ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻)   作:Edward

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思った以上に早く出来上がってしまいました。
私的にも早く進めたいと思う所があるからだと思っています。


マディノ

落ち着きを取り戻したラケシスはエルトシャンに事の詳細を説明する。

シグルドが窮地に立たされシレジアへ撤退を計画している事、アグストリアもイザークのシャナン王子を有しておりその事を理由にして侵略をしようとしている事を丁寧に説明していく。

ラケシスの話を終始口を挟む事なく黙って聞き入るエルトシャンは極めて冷静であり、眼光だけが鋭く輝いているのであった。

話し終えたラケシスに対してエルトシャンはゆっくり席から立ち上がりラケシスの肩に手を置いた。

 

「よく説明してくれた。

マディノにいる者達はこちらに撤退させよう、少々手狭になるがそうも言ってられないな。

シャナン王子達は客人でもある、簡単に奴らに渡す訳にもいかぬ・・・。アグストリアとグランベルの戦争になるな。」

 

「エルト兄様!私達もシレジアに参りましょう、シグルド様と共に今は撤退してアグストリアを取り戻す時期を見定めましょう。」

 

「・・・ラケシス。

そうはいかぬ、私に一時期でも祖国を捨てて再起を図るような事は出来ない。

シャナン王子達を傭兵連中に紛れ込ませてシグルド側へ就くように計らう、今まではグランベルの目があったが逆賊の汚名を着てしまったのならこれ以上隠しだてしても意味がない。」

 

「エルト兄様は、お一人でグランベルと戦うおつもりですか?

何故です!そこまでお考えになっているなら、どうしてシグルド様と仲違いをなさったのですか!

あれがなければ今頃シグルド様と一緒にグランベルと戦えたのではないですか!」

 

「・・・今は時間が惜しい。

グラーニェとアレスをレンスターに帰郷させようと思う、すまないが一緒に行ってくれ。」

 

「兄様・・・!嫌です!私も最後まで戦います!

これ以上兄様だけに重責を押し付け、さらに最期の戦いまで決意している兄様を絶対に残しません。私は最期まで、兄様についていきます。」

 

「馬鹿な事を言わないでくれ。この戦いが終わったら必ず迎えに行く、だから・・・。」

 

「嫌です!」

ラケシスはエルトシャンの胸に飛び込む、彼女の強い決意がエルトシャンの意地に負けずと反論するのである。

 

「私は!ラケシスは絶対に兄様のお側で戦います。二人で、グラーニェ様とアレスを迎えに行きましょう。」

 

「ラケシス・・・、強くなったな。

わかったからもう離してくれラケシス、俺はお前の為にも死なない、約束しよう。」

 

「兄様・・・。」

 

顔を上げた時、ラケシスの顔にそっと布があてがわれる。

その甘い香りがする布は麻酔作用のある揮発性液体が塗られていた。意識が遠く感じる中はラケシスはとっさに腰の短剣を取り出して自身の大腿に刺そうとするが、その手もエルトシャンに止められてしまう。

 

「ラケシス、すまない・・・。兄を許せ・・・。」

 

「そ、そんな・・・エルト兄様・・・しなないで・・・」

彼女は次第に体の力が抜け、エルトシャンは抱き抱える。

 

フィンは二人のやりとりにただ立ち尽くすしかなかった。エルトシャンはラケシスを簡易なベットに寝かしつけ、その寝顔を見入っていた。

 

「エルトシャン王、まさかあなたは・・・。」

フィンはこの準備の良さに、エルトシャンは全てを見透かしているようにしか思えなかった。

口にしようとするがエルトシャンはそれを決意の目で持ってそれを制する。

 

「これを目が覚めたらラケシスに渡してくれ。

それとフィン殿、どうかラケシスを頼みます。」

エルトシャンはフィンに頭を下げたのだ、一国の王が頭をさげる事などあってはならない。フィンはその王の覚悟を読み取り、決意を返す。

 

「エルトシャン王、わかりました!私は命に代えても彼女を守っていきます。」そしてエルトシャンからラケシスへ渡して欲しいと頼まれた品は一振りの剣と手紙であった。

フィンは受け取り大事に仕舞う。

 

