷く漁も危険を伴い、狩猟にしても安定供給ができるわけでもない。

イムカ王はそのシレジアの情勢を見切り、開拓した食料を提供する事にしたのであった。その結果シレジアから提供される鉄鉱石により強力な武具を作成する事ができるようになり、グランベルに匹敵できる軍事力を持つようになった。

それでも不利な条約はそのまま続ける事により両国はそれなりに良好な関係を継続できていたのである。

 

イムカ国王の死によりバランスが崩れ去ろうとしている事は各国も認識しており、次期国王となる人間に警戒しているのである。

次期国王となるシャガールはかつてエバンスよりグランベルに出兵し、ヴェルダンにその奇襲を受けて一軍を壊滅させた愚物。イムカ王の謝罪によりグランベルとの戦争は回避できたがエバンス領を失い、相当の賠償金を支払う事となった。

 

その愚物が王になろうとしているのだ、隣国であるグランベルもシレジアも同様の条約が継続できるのか懸念材料となっていた。

シレジアとの貿易協定は、アグストリアにとってアキレス腱。たとえ愚物であろうともこれを反故にする事はないというのがカルトの見解だがグランベルとの不平等条約に近い条約はまず継続されないだろう。そもそもその条約の不満よりシャガールは当時出兵したくらいだと思っている。

 

その不平等な条約を溜飲したイムカ国王の苦渋の決断に理解を示さない次世代のリーダーは、不平等ではあるが条約に守られて一時の平和な時代の恩恵を感じられなかったのだ。カルトは残念と感じ、イムカ王へ追悼する。

 

 

 

「おかりなさい。」エスニャの温かい出迎えの声にカルトは微笑んで返す。

考えながらの帰宅で、エスニャに呼びかけられるまで私室に帰り付いていた事も忘れるくらい我を失っていた。微笑みは失笑に変わってしまう。

 

「また、お考え事ですか?あまり根を詰めると体に触りますよ。」

「そうだな、私室に帰ったときくらいは忘れよう。そうだ、さっきシグルド公子から頂き物があるんだ。一緒にどうだ?」

カルトはワインを取り出してエスニャに見せる。以前マーファでシグルドと飲み交わしたアグストリア産のワインで、カルトが気に入った様子だったシグルドは別に入手し、本日の譲り受けたのだ。

 

「まあ、いつもシグルド様のお気遣いに感謝しないといけませんね。

カルト様も見習ってくださいね。」

 

「ああ、善処するよ。さあそれよりも食事にしてくれない?今日も魔力を使いすぎてへろへろだよ。」

くすりと笑うエスニャは隣接しているダイニングへカルトを誘った。

 

 

カルトとエスニャは向かい合って食事を採る、金属の食器が陶器に当たる音がする中カルトはエスニャに問いかける。

「まだ、魔力は使いこなせそうにないか?」

エスニャから元気がなきなり、手に持つフォークが止まる。

 

「こんな時にすまなかった。明日休暇を取るつもりだ、明日一緒に考えてみよう。」

「本当ですか?お願いします、カルト様に是非見てもらいたかったです。」

彼女は途端に嬉しそうに食事を再開させる、それはカルトの指導を受けるとこだけではない事は言うまでもないだろう。

カルトは頬を緩ませて窓の外を見る、この束の間の平穏に家族ができた事を感謝しグラスのワインを傾けた。

この芳醇なワインはこれからも飲用できるのか、一抹の不安を感じながら・・・・・・。

 

 

 

カルトの願いは虚しくアグストリアは新国王に予想通りシャガール王子が即位された、継承式もそこそこに彼は堂々と反グランベルを提唱し、不可侵条約の撤廃と取り決めてしまい諸国は慌ただしく軍事力強化へ移行し始めた。

その報を受けて間もなくカルトにレヴィンから伝心にてアグストリアに対してシレジアの意向を伝えるべくアグスティに赴くように言い渡されたのだ。

つまりアグストリアの国家形態の変化にシレジアとの関係の確認を国王自身より言質を取るとの事である。

レヴィンには大使を出して正式に行った方がいいのではと進言したが、そちらの方が煙に巻かれてしまうらしい。

今は提唱した勢いで舌が回るうちに本音を聞き出しておきたいのがレヴィンの思いであるらしい、危険が伴っても転移魔法で逃げ帰る事ができる。何よりアグスティに渡航歴があるカルトでなら即日で行動できる事もあった

 

レヴィンから連絡を受けたカルトは翌日、 同伴にクブリとマリアンを伴い転移にてアグスティへ向かう。

遠距離転移を行う為、そのまま登城して非常事態があった時に大半の魔力を失ったままでは都合が悪い。転移は夕刻に行い、アグスティで一泊してからとなった。

 

転移に成功した三人はすぐさま城下の宿に入った。

城下町は国王が変わっても国民の生活は依然と変わっておらず、活気ある人達の喧騒は変わっていなかった。民衆の変化はないが街中で見かける軍人の多さは異様であった。

イムカ王の時は軍縮され人々は穏やかであったが、今のアグスティは喧騒に中に緊張感があり肌に感じる物がった。

マリアンもその雰囲気を察したのか、クブリと同様に街中でフードを深く被って顔を出すことはなかった。

 

