ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻) 作:Edward
剣士が開始早々に鉄の大剣で一気に距離を詰めにかかる、魔道士である俺にとって接近戦は不利でしかない。牽制もかねて即座に魔法で応戦する。
「ウインド!」風の魔法には使い方によって種類がある。今回使用した『ウインド』は突風による強い風を起こして突進する剣士の速力を奪う、そして足を止めてから再度『ウインド』を使用する。次は風の刃を作り出して足を止めた剣士に攻撃を仕掛けた、剣士はその場で体を小さくまとめてダメージを最小にしようと防御する。複数の風の刃は彼の鎧に傷つけるが腕を胸の前でクロスし、致命傷を受けないように対処していた。
剣士はウインドをやり過ごすと立ち上がり、体の損傷具合を確かめるように各部を動かす。ほとんどダメージを受けている様子はなく、剣を握り直してこちらを見据える。俺のその間に再び距離を取って次に備える。
大きなダメージは受けていないがこれで剣士は簡単に間合いを詰めてくる事はないだろう。単調に突進しても止められてしまう、次からは虚をつく行動を取る必要があると認識しただろう。
俺は上位の『エルウインド』を使用できる。当たればあの剣士に決定的な一撃を叩き込む事ができるのだが、魔力の消費が大きい上に発動前後にスキが出来てしまう。
あの剣士程の実力者ならそのスキを看破し、飛び込んでくるだろう。だから一撃の重みより使用前後の硬直時間が少ない『ウインド』を優先して使用していた。
ここはダーナの闘技場。基本的には殺生は極力しない事が条件、降参すればその場で闘技は終了する。
互いの力が拮抗すればするほど相手を死亡させてしまうケースもあるので命の保証はないが、勝利すれば賞金を受け取る事ができる。
そして勝ち上がれば同じ勝利数の相手と戦う事になり、ギャラリーも賞金額も大きくなる。5勝すれば古参の猛者がひしめき合う上位の賞金稼ぎと対戦できるが、まあ止めておいた方がいいだろう。
俺は昨日から闘技場に参戦して2連勝した。初戦の斧使いも次戦の弓使いも問題外で、鈍重な斧使いは間合いにも入らせず一蹴。
弓使いは標準を合わせるのが遅すぎる、引き絞る前に『ウインド』を使用して攻撃させないように戦う。
数度か引き絞られてしまうが慌てる事はない、それも『ウインド』で矢の軌道を変えてしまったので負傷は一切せずに勝ち進めた。
本当はここでやめてしまってもよかったのだが軍資金はあれば今後はこのような危険を冒すことは少なくて済むし、自身の力量がどこまで通用できるのか確かめておきたかった。
剣士は剣を構えなおすと次はサイドステップも応用して間合いを詰めていこうとしていた。
俺はその行動も織り込み済みだ、奴は一撃目のウインドをかわして二撃目との間隔を狙ってくる。どんな剣士でもそう考えるだろう、なのでこちらはその上の行動をとってやることにした。
剣士はどんどん距離を詰めてくる、10数メートルあった間合いは一気に数メートルになったタイミングでウインドを放った。
剣士はその場で剣を突き立てて、突風でも後方に飛ばされない体勢を取っていた。
が、そのウインドは剣士には襲い掛からなかった。
カルトはウインドを床面に放って自身を中空に追いやったのだった。
そして自身の意識を集中、次を即座に放たないと中空での有利はすぐに終わってしまう。上位魔法には少し溜めが必要だが魔力を急激に放出して少しでも早い魔法の完成を急ぐ。
「エルウインド!!」間に合った!『ウインド』と違い、さらに力強く強力な突風と風の刃が交じりあう。
『ウインド』では突風か風の刃のどちらか一方しか使用出来ないが『エルウインド』はその両方を引き起こす、対象者は体の自由を奪われ引き裂かれる上位魔法。
「あああああっ!!」剣士はその風に自由を失い、風に切り刻まれていく。
この剣士はかなりの実力者と感じておりウインドでは倒しきれないと判断した、このような異種戦闘では分があるが剣士同士の決戦だったらおそらく彼に勝てる人間はこのダーナではすぐ少ないと思える、彼の醸し出す雰囲気が俺の直感を刺激しそう判断させていた。
無理に空中で上位魔法を使ったので着地はひどいものであった、頭から落ちなかっただけでも恩の時なくらいである。偶然背中から落ちた時に受け身だけはしっかりできていたらしく、痛みさえ我慢できれば呼吸も問題なくできたのですぐさま立ち上がり、粉塵の向こう側を確認するが剣士を視認する事は出来なかった。
腰にある刃渡り60センチほどしかないショートソードを抜いて防御体勢を取り、風を用いて砂埃を吹き払った。
剣士は立っていた、左肩と腹部にダメージを与えていたが致命傷ではないらしくまだ眼光は衰えていない。
腕も利き腕ではないし両足は健在、まだ降参をする様子はなかった。
(ちっ!こっからはどうする?)
