ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻) 作:Edward
書き溜めた分も終わりとなりますので、またしばらく更新はいつも通り月2話〜3話程度に戻ると思います。
宴の翌日、最高潮に達した者達は未だに夢の中を漂っていた。
会場には酔い潰れた者が残るなかシレジアの面々は中庭にて別れの準備に勤しんでいた。
カルトは後ほどフュリーからマーニャに部隊変更する事を聞くが驚く様子はなく了承する、おそらくマーニャの思惑に気付いているのであろう。
今回転送する人数がファルコンであるウェンディが増える為、レヴィンの転移ではなくカルトの転移でシレジアに帰還する事とした。
まだ準備が残っているのか全員集まらなくて手持ち無沙汰なレヴィンとカルトは初夏の色合いが強い中庭の植物を幾つしむ。シレジアにはこんなに多様な植物は育たない、レヴィンにとっては物珍しいものであろう。
「レヴィン、親父は元気にしているか?」
「あれだけ強欲に物事を進めてきた人だからな、権力を剥奪されて少し精力的でなくなりやつれた感じだが元気にしているぞ。」
「そっか、それならいいんだ。
しかしよレヴィン、親父を処断しなくてよかったのか?国家に逆らった者を権力剥奪だけなのは少し生温いように感じるが・・・。」
「確かに、な・・・。カルトには悪いが俺も処断する方向で進めていたんだ、これは内緒と言われていたが親父さんの処断に断固反対したのはお袋なんだ。」
「ラーナ様が!?」
「ああ、お前があまりに可哀想だと言って嘆願して回ったんだ。トーヴェの町長を説得し、シレジアの重鎮達にも説明してなんとか権力剥奪と武力放棄を条件に処断だけは免れたんだ。」
まさか、ラーナ様がそこまで尽力していたのはカルトも知らない話であった。
「カルトがマイオス様を仕留めようとした経緯を聞いて決心したそうだ、シレジアの為に己を殺して父親に手をかけようとしたカルトの為だけに尽力したんだと思う。」
「そうだったのか・・・。レヴィン、教えてくれてサンキュな。」
「ああ。お前こそ、マーニャを頼んだぞ。」カルトは無言で頷き、違いに健闘しあう。
現状のシレジアはまだ国内が完全に安定した訳ではない。
マイオスとダッカーは討つ事が出来たが、シレジアにはまだ沢山の権力がおりレヴィンを国王と認めても政においては認めていない輩が存在する。
その為、まだレヴィンにフォルセティを継承出来ていないのである。
「待ってください!フュリーさん!」
中庭に向かうフュリーを呼び止める声が聞こえ、振り返る。一人の騎士が彼女の元に走り寄ってくるのである。
彼女の目の前にたどり着いた騎士は息切れを正すと敬礼する。
「あなたは、確かにシアルフィのアレクさん?」
「はい!あなたに命を救って下さったアレクです。
その説はお世話になりました!」
「いえ、お元気になられたようで何よりです。戦争とはいえ、ご無理をされないで下さい。」
「はい!あなたに救われた命、大切にします。
今日、あなたが任務を終えてご帰還されると聞いたものでご挨拶に伺いました。
お名残惜しいですがお元気で!シレジアでのご活躍を!」
「ありがとうございます。アレクさんも、お元気で・・・。」
「はい!次お会いした時は是非口説かせて下さい!」
アレクの言葉にフュリーはびくっとする。彼女は真っ赤になって振り返るが、アレクは敬礼姿勢のままウインクをして返すのである。
フュリーは笑顔で別れるとすぐにウェンディが合流する。
「ちっ!タイミングの悪い・・・。昨日の内に言ってくれれば子種が得られたのにな、フュリー。」
「ウェンディ、いい加減にしないと怒りますよ。」
「お前だって欲しいだろう、可愛い子供が!」
ウェンディの連日にしつこいセクハラにとうとうフュリーの怒りが爆発したのか、ウェンディの頭に拳骨が落ちる。
「痛いではないか!折角協力しているというのに。」
「私は、レヴィン様が好きなの!誰でもいいわけがありません!!」
「ほう、それはレヴィンの子供が欲しいと。」
「そうよ!過程に違いがありますけど、私は・・・わたしは・・・。」
ウェンディと話している内にいつの間にか中庭にたどり着いていたのだ。シレジアの一同がいる中でのフュリーの本音が大声で炸裂したのだ。
「あ・・・、わ・・・、私はウェンディと一緒に空から帰ります!」ウェンディの首根っこを掴むと城外へと走り出すのであった。
「ま、待てフュリー!外は危ない!お前は別便で飛ばすから行かないでくれ!!」カルトは咄嗟に追いつき、説得する事となった。
「帰りたくないな、あんな恥ずかしい事になっちゃって・・・。」フュリーはしゅんとしょげており、顔を上げることはない。
