ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻)   作:Edward

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ちょっとカルトの過去を出します。
彼の生い立ちが少し見えていただけたらと思います。


カルトの魔道書

剣闘士のホリンと共にダーナを出発した三名は街道に沿ってイザークのある北西へ足を進めた。

 

ホリンと合流した事により向かう先が決まったと説明してもフュリーは祖国に帰ることはなく同行を懇願したので正直困惑する、彼女はこれでもシレジアの天馬騎士団のトップ4に位置する貴重な人材で俺の珍道中に付き合わせるわけには行かない。

それに寒さの厳しいシレジア人には暑さの耐性がない。フュリーには過酷過ぎる、天馬にも多大な負荷をかけてしまうと説得するが彼女は聞き入れなかった。長い説得でようやくソファラについたら帰国すると言ったのだが大丈夫だろうか・・・。

念の為レヴィンには文を作成し、現状と彼女の無事を報告する。よく二人で城下町にお忍びで使っていた偽名で書状を出したので臣下の者に検閲されても私だと気づかないだろう。

 

 

ダーナの町を出て丸二日、イード砂漠をまだ抜けられないらしく視界には砂の世界しか見当たらなかった。吹く風には大量の砂埃が舞い、かいた汗が肌のあちこちに張り付いてこの上なく不快感を生んだ。

 

「ホリン、あとどれくらいでイザーク領に入れるんだ?もう、砂漠は飽きてきたぜ。」

「・・・・・・、今日中には間に合わせたかったがここらで今日は野営だな。」

 

「ん・・・、まだ日没には時間があるぜ。」

俺は西日を指さしてまだ沈まぬ太陽を見た、まだ2時間は暗闇には包まれないはずである。切り上げるには少々早いような気もしていた。

 

「そこの道から外れたところに林がある、天馬を休めるならこのあたりがポイントだろう。

ここから明朝に出発すれば明日の昼すぎには国境にいける、無理をすることはない。」

 

「そっか、ありがとな・・・。相棒にも気をやってくれて。」俺は軽い礼をすると、ホリンは軽く笑みを作って返した・・・。

こいつ、口数は少ないがいいやつだな。

 

ホリンの指示通りに街道から外れて暫し歩くと確かに小さな林が存在した、水はないが地下すぐにそこまで染み出してくる層があるらしく何とか林を維持できている。

この砂漠には多少そのような林が点在しており、行商人や旅人を助ける存在となっているとホリンは言う。

 

フュリーから預かった笛で天馬に合図を送り、上空からこの地へ降り立つと早速野営の準備に取り掛かる。ホリンはソファラの嫡男と聞いているが放浪癖があるらしく旅慣れている、俺よりも手際が良くて出来上がりの早さに驚いた。

 

この辺りは飲料水がないのでダーナから運んできた水が生命線になる、天馬に括り付けた皮袋とホリンが分散してここまで運んできた。

食料は俺が受け持ち、もっはら硬焼きパンと干し肉、ドライフルーツ、ナッツ、チーズをホリンの指示で四日分ほど携帯していた。現在の所遅延はないそうなので予定通りの分量を予定する。

そこで気になる事は天馬である。食料を持ち歩いているわけではないので気になるがフュリー曰く、あらかじめ多めに食事と水分を摂らせれば数日くらいなら僅かで大丈夫らしい。フュリーは竹に入った水筒の水とシレジアの乾燥ベリーを天馬に与えていた。

 

安心した俺はアルコールに火の初歩魔法で着火させてこれもダーナから運んできた薪に火を付けると、懐のナイフで堅パンを切り分け配布する。

三人は焚き火の前で言葉少なく食事にありつく、そろそろやってくる冷気に備えるべくコートを羽織り暖を取り込むように火を囲む。

「フュリー、降りる直前に気配はなかったか?」カルトは投げかける。

「大丈夫、見渡す限り人影はなかったわ。」

 