正直ここで倒せるとは思っていなかったがもっと弱っていると予想していた。
ここで降参してもいい、地形の利も奇襲も決闘に置いては数が知れている。
手の内をほぼ見せた俺に対して剣士の攻撃は多数のバリエーションがある。
だが!この程度で諦めるような男が今後の目標を達成できるとは思えなかった。
(考えろっ!考えを捨てるな!)自身を鼓舞して打開を試みる。
剣士が動いた!ダメージを追っているにも関わらず一段とギアを上げて直進する。
俺は決した!こちらもショートソードを構えて突進した。
剣士はその流れるような動きで下段からの切り上げた。
「ウインド!」俺は自身に再び風の力で 逆風を当てて突進の推力を止めに入った。
剣士はそれに気付き、さらに踏み込んでから大剣を下方より斬り上げた。袈裟懸けに俺のローブが鮮血に染められた。
「ここは、俺の勝ちだ!」
致命傷ではない、体も動く!ショートソードを振り上げて斬りつけた。
俺には剣の心得がない、手加減が出来ない為肩当てにぶつけて一命を奪うことを避けた。
剣士もそれに気づいていたようで彼は潔く降参をしてくれたのだった。
観客からはさらに大きな声援と怒号が響いた。
オッズによるとこの結果は番狂わせになったおり、俺はそそくさと引き揚げたのだった。
「一時はどうなることかと思いましたよ、この程度でよかったですが一つ間違えたら死んでましたよ!」傷の手当てを受けつつ、フュリーは説教をしていた。
「まあまあ!これで軍資金もできたし、無理はもうしないさ、だから勘弁してくれよ。なっ?」
俺は手当てを終えてベットで一つ詫びてから横にあった魔道書を持ち上げた。
決戦時だが短期間で立て続けに魔法を使い、エルウインドを使用した事により魔法力より先に精神力が尽きかけていた。
最後のウインドはほとんど推進力を止めるには至らず、その剣撃は魔道書が止めてくれていた。
血糊がついて固まり初めており、しばらくするとページもめくる事ができなくなるだろう。
魔道書は魔道士が魔法の契約時に必要な代物、だが修めてしまえば魔道書がなくても行使できるようになる。
現在となれば全くめくる事のない魔道書だが・・・俺は。
「ねえ・・・、ねえってば!カルト!聞いてるの!!」
「あ、ああ・・・悪い、ちょっと考え込んでた・・・。
しかし、フュリーお前最近俺に対して敬語使わなくなったな。俺に毒されたか?」
「あなたに気を使うのは止めました!路銀はないし、闘技場で死にかけるし、そんな方に敬意は払えません!水を換えにいきます。」
扉を荒々しく締めて出て行ったのだった。
俺は苦笑いをして俯いた、勝敗を決める戦いとは言え魔道書をこんな事にしてしまってそれなりにショックを受けている。これはお袋が俺に初めて魔法を教えてもらった時に譲ってくれた魔道書で、この魔道書がお袋の形見になってしまった。
お袋は強かったらしい。魔法の腕は一級品の上に剣技もそれなりに修めていたらしく、物理攻撃を剣技で持って防御し魔法で主に攻撃するスタイルだったそうだ。あのくそ親父には過ぎた部下だったお袋はマージファイターとして戦い、時には前線で兵を率いて事にあたり時には参謀として戦術を提供する切れ者だったそうだ・・・。
「すまん・・・、お袋。」俺は魔道書を再び懐に入れて詫びをいれてた。
その時だった、不意に扉がノックされたのだ。フュリーならおそらくノックはしない、では誰が・・・。
「空いている、入ってくれ。」俺は即座に警戒を強めて発すると無言で扉が開かれていく、そこには対戦した剣士が入ってきたのであった。闘技場の時は兜をかぶっており素顔はお目にかけられなかったが、今はその兜は外されており金髪で精悍な剣士が俺を訪ねてやってきたのであった。
「今日は無茶な戦闘で悪かったな、あんな勝負では納得しないだろう。」少し茶化してそうぶつけてみるがこの剣士は意外な回答をする。
「いや、いい勝負だった。ここまで俺の力を発揮できな状況を作り出して、自身は少ない時間の中で最大限の力を引き出したあんたの勝ちだ。」
「じゃあ、あんたは何でここへ?」
「・・・・・・。」
剣士は言いにくそうに俯いてしまった、こんな大柄で凄腕の剣士が縮こまれると怪訝としてしまう。
「おっ、おい!どうしたんだ?」
「俺に、魔法の対処法を教えてほしい。」
「な、なに?」
「俺の国にきて魔法の戦闘対処を訓練して欲しいんだ、祖国のイザークは剣豪のそろう国だが魔法の対処がまともにできていない!このままでは来る有事に備えがきかないと踏んでいる。」
「やはりイザークの剣士だったのか、それに訓練となるとあなたはどこかの軍に所属していることになる。素性の知れない人間にそのような事を頼むのは大胆すぎないか?」
内心はイザークに入国したかったのでこれはチャンスであるが、危険もはらんでいる・・・。できるだけ彼の内心を掴むため心理戦に入っていった、しかし剣士はふっと笑うと私の心理を読み解いたのか反撃にでた。
「あんたこそ、シレジアの貴族ではないのか?あのような風の使い手はシレジアでもなかなかいない手練れとお見受けするが。」これはやられたと思ってしまう、シレジアとイザークは過去においても侵略の歴史は一度もない。
それも考慮してイザークに行こうと考えたのだが、逆にそれを知っていてこの剣士は俺を招こうとしているだ。
似た思考をしている剣士がすっかり気に入ってしまいフュリーが帰ってくる前にその提案に乗ってしまうのだった。
「俺の名はカルト、シレジアの風使いだ。あなたに魔法の対処を教える代わりに、俺に剣術を指南してくれ。」握手を求め俺は手を差し伸べた。
「俺はホリンだ、これからよろしく頼む。」固く手を結ぶのであった。
ひょんな事よりホリンと出会い、行動を共にするカルト。
次回より、私の想像しているイザーク編に入りたいと思います。