ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻)   作:Edward

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ゲームでの2章ではノディオン救出からハイライン制圧までスピードを求める展開でしたが、小説にするとかなり厳しいですね。

話があちこち飛んでおります、混乱している方申し訳ありません。


業火

傭兵騎団とシアルフィ軍の衝突はさらに激化する、複数の戦場で分散されたシアルフィ軍は数の有利には立てない為シアルフィの僅かな騎士団とシレジアの天馬騎士団のみとなった。

 

天馬騎士団は大きな損害を受けており、戦闘不能の者は北の台地の村まで退却し村の教会で手当を受ける事となった。残る天馬部隊とシアルフィ軍にて最後の抵抗を続ける傭兵達を掃討しているのだが、彼らは騎士団のような忠誠心はない。制圧すれば降参してくれるので命まで奪う必要はなかった。

 

アレクとノイッシュは戦意を喪失した者から順に戦線に離れるよう指示しつつ、抵抗を続ける者の排除にかかっていた。

そんな中、一人の傭兵が二人に向けて迫る姿を補足する。

明らかに戦意が強く、混戦となり敵味方が混じる中襲い来るシアルフィ兵を大剣で難なく斬り伏せ向かってくる。

 

ノイッシュは呼応するようにその傭兵へ向かい、剣を合わせる。その大剣の威力に落馬するのではないかと思われるくらいの衝撃を受けるがノイッシュもグリューンリッター入隊直前とまで言われた騎士、気力で押し返す。

(強い!こいつは・・・。)

 

「ほう、なかなかの腕をしている。だが!俺の敵ではない!」剣の受けを大剣とは思えぬ捌きでノイッシュの剣をいなしてしまうと、旋回した遠心力と併せて胴を払う。

ノイッシュは再び受けるが、その威力に剣を砕かれてしまう。衝撃で落馬し、受け身も取ることができなかった。

 

アレクはすぐに飛び出し、傭兵に斬りかかる。

彼の持ち味である連続攻撃に傭兵も攻めあぐねる、アレクは同じ場所で戦わぬよう変化をつけ傭兵の攻撃を封殺していく。

 

「貴様もいい腕をしている、だが無駄な事だ!」

傭兵はアレクの剣を剣では受けず、体をひねって鎧の厚い部分である肩口で受けたのだ。

そして返しの一撃をアレクはまともに受け、馬から崩れ落ちる。

ノイッシュはともかく、アレクは重傷であり一刻の治療が必要な状態となった。

 

アーダンは遅れながらその地に到着した時、アレクに止めを刺そうとしている傭兵に投擲の手槍で留める。

 

「ふっ、シアルフィ軍はこの程度か?俺の名はヴォルツ、俺の首を取れる者は出てこい!」

口上を述べながらも、迫り来るシアルフィ兵を倒していくその姿は悪鬼である。輝かしいシアルフィ軍はその一人の男の前に、誇りを奪われている。

ノイッシュは馬に騎乗し、部下から剣を貰うと再度ヴォルツに挑む。

 

「うおおお!」ノイッシュは馬ごと体当たりを食らわせると、全身の体重を乗せた一撃を打ちおろす。

ヴォルツも一瞬バランスを崩すが、そのうち下ろしには冷静に斬り上げにて止めると押し返さんと馬ごと前進する。

 

「さっきより出来るではないか、友をやられた葬いか?」

 

「・・・騎士であるが故、常に死は覚悟している。

しかし、シグルド様から死よりも思い使命を持っている。

それを果たすまで、私もアレクも死なん!」

 

両手で受けていたその剣を放棄する、力を失った剣は宙に舞いどこぞへと落ちる。ヴォルツはその軌道を一瞬目で追ってしまった、それは騎士が武器を手放す事はありえない。その経験が彼の思考にノイズを発してしまった。

 

その刹那を作り出すノイッシュの頭脳の勝利であった、先ほどアーダンが投擲に使用した手槍が地面に刺さる形で近くにある事を認識してでの武器放棄。

ノイッシュはすぐさまその手槍でヴォルツの腹部を貫いたのだ。

 

「ば、バカな!この俺が?」

ヴォルツは見開いた目の落馬する、手槍が彼の墓標となるかのように柄は天を向いていた。

 

「ま、まずい!ノイッシュ、このままではアレクが!」

アーダンはアレクを抱き上げて戦友の危機に吠える。

 

「アレク、しっかりしろ!」

「アレク!」

アレクは目をゆっくり開けると、笑顔を向ける。

 

「ノイッシュ、無事か?」

「ああ、君のお陰だ!」

「そうか、良かった。これでお前までやられちまったら、立つ瀬がない。」

「いいからもう何もいうな、すぐ治療に撤退させる。」

「いや、もう間に合わないさ。だから・・・。」

 

大きな影が三人を覆うと、天より人が舞い降りる。

「ライブ!」

すぐさま杖による回復を行い出した、シレジアのフュリーである。

 

彼女は頭上より、重傷者を見つけては回復して回っていたのだ。三人の騎士が喚いている現場を見つけファルコンの速度ですぐさま駆けつけた次第である。

 