「それなら夜襲は無いだろう、この時間に砂漠を移動する奴は少ない、警戒は怠るわけにはいかないがな。」ホリンの言葉に二人は安心し、食事に没頭するのであった。

 

 

陽が落ちると辺りから熱を奪い冷気が漂ってきた。フュリーは毛布にくるまり天馬と共に就寝に入っている、彼女と天馬は一日中空中にいたので疲労が大きいのだろう。一言断りを入れた後意識を失うように寝入ってしまう。

 

残されたカルトとホリンは火を絶やさぬようにしつつ、対面で座る。

 

「カルト殿、どうだ?いける口か?」ホリンは袋から葡萄酒を取り出して俺に促した。

「いいねえ!と言いたい所だが飲みすぎると魔法の集中できなくなる、一杯だけでいいか?」

 

「ここではカルト殿は客人だ、夜の番は俺が引き受けよう。」木の粗末なコップに葡萄酒を注ぎながら番まで引き受けるホリン。

「・・・2時間交代にしよう、日中ホリンが倒れたら砂漠で迷子だよ。」受け取ったコップで軽く乾杯をしてゆっくりと喉に流し込んだ、潤沢な香りが口に広がり砂漠での厳しい旅を癒してくれる、そんな一杯だった。

 

ホリンはふっと笑い、こちらは一気に流し込んだ、剣豪な彼らしい豪胆な飲み方である。

 

「カルト殿は不思議な男だ、あんな型破りな戦術。蛮族とののしられる我がイザークでも見たことがない。

なのに素性はシレジアの貴族とはな、世の中は広い。」

 

「それって褒めてるのか?それともあきれているのか?」

 

「無論、感心しているのだよ。

グランベルの貴族や王族とは折衝することはあったが、カルト殿のように気持ちのいい連中はいなかったよ。

闘技場であれだけの劣勢を顧みずに向かってきた者は見た事がない。」

 

「諦めが悪いものでね、さらに言えばホリン程の手腕ならきっと死ぬことはないと思っていた所はあったよ。

しかしホリン、俺の事をカルト殿というのは初対面だけにしてくれ。これからはカルトと呼んでくれて構わない。」

 

ホリンはコップを俺のコップに当てて承諾の合図を送った、彼の清々しさに俺は気分を高ぶらせてしまうのであった。

 

 

 

 

しばらくの談笑のあとホリンと俺は予定通り2時間交代の番に入った。

イード砂漠には盗賊による略奪や殺戮が横行している事もあるが、気温の低下による凍死も侮れない。火の番も必要なのだ。

 

ホリンはまず自分から俺を起こしにくるとは思えなかったので、2時間ほどで自ら起き上がり交代を進み出た。

現在は俺が火の番と周囲の警戒を行っていた。

 

火を見つめながら一冊の魔道書を取り出した、昨日の闘技場で自身の血を浴びて開く事が出来なくなった本だ。俺は血糊で破けないように注意しながら開けていった。

 

血糊がつく前まではこの数年開いたことのない本を今は無性に開いてみたくなったのだ、どうしてなのかはわからないが、覗き込むようにして確認していく・・・。

 

俺が幼少から持っているこの魔道書は落書きも沢山していた・・・、それこそ意味のない落書きから魔法がうまく発動しなくて癇癪を起こしながら殴り書きしたような物まで・・・。

 

周りの警戒も疎かになるほど懐かしむようにその落書きを見ていると、お袋の文字を見つけ俺はつい血糊をついていることも忘れて本を開いてしまった。

びりいっ!乾いた音と共に本は裂けてしまい背表紙と紙束が分離してしまった。

 

俺は慌てて紙を拾い上げた時に一枚の紙が宙を舞った。

その紙は本のページではなく背表紙の隙間に仕込まれてあったと思われる、剣で裂かれた跡も血糊をついた跡もなかった・・・。

 

その紙は細かく折りたたまれており開ききると目を通し始めた。

 

