ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻)   作:Edward

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本日二話目の投稿です。

なぜ、こんなに早いかと言いますとシナリオ場で先に書き上げていたのです。
途中で思いついた内容は修正点を追記すれば、はい完成でしたので連続配信します。

ここから数話外伝に入ります。少し雰囲気が柔らかいかと思いますが、有事と休息時のスイッチと思って頂けたらと思います。


外伝 2小節
次世代


アグストリアの内戦が終わり後味の悪い結果となったグランベルの混成軍は、このままアグスティに滞在しエルトシャン率いるクロスナイツの監視と防衛の任務を行う事となった。

対話の道を再度切り開く為、数度となく使者を送るがエルトシャンからの返答は頑な物であった。シルベールには軍の増強を行っており、有事に備えている構えである。

アグスティの逃走兵を組み込み、マクベスの傭兵騎団も雇い入れた彼の徹底抗戦ぶりは本物であった。

カルトもまた数度となく直接の面会を求めたが、シグルド同様に顔を会わせる事なく徒労に終わっていた。

 

シグルド達の混成軍は全ての部隊をアグスティに集結させ、エバンスはエッダの部隊に明け渡す事となった。

ヴェルダンの整備が思ったより早く進める事ができ、エッダは一年も経たないうちにキンボイスに王位を返還すると明言したのである。

キンボイスは暫くの間多額の賠償金を支払う事となるだろう、それでもなおその事実を受け入れてヴェルダンを正常に導く為に尽力している事をカルトは喜ばしく思えた。

 

 

 

 

エルトシャンが宣戦してから約1年の月日が経とうとしている、グランベルの上層部ではこの膠着状態を抜け出す為にシグルドに攻撃する様に進言する事もあるが受け入れずに粘り強い対話の道を模索し続けていた。

 

膠着状態ではあるが時間は確実に経過している、アグスティでは今ベビーラッシュと化していた。

シグルドとディアドラとの間にセリスが産まれたのだった、ひどい難産だったらしく出産には丸一日かかりディアドラも随分と体調を崩していた。その子がグランベルの正当な嫡男である事を知る者はまだいないのである。

 

エーディンも男の子を出産していた。

レスターと名付けられたその子はウルの血を継いでおり、いつか将来にセリスを助ける存在になるのである。

父親の、ヴェルダンの血は新たな可能性の産声として誕生したのであった。

 

 

そして・・・。

「カルト様!お産まれになりました。立派な男の子でございます。」クブリの言葉に寝室に向かう。

産婆や侍女がカルトに祝福の言葉をかける中、愛する妻に抱きかかえられた子供に初めて対面する。

 

「エスニャ無事か!よく無事で、産んでくれた!

これから俺も父親か!」

 

「カルト様・・・、私もこれで母親です。見てくださいませ、この子が私達の元に来てくれたのですよ。」

産着より顔を出し、カルトに抱くように差し出す。

カルトはそっと抱き、顔を覗き込む。もう泣き止みすやすやと眠りについている我が子を見てカルトは涙を流す。

 

「軽いな・・・、こんなに小さいのに生きているのだな。」

 

「はい、この子は毎日を一生懸命に生きてまいります。私達が支えていかねばなりません。カルト様、この子の為に生きてください。」

 

「ああ、簡単に死ぬつもりはない。だがまた一つ誓いを立てねばならんな、俺はお前達の為にも死なないと。」

2人は見つめ合い、笑みを讃えた。

 

「この子の名前はどうしましょう?私は産む事だけ考えていたのでなにも考えてませんでした。」

 

「それなんだが、俺に一つ浮かんだ名前があるんだ。

いいかな?」

 

「まあ、考えてくださっていたのですか?」

 

「ああ・・・、一応な。でもエスニャが気に入らないようならやめるさ、言うだけ言っていいか?」

 

「はい・・・。」

 

「アミッドは、どうだろうか?」

 

「素敵な名前です、何か謂れがあるから決めていたのですか?」

 

「ああ、シレジアの伝承では『溶かす者』と呼ぶんだ。」

 

「伝承、ですか?」

 

「シレジアは寒い国で通っているが、なぜあの一部の地域だけ極寒の地になっているか知ってるか?