「カルト様、明日の謁見ですがセイレーン公としてお務めあげをお願いします。アグストリアと貿易協定が破綻すれば、シレジアはまた食糧難を抱える日々となります。」

「分かっているさ。もうちょっと俺を信用してくれよ、ここに来るまで何回忠告しているんだ。」

クブリは室内に上げてもらった食事も手につけず、カルトに説教じみた問答を数知れず行っていた。

 

「カルト様の行動力や、戦闘力は信じておりますが交渉力は苦手と踏んでいます。

だから不安にかられているいですよ、なぜレヴィン様はカルト様に託したのか私には少し信じられません。」

 

「おいおい、行ってくれるじゃないか・・・。まあ、仕方がないか。身から出た錆でもあるな。

おそらくレヴィンは、今回の交渉の是非を俺に託しているわけでは無いのだろうな。」

 

「え、ではなぜ私達はここに行くようにレヴィン王はおっしゃったのですか?」

マリアンは水を流してんで口内を胃に流し込んでから会話に入り込む。

 

「シレジアはもう、アグストリア一国のみで食糧調達をしている訳ではないのさ。グランベルから騎馬の支援があったが食料も入ってきているし、今後うまくいけばヴェルダンのキンボイス王とも交渉して交易を計画している。

イムカ国王のように良好な関係を維持できないようであれば、切り捨てる決断も視野に入れているのだろう。」

 

「なんと、レヴィン王はそんな事をお考えに・・・。」

「わからないさ、これは俺が推測した可能性だ。もしこの交渉を以前と同じようにしようと思っているなら、俺なら俺を使う事は絶対にしないな。拗れる事は目に見えている。」

 

「・・・・・・。」二人は納得してしまう。

カルトは苦笑いをして場を誤魔化し、説明を続ける。

 

「大事な事は現状のアグストリアをよく見ておく事だ。この国は隣国であり、大国だ。

反グランベルを提唱した今、同盟条約を結んでいるシレジアに対しての何らかの圧力をかけてくる可能性がある。レヴィンはその動向を持ち帰って報告する事の方が重要視しているのだろうと俺は考えている。・・・まあ、条約の保持は出来たら出来たで御の字って所だろう。」

 

二人は同調する、どうせ反故にされ兼ねないからこちらも毒には毒で持って制するような事をレヴィン王ならやり兼ねない。

カルトはそこをついてそのように判断した、さらに奴ならこの部分すら読み切っているように思えてならない。

つくづく頭の回転が速い男である、カルトは果実酒を煽って憤りを流し込んだ。

明日は難儀な折衝をすることになる事を想定し、早めの就寝につくのであった。

 

 

 

少し時を遡る。

ヴェルダンから戦線を離れたフレイヤはイザークのマンフロイ司教の元へ転移した。

 

リボーの隠れ家に入り装いを正して司教を待つ、まだ司教はイザーク城で作戦行動中らしいがいつ転移してきてもおかしくない。

フレイヤは椅子に座るも、終始崩す事なく一点を見つめて、司教の帰還を待つ。

彼女の目には揺るぎない意志を持つかのように、最高権力を持つ男にも決して臆する事も畏怖する事もない。

穏やかな心音を維持し続けていた。

 

どのくらいの時が経つのか、夕闇だった部屋はすでに闇に覆われ壁にある鏡に自身の姿も視認できなくなる。

闇は慣れている、暗黒教団の団員は生まれた時から闇の中で生活している。闇はすでに恐ろしい存在ではない、親しい友人とも言える物である。彼女は全く変わらず、姿勢を変える事なく待ち続けた。

 

さらに闇が濃くなる頃、前方の空間が歪むとともにマンフロイ司教が姿をあらわす。

その纏う魔力にフレイヤも背中に寒気を感じる物があった。

 

「フレイヤ、ウェルダンはどうであったか?」

「はい、見つけました。シギュンの子は今シアルフィの嫡男と共にしております。」

「少々見つけるのが遅くなってしまったか・・・フレイヤ、どう判断できる?」

 

「問題ありません、むしろ好都合でございます。計画を進め、シギュンのもう一人の子がこの事を知れば嫉妬に狂うでしょう。

聖戦士に血よりシギュンの血筋を持つ彼ならば、こちら側に偏る事でしょう。」

フレイヤのことばにマンフロイの顔がさらに邪悪な笑みを湛えてその回答に満足する。

 

「人心掌握に長けておるなフレイヤ、お主がいる限りこの国の要人達は手玉も当然である。

サンディマを失った事は大きいがそれ以上の土産であるな。」

 

「ありがとうございます。・・・それと、もう一つ知らせがあります。

イード砂漠でバラン様が討たれた件ですが、その者はシレジアのカルトという人物である事が判明しました。」

「シレジアのカルトか、最近よくその名を聞くがそれほどまでの強者か?」

「はい、恐らくですがあの者は我らの計画を破る者かも知れません。」

 

「フレイヤ、それは言い過ぎではないか?

