ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻)   作:Edward

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更新が遅くなりまして申し訳ありません。
この辺りは、今までの伏線と陰謀の調整で書き直しが何度もありようやく掲載できるようになりました。
色々と矛盾点が出てくる可能性がありますのでその辺りも感想にご指摘等頂ければと思います。


残光

カルトとランゴバルドの一進一退の舌戦は互いに間違えれば思惑を看破されて途端に不利に追い込まれてしまう、言葉を選びつつも有利にたとうと挑発じみた口調に最後の切り札とも言えるカードを切ったカルトはもう後戻りは出来なかった。

その様子をマディノの一室から聞き取るクブリはその行く先を案じつつ、展開を見守る。彼はカルトの持つ瑪瑙の石を譲り受け、自分の魔力を帯びさせてカルトに持たせる事でランゴバルドとの折衝を聞きとる事としたのだ。

 

クロード神父がアグストリアに来た際に教え子でもあるエーディンに招聘の杖を譲り渡している、いざとなればクブリの魔力とカルトの持つ瑪瑙の石を媒介にここへ救出する事も可能である。譲り受けてまだ使用した事が無いのでいきなり使えこなせるかどうかは定かでは無いが選択肢はあった方がいい、クブリの一室にはエーディンとシグルドに加えレックスとアゼル、エスニャまで待機していた。

 

エスニャ「どうですかクブリ?あの人はうまくやっていますか?」

 

クブリ「はい・・・。カルト様はとうとう自身の真実を公表されました、そのおかげでランゴバルド公はカルト様に強引に物事を進める事は出来ず攻めあぐねています。」

 

シグルド「彼の真実?一体それは・・・。」

 

クブリ「はい、今までひた隠しに隠していた事ですが・・・。カルト様はアズムール陛下の血を引いたヘイムの家系の者です。」

 

エスニャ「まさか・・・、あの人にそのような。」

 

レックス「馬鹿な、そんな事ありえない!ヘイムの血筋が他国に存在する訳がない!」エスニャの言葉をかき消すように彼は否定する、各諸侯の貴族達はヘイムの血を神格化すらしている存在である。他国にその血筋がある事など考えたくないレックスの心情が反映していた。

 

クブリ「私も詳しい事はお聞きしていません、私もそれを聞いたのがつい先日なのです。それはアミッド様がお生まれになられた時です。」クブリはエスニャを見ながらそう答えるとエスニャはアミッドの額の話をした時のカルトの反応を思い出す。

 

エスニャ「・・・!まさか、アミッドは?」

 

クブリ「はい、カルト様のヘイムの力を色濃く受け継いでいると仰ってました。」エスニャは驚きを隠せなかったが心の何処かでそれに納得をしていた、シグルド達もそれは同様である。

マディノでの城門破壊に使用したオーラという魔法はシレジアの一魔道士に使える魔法では無い。特に上位魔法であるオーラやリザイアは魔道書の入手も出来ず、魔法の行使はヘイムの家系で生まれながらの血脈か、精霊使いが修行の果てに会得するくらいである。

いくらカルトに魔法の才能に恵まれても光魔法や闇魔法は生まれ持っての環境か、血脈で無いとどうにも出来ないものである。

それをあの頑丈な城門を一撃の元に粉砕したオーラは紛い物では無い、一堂は徐々にカルトが宣言したことに納得を覚えていくのであった。

 

シグルド「カルト公が切り札を切った、という事は現状はよほど自体は切迫しているのですか?」

 

クブリ「はい・・・。おそらくそうしなければカルト様はその場で処断され、すぐにでもマディノへ侵攻した事でしょう。

公表し、額の聖痕で信憑性を得たカルト様の話を最後まで聞かざるを得なくなり、ランゴバルド公は怒りを噛み殺しながらカルト様のお言葉に耳を傾けています。」

 

レックス「そうだろうな・・・。いくら親父でもクルト殿下が亡くなられたのであれば、次期王家継承者の碌に聞かずに処断する事はないだろう・・・話の状況次第だがな。」

 