「カルトへ・・・。

この手紙はあなたが持っている魔道書が損傷したときに読めるように細工しました。

私の言いつけどおり、ずっと持っていてくれたのですね。

本を持ち続ける事により、初心を忘れないようにして欲しいと願ったのですが約束を守ってくれてうれしく思います。

 

壊れてしまった魔道書を火にかけなさい。

私は母親としてあなたに何もしてやれませんでした、だから魔法を教えた導師としてあなたに贈ります。

 

小さいあなたを残して逝ってしまう私を許してね。」

 

 

「母さん・・・。」

海賊がシレジアを襲っていた時期があり、おふくろは一団を率いて防衛に当たっていた。

海賊ごとき遅れをとる事はないのだが、馬鹿親父は海賊が溜め込んでいる財産に目がくらんで船を出して打って出ると言い出たのだ。

おふくろは親父を諌めていたが、しびれを切らした親父はとうとうおふくろに命じて出陣した。

 

おふくろの予感は的中した、船の上での戦闘は海賊の方が利が大きい。

やつらの巣窟に着く前に船団は看破されてしまった、やつらは潮の流れから引き具合まで熟知している。

シレジアの船団はかき回され、分断され、罠にはまり込んだ。

海の沈んでゆくシレジア船団の中でおふくろの船のみが生き残った。

親父からはひどい非難を受けたおふくろは心労に加えて、肺を患いあっという間だった。

 

そういえば、おふくろとゆっくり話ができたのはベットに横たわっていた時期だけだったな・・・。

 

おそらくこの時に何かを仕込んでいたんだろうな、俺は火に投げ入れようか考えたが今はやめておいた。おふくろの言っていた事をすっかり忘れいていた俺にその資格はない、紙と背表紙を元の位置に戻して懐に仕舞い込んだ。

火にかける時は俺が納得した時か命の危険が迫った時と決めた。それまではこのおふくろのくれた魔道書を大切に持ち、おふくろとの短かった時間をその時まで慈しむ事にした。

 

 

 

あれからホリンと再び番を交代し、何事もなく朝を迎えた。

多少寝不足ではあるが、頭が回らないほどではない。本当は顔を洗ってすっきりしたいところではあるが貴重な水を洗顔には費やせない。

ストレッチをしながら頭を冴え渡らせていった。

 

俺たちはまだ日が昇りきる前、つまり気温が上がる前に軽く食事を取ると早速イザークに向けて出発した。再び灼熱地獄になる前に少しでも進んで行きたい。三人は自然と意見が一致し、無言の内に準備を整えてのスタートとなった。

疲労の見える三人は早足で歩き、昼過ぎに砂漠を脱する事に成功する。砂で見えにくかった街道も今は石畳がはっきりと見える。生産性の無い砂漠から緑が生い茂る道になるだけで体感気温も下がるように感じるし、イザーク国境が近い事もあり少し元気を取り戻した。

 

 

「あの峠を越えればイザーク領だ。」ホリンは少し笑顔を見せた。

 

「早く湯が使いたいぜ、もう全身砂だらけだ。」

 

「・・・ああ、たっぷり準備させるさ。ただ、この局面を乗り切ってからになるがな。」ホリンは鋼の大剣を抜き放った。

まさか・・・、俺は前方を睨み付けるがまだ敵の姿は見えない。

上空のフュリーを見上げるが敵襲の合図はなかった、ホリンは上空の瞳よりも先に敵を察知したというのか・・・。

俺は笛を使ってフュリーに敵襲の合図を送った、上空の天馬は応答の動きをして警戒にはいる。

 

「ホリン、君の知りえる状況を教えてくれ。」

 

「前方に10名程、後方に5名程だ。おそらく正規兵ではない、賊のようだ。」

 

「了解、シレジアの戦い方をホリンにみせてやるよ。」

魔道書とショートソードを取り出して応戦体勢に入り、精神を集中させていくのであった。




カルトが8歳の時の回想でした。
ちなみに彼は現在17歳の設定です。
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