確かにバランはまだ完全では無かったが我が教団で儂に次ぐ力を持っていた、そのバランを破る事ができるとは思えないが・・・。」

「シレジアの傍系程度の男ではバラン様を破れるわけではありません、しかしその者はオーラを使用できます。」

 

「何!オーラだと。それでは奴は!」

マンフロイは立ち上がり険しくなる、ドス黒い魔力が吹き上がり辺りを冷たい雰囲気になっていく。

 

「はい、精霊使いではない彼が使用できたという事は彼にヘイムの血が流れている事になります。」

フレイヤは大事である一言を結論付けて答えた。

「まずいな、それではせっかく暗黒神が降臨されてもナーガが復活してしまえば勝ち目はない。

クルトを殺害しても、その者がいればナーガが降臨出来るではないか。」

 

「ナーガの書はこちらにあります、まだ分はあるうちにこちらも手を打つ必要があります。」

「うむ、ナーガの書は我らには手を出すことが出来ぬ。カルトという者の処断はフレイヤお主に任せよう。

バランは儂の次だがお前は例外だ、頼んだぞ。」

「かしこまりました。私はアグストリアへ向かい奴らの動向を探ります。」

「それでいい、儂はもう暫しイザークで仕込みを終えたらアグストリアへ戻る。朗報を期待するぞ。」

マンフロイは転移にてその場から姿を消すのであった。

 

 

翌朝カルトは早々にアグスティ城にてシャガール国王謁見を申し出た、シレジアの大使である証を提示した一行は謁見の間に通された。

シャガール王は玉座に座ったまま一行を出迎える形となりカルトの視線が厳しくなる。

同盟国とは対等の立場の筈なのにシャガール王の態度は実に怠慢であり、大使に対しての対応とは思えないでいた。

暗雲が立ち込める雰囲気にクブリは一抹の不安を感じカルトを見つめる、カルトは一つ前に出ると敬礼を行った。

 

 

「シャガール王、お目に掛けることが出来て光栄です。

私はシレジアのセイレーン公のカルトと申します、この度はイムカ前国王が病没されてしまった事に追悼の意をお伝えいたします。」

 

「うむ、シレジアとは前国王からの同盟国としての厚い配慮感謝する。」

「・・・本日はシレジア国王よりの意思をお伝えするたびに伺いました。

我が国王は、アグストリア前国王からの盟約を維持し、これからも変わらない共栄を望んでおられます。」

 

カルトは畏まりその言葉をシャガール王に伝える、シャガール王は玉座より立ち上がりカルトを見る。

いや、この目は睨みつけているとも取れる表情であった。

 

「カルト公、シレジアは最近グランベルと同盟条約を結んでいると聞いておる。

今、この国は反グランベルを提唱したばかりだ。どちらにもつかず二枚舌で凌ぎきろうという腹積りならこの盟約は解消させてもらう。」

 

「・・・それはグランベルと関係を切り、アグストリアへ付けと仰られているのですか?」

謁見の間ではそぐわない言葉がカルトの口から発せられる、雰囲気はガラリと変わり辺りの衛兵も緊張をしていく事になった。

 

「強要するつもりはない、私たちもこれから戦争になればシレジアの金属は必要なのだ。

しかし同盟国が敵対しようとしている国にも同盟を交わしている以上、アグストリアとしては同盟を継続する事はできないと言ったまでだ。

ましてや因縁のある、エバンスにグランベル軍と共にシレジア軍が駐留している事は気に喰わぬ。」

 

「シャガール王、あなたの仰られる事は最もだ。しかしこの度の戦を宣言したのは王ではないですか?

この宣言に大義はあるのですか、あるようでしたらシレジアも王の意図を汲み必要であればグランベル国との三国会談をするように尽力致します!」

 

「ふふふ、大義?そんなものは今から作ればよい。戦とは勝った者が勝者となり弱者は蹂躙されるのみ、カルト公はまだ世の中を理解していないようだ。」

 

「・・・王、あなたの意思は受け取りました。後日、再度使者を送りこの度の件の結果をお送り致します。

これは私情ですが残念でなりません、アグストリアとグランベルが手を取り合って平和を導いて欲しいと願ってました。

戦の犠牲は常に民達である事だけはご理解頂きたいと思います・・・。」

カルトは立ち上がるとクブリとマリアンに向き直り身支度を確認する。

 

「カルト公、ここまで啖呵を切ったのだ。無事に帰れると思っているのか?」

「分かっているつもりだ、この者達は解放してくれれば抵抗するつもりはない。」

「よかろう、次の大使が来るまで身柄を引き受けさせてもらう。貴公を客人として一室設ける。

そこの者!カルト公を部屋に通せ!」

 

「カルト様!」衛兵に囲まれたカルトにマリアンは割り入り、剣に手を伸ばすがカルトがその手を制し小声で伝える。

「マリアン、エバンスに戻ったらシレジア軍を自国に撤退するように指示を出せ。クブリ、詳しい話は伝心する。

エスニャを頼んだぞ。」

 

カルトは自ら衛兵に従い、謁見の間を後にするのであった。




次回からゲームでの二章の始まりとなります。
またオリジナルからは展開が変わってきますのでお願いいたします。

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