ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻)   作:Edward

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短期間の掲載ですー。
頑張れ、自分!!


濁流

エルトシャンは幼少よりノディオン王としての帝王学を叩き込まれていた。食事、言葉遣い、そして騎士として嗜み・・・。

稽古に疲れ果てても城の居住区に帰ればラケシスが帰りを待ってくれていた。彼女と接し、話をする事がエルトシャンの安らぎであった。

 

 

エルトシャンとラケシスは母親の違う兄妹である、エルトシャンの母親は彼の産後の予後が悪くそのまま床に伏せてしまい、彼が3歳の時に病没してしまう。その後間もなく妾であったラケシスの母が正妻として迎え入れられ、複雑な幼少期を過ごしていた。当初エルトシャンはその不遇にラケシスを相手にしていなかったのだが、ラケシスの無邪気さと天真爛漫に彼の心は救われていく、次第にラケシスの母とラケシスに心を開いたのである。

そしてラケシスもまたその母を幼くして命を落としてしまい、エルトシャンはここからラケシスを守るという使命を誓ったのである。

彼はここから王として突き進み、現在に至ると言って過言ではない。

 

 

 

レンスターに向かう馬車の中で言いようのない不安にラケシスは震えていた。顔面は蒼白で麗しい唇は血の気が失せて紫になっている、身体中は寒気が走り生きた心地がしていなかった。

「ラケシス、どうなされたのですか!!」

横にいたグラーニェはその異変にアレスを従者に任せて彼女を気遣う。

 

「なんだか胸騒ぎがします。兄様は大丈夫でしょうか?」

 

「・・・・・・大丈夫よラケシス、あの人はきっと私達を迎えに来て下さいます。

だからそんな顔をしないで・・・。」グラーニェの顔も先程までの自信が揺らぎ不安に押しつぶされていく。

 

「お義姉様、申し訳ありません。少し感傷的になってしまいました。」ラケシスはエルトシャンから賜った剣を抱きしめてグラーニェに謝罪する、言いようの無い不安を払拭するような仕草にグラーニェは唇を噛んで吐露したい気持ちをぎゅっと奥にしまい込んだ。

溢れ出す不安を吐き出せば二人は泣き崩れてしまう事は目に見えていたのである。

 

「あの人は大丈夫・・・。」ラケシスを自身の胸に抱きしめつつ、馬車の外へ眼を向けるのであった。

 

 

 

 

「死ね!獅子王!!」ランゴバルドの投擲の瞬間、エルトシャンは背後の堤防へ気持ちを向けていた。ミストルティンを両の手でしっかりと持ち中段で構えて、あらんばかりの気力を解き放ちその瞬間を待つ。

 

スワンチカがエルトシャンの背中に入った瞬間、その衝撃によるエネルギーを乗せてミストルティンを堤防に突き上げたのだ。

その凄まじい突きは堤防の岩と土嚢を突き破り、とうとうエルトシャンの手から離れてもなお突き進んでいくのである。

そのしっかりとした手応えに彼はにっと微笑する。

 

「ランゴバルド・・・俺の勝ちだ。」彼はその手応えに勝利宣言をしたのである。

 

途端に地響きが起こり出すと、堤防から水が吹き上げ出す。

堤防の底を突き抜いた事により大量の水が水圧の力を借りて堤防を破壊しながらみるみるうちに水が押し寄せ初めていた。

 

「エルトシャン!貴様!!初めからこれがお前の目的たったんだな!!」堤防に身を預けているエルトシャンの襟を持つとその長身を持ち上げて激昂する。

 

「・・・。」エルトシャンからの返答はない、微笑を崩さないエルトシャンにランゴバルドは更に激昂するがその様子のおかしさに気づく。

 

「死んでいる・・・。立ったままで、笑いながらか・・・!

儂を最後まで虚仮にしおって!」

ランゴバルドは怒りを通り越してしまい、大きな笑いまで飛び出した。グラオリッターはその様子に気がふれてしまったのではと思うくらいであった。

 

「何をぼやぼやしとるか!生き残りたい奴は早く撤退しろ!!」

 

「し、しかしランゴバルド様は!!」副官はランゴバルドへ詰め寄らんと馬を寄せようとするがランゴバルドの辺りにはもう腰まで水が迫っていた。

 

「うるさい!!とっととどこぞへと去ね!撤退だ!!」スワンチカをエルトシャンから抜き放つと副官へと投げつける。彼はその遺物を受け取ると全てを察したのか、最敬礼をすると部下に撤退を命じたのである。

 

 

「まさか儂がここで討ち取られるとはな、貴様の執念に敬意を表して黄泉路に同行してやる。

・・・これでよかったのかも、知れぬな。」ランゴバルドの憑き物が落ちたかのように語り出した。

堤防の破壊が瞬く間に広がりだし、土石流となって二人に襲いかかろうとしていた。

上にいるシグルドを見るとフッと笑う。

 