シグルド「しかしそれでも迂闊な発言は不味い、ランゴバルド卿はかなり強引な手法を使う事で内外にも有名な方だ。下手をすればそんな事は関係なく処断される可能性もある。」シグルドの言葉に部屋は一瞬に温度を下げていく雰囲気になる。エーディンは持つ招聘の杖に自然と握力が入り、エスニャは胸に両手を当てて心配の行動をとる。

 

クブリ「それでも・・・、カルト様はバイロン公の無実を訴えています。彼がクルト王子を殺害するメリットの無さ、イザークを手中に収めるにはあまりに粗末な手段に陰謀があると一歩も引かずに説いています。」

 

レックス「親父相手に正面切って言うとはな・・・。」

 

シグルド「・・・カルト公もういいんだ。今は君が無事に帰ってきてくれるだけでいい、だから無茶はするな・・・。」

 

エスニャ「シグルド様・・・。」シグルドは机に腕を立てて祈りに近い思いを吐き出す、エスニャはその祈りに感謝しつつ精神を集中に伝心を続けていた。

 

クブリ「どうやら今はクロード公の帰還を待っているそうです、ブラギの塔で真実の御言葉を賜ったクロード公の口からこの度の陰謀は誰であったのかを聞けばランゴバルド公も従わざるを得ないでしょう。」

 

シグルド「確かに・・・、推測を越えることはできない以上クロード神父に頼る事しか無いようだ。

クロード神父は誰にでも平等な立場で、アズムール陛下の依頼がある度にブラギの塔に赴いて真実の御言葉を賜ってきた。ランゴバルド卿もその言葉に従わざるをえないだろう・・・・・・しかし。」

 

レックス「クルト殿下を殺害したのがオヤジかエスニャの父親だったら、どうなる?」シグルドの思考を慮り、レックスは自ら父親がその渦中にある可能性を示唆するのであった。

 

エスニャ「そ、そんな・・・!いくらお父様でもそんな恐れ多い事を・・・。」

 

レックス「エスニャの父親はどうかわからんが・・・、うちの親父ならやりかねないかもしれんな。

アズムール陛下からクルト殿下に変わってから執政と軍事は徐々に力を失いつつあり、変わりにシアルフィ家のバイロン卿がクルト殿下の元で発言力が強くなってきていた。

長年執政はフリージ家、軍事をドズル家が受け持っていただけに親父はその状況が面白くない感じだった。」

 

シグルド「確かに、バーバラに登城した時にその様な雰囲気を感じた事はある。しかし、いくらランゴバルド卿もレプトール卿もそんな強引な手法を使うとは思えない。

何かこれにも深い何かがあるように思う、いや思いたい。」

 

レックス「シグルドの想いはわかるが、もしその仮説が当たっているならばカルトは生きてアグスティから出る事は出来ないだろう。何よりあいつはその可能性を以前から示唆していた、もしもの時は覚悟を決めているのだろう。」

 

クブリ「それもそうですが、別の可能性としましてクロード公に追っ手を差し向けてアグスティへ登城させなくするかもしれません。カルト様をあからさまに殺害するより、道中の事故に仕向ける方が都合が良いででしょう。」

 

レックス「それはまずいな、クロードを迎えにいった方がいい。」

 

シグルド「いや、ここで我が軍が支援すればクロード神父の御言葉が我々を庇護するものだと糾弾されてしまう。」

 

クブリ「エーディン様、ここはその招聘の魔法でクロード公を救出できないですか?

