ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻)   作:Edward

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本日は突然の休暇となり一気に書き立てました。
この回の構想は初期の頃から温めていた案で、ヴェルダンのホリンとアイラの戦い並みに気に入ってます。

気に入った方、気に入らない方、どちらでもご感想があれば頂きたいと思います。


騎士

ハイライン城よりさらに北上した位置にあるアンフォニー城の城主、マクベスはハイラインの動きを見て参戦するかどうかを決め込んでいた。

アンフォニー国王は代々軍人でのし上がった家系ではなく、商才により地位を得て現在に至る。その為どうしても戦争となると勝ち負けよりも、損得で動く事が習慣になっていた。内密で雇った賊を北の台地に送り込み、騒乱のどさくさに金品を巻き上げるやり口は最低極まるが彼にはその様な道徳はなく利益を最優先する事が重要過程であった。

 

玉座に座ってまだ損得勘定を脳内で計算している所に一人の騎士が入室する、騎士は一礼してマクベスの前まで歩み寄る。彼の独特な装備であり、一目で異国の騎士であると判断できる。

 

一番の特徴は腰に差す剣である、鋼の長剣に加えてショートソードを帯刀している。二本とも左の腰に吊るされている事から剣を同時に扱う事はないだろうがその独特な装備は戦争代行国家であるトラキア国の騎士である事が伺えた。

 

マクベスは異国の騎士にも関わらず接近を許すのは、もちろん雇用関係にあるからであった。

彼は自身で軍を持つ事は無駄金を消費する事を身上としており、必要な時だけ必要な金を積んで動く傭兵の活用が一番の特効薬と考えている。

その特効薬の一つにようやくトラキア国から金銭契約に漕ぎ着けて竜騎士部隊を派遣できる様に出来たのであった、その劇薬の効果は高く制空権を握り侵略できる様になったのである。

 

「おお、パピヨン殿!シャガール国王との契約は如何でしたか?」

「マクベス王、お口添えのお陰で大方の契約は予定通り運べました。私もこれでトラバント陛下に朗報をお伝えできる。」

 

「そうですか!これでアグストリアは一気に軍拡出来る。グランベルに勝てる算段が整いました。」マクベスは玉座から立ち上がり、狂気の笑い声を上げた。

 

「しかしマクベス王、アグスティの帰りがけにグランベルの進軍を見た。如何するおつもりか?」

 

「杞憂はそこなのだ、折角シャガール国王に変わって北の台地の監視が無い内に財産をせしめるつもりなのだがシレジアの天馬騎士が邪魔しているとの連絡が入ったのだ。

さらにハイライン軍もノディオン北西部で撃破され、籠城戦になっていると聞く。なんとかなるだろうかと策を練っていた所なのだよ。」

マクベスの言葉にパピヨンは笑みを浮かべる、その瞳は大使から騎士の鋭い眼光に変わって行く。

 

「いいでしょう、私が自らその天馬部隊を相手しましょう。

マクベス王はハイラインが落ちた直後に、疲弊したグランベル軍に傭兵部隊を送り込めば全て片付きましょう。」

 

「な、なに?天馬部隊は何十騎にもなりますぞ!

お一人で行かれるおつもりか?」

「天馬ごとき私単騎で充分ですよ、ドラゴンの炎に焼かれて墜ちていく様を見ていて下さい。」

パピヨンはマントを翻し、玉座を後にするのであった。

 

 

カルトは4階にあった客室の窓から脱出に成功すると、上へと登っていく。階下に降りたい所ではあるが2階と3階は兵士詰所となっており無策で降りて見つかれば厄介になる。

一度王族諸侯のいる階上に上がり策を練る事にする。

カルトは窓の外枠を足掛かりに上の窓枠へ腕を伸ばすが、数センチ程届かず別の場所を探す。

おそらく城内に入り込んだ雨水の排水口があるのでそちらへ手を付き、腕のみの力で上へと持ち上げて外枠へ手を付いた。

内部をそっとみると、こちらも客室なのか内部には人の気配がない。窓をそっと開けると、一気に内部へと入り込んだ。

その部屋の扉をそっと開き、辺りに警備兵がいないと確認すると階下で使用した光のプリズムによる盲点作用にて姿を隠匿し一気に躍り出るのであった。この魔法は姿を消すだけの魔法で音も気配も消す事は出来ない。優秀な戦士なら気配を感じ取られたり、盗賊の様な感性に優れた者なら音などでも感知されてしまう。カルトは慎重に地下へと向かっていくのであった。