「回復中お願いね。」相棒のファルコンに命ずると、聖獣は辺りの警戒をするかのように辺りを見回す。

 

「すまない、相棒は助かりそうか?」

 

「傷は深いけど致命傷はではないわ、私の魔法では時間がかかるけど大丈夫。」

フュリーの言葉に安堵する、戦場での油断は禁物であるがまた戦友と共にシグルド様にお仕え出来ることに喜びを感じた二人であった。

 

 

 

 

カルトとデューはノディオンへ転移した、幽閉されていたこの数日間での状況を確認するには最適な場はエバンスよりこちらであろうと判断した。

 

ノディオンにはエルトシャンかラケシスがいる、カルトはそう判断したが予想は外れている事をノディオンの衛兵から伝えられた。

カルトの思いとしてはシグルド公子と協力してアグストリアの内乱を鎮圧してもらいたかったのだが、エルトシャン王はその事に戸惑いがあるように伺えた。グランベルと共闘して王都であるアグスティへ赴く事は、他国の兵力を頼って反乱を起こしていると判断されるからであろう。

エルトシャン王はあくまで自身の判断で私の救出を行い、武力で持ってアグスティへ赴いてシャガール王を説得するつもりだろうと推測した。

 

強引な手法だが、騎士として生きるエルトシャン王なら採択する。カルトは思っていた。

 

「もう一つお聞きしたい、城内にホリンとアイラが滞在していたはずだが現在も続いこちらにいるのだろうか?」

ノディオンの衛兵に訪ねる。

 

「お二人は先ほどエバンスに向かわれました、急な用事だったのでしょうか急いでいる様子でした。」

衛兵の言葉にカルトは思案する、なぜこのタイミングで前線とは遠い地に急ぐ必要があるのだろうか。

衛兵より聞いた現状をもう一度確認する。幽閉されてからハイラインがシャガールの指示によりグランベル侵攻を反対するノディオンへ兵を送る、呼応してシアルフィ軍が対応して撃破する。

そしてアンフォニーは北の台地を荒らし、ハイライン攻略に疲弊したシアルフィ軍に追い打ちをかける。

シレジア軍は台地の荒らす賊を撃破し、その時にトラキアの竜騎士を倒した。

シアルフィ軍は傭兵で集めた騎馬兵団を撃破しつつ、マッキリーと戦っているエルトシャンを援護しようと軍を分けて向かっているのが現場である。

 

やはりエバンスに向かう事はおかしい、カルトは何度もその事案を検証する内に想像が浮かべる。

(エバンスにはディアドラがいる、暗黒教団の動きを察知して向かってくれているのか?)

その思考を浮かべるが否定する。ホリンやアイラにそれを察知できる事はできない、たとえ出来たとしても剣士だけで臨むとは思えない。ホリンはイザークでマリアン救出の件で理解しているからだ。

その時、シャガールの言っていた事を思い出しピースがはまるかの様に思いついた。

(トラキアとの協力関係、つまり竜騎士団の派遣か・・・。)

 

カルトは結論に至る、つまりエバンスを空から急襲し落としてしまう作戦なのだろう。

退路を絶たれたシアルフィ軍は本国からもたらされる物資を供給する事は出来なくなり、軍の維持が出来ず分解されてしまう事になる。

劣勢にたったシャガール王の残された手段と考えれば、十分に可能性のある手段だろう。ホリンとアイラは何らかの手段でそれを看破し、救援に向かったと判断する。

 

(エバンスに向かいたいが、マッキリーでエルトシャン王とシグルド公子にも会わなければない。どうする?)

 

カルトの思案は続くのであった。

 

 

 

 

「やってくれたわね・・・。」フレイヤはとっさの判断で転移の杖を使い、致命傷になる前にイザークのリボーヘ逃げ帰る。

あと少し、転移が遅れていれば間違いない抹殺されていた。衣服も無残に焼け落ち痛ましい火傷のような後が激痛となり彼女の精神力を奪うが抗い回復を行う。

リカバーの光が灯り、彼女の傷を癒していくが治りが遅くしばらく動けそうな気配がなかった。

 

「くっ、あれだけの潜在能力があれば奴はナーガの力を使いこなせるだけの器になる。倒し損ねたのは痛手になるかもしれないわね。」彼女のつぶやきは闇の中で響く、しかし彼女の言葉とは裏腹に、表情は笑みを浮かべている。

 

「ほう、やはり奴はナーガの血を持つのか?」

「・・・誰?」その声にフレイヤは暗闇に向かって話す。

 

ここは暗黒教団のアジト、マンフロイ様か幹部の一部しか知らされていない場所にその声は意外すぎてそう答えてしまう。

足音が徐々にフレイヤに近づいていき、その姿を見たとき核心に変わる。

 

赤い髪を持つ青年、その目は闇を照らす赤い瞳を持つ筈が冷たい光を発している。

「アルヴィス様、何故ここに?」

幹部の誰かが招き入れたとは考えられない、ではどうやって・・・。一つの可能性を示唆しすぐに言い示す。

「私の転移を追ってきたのですね?」

 