人をやるよりも魔法で人知れずここへ救出する方がいいと思われます。」

 

エスニャ「それでは一緒に向かわれたお姉様が取り残されてしまいます、あちらの地ではどのような事になっているかわからない以上その手段は強引すぎると思います。」

論議は次の論議で潰され、全員一致となる回答はなく沈黙となる。

 

『クブリ、マーニャに人知れずクロード公を頭上から監視するように命じてある、その点は心配するな。それよりもアグストリアからの撤退はどうなっている?』カルトから伝心が伝わる。

 

『それでマーニャ様が見当たらなかったのですね、安心しました。シレジア軍船がまだアグストリア領海に入っておりません。

私の配下が乗ってますので、距離が近くなれば伝心が入るはずなのですか。』

 

『そうか・・・、これ以上時間を伸ばすのは難しい。

マーニャにクロード公を追わせた時に対岸の跳ね橋にデューを下ろすように命じてある。

デューが跳ね橋を下ろしてくれるはずだ、うまくいったらオーガヒルに向かえ、奴らの根城を制圧しつつマディノから離れるんだ。』

 

『なるほど、しかしカルト様はどうなさるのですか?』

 

『俺の事を気にしていたら何の為に危険を犯してまで奴らと激論を交わしているのか意味がないだろう、気にせずに行け!』

 

『か、畏まりました。』

 

『それとシグルド公子に伝えてくれ、マーニャの情報によるとオーガヒルの海賊共がこの混乱に乗じて近隣の村々を襲おうと舟を出しているそうだ。上陸されれば厄介になる、奴らを掃討する部隊も選抜してくれ。』

 

『し、しかしそんな事をすれば撤退する事が出来なくなるのでは・・・。』

 

『奴らを掃討すれば、オーガヒルの東の対岸に移動してくれれば船をつけられる。もしくは跳ね橋を守って部隊を通した後にデューに跳ね橋を上げてもらうんだ。危険な賭けになるがシグルド公子が賊を見逃してまで逃げ延びるような御仁ではない、彼に伝えて判断を仰ぐのだ。』

 

『承知しました。』

クブリはすぐさま一室にいる者達に説明する、シグルドもレックスもその決断の早さに相も変わらずのカルト節に感嘆するが時間が無い事は判断できる。会談の続きはクブリに任せ各々が出来る行動に移り出したのであった。

 

 

オーガヒルの海賊がアグストリアの対岸に上陸し始め、微妙な軍事バランスは崩れ去り始めた。シルベールのアグストリア軍、マディノのシアルフィの混成軍、アグスティのグランベル軍が動き出す。

初めに動いたのはマディノのシアルフィ軍であった、村々にレックスとキュアンの軍が掃討に当たる動きを察知し西側に展開していたオーガヒルの賊をエルトシャン率いるクロスナイトが掃討に当たりだした。

 

そしてその動きに、待ってましたとアグスティのグランベル軍が警戒を理由に出撃を始めたのである。

アグストリアのクロスナイツに、グランベルの精鋭グラオリッター。どちらと戦う事になったとしてもシアルフィの部隊では歯が立たない、それにグランベル軍はまだ到着していないがレプトールのケルプリッターが加わればエルトシャンもシグルドも勝ち目はなくなり彼らの思うがままとなる。

撤退を一刻も早く完遂する為、マディノにいる残りの部隊は北の跳ね橋が降りる事を待つ。

『早く!早く下ろしてくれ!!』皆の嘆願が届くかのように跳ね橋はゆっくりと降ろされて行く、潮風に長年晒された稼動部は腐食している部分があるのか不気味な音を立てながら下降して行くのである。部隊が跳ね橋を渡り出し、殿をシグルドのシアルフィが守る形となった。

オーガヒル攻略にはアゼル、シレジア部隊と傭兵騎団が向かい出す。

この混戦に誰もが今までに無い不安を醸し出す。一つでも間違えば一個部隊は全滅に繋がり、その全滅は他の部隊の存続にも直結するのである。

キュアン、レックスが賊の掃討に遅れれば彼らはグランベル軍に制圧される。アゼル達の部隊がオーガヒル制圧が遅れれば、シレジア軍船が対岸に船をつけることが遅れてしまいグランベル軍の追撃を許してしまう事となる。

そしてシアルフィ部隊が跳ね橋の進軍を許せばアゼル達がオーガヒルを制圧する時間を無くしてしまう。

全てに時間も、物量にも劣るこの度の戦いは多大な犠牲が脳裏をよぎりそれ以上に気になる友の決断である。

 

エルトシャンはフィン達との別れ際にアグストリアの地から離れない、グランベルと徹底抗戦を宣言している。

それはシグルドの軍も含めてのいいようなのであろうか?