 

 

「あれは!」フュリーが北の台地にて横暴の限りを尽くしている賊の掃討指示を空中からかけている時、西の空から相棒と同じくらいの大きさの影がこちらに向かってくるのを察知した。

 

一直線でありかなりの速度で向かってきている、フュリーはシェリーソードから細身の槍に持ち替え向かってくる影に対応する。

 

《あれはドラゴンだ、空中戦では奴らの方が上だ。これはまずいぞ。》相棒が危険を察知して伝心で語りかける。

《ドラゴン、という事はあれは竜騎士ね。私達でなんとかならない?》

《やめた方がいいだろう。私達はともかく、部下の連中は嬲り殺されるのが関の山だ。》

《そんな、あと少しなのに。》

 

みるみる影が大きくなるとそのドラゴンの姿が露わになる。大きな体軀に硬い鱗に覆われ、その角や牙に天馬とは違う戦闘能力の高さが伺える。さらにドラゴンは火を吹くことも可能なのだ、その炎は魔法とは違う純然たる炎が故に天馬の魔法防御も関係なく焼いてしまう。

 

フュリーは部下に撤退の指示を与えこの地より離れさせ、自身は撤退する部下の殿に身を置いて竜騎士の進行を止めに入る。

 

「ほう、我を見ても退かないとは。大したお嬢さんだ。

私はトラキア国竜騎士団のパピヨンだ。」

「私はシレジアの天馬騎士団のフュリー!なぜトラキア軍がここにいる?ここで交戦すれば問題になります。」

 

「ふっ、くははは!・・・失礼、あまりにも滑稽故に破顔してしまった。シレジアは外での戦争がなかったからな、致し方ない。我らは傭兵稼業を率先している国故どの戦争にも顔を出すさ。今回も、な。」

「そ、そんな。国が他国の戦争を請け負うなんて。」

 

「醜いか?汚いか?侮蔑の声は聞き飽きた。

戦争は生きるか死ぬかのみ、正しいと思うなら俺を倒して証明するといい。」

パピヨンはドラゴンに括り付けている長槍を取り、フュリーへ向かわんと構える。フュリーも再び構え直して集中し始めた。

 

「行くぞ!」滑空し速度を上げたパピヨンはその長槍をファルコンにむける。

空中戦故に、お互いの乗り物の破壊は即死に値する。

フュリーの命より早く察知したファルコンは上昇して回避すると次はフュリーが細身の槍の旋回した一撃を見舞う。

ドラゴンの尾の近くに当たるがその鱗は固く、金属音と共に弾かれてしまった。

 

(パピヨンを狙わないと勝ち目がない。)

再び上昇して距離をとろうとするが、ドラゴンは上手く追尾しており背後を取られてしまう。

そして、ドラゴンの顎が大きく開かれる。

 

《ま、まずい!》

相棒の伝心の瞬間、大量の炎がフュリー達に浴びせられる。回避しようとするも、ドラゴンの顎が方向を変えて確実に二人を焼かんとしていた。

二人は炎に包まれながら森林に落ちていくのをパピヨンは見ながらゆっくりと降下を始めた。

 

 

「ここまでだ。」フュリーは守ってくれた相棒に回復魔法を施している所に、パピヨンはドラゴンの鞍から長槍を二人に突きつける。

 

「待って、私はどうなってもいい。この子だけは野に返したいの。」

「そうは行かぬな、我らはハイエナ。ハイエナは全てを狩り尽くす。」

「そんな・・・。」

「さあ、諦めろ。」長槍がフュリーの喉元を狙う中、その槍を止める者がいた。

漆黒の髪を持ち、小柄な体型だがカルトの為に忠義を尽くす剣士のマリアンである。

 

「貴様、何者だ。我らの獲物を邪魔するとは見上げた心掛けだ。」

彼女は返す言葉はなく、パピヨンに斬りかかり始める。

パピヨンはその剣技に圧倒され、ドラゴンに飛び乗ると宙に舞った。

 

「なんだ、あの女は!」上昇を始めていく時、悪態を付いたパピヨンは体勢を整えて眼下にいる剣士を見ようとする。

「!やつは、どこに?」眼下にはフュリーしかおらず、先程の剣士は姿を消していた。

パピヨンはぞくりと直感の寒気を感じた、それはあの天馬騎士のフュリーがこちらを見上げているがその視点はさらに上に思えた。

パピヨンは上を見上げた瞬間、それは現実となり悪夢となった。

 