すぐ南が暑いイード砂漠があるのに、シレジアは寒いのか、考えたら事があるかい?」

 

「え?確かに極寒と猛暑が隣り合っているのは変ですね。」

 

「シレジアはかつては極寒な気候ではなく、温暖で過ごしやすい地だったそうだ。

豊富に鉱物が取れ、作物も良く育ち、海に出れば大量が連日続くような裕福な場所であったが為に隣国や賊に襲われていたらしい。

聖戦から帰ったセティは、外部から荒らされる祖国を見て彼は一つの魔法をかけたそうだ。

それはシレジアの地に冷たい風が吹き続き外部と遮断する、凍てつく秘術。

それにより作物は育たなくなったが、平和な地になり以降100年間は独立国家として存続できたんだ。」

 

「そんな伝承があったんですね、でもセティ様が決断なさった判断ですが、お辛かったでしょうね。自分の故郷を凍てつかせるだなんて・・・。」エスニャの表情が曇る中、カルトは笑みを浮かべる。

 

「でも、晩年のセティはこうも言ったんだ。

『この世界に本当の意味で平和が訪れた時、凍てつく秘術は解けて真のシレジアを取り戻す。』と。」

 

「本当の平和?」

 

「そう!だから、この子はきっと俺でもなし得ない本当の平和を導いて真のシレジアを取り戻す者としてアミッドとしたいんだ。」

 

「カルト様、きっとこの子が、アミッドが成し得てくれると思います。見てくださいませ・・・。」

アミッドの額にはカルトと同じ聖痕が宿っていた、そして母親の聖痕も受け継いでいる。

 

「アミッド・・・、まさかこの子に俺のあの血が?」

 

「カルト様?」

 

「・・・アミッド、お前も宿命を帯びて産まれてきたのだな。俺も負けてられないな!」

カルトは笑顔で息子を抱きしめる、彼の想いはアミッドにも受け継がれていくのである。

 

 

アイラもまたこの時、シルベールで出産していた、双子の兄妹を産み彼の子供は将来セリスを助ける貴重な人材へと成長するのである。

彼らはエルトシャンの元に滞在し、カルト達に会うことは出来なくなったが元気に暮らしていると定期的に手紙を出してくれていた。

 

 

ラケシスはあのアグスティの一件でエルトシャンと仲違いしており、アグスティにてシグルドの元で生活をしている。

この度の事で兄の強情さに憤慨したラケシスは、シグルドに肩入れしてしまいエルトシャンに「シグルド様と戦うならその前にミストルティンで私を好きにして!」とまで言い放ってしまったのだ。

それ以降彼女は、アグスティで剣に魔法に腕を磨くようになったのである。今日も鍛錬場で彼女の気合の声が響く。

 

「たあっ!」彼女の細身の剣がアーダンを襲う。

 

「姫様!降参です!おやめ下さい!」アーダンは息を切らして両手を上げる。

 

「アーダン!情けないわよ!この程度ではシグルド様をお守りできませんよ。」

 

「しかし姫様、私は重装歩兵で鎧を着ていない私などに勝てても何の自慢になりませんよ。」

 

「なら、誰かいないの!私にちょうどいいお相手は!」

彼女の端正な声量が響き渡る、鍛錬場にいる者達はその白羽の矢に当たるまいと首を縮こませる。

勝ってしまえば負けるまで付き合わされるはめになり、負ければアーダンのように厳しく叱責されてしまう。あのような女性にいいように言われる事は男としてのプライドが引き裂かれる思いであり進み出る者はいなかった。

 

「あの・・・、私でよろしければ一本お願いします。」

1人の少年が前にでる、まだ騎士になりたてのように思えるとラケシスは見る。目は穏やかだが意志の強さが垣間見え

、まだ体が出来上がる前の華奢なラインにラケシスはちょうどいい相手と判断する。

 

「いいわ、じゃあお願いします。」ラケシスは一礼すると細剣にて構えを取る、少年は長剣を抜き正眼に構える。

 