「バイロンは確かに生きている!探してみるがいい!!」

シグルドは確かにそう聞いた、がその瞬間に土石流が襲いかかり二人の姿を2度と見る事は無かった。

 

二人の壮絶な最期に涙すら流す事を忘れていた。

いや、その見事な生き様に勝ち負けも正悪も忘れてただ敬礼していたのであった。

 

「エルトシャン、すまない・・・。

お前から救ってもらったこの命で必ずアグストリアを守ろう。今は俺には力が足りないが、必ず・・・いつか・・・。」シグルドの誓いはアグストリアの夕闇に溶けていく、イーヴはその言葉を噛みしめるように聞くのであった。

 

濁流は二人のみならず逃げ遅れたグラオリッターもことごとく飲み込み、助かったのは半分にも満たなかった。

グラオリッターは重装備で固めた歩兵が多く、ひとたび水に没してしまうと浮かび上がる事が出来ない事が半壊してしまった要因である。生き残った者は騎馬兵でかつ健常者のみであった。

エルトシャンの最後の作戦は残り少ないクロスナイトを犠牲にし、大軍のグラオリッターを半壊させるという最大効果を発揮する歴史に残る戦いだった。

カルトが考案したこの水責めはシャガールの軍を無力化させてかつ彼を厚生し、後にシグルドが再び使用して奇襲に成功し、エルトシャンが排水を利用した敵軍の半壊は、後世軍師達を唸らせた作戦として語り継がれていくのである。

この作戦で紛失したミストルティン。後にエルトシャンの息子であるアレスが見つけ手にする時に、同じく父親の剣を求めてアグストリアの地を訪れるホリンの息子スカサハと行動を共にする。

彼らはアグストリアを解放しながらセリスと出会い、絶望した人々に希望を照らしていく事となる。

 

 

 

非戦闘はオーガヒルの制圧が終えるとすぐに教会からオーガヒルへの移動を開始していた。女子供はもちろんの事、重傷を負った兵士や食料や武器の輸送等も含まれておりなかなかの規模となっていた。

長い隊列に沢山の馬車が連なって移動する様はなかなかの壮観である。

そんな中で回復を主とする魔道士はこの帯に加わり、護衛と負傷兵の介護に勤しむのだがエスニャはここにいたのである。

エーディンやディアドラもこちらで介護を従事し、直接的な護衛はシアルフィの騎士団が中心となって周囲を警戒している。

 

「エーディン様、交代しましょう。先程から魔法を使いすぎてますよ。」

 

「エスニャ、まだ大丈夫よ。私もクロード様程ではないですが魔力も上がってきていますし、使える魔法も増えてきていますので・・・。」

 

「でも、余力を残しておかないと自分の身も守れないですよ。まだ戦闘はあちこちで起こっているようですし、用心に越した事は無いですから。」

 

「そうね、わかったわ。少しの間交代をお願いします。」エーディンは区切りを付けるとその場を離れ、エスニャに引き継ぎする。

 

エスニャは次の負傷兵に回復を施す姿をエーディンは微笑む。

 

「エーディン様?どうかされたのですか。」

 

「笑ってごめんなさい。以前魔法が使えなくなりましたが、使えるようになってよかったと思ってしまって・・・。それに聖杖まで使えるようになるなんて、あなたの能力は凄いと感心しました。」

 

「いえ、そんな・・・。私なんてまだまだです、ブルーム兄様やティルテュ姉さんはもっと凄い魔道士です。」

 

「でもねエスニャ、あなたのような優しい心と強い意志があるからここまで能力が開花したと思うの。あの時カルト様を助けたいと思う優しさと強い気持ちが無ければここまで成長出来なかったと思うわ。」

 

「そう、なのでしょうか?私は窮屈だったフリージ城を飛び出したい一心でここまで来て・・・、何も考えてませんでした。」

 

「ふふっ、エスニャらしいわね。それがあなたにとって一番いいことなのでしょうね。」再度笑うとエーディンは退席していくのである。

 

 

エーディンは天幕を出て縁へ座る、馬車は荒地を行くので振動が酷いが重傷者がいるこの馬車は車輪に水牛の革を巻いている。多少の揺れは緩和されているが魔法の集中には困難であり、初めは苦労したが二人はあっという間に慣れて交代しながら手当をしていくのである。

 

「えっ?」エーディンは違和感を覚える、自分達の後ろにもう一台同じように重傷者を手当てしている馬車がもう一台走っていた筈なのに消えていた。

 

横にいるシアルフィの騎士に呼びかけるが、彼は思い当たる節もなく曖昧な返答であった。

「前に進まれたのでは・・・。」

 