パピヨンの頭上をとったマリアンは、肩口にその剣を突き立てたのだ。

「ぐあああ!貴様、一体どうやって?」

「その竜は一気に上昇できないんですね、天馬のように早かったら追いつきませんでした。」

「だから、一体!どうやって・・・。」口より多量の血を吹き出し、マリアンの捕まんと手を広げる。

「木を登って、追い越したら飛び乗ったまでです。」

 

なんだって!いくらドラゴン上昇が遅いと言っても、木に登る速度が早いなんて考えられなかった。パピヨンは動揺し、その後は受け入れたのか笑みすら浮かべてしまう。

 

「油断していたとは言え、見事。

しかし、勝負には負けたが・・・。戦争に置いては引き分けだな。このドラゴンは野に帰る・・・。そして、お前は振り落とされる。」

パピヨンは鐙を足で蹴ってドラゴンより落とし、主人の不在をドラゴンに伝えると一気に上昇を行い振り落とさんとかかり出す。

 

マリアンはドラゴンの背中から頭の角を握り振り落しから抵抗する、パピヨンは重傷を負いながらも背中の逆鱗を掴み更にドラゴンの怒りに火をつけ出した。

 

「さあ、小娘!お前が振り落とされる様を見て死ぬとしよう!」パピヨンの言葉にマリアンは振り落とされんとしがみつくがドラゴンはさらにくねるようにして振り落しに入る、これではパピヨンの言うままになる。

マリアンはしがみつく片手を離すと、ドラゴンの眉間に拳を突き立てた。

「止まれ、止まれ、止まれ!」

「悪あがきはよすんだな、ドラゴンは主人と決めた者以外には従わない。俺と共に果てるがいい。」

「私は諦めない、どんな時も生きてカルト様にお仕えする。それが私の恩返し!」

マリアンは拳に血が滲み、反対の手の握力が無くなって行こうともドラゴンを止めようと拳を突き上げ続ける。ドラゴンにとってそんな攻撃はかゆくとも思わないだろう。

しかしその攻撃なのか、ドラゴンの速度は徐々に落ちていくのである。

 

「ま、まさか!シュワルテ・・・、お前・・・。」

「この子、シュワルテと言うの?ごめんね、叩いたりして・・・。」

パピヨンは絶句する、なぜドラゴンは簡単にこの娘になびいたのか今までそんな事は例外なくなかった。

竜騎士になるには命を賭けなければならない、もし一度でも主人でないと判断された者は正式な騎士になっても突然噛み殺された者も珍しくなかった。

そんな厳しい中で竜騎士として全うできる事は誉れである、傭兵として世界の最前列で戦い続け、竜騎士として死んでいくことに躊躇いなどなかった。

それほど、人生の全てを賭けて生きた竜騎士の人生を全うする直前にこのような奇跡を目の当たりにするとは思わなかった。

「私達を元の場所に返して、できるかしら?」マリアンは語りかけるとドラゴンは理解したのか、一鳴きすると飛行を反転させ元の場所に戻り始めたのだ。

 

パピヨンの疑いは確信に変わる、彼女を主人と認めているのだ。

「し、信じられん。まさか、こんな事になるとは・・・。」

「命を取る気はありません、今なら戻ればフュリー様の回復に間に合います。」マリアンは向き直り穏やかに語りかける。

パピヨンはシュワルテの背に座り、肩口に刺さった剣を苦悶の声と共に抜き出す。

「ぐ、ああああ!」マリアンは一瞬剣を抜いて再び戦闘を開始するかと考えたが彼には戦意が無い事を知る。

彼は根っからの軍人であった、敵国であろうとその敬意を払う為マリアンは様子を見る。

 

抜き出した剣をマリアンに手渡したパピヨンは深いため息を吐き出した後、マリアンに笑顔を見せた。

 

「名を聞きたい、新たな竜騎士の名を・・・。」

「私の名は、マリアン。かつてはダーナに暮らした一般人です。」

 

「まさか、軍の者でもなかったのか。一般上がりの剣士殿が、竜騎士になるとは・・・。世界は広いな・・・。」

 

「もう喋らないで、出血が・・・。」

マリアンは近寄ろうとすると、パピヨンは手を伸ばして制止させる。

 

