ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻)   作:Edward

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またまた更新が遅くなりましてすみません!



決戦

レプトールの出陣の動向を察知したエルトシャンのクロスナイトは進軍を開始する、その一軍はみな泥に塗れており華々しい物とはかけ離れている。それはシグルドの提案によるものであり不満を口にする者がいたが、シグルドもエルトシャンも先頭に立ち塗れていく姿に自ずと反論する者がいなくなっていた。

 

シグルドの提案は堤防で水流を塞ぎ枯れた川底を進む事であった。

以前シャガール王を追い込んだアグスティ進軍の時に使用したカルトの水責めの作戦を再度使用し、下流の川の水を再び堰き止めたのである。

再び開拓の村々の力を借りる為シグルドは北の台地へ赴いた。この度の作戦もエルトシャン王を救う為と聞いた彼らは嬉々としてシグルドの下へ馳せ参じ1年前に使用した資材を組み上げて堤防を再び積み、一夜にして完成させてしまったのだ。

今回は水責めをする訳では無いので高い堤防を作った訳ではない事が一夜にして完成出来た事かもしれない、それでも北の台地の大量の人材とその技量に再びシグルドは驚いてしまう。

 

「シグルド、どうやって騎士団の連中から抜け出してきたのだ?簡単にこの提案を引き受ける部下はいない筈だ。」エルトシャンは行軍しながらシグルドに問いかける、作戦を聞いた時に驚いたのはこの裏工作をどのようにやり抜けたのかに興味は尽きなかった。

 

「ハイライン攻略時にこの魔法の指輪を見つけてね、カルト公に聞いた所リターンリングという物らしい。」

 

「リターンリング?緊急脱出し、身近な場所に帰還できるアイテムか?」

 

「そう、オーガヒル行軍中に使ったんだ、てっきりマディノに帰還するかと思っていたのだが後方のアグスティに移動してしまった。

エルトシャンと合流する事が難しくなったのだが、この状況を好転する方法は無いかと思案しているうちに思い付いたのだ。」

 

「相変わらずお前は恐ろしい男だ、俺は絶対に思いつかないだろうな。」

 

「ははは、エルトシャンは生真面目すぎるからだよ。しかしエスリンにはいつも呆れられて言われていたよ。

エルトシャン様を見習って騎士らしい嗜みをして下さい、とな。」

 

「・・・こんなに泥に塗れる作戦、考える者は貴族ではお前くらいだろうな。ラケシスがいれば俺もなんと言われた事か。」

 

「ここに麗しい姫君はいない。ここはまさに泥水をすすってでも生き残ろう、ラケシスがお前の帰りを待っているぞ。」

 

「もう既にすすっている様な物だ、ここまできたらなんだってやってやるさ。」

 

二人の会話に周囲の者もにわかに笑みを零す。昨夜エルトシャンの檄もあり決死の勢いもあるが、シグルドが加わる事で彼とは別の感情がこの場を包んでいた。

彼の醸し出す雰囲気が指揮官としてのポテンシャルを高める物とは全く別の物が作用しているかのように、クロスナイトの面々はこの厳しい難問にも関わらず笑みを零してこの二人のやり取りを観察していたのである。

獅子王エルトシャン。その称号はまさに王者として品格と知性に加え、勇猛さを湛えられて得た物だがシグルドの前では猫の様に扱われてしまう。その滑稽さに笑いを引き出され、シグルドに対して親近感を得てしまうのだろう。

 

「伝令です、この先にフリージ軍と思わしき部隊が北に進軍しております。」先遣隊からの伝令に先程までなごやかであったクロスナイトも一気に緊張が走る。エルトシャンとシグルドは互いに頷き、獲物を抜き放った。

ぬかるんだ川底から這い出たクロスナイトは平原となった地を見渡すと数キロ先にいるフリージのケルプリッターを目視した。

 

「よし、これが最後の決戦だ。アグストリアの意地を見せてやるぞ!」エルトシャンは後方に檄を飛ばすと、無言で騎士達は剣を掲げて総意の合図を送ると一気にケルプリッターへと全速を始めた。