鍛錬場には様々な武器が置いてあるが全て刃引きされた金属剣である、金属であるが故に刃引きしてあっても下手をすれば死ぬ事もある。2人に緊張が走る。

 

「たあ!」ラケシスはステップを交えて少年の間合いを潰しにかかる。

 

女性特有のしなやかな動きに流水のような掴めぬ動き、それを我流で掴んだのだろう初見では見切れない足運び。少年はその動きから突き出される細剣に防御する事で一杯だった。

 

ラケシスの高速の突き出しに少年は足運びと体の捻りを巧みに使い、細剣を交わすと対抗して横薙ぎを展開する。

ラケシスはその細剣で薙の一撃を下から叩き上げ、身を

低くして交わすと軸足に足払いの蹴りを見舞った。

少年は見事に転倒し剣を落とす事になる、そこへラケシスは細剣を彼の胸前に出して勝負がついた事を宣言する。

 

「参りました、降参です。」少年は悔しそうにしながらも立ち上がると一礼する。

 

「せっかく間合いの大きい長剣を持っても簡単に入られては意味ないわ、あなたには普通の長さの方がバランスが取れているわよ。もう一度武器を変えて試してみる?」

 

「は、はい!是非お願いします!」少年は武器を持ち替え、ラケシスの元へ戻ってくるのであった。

 

ラケシスの授業、もとい鍛練はその少年と幾度となく続く。途中食事を採り、休憩も挟んでどちらも終わると宣言する事なく続けられた。

 

「てい!」少年の剣がついにラケシスの細剣を捉え、床に落とす事に成功する。ラケシスは荒い息を吐きながら降参に手を上げて表現する。そして腰砕けになったのか、その場で倒れ込んでしまった。

 

「すみません!調子に乗っていつまでも立ち会わせてしまいました。本当に申し訳ない。」

竹筒に入った水をラケシスに渡して謝罪する少年にくすりと微笑み、水を飲む。

 

「いえ、私も無気になってました。でも、今日は完全燃焼できた気分。こちらこそありがとうございます。」

ラケシスは溜まっていたフラストレーションを久々に汗と共に流せた気分になり、疲労はあるが心地よい気分であった。

少年はその言葉に嬉しかったのか、透明感のある笑う表情を見せる。

 

「あなた、よく私の剣に付き合う気になりましたね。裏で嫌がられていたのはわかったました。」

 

「?どうしてですか、同じ剣を上達したい者同士に嫌がるも何もないじゃないですか?」

 

「・・・女性の私に負けても?」

 

「あ、ああ!そういう事ですか?慣れてますよ。私は自国にいる時から君主の奥様に散々負け続けた上に叱咤されてましたから。」

 

「君主の奥様って・・・、あなたお名前は?」

 

「すみません、名乗っていませんでしたね。私はレンスターのフィンです。君主はキュアン様の事で、先程の女性の事はエスリン様です。」

 

「キュアン様!兄上の親友の?」

 

「はい、私はキュアン様の遠い親戚で両親を失い面倒を見てくれています。今はキュアン様に同行して槍騎士としてランスリッターに入隊するべく訓練を受けています。」

 

「そうでしたか、フィンは今回の戦いで何か思う事はありますか?」

 

「この度の遠征で、聖戦士殿の戦いをこの目で見る事が出来ていい勉強になりました。ラケシス様の兄上もキュアン様から聴いてましたがそれ以上に素晴らしい人柄とお見受けしました。」

 

「そう・・・。」

 

「ですので残念です。まさかエルトシャン様と仲違いしてしまう事になるなんて・・・。」

 

「・・・・・・。」

ラケシスの消沈し、暗い表情にフィンは笑顔で続ける。

 

「ラケシス様!大丈夫です!キュアン様もエルトシャン様もシグルド様も、言葉だけでなく心でつながっている方々です。きっと三人はあるべき姿に戻りますよ。」

フィンはラケシスの両手を両手で掴み彼女を懸命に励ます、その一生懸命さにラケシスは一瞬戸惑う。

 