「では私はグラーニェ様とアレス様、ラケシス様を連れてレンスターへ向かいます。

エルトシャン王!どうか、どうか!ご武運を!」フィンは最期の戦いに望む獅子王に対して、最敬礼を行う。

 

「君のような騎士に出会えてよかった、・・・ラケシスと幸せに暮らしてくれ。」

 

「!・・・はっ!」

 

「別れが辛くなる、行ってくれ。」

フィンはラケシスを抱えると退席する、ドアの前で頭を下げてしばらく制止していた。そしてゆっくりとあげるとドアを閉めていくのであった。

 

「ラケシス、許してくれ・・・。」彼は再度、最愛の妹に許しを請うのであった。

 

その後フィンはキュアンに許可を貰い正式にラケシス姫とグラーニェ夫人、その子供であるアレス王子を連れてレンスターへ送り届ける任務に就く。

彼はエルトシャンの意思を尊重し、レンスター国が後に没落しても三人を懸命に支えていく。その甲斐がありアレス王子はレンスターの元で立派に成長を遂げ、父のミストルティンを求めアグストリアに舞い戻る事となるのである。

ラケシスと結ばれたフィンはその後レンスター国で二人の子供を授かり、その子供達はキュアン王子の子であるリーフと共に帝国と立ち向かっていくのである。

 

 

 

フィンの火急の知らせがアグストリアのシグルド達に入る。マディノ城の明け渡しが決まり、全軍全速で向かう事となった。

非戦闘員と物資の移動がこんなにも大変である事が今回の移動で痛感されたカルト、馬車を多く用意したつもりであったがそれでも数が足りずに往復しなければならなくなった。夜通し行われたその作業の中、予想外の出来事が起こる。

 

マディノの一部の兵が城内を居座っている。その情報を受け、カルトは非戦闘員を受けれる教会から一度入ったマディノに転移する事となった。

 

「どういうことだ!誰が残っているのだ?」レックスは苛立ちを隠せず、先に入った部隊に状況を説明させていた。

 

城門の前に転移したカルトはレックスのやり取りを聞き、城門を確認する。

重厚なその扉は閉められており、閂が入っているのか通常の方法では開く様子がなく門前で討議をしているのであった。

 

「誰が籠城しているのだ?」カルトの言葉にオイフェは躊躇いがちに答える。

 

「はい、どうやらイザークのホリン様がベオウルフという傭兵と共に立て籠もっている様です。」

 

「ホリンが?まさか、あいつがそんな事を・・・。」

 

「はい、なぜその様な事をしているのかも不明です。」

 

「・・・わかった、確認してみよう。」

 

「出来るのですか?」

 

「今も持っていていくれていたらいいのだが。」

カルトは懐から一つの小さな石を取り出し、魔力を込めていくのであった。

 

 

ホリンは謁見の間にいた、ベオウルフとエルトシャンが雇った凄腕の剣士ジャコバンと数名の者に指示を与えている時に懐の石から呼びかけが聞こえてくるのであった。

 

「これは、確か・・・。」ホリンは以前にカルトに渡された瑪瑙の石を思い出し、握りしめる。

 

『ホリン、聞こえるか?』カルトの声が頭に響いてくるのであった。この瑪瑙の石は相手の位置を探す事しか当時のカルトは出来なかったが、応用できる様になり相手の石と同調させて伝心ができる様になっていた。

 

『ああ、聞こえている。カルトだな?』

 

『ホリン、どういうことなんだ?なぜ籠城をしている?エルトシャン王の命令を聞かないとでもいうのか?』

 

『・・・』

 

『ホリン、訳を話してくれ!俺たちに隠し事は必要ないはずだろ?』

 

『・・・俺はここでお前と戦う事にする。遠慮はいらぬ、かかってきてくれ。』

 

『ホリン!』

 

『俺達は祖国を失いカルトの助けでアグストリアの、いやエルトシャン王により2年足らずの安息した日々を過ごせた。なのに、俺達のせいでエルトシャン王を苦しめているのは我慢が出来ぬ。