 

 

 

「て、敵襲ー!敵襲!!」ケルプリッターは東より迫り来るクロスナイトに色めき立った。

 

「奴らめ!どこから現れた。応戦するぞ、サンダーストームだ。」

 

「駄目です、こちらに全速で向かってます!命中は困難です。」

あちこちから伝えられる情報に処理しきれないケルプリッターは、遠距離魔法を諦めエルサンダーの準備に入る。

 

ケルプリッターの強力なエルサンダーがクロスナイトを襲い前衛にいた数名がが絶命するが彼らの勢いは衰えない、次弾が来る前に距離を縮め一気に懐へ入り込んだのだ。

混戦と化したその戦いに、魔法主体で戦うケルプリッターは不利に追い込まれた。数はケルプリッターと比べると絶望するくらいに差がある、だがそのアグストリアの誇るクロスナイトは獅子王の元でまさに獅子奮迅の活躍を見せたのである。

味方被害を覚悟して魔法を打ち出そうとする魔道士にクロスナイトは手槍で妨害し剣で仕留める、魔道士達は懐に飛び込まれてしまっているのでいつもの様に魔法を使う事が出来ないでいた。

ケルプリッターには、重装歩兵も待機しており魔道士を守らんと前衛を固めていたがクロスナイトの機動力に撹乱されていた。

 

「俺は獅子王エルトシャン!前に立つ者は容赦するつもりは無い!

命が惜しい者は俺に近づくな!!」魔剣ミストルティンの一撃をまともに受けた重装歩兵はその重厚な鎧の上からでもその身を二つに分けられ絶命した。

その壮絶さに辺りのケルプリッターは怯んでしまう、さらに後方からシグルドも負けじと剣を振るう。

エルトシャンの背後に迫っていた重装歩兵のサリッサをシグルドの白銀の剣はいとも簡単に真っ二つにしてしまう、そのまま二の太刀で胴切りを敢行し歩兵は昏倒する。

 

「背後は任せろエルトシャン!突き進むんだ!!」シグルドは手槍を引き抜くと後方で詠唱の準備をしていた魔道士へ投擲し、腹部を貫くと倒れこむ魔道士から即座に手槍を引き抜いて旋回させてとなりの魔道士にも一閃する。

別の魔道士からシグルドに放たれたサンダーをエルトシャンが割って入りミストルティンで受ける。

 

魔剣ミストルティンの持ち主は魔法防御が高められる、サンダー如きではエルトシャンを電撃で焼く事は不可能であった。

エルトシャンの眼光に魔道士は戦意を無くして逃走する、二人は頷くと再び馬を走らせた。

二人の標的はレプトールのみ、一刻も早く彼を打ちとらなければランゴバルドが引き返して合流されれば一縷の希望さえも無くしてしまう。二人の気迫は凄まじく、勢いを殺す事は不可能であった。

 

 

 

レプトールは前衛の苦戦の状況を目視できるくらいに迫り来ていた。その表情は焦りよりも怒りを露わにしており、自身の出陣を決意したのである。

馬より降り立つと従者に任せ、一冊の魔道書を持って先頭を切って迫り来る二人を見据えた。

 

「あれは、シグルドか!!奴め、玉砕覚悟で乗り込んでくるとは・・・。

まあいい、ここで死ねば逆賊のままで終わるだろう。」

レプトールは部下の被害も厭わず、精神を集中させて膨大な魔力を放出させる。距離を詰められる前に最大顕現であるトールハンマーを放つ準備を始めた。

 

「まずい!こちらに感づかれた。レプトールの魔法が来るぞ!!」

 

「シグルド!魔法は俺に任せろ、お前は迂回してレプトールを討つんだ!!」

 

「馬鹿な!!いくら魔法防御が高くても聖戦士の超魔法だ、死ぬぞ!!」シグルドの言葉を聞かず、エルトシャンはシグルドの乗る馬の腹を蹴る。

馬は慄くとシグルドは制しきれずに明後日の方へ走り出す。

 