「察しがいいな、貴様の魔力を感じたのは偶然だが追ってきて正解だったよ。

お前ほどの術者がここまで追い詰められた、それが奴だという情報が手に入った。」

フレイヤは状況に冷静になり、再び笑みを浮かべる。

 

「カルト様は想像以上のお方ですわ、おそらくアルヴィス様をも超える可能性を持つ器となるでしょう。」

 

「ほう、私がカルトに劣ると・・・。そう言いたいのだな?」

 

「器と述べただけですわ、それを使いこなすも持て余すのも彼次第。

それに、彼はナーガを降臨させる機会はないでしょう?」アルヴィスに向けた笑みは明らかに挑発である、アルヴィスはその笑みを笑みで返し挑発に乗る。

 

「ああナーガもロプトウスも要らぬ、要る者はこの世界を正しく導く強者である私だ。

世界に激動の時代が来たのだ。お前たち教団は聖戦士マイラの為に働いてもらう、そしてお前達も含めた全ての民が平等に暮らせる世界を作って見せる。それが私の正義であり、信念だ。」

 

「素晴らしいお考えです、これで私達も地下の神殿で怯えて暮らす教団の子供達もなくなりましょう。どうか、アルヴィス様の力でお救い下さい。」

 

「見ているがいい、本日で持ってグランベルは斜陽の国となり新生グランベルへと変貌する。」アルヴィスは右手に焔を昂ぶらせる、その炎は全土を焼き尽くす業火となる種火である事を揶揄していように思えてならないフレイヤであった。

 

 

 

街道を急ぐ。

数日前におびただしい騎馬がノディオンに駆け抜けた道を逆に向かう二人の剣士のホリンとアイラ、息も絶え絶えだがその足を止める訳にはいかない。

 

目的地のエバンス城には、数体のドラゴンナイトが飛び交い今にも攻め入ろうと旋回している所に炎と風が飛び交い妨害する。

シアルフィの連合軍は連戦で疲弊した魔道士部隊がエバンスに帰還した直後に襲われた。魔法にて空中のドラゴンナイトに対応しているが旋回して回避し、間隙を持って手槍で応酬していた。

 

目的地は見えているがなかなか到達出来ない事に苛立ちを感じつつ急ぐ二人、間に合ってくれと願わずにはいられない。

セイレーン夫人であるカルトの妻は魔法を使えないと聞く、失えばカルトの悲しみは計り知れない。

ホリンにはアイラとシャナンの事がある、カルトからイザークの私達が戦闘に参加すればグランベルの不利になるという事でアグストリアに送られたがこれ以上黙ってられなかった。それはアイラも同じである、二人は兜を被ってイザーク特有の黒髪を隠してエバンスに向かう。

 

「ホリン、どうだろうか。このままではやはりエバンスは落ちてしまうのか?」

 

「落ちるだろうな。連戦での疲労もあるがエバンスにいる部隊は負傷兵が多いそうだ、比べてトラキアの部隊は常に戦を請け負っている、特に攻め落とす経験は豊富だ。まず勝ち目はないだろう。」

 

アイラは舌打ちをする音が聞こえる。よほど彼女も恩義を感じているのだろう、イザークの民は義に義を尽くす事が信条としている。ホリンは少し笑みを浮かべると速度を上げる。

 

 

「エスニャ様!お逃げくださいまし。エーディン様が転移の杖を準備しております。」侍女がエスニャの手を引いて広間にいるエーディンの元へ急がせる。

 

エスニャはその場に止まり、侍女に問いかける。

「待って!貴方達はどうなるの?エーディン様もここにいるのですよ。私一人を逃がすつもり?」

 

「万が一の処置です。私達もシアルフィのグリューンリッターを目指す隊員、簡単に奴らの思うようなさせません。

エスニャ様はシレジアにとって、カルト様にとって大切なお方。ディアドラ様と共に退避をお願いしています。」

 

「・・・私はカルト様の妻でありますが、フリージの公女です。グランベルへの侵攻を防ぐ為に私にも戦う義務があります。ディアドラ様をシグルド様の元へお送りして下さい。」

 

「しかし・・・。」侍女はエーディンの命を受けてエスニャを説得するが、彼女は聞き入れる様子はない。困り果てた所に更に追い打ちをかける事態をおそう。

 

「私も必要ありません。」

そこへディアドラも現れる、彼女も覚悟を決めているのか魔力を解放させ応戦の準備を終えている。侍女は困り果てて一緒に現れたエーディンを見るが彼女もディアドラの説得に失敗したのか首を横に振っている。

 

「逃げる事よりみんなでここを突破しましょう、勝てる戦も勝てなくなります。

それにここにはアゼル公子もシレジアの魔道士部隊も戻ってくれています、きっと打開策はあります。」

まだ魔力が完全に戻らないエスニャは奮起の言葉をかける、それは自身にも戒める言葉である。

 

(カルト様、必ずまたお会いしましょう。)

 

強き意思を持ち彼女は拳を固めるのであった。


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