友を疑問に持ちたく無いシグルドはグランベルとの撤退よりも苦しんでいるのである。

もし、彼がこの地に踏み込んできたら・・・。

もし、彼がグランベル軍に進軍したら・・・。

シグルドの胆力は多少の事では揺らがない、だがこの事態にエルトシャンを慮り憂いを募らせるシグルドであった。

 

 

 

「待て、ランゴバルド公!マディノとシグベールの軍はオーガヒルの海賊共を掃討する為に出撃している。ここであなた達が出撃すれば戦場が混乱する事になる。」ランゴバルドに制止を求めるカルトに対して彼は冷ややかな目でもって一瞥する。

 

「ふん!ここへ攻めてこないとどこに保証がある、マディノとシグベールの軍が密約で共闘していればこちらも身構える必要がある。あくまで待機するだけだよ、こちらからは手を出さなければいいのであろう?」

 

「防衛の手段として、だな?」

 

「そうだ。

あくまで防衛である、こちらは精鋭のグラオリッターとは言っても軍の半分しか派遣していない。不利となればエバンスに撤退するにも出撃はしておかねばならない。」

 

「・・・その言葉、騎士の言葉として信用しよう。だがランゴバルド公!あなたはここにいてもらうそ。」

 

「ああ儂もネールの血を引く聖戦士、逃げも隠れもせん。」

彼はゆっくり立ち上がると立てかけてある聖斧に触れ、聖戦士としての儀礼を見せるがカルトはランゴバルドの瞳に宿る殺意を見逃す事は無かった。

弾かれたようにカルトは立ち上がり、懐ろから魔道書を取り出して魔力を体内から漲らせていく。

 

「やはりこうきたか・・・。自分から本性をこんなにも早く出すとは思わなかったが、わかりやすくて助かる。」

 

「何を言ってるのか分からんが、やはりマディノの軍はシグベールのエルトシャンと繋がっていると思ってな。クロード神父の話を聞くまでも無いと結論に至ったまでの事よ。」

 

「ふっ!よほどクロード公の登城があなたにとって不利になると見える。ますますあんたの陰謀が透けてきたと言ったところか?」

 

「ほざけ!憶測はあの世で考えるのだな!」

ランゴバルドは聖斧を振り上げて突進する。神の聖遺物であるスワンチカは神々しい光を放ち、カルトを両断せんと迫り来る。

 

「ウインド!!」カルトの先制の風魔法が突風となり、ランゴバルドに放つ。至近距離の突風は間違いなくランゴバルドに炸裂するが、彼の突進は止まらない。無傷でウインドを防ぎきったランゴバルドはカルトを一閃する。

 

「!!」カルトはその一閃を胴に受け、吹き飛ばされる。

部屋の壁面に激しく打ち付け埃を巻き上げる、すぐそばにあった窓さえもその衝撃でガラスが粉微塵に割れてしまい埃は煙のように外へ排出されていった。

 

「わははは!不死身のネールの二つ名を知らずにここにきた事を後悔するがいい。儂の前にそんな魔法、そよ風にも満たぬわ!」

 

「がはっ!」下半身を失ったカルトは夥しい出血に回復を諦め、ランゴバルドを睨む。

 

「やはり、お前がクルト王子を殺害したんだな?」

 

「まだ減らず口を叩けるのか、よほどこの世の内に真実を確認したいのだな?確かに・・・儂が殺した、計画したのはレプトールだがな。」

 

「やはり、な・・・。俺は間違ってなかったか・・・。」

 

「納得できたか、代償はお前の命になったがいい買い物だったろう。クルト王子によろしくな!」ランゴバルドは聖斧を振り上げる。その冷たい光はカルトの瞳に映り込むのであった。


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