「エルトシャン!!」その叫びと神の一撃は一瞬であった。

閃光と共にエルトシャンの駆る騎馬諸共白く儚く消えていくように視界から消えていった。

 

すぐに馬を御すると再びレプトールへ迫る、させまいと迫るケルプリッターを蹴散らしながら気迫と怒りが混じったシグルドは全速させる。

エルトシャンが作ったこの時間を無駄には出来ない、シグルドはもう馬が限界に来ている事がわかっているが走らせる。

この一撃だけでいい、持ってくれ!シグルドは祈りながらレプトールへ肉薄する。

 

「!!」魔道士のサンダーが迸り、シグルドは直撃する。

全身に焼けるような痛みが走り、騎馬もその余波を受けて前のめりに倒れこむ。

シグルドは、とっさに飛び上がりそのままレプトールに白銀の剣を突き立てた。

 

「ぐはああ!!」レプトールとシグルドはもつれるように転がるが、シグルドは剣を離さない。レプトールに馬乗りになり、腹部を貫いた剣をさらに深くつき立てる。

 

「ぐあああ、止めろ!シグルド!!逆賊らしく、逃げれば良いものをのこのこと!!」

 

「父上に濡れ衣を着せた貴様への怒りだ!!いづれ貴様達の悪行は暴いて見せる。」

 

「馬鹿な!!正義は我らにある!お前が何をしようともバイロンはバーハラに帰る事なく、釈明することも出来ずに死ぬ迄よ。」

 

「黙れ!これ以上父上を汚す事は私が許さない。レプトール!覚悟してもらおう。」シグルドはさらに突き立てていく、レプトールは苦悶の表情だが柄を持って抵抗する。

 

「エルサンダー!!」レプトールは自身にエルサンダーを放ってシグルドと共に自爆を選んだ。

シグルドはその衝撃と電撃に柄を離して吹き飛んだ、全身に火傷を負いながらも意識は保っていたがその痺れに立ち上がる事は出来なかった。

レプトールは苦悶の表情を浮かべているが、その魔法防御能力でシグルド程のダメージは受けていない。しかし腹部からの失血が多く、リカバーを使用し始めた。

 

「早く、そいつにとどめを刺せ!親子共々しぶとさは折り紙つきだからな!!」

 

「は、ははっ!!」従者は帯刀していた剣を抜いてシグルドの首元へ向けて振り上げる。

シグルドはまだ痺れがありうまく立ち上がれない。心の中で絶望が浮かびそうになった時、従者の断末魔の様な声が響いた。

彼の二の腕が宙を舞っていた、エルトシャンが魔剣ミストルティンの一閃で腕を切断された従者は大量の血液を噴きださせた。

二の腕を一度に失ったのだ、失血死は免れない。エルトシャンはこの従者に安らかな最期を与える為に今一度ミストルティンを振り抜いたのだった。

 

「エルトシャン!生きていたか・・・。」

 

「お前を残して簡単に死ねないさ・・・、レプトールはまだ深手の様だな。今の内に奴を討つぞ。」

シグルドはエルトシャンの肩に捕まると回復を急いでいるレプトールに向かい出す、レプトールは回復を中断して攻撃魔法へと切り替える。

 

「無駄だ、この距離なら魔法の前に俺が飛び込めば終わりだ。

今度こそ覚悟するんだな。」

 

「くそっ!貴様の様な連中に儂が遅れを取るとは・・・。」

エルトシャンの歩みにレプトールが狼狽する、痛みでワープを使っての脱出も不可能だろう。いよいよ打つ手がなくなったレプトールは諦めの境地であった。

 

「さあ、潔く死ね!」エルトシャンがらしくもない言葉の元に魔剣が振り下ろされるが、強烈な殺気にエルトシャンは振り返りつつ退いた。その地を抉る様に大地に刺さる巨大な斧にエルトシャンは舌打ちをしてしまう。

恐れていた事が予想以上に早くやってきたのである。

後方からもう一つの大部隊、グラオリッターが消えたクロスナイトを追ってここまで前線を下げてきたのであった。ランゴバルドの予想以上に戦局を見極める目を持っていた事に忌々しく思ってします。