カルトは一度転移魔法でフュリー以外を転移を終えており、再度魔力に集中し始める。
「フュリー、いいきっかけじゃない。あなたならレヴィン様を助けて行けるわ。」
「お姉様・・・。」
「元気でね、フュリー。」
「じゃあいくぞ、フュリー!先に運んだ場所とは違う所に飛ばすからな!」
「はい、お願いします。」
「フュリー・・・。」杖に魔力が溜まり、フュリーの足元に魔方陣が展開している時にカルトが声をかける。
「・・・?」
「ありがとな、また会おう。」
「カ、カル・・・」
フュリーの言葉は途中で区切られる、転移が成功し彼女は遠いシレジアへと飛ばされたのである。
フュリーは眩い光の中でシレジアに飛ばされ、突然の気候の変化に身震いする。フュリーのみ別の場所に飛ばすと言っていたが、どうやら城外であったようだ。
アグストリアは初夏であるがシレジアはようやく春を迎えたばかりであった、早朝のシレジアにしばらく離れていたフュリーはこの寒さに懐かしむように思った。
「カルト、いったいどこに飛ばしたの?」
彼女は笛を吹いてウェンディを呼びつつ辺りを見渡した。
おそらくシレジア近くの山間あたりだと思うのだが、この付近に来た事はないのか見当がつかなかった。
風が彼女の頬を撫で髪に何かが舞い落ちた、フュリーは頭に手をやって舞い落ちたそれを掴み取る。
「これは、何の花びら?」鮮やかなピンクがフュリーの目に飛び込んだ。
そして目の前に霞がかかっていてよく見えなかったが先程の風で視界が良くなっていく。
彼女の目の前には大きく立派な木が立っていた、その木には先程フュリーの髪に落ちた花びらがたくさん開花しておりあまりの鮮やかさに目を奪われた。
「見事な物だな。」
山間の樹々から白髪の少女がフュリーの前に現れる。
「ウェンディ」
「この大陸には存在しないと思っていたがあったんだな。年に一度、それも少しの間しか花を出さないが見事な色の花を見せる。」
「私も初めて見た。」
「フュリーに元気になって欲しいと願ったカルトがここへ飛ばしたんだろう、いつまでもくよくよする訳にはいかないぞ。」
「そうね!行きましょう、ウェンディ!カルトも分までシレジアを護るわよ!」
二人はシレジアの空へ舞い上がる、ピンク色の花びらを纏わせたフュリーとウェンディは空高く上がっていくのであった。
イザークでは長く続いたグランベルとの戦いにおいて一つの区切りがつこうとしていた、マリクル王子とクルト王子が和解に向けての準備が出来つつあるからである。
初めの戦乱は酷い有様であったが、戦場にクルト王子とバイロン率いるグリューンリッターにリングの率いるバイゲリッターが加わった事でイザーク内の鎮圧が収まりつつあった。先にイザーク内で戦闘を行っていたランゴバルドとレプトールに合流し、彼らの進軍を優先するスタイルから融和である対話の道へと切り替える。
マリクル王子の徹底抗戦に苦戦が続いたのであるが、ようやく地道な道のりを続ける事により対話の道へと漕ぎ着けた。
それは大変なものであった、たとえこちらの兵を殺されても相手のイザーク兵を殺す訳にはいかないからである。
捕虜とされた者も無下に扱わず、町の民には炊き出しを行い決して侵略行為ではない事を伝えていく。その戦いが2年にも及んだのである。
ソファラの町にて両国の代表者が集まり、密約を交わす所であった。その密約は限られた諸侯のみに伝えられ、従者は1名のみという条件に基きクルト王子はバイロンを連れてソファラへ赴いた。
マリクル王子も約束を違う事なく従者1名のみを引き連れ、約束の場所に両軍立ち入らない配慮を行う。
先に約束の場に到着したのはクルト王子、彼は早い段階より待機しマリクル王子の到着を待つ。武器の類は一切持ち合わせはなく身を守る装備すらしていない、バイロン卿も同様であった。
「マリクル王子、遅いでありますな。」
「もうじきさ・・・、これが終わればグランベルにようやく帰れるね。」
「はい、我々の騒動で息子に迷惑を掛けてしまった。すぐに迎えに行ってやらねばな。」
「シグルド公子なら心配いらないさ。バイロン譲りの勇猛さがあるし、何より彼は人を惹き寄せる力がある。
きっと各地から彼の力になる人々が集まり救ってくれているだろう。」
「ありがとうございます、そうであるといいのですが。」
「終わったら私も一緒に行こう、なんだか行けば良い事があるような気がするよ。」
ここでマリクル王子が部屋に入室する。
「失礼する、私はイザーク国マリクル王子です。」
「おおマリクル殿、グランベル公国シアルフィのバイロンと申します。ささ、こちらへ。」
バイロンに促され着座する、彼は雨除けを羽織り雨を落とす姿を見ていつの間にか外は雨が降っている事が伺える。
「雨、ですか。」