ここで俺がお前達と戦い、抵抗して戦死すれば少しは言い分も立つだろう。』

 

『馬鹿な!エルトシャン王は傭兵騎団に紛れ込ませる様に言われている、俺達と一緒にシレジアに来るんだ!』

 

『それは出来ない。俺はアグストリアが滅びていくのに、世話になったエルトシャン王を捨ててシレジアに逃げるなど剣士として納得が出来ない。』

 

『な、なんだと?アグストリアが滅びる?』

 

『エルトシャン王は、いやエルトシャンはお前達に生き延びて欲しい一心で今まで尽力されてきたのだ。』

 

『なんだって!ホリン、教えてくれ!一体何が起こっているんだ?』

 

『カルト、エルトシャンがシグルドに宣戦したのはお前達をアグストリアに残る為の芝居だ。シャガール王も、ザイン殿もシルベールで隠遁生活をしている。』

 

『な、なぜなんだ。なぜそん真似を・・・。』

 

『彼は、アグスティに登城した際にロプト教団の者がシャガール王を殺害されそうになっている現場に出くわし阻止したそうだ。

かなりの使い手だったそうだが、その者を打ち破ったエルトシャンにそいつは命乞いをしたそうだ。命を救う条件が、アグストリアとグランベルの情報だったらしい。

その中にシグルド公子の父上が謀反を起こそうとしている、シグルドがこのまま帰国すれば処断される事も聞いたそうだ。』

 

『奴らはそんなに早く、その情報を・・・。』

 

『ああ、だからエルトシャンはシグルドに対して宣戦したんだ。まだイザークに大半のグランベルの軍勢がいるなら、ここでエルトシャンが宣戦すればシグルドの軍が必然と残るしか無いからな。

だから彼はシグルドと戦う素振りを見せて、軍を強化しその時に備えていたんだ。』

 

『その時は、まさかこの・・・!』

 

『ああ、グランベルから本隊がくるこの事だ。

もしシグルド公子が、一緒に戦う道を選んだとしてもエルトシャンは拒否するだろう。

彼は何があってもシグルドを救いたい一心で計画を練られていた。だから、カルトがシレジアへシグルドを亡命させる事は賛成していた。』

 

『俺の計画にはエルトシャン王も亡命できるくらいの軍船は準備している。だからホリン、馬鹿な真似はよすんだ。』

 

『カルト、エルトシャンはその船には乗らない。奴はアグストリアを捨てる事など絶対にしない男だ、そして俺はそんな奴に惹かれてしまった。ここは一つ力比べといこうじゃないか。』

 

『ホリン!』

 

『以前、言っていたなカルト。

俺の父上がリボーからマナナン国王と共にグランベルに出立した時の事だ、国王の処断を避ける為の落とし所が必要だったと。

ならば!今回は俺が落とし所として引き受ける、シャナンとアイラの処断を逃す為に俺はここでお前達を待つ。』

ホリンは瑪瑙の石を床に叩き付けて伝心を強制的に遮断してしまうのであった。

 

カルトは顔面が蒼白となりよろけてしまう。なぜそんな事になった、自問を続ける。

オイフェが何が言っているがカルトの頭には一切入ってきていなかった。

 

(俺は親友を殺さねばならぬのか?)

 

ふらつく足取りで城門の前に立つ。思考が混乱しているが前に進まねばならない、だが進めばホリンと・・・。その相反する思考の中、魔力を集中させ城門を破る魔法を繰り出す。

 

「オーラ!!」

天空より降り注ぐ光の柱が城門を吹き飛ばす、その激しい魔力に全軍驚きに包まれる。

 

「シグルド公子、すまないが広間には誰も近づけないでくれ。

それと中の人達も抵抗するわけではないと思う、丁重に侵入してくれ。」

 

「わかった、君はどうするつもりだ?」

 

「広間にいるホリンと会ってくる。すまないが、全ての権限をシグルド公子にお願いしたい。」

 

「了解した、・・・カルト公。

いつも大変な事ばかり押し付けてしまい申し訳ない、今一度頼みます。」

 

「マディノが無事制圧できたら、相談したい事があるんだ。シグルド公子、聞いてもらってもいいだろうか?」

 