「だからラケシス様もあの三人を信じてあげて下さい。きっと分かり合える、いえ!分かり合っていると思います。」フィンの演説が終わり、ふっと冷静になった時状況を確認する。

 

誰もいなくなった鍛錬場に、壁際においこれた姫君。両手を掴み、顔と顔が近い状況で絡み合う視線。

汗で濡れた肢体、上気したラケシスの表情・・・。

 

「@/#÷<々〆¥☆♪*」フィンはそのままダッシュで鍛錬場を後にする、残されたラケシスは呆然としたのち噴き出すように笑うのであった。

ひとしきり笑った後、ふたたび鍛錬場の扉をそっと開けたフィンはラケシスに

 

「また、明日鍛錬場で訓練して下さい。」

力弱いその発言にラケシスは再度笑ってしまうのであった。

 

 

 

次々と生まれ行く新しい命にアグスティでは催し事が行われる。

有事とはいえ、一度も小競り合いも起こらない硬直に軍も人々も緊張を続けるのは困難である。

お祝い事くらいはと、いう名目でセリス様の誕生祭を祝っていた時の事であった。

 

エバンスでマジカルステップを披露した踊り子もアグスティ合流にしっかり付いてくる事となり、この度正式に採用され催し事という事で踊りを披露する事となった。

エバンスの時の踊りで勇気付けられ、魔力が尽きた者はその気力を取り戻した踊りと聞いて集まったのである。

その見事な踊りに参加した一同は熱気を上げていくのである。

カルトもまた、シレジアの者達で参加しその踊りを見ていたのだった。

 

「クブリ、エバンスでは無理をさせてすまなかった。傷はもう癒えたのか?」

 

「はい、お陰様で・・・。」

 

「マリアン、君も大事ないようで安心した。しかしまさか、トラキアの飛竜を手懐けていたのは驚いた。」

 

「あの子の声がとつぜん聞こえるようになりました、フュリー様もあのような感覚なのでしょうか?」

 

「え?・・・、物心ついた時から天馬やファルコンがいた生活なのであまり意識した事ないのですが、マリアンは生まれつき持っていた能力が竜とシンクロした瞬間に開けた気がします。」

 

「私はこれから、あの竜・・・シュワルテと共に剣を磨きます。カルト様見ていてください。」

 

「ああ、でもマリアン。君はまだ成人ではない、無理はするなよ。」

 

「はい、カルト様・・・。」

 

「フュリーも、クブリもだ。お前達に何かあったらレヴィン王にどう申し開きしていいか俺にもわからないんだからな!どうして我が軍には無茶する連中ばかりなんだ。」

 

「・・・・・・カルトが一番無理するからだろ?」

 

「なんだと!どさくさに紛れて言った奴出てこい。」

すっかり果実酒でほろ酔いになったカルトは人差し指を指してなじった相手の声の方向を指差す。それはクブリでも、マリアンでも、フュリーでもなかった。

 

シレジア国の麗しき王、レヴィンその人である。

 

「な、な、な、何?」

 

「なに阿保面下げて自国の王に指差しとは、カルトきさま何様だあ?」

 

「え、え、え、何で?」

 

「アグスティはシレジアの隣だ、この距離ならシレジアからでも簡単に転移できるだろう?

それにアグストリアは以前は同盟国だったんだ、俺が行き来していてても不思議ではないだろう。」

 

「い、いやあ!レヴィン!久々!!元気?」

 

「この、うすらバカめ!」レヴィンの拳骨がカルトの脳天を振動させる。

 

「いつも、いつも、事後報告で結婚した?子供が産まれた?お前という奴は!」

 

「ま、まてレヴィン!俺にも立場がある。この祝いの席ではちょっと・・・。」

 

「・・・、まあいい。今日はお前に会わせたい人も一緒に転移してきたんだ。」レヴィンは体をずらしてカルトに誘うのであった。




ついに第一次ベビーブーム到来です、第二次はシレジアの時ですよね?

ちなみに、アミッドが本作で言う「氷雪の融解者」です。
ようやく説明できてよかった。


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