 

エルトシャンは咄嗟に指笛を吹くと、シグルドを再び肩に担いで撤退を始める。混戦をしていた残り少ないクロスナイトもその指笛を聞いて防戦しつつ撤退を始めだした。

 

彼らの向かう先は南、アグストリアの首都アグスティがある方向である。エルトシャンは主人を失った騎馬を咄嗟に捕まえるとシグルドを乗せて撤退するのであった。

 

 

 

本陣にまで至ったランゴバルドは裳抜けの殻と化していた有り様を見て本能的に後続のレプトールを狙ってると感じた。

前衛に騎馬に乗った重装歩兵団と称される攻撃力と防御力に絶対の自信を持つグラオリッターに、魔法に長けるケルプリッターが後衛を務めるこの陣形はイザークにおいて快進撃となった。

イザークの民もこの陣形にて後続のケルプリッターを叩く作戦を多く立てられていた、この度の戦いでも考えられることは可能性として充分考えられたのである。

一部の部隊にマディノへ偵察に向かわせ、自陣へ引き返したのだ。

 

「くそっ!奴等はどうやって前線を抜けてケルプリッターを狙えたのだ。崖の東側には川がある筈だが・・・。」ランゴバルドは返しの進軍に一人呟いた。

 

「伝令です!ケルプリッター交戦中!苦戦してます!!」

伝令の怒号が響く、数僅かなクロスナイトはケルプリッターと善戦している報告にさらに急ぐ事となる。

レプトールとランゴバルドは戦略上で共闘しているがお互いに野心が強い、いつ寝首をかかれてもおかしくない関係だが今ここでレプトールを討たれればシグルド軍が引き返して挟み撃ちになる事が厄介である。

シグルドの軍は確かに混成軍であるが各国の諸侯由縁の者が多い、能力を開花させた者に襲われては無事では済まないとランゴバルドは警戒をしていた。特にシレジアのカルトと実際に交戦し、レプトールと共闘しても善戦した逸材がシグルドの軍にいる事に脅威を覚えていた。

まあ、あのカルトという男はもうこの世には存在しない。あれ程の者がまだいるとは思えないのだが・・・。

 

 

レプトールを視認できた時、重傷を負っており危険を察知したランゴバルドはスワンチカの援護にてなんとかトドメを刺す事は免れたがシグルド、エルトシャンの両名は早々に撤退を始めた。

 

「レプトール、無事か?」

 

「無事とはいえぬが、何とかな・・・。」再びリカバーを使用して回復を急ぐが思った様に回復が進まない、彼はクロードの様に聖杖の能力をフルに使える訳ではないのであろう。忌々しく思いつつ、ランゴバルドに伝える。

 

「奴らは川の水を堰き止めて川底から進軍した様だな。まさかそんな手段を使ってくるとはな・・・。」

 

「エルトシャンの発案では無いだろう・・・、奴がそれを思いつくならクロスナイトがあそこまで減る前に実行していただろうからな。」

 

「ああ、・・・、エルトシャンと共にシグルドがいた。」

 

「なに!バイロンの倅がか!!奴め、尻尾を丸めて退散したと思ったがエルトシャンと共に行動していたとはな。」ランゴバルドはにたりと笑みを浮かべてスワンチカを背負う。

 

「ランゴバルドよ、やるつもりか?」

 

「当たり前だ!あの親子は死んでもらわねば要らぬ手間がかかる。順番が逆になったが、先にシグルドをやればバイロンも諦めてイザークの奥地から出てくるだろうな。」

 

「・・・そうだな儂はこの通り暫くは動けぬ、すまぬが頼む。」

 

「頼まれるまでも無い、儂等はもう進む事しか出来ぬのだ。」ランゴバルドは少し苛立つ様な仕草をしつつシグルド達の追撃を始める。

アグスティへ向かうランゴバルドの足取りは、相当重いものである事を誰にも見せないものであった。

彼の思惑はどこにあるのか?レプトールも複雑であった。


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