「無論だ、君の頭でも処理できない事なら私の意見など参考に出来ないかも知れぬが君の重荷を少しは背負わせてくれ。」

 

「ありがとう・・・、行ってくる。」

カルトはゆっくりと広間へと向かう、砕けたとは言え魔力探索はまだ可能である。まっすぐその方向へ向かっていく。

 

その通路を塞ぐ一人の剣士が腕組みをし、壁際に背中を預けて立っていた。

カルトを値踏みするようなその瞳をしているが今のカルトには眼中にもなく、そのまま進んでいた。

 

彼の前を通り過ぎた瞬間、横に立てかけていた剣の鞘を抜きカルトに突きつける。

 

「無用な戦いはしたくない、俺はホリンに会いにきただけだ。失せろ・・・。」

 

「まるで生気がない顔をしているな。ここは戦場だ、貴様こそ知り合いと戦えぬと甘い事をほざくようならここで錆にしてやろう。」

 

「やめろ・・・。今の俺は加減はできない、命を捨てる事になるぞ。」カルトの目に、言葉にまるで力がない。しかし噴きあげる魔力は反して体を纏っていくのである。

 

「ぬかせ!」剣士は突きつけた剣を降りかざす。

剣より魔力が発する、それは雷となりカルトに降り注いだのである。

 

カルトの体は吹き飛ばされ壁面に激突し、壁面から煙がふきあがりあたりを白い世界へと変えていく。

 

「私を普通の剣士と思うな、この雷の剣と共に多様な戦場を生き延びてきたのだ。」

剣を鞘に鞘に収めた剣士は広間に戻り始める、結果など見るまでにないと思った剣士であるがそれはカルトに対しては完全に悪手である。

 

通路より強い風が立ち込め辺りの煙をたちまち霧散させてしまう、剣士は振り向き驚きを隠せずにいた。

激突した壁面から立ち上がっていたカルトは左手を前に突き出した状態で立っている、先ほど受けた雷ですらどこにダメージを受けているか分からない程無傷であった。

 

「馬鹿な、私の雷が・・・。」

 

「剣士なら剣で戦うべきだったな、俺にはその程度のサンダーでは焼き殺す事は不可能だ。」

 

「お、おのれ!」剣士は再度剣を引き抜くと、カルトに襲いかかる。

 

見事な連続攻撃であるが、カルトは白銀の剣を抜いてそれを叩き落としていく。

魔道士であるカルトに剣での攻撃は不要である、自分の身を守るだけの剣技に突出した訓練を受け続け、ついに守りだけなら一流と呼ばれる領域に達しようとしていたのだった。

剣士の攻撃をいなし、かわし、受け止め、叩きおとす。カルトの技術に剣士は徐々に余裕を無くしていく、そして大振りの一撃にカルトは攻勢に出る。

唐竹割りの一撃をあえて相手の懐に飛び込んだ、剣士は咄嗟に剣を離して拳打を放ちカルトの顔面を強打するが魔法の準備は終えていた。

 

「エルウインド!」

密着状態から放たれたエルウインドは突風と鎌鼬が発生し、剣士を吹き飛ばしながら身体中を切り刻む。

カルトが先ほど激突した壁面に同じく当たり、その壁面を突破してしまう。さらに剣士は2回転、3回転してようやく止まる。左腕は切断され壁面辺りに転がり、大量の血が辺りに飛沫して染め上げていた。

 

カルトは立ち上がり、自身に治癒を行いつつ死体となったであろう剣士を見つめた時カルトの胸に血が勢いよく送り出される。

そこにカルトが探し求めていたホリンが佇んでいたのであった。彼の瞳はいつもと変わらない青い瞳、意思のある瞳がカルトを映し出しているのである。

外はすっかり闇に包まれ、満月の光が時折差し込まれる。

二人の剣が鈍く反射するのであった。




ホリン

フォーレスト LV25

HP 64
MP 0
力 25
魔力 2
技 24
速 20
運 14
防 15
魔防 3

スキル
追撃 月光剣

白銀の大剣(ソファラ国王から譲られた剣)

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