「うむ、この辺りももうすぐ雨季に入る。すまない、突然の雨で遅れてしまった。」
「いえ、大丈夫です。では早速ですが調印に入りましょう。」バイロンはクルト王子とマリクル王子に羊皮紙を差し出す。
「我々はお互いに様々な痛みを受けた。どちらが悪い、正しいと追求する事は非なる事ではない。
非なる事は、これ以上無駄に血が流れる理解しているにも関わらず突き進む事が非である。
ますば双方剣を引き、次の世代の為にも平和的解決を模索し歩み寄る為の調印である。ご意見等はあるであろうか?」
二人は沈黙のまま頷く、異論がない事でバイロンは二人に調印を促し二人はサインする。
「これでイザークとグランベルは不戦条約を締結しました。今後はお互いに無血での真理を模索しようではありませんか、二国の民に平和があらん事を。」
調停は恙無く終わりを見せる、このまま会食をすませ意見の論議を出し合う中で突然の悲劇が起こるのは数時間後の話であった。
リングの死が突然もたらされたたのである。彼はこの会場にマリクル王子暗殺を企て、アンドレイがそれを看破した。その結果リングを止むを得ず殺害したそうであった。
そしてリングがマリクル王子を暗殺に導いたのはバイロンである事を自白して果てたというのであった。
調停会場にもたらされた情報に、一同は情報の錯綜に動揺を見せるがマリクル王子もクルト王子も冷静であった。
だが周りの諸侯達は黙っていたなかった、ランゴバルドとレプトールはバイロンの凶行に憤慨しソファラを襲ったのである。
彼らはなぜソファラの会談を知っていたのか、情報は流されていない筈である。なのにリングは狙撃を企んだとされ、都合よく阻止できたなどのタイミングの良さに疑問がある。
全てが出来上がった策略に翻弄されマリクル王子とクルト王子は討たれてしまう、唯一の例外はバイロンの生存と逃走だけであった。
彼が逃げ延びてしまえばイザーグでの暗殺所業の全てが明るみになってしまう、両名はバイロンの抹殺に全力を傾けていくのであった。
「マンフロイ様、クルト王子の殺害確かに見届けました。」
「そうか!奴らめ、面白いようによく働いてくれる。」
リボーの秘密の一室にてマンフロイはクルト王子暗殺の報告に嬉々として聞き入れる、見届けたフレイヤは報告に上がっていた。
「マンフロイ様、これで私達の悲願ももうすぐですね。」
「そうだ、これでナーガ一族の血を引くものはあと三人になった。バーバラの老いぼれはもうくたばるのも時間の問題、あとはあの女とアルヴィスをなんとかせねばな。
フレイヤ、準備は整っておるか?」
「はい、精霊の森の巫女はシアルフィのシグルドが囲っております。例のナーガの血を持つカルトが監視しているので容易ではありません。
アグストリアの内乱が集結しそうでありましたので少しばかり策を労しまして、アグストリア内に止めるようにしております。」
「ふむ、イザークにはもう用はないからな。
次の戦乱では儂も参加しよう、その時にカルトという小僧とあの女を処理する。」
「マンフロイ様、カルトの能力は計り知れません。
マンフロイ様でも手を焼くと思います、その時は・・・開放してよろしいでしょうか?」
「フレイヤ・・・あれをやる気なのか?」
「はい、マンフロイ様には万が一があってはなりません、私は喜んで全てを解放いたします。その時は後をお願いします。」
「わかった・・・、出来ればあれを使わずになんとかしたい所だ。
お前にはまだまだ働いて欲しい事がある、それは最悪のケースの時にするのだぞ。」
「ありがたきご配慮、私も出来る限りマンフロイ様にお仕え致します。」
「うむ、お前には時間がある限りアルヴィスに通じて奴を誘導するのだ。あの女をあてがうタイミングも狙うのだぞ。」
「はい、そちらも計画通り進んでおります。
あの気位が高い性格をうまく使い、こちら側へ誘い込めております。」
「そうであろうな、奴はロプトの血が流れている事を知れば必ずロプトの血を含めた平等な世界を作ると言いだすと思っていた。奴の野心の高さも見えておるからな、今の体制を壊してでも上り詰めるだろうな。」
「マンフロイ様の言われた通りでした。私が徐々に知恵を提供し、拐かしていけば予想通りの結果になりつつあります。」
「くくく・・・、儂の計画通りか。いよいよ仕上げの段階だな。」
フレイヤは畏る、マンフロイの恐ろしい老獪さにただただ恐れ入るのである。マンフロイの頭脳と、フレイヤの行動力。
この二つが大陸の闇へと誘っていく事となり、シグルドとカルトはこの大陸の動乱に巻き込まれつつあるのであった。
次回より原作の3章 獅子王エルトシャンに入っていきます。
冒頭ではシャガール主導で始まりますが、彼は死んでおりますので別なスタートとなります。
楽しみにして頂けたらと思っております。