「必要ない、私はトラキアの竜騎士。ドラゴンを奪われた私に、祖国に帰る資格はない。」

パピヨンは両手を広げると後ろに倒れていく、マリアンは必死に追いすがるがたとえ追いついたとしても彼を引き戻す力はない。

マリアンは空を切る手を伸ばすことしかできなかった。

 

パピヨンは遠ざかるシュワルテを見ながら眼を閉じる、たった一瞬での出会いだったが彼女は間違いなく・・・。

パピヨンは大空に最期の想いを描くのであった。

 

 

 

カルトはようやく地下に囚われたエルトシャンの位置を割り出し、侵入に成功する。

脱出してから3時間位経過している、夕飯を貰ってからかなりの時間が経つ為そろそろ歩哨に経つ衛兵共に感づかれる頃合いである。焦る気持ちを抑えつつ、地下牢の前に経つ兵士3名を見張りながらカルトはタイミングを伺う。

 

風魔法で牢屋内と通路の空気を遮断する事により、音を立てても外に漏れない措置をとると一気に牢屋の制圧にかかった。

 

「な、なに!」

カルトは一人目の男に鞘のまま頭を強打して気絶させる。

「ふ、不審者め!」一人は早速抜刀して斬りかかるが、カルトはウインドを使い壁面に激突させると、同じく鞘に収まった剣で強打させた。

 

「さあ、どうする?」

「く、くそ!」兵士は敵わないと見たのか剣を捨てて手を挙げる。

カルトは彼を捕縛し、会話を聞かれないように目隠しと耳栓に猿轡まで行い。仲間の3名共々地下牢の隅へと追いやった。

 

廊下の一番奥に、カルトが求めていた人物。

エルトシャン王が闇から鋭い眼光を放ち、侵入者を見据えんとしていた、まさに檻に入れられた獅子のようである。

カルトはその牢の前に立ち、見据える。

 

「カルト公、まさかこのような形で会う事になるとはな・・・。」

「私も同感です、エルトシャン王。」

「何をしに来た、私を助けに来たとでも言うつもりか?」

エルトシャンは明らかに救出に拒絶していた、鋭い眼光は拒絶による光である事を知ったカルトは無言で頷く。

「私は、陛下に背いた罰を受けている身。これ以上騎士として恥をかかせるつもりか?」

 

「騎士?騎士とは一体どういう存在ですか?」

「騎士とは国王を守る存在だ。」

エルトシャンはカルトの質問に間髪を入れずに答える。

 

「エルトシャン王、では貴方は騎士の信念に背いている。」

「なに?」

「国があるのは、国民がそこにいるから存在するものと思わないか?

国民が認めるからそこに国王が存在し、国ができる。

騎士はその国を守る為にある、国を守る事は国民を安心させる事にある。違うか?」

「・・・。」

「今ノディオンは戦火にある、国王が捕らえられ牢で燻っている間にラケシス様はハイラインに襲われていた。

シグルド公子がラケシス様を助け出し、俺たちをも救おうと必死になっている。

エルトシャン王とシグルド公子・・・。今どちらが騎士に相応しい行動を取っているか、考えた事がありますか。」

カルト言動にエルトシャンは立ち上がり牢の鉄棒に手を回す。

 

「さあ行ってください、貴方にはやるべき事がある。」

カルトはエルトシャンに転移の魔法をかける、エルトシャンの体が虹色に輝き出していく。

「ま、待て!貴公はどうするのだ。」エルトシャンはカルトの身体にその転移魔法が対象外になっていると察知し問いただす。

「私の魔力は尽きかけています、二人は飛ばせません。

エルトシャン王、どうかシグルド公子を頼みます。」

エルトシャンはカルトの後ろに衛兵が迫ってきている事に気付くが、言葉を発する前にその場を後にするのであった。




パピヨンの登場は三章なんですが、マクベスと以前より接触がありマリアンやフュリー達に出会った為にここで退場とさせて頂きました。

マリアンのまさかのドラゴンナイト昇格は以前より計画がありました、今後彼女の独特なドラゴンナイトの成長も織り込み済みですのでご期待頂けたらと思います。

マリアン

ドラゴンフェンサー
LV10

剣B

HP 31
MP 0

力 12
魔力 0
技 17
速 19
運 8
防御 8
魔防 0

スキル 追撃

鉄の剣
カルトの髪飾り(祈りのスキル付与)
リターンリング

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