「そんな事はないわ、私達治療の馬車が速度を速める事は出来ません。ここは大丈夫なので少し探して下さいませんか?」

 

「わ、わかりました。」シアルフィの騎士は馬を駆け足であたりの捜索を始めるのであった。

 

 

少し、時間を巻き戻す。

この一団の馬車の最後尾を走る一台の馬車に、魔法をかける者がいたのである。ローブで全身を覆い、何者なのかはわからない。

手を伸ばすとローブの裾からすらっと長くて白い肌、しなやかな女性の手が現れ魔法を発動させる。

 

「バサーク・・・!」

混乱魔法により、車を引く馬は混乱し従者の思う方向に進まなくなる。さらにカルトの好む風魔法の応用で空気の振動を遮断し、外部漏れる音を完全に消したのだ。

すぐ横を歩くシアルフィの騎士は全くその事に気付かない。

 

最後尾の馬車は在らぬ方向を爆進し、二頭の馬は力の限り走り続けた。その激しい振動に革の衝撃緩和は外れ、中の人間はあちこちで頭部をぶつけてしまい意識を失う程である。

走り続けた馬は最後には息を切らしどこかもわからない場所で立ち往生となったのだ。

 

「うっ!・・・・・・ディアドラ様!!大丈夫ですか!」エスリンは姉となったディアドラを抱き起こす、彼女は強かに頭部を打ち意識を失っていた。回復魔法で治療を施す。

 

「一体、何が起きたの?」エスリンの呟きに反応するように馬車は次の事態が引き起こる。天井の幌が引き裂かれ、木製の壁が風により吹き飛ばされたのだ。

途端に外部が露出し、この事態を引き起こした張本人が姿を現したのだ。

 

「気を失っていない者がいたなんてね・・・。」

 

「あなた!一体何者!!」エスリンは光の剣を抜き放ち警戒する、ディアドラから賜ったこの剣はすぐ様エスリンの愛剣となった。

攻撃魔法を使えないエスリンだが魔力が高いその特性から魔法剣は使い勝手がよく、危ない接近戦を避ける意味でも大切な一振りとなっていた。

 

「私の名はフレイヤ。その娘を貰い受けに来たの、抵抗しなければ殺すつもりはありません。賢い選択をして下さると助かるわ。」

 

「わ、私を馬鹿にしているのかしら?姉をさらいに来た不審者に易々と言うとうりにするつもりはないわ!!」

 

「そう・・・。それならお相手してあげるわ、できるだけ苦しまないように一気に殺してあげる。」フレイヤは一気に魔力を解放させる、荒地は途端に邪気を吹き上げ出し辺りは地獄入り口に立ったかの様に瘴気をあげだす。エスリンは戦慄を覚えながらも勇ましく心を奮い立たせた。

 

(お兄様、私の命に代えてもディアドラ様を守ります!聖戦士バルド様、私に力を!!)

エスリンはすぐ様光の剣にありったけの魔力を込めてフレイヤにかざす、フレイヤの目の前に光の大光源が発生し瘴気に包まれた彼女に浄化の光を叩きつける。

 

宵闇となりつつある荒地が一瞬昼間の様に眩くフレイヤを中心に浴びせた大光源が収束すると、エスリンはすぐ様警戒する。

フレイヤはその場にはいなかった。瘴気は形を潜めているが完全に払拭されていない、彼女はまだ何処かでこちらを狙っているのであろう、エスリンは再び魔力を練り上げる。

 

「厄介な剣ね、光の剣ともう少し気付くのが遅かったら危なかったわ。」声のする方向にエスリンはドキリとしてしまう。彼女の真後ろに、それも体が接触してしまう程にフレイヤは回り込んでいたのだ。

エスリンは振り返ろうとするがその前に彼女は腕を首に回して剣をもう一方の手で首筋に当てられ、冷や汗が吹き出てしまいその鈍色の剣に目を奪われる。

 

「いくら魔法剣で私を攻撃できたのに攻勢を緩めてしまうのは、良くなかったわね。」

 

「くっ!」エスリンは体に力を込めて脱出を試みるがフレイヤの華奢な体の何処に力があるのか、回された腕は全く動かす事が出来ない。

体温をまるで感じない冷たい腕に焦燥する。

 

「・・・諦めなさい。スリープ!」

エスリンの意識が途端に揺らぐ、頭がまるで働かなくなり視界に映るものがぐにゃりと変形する。

 

「あ、あ・・・。」腕から解放されたエスリンは必死に抵抗を試みるが全く抗えない、自分の頬を張るが痛みも感じない。

 

「おやすみなさい、お姫様。・・・ごめんなさいね。」フレイヤの優しい言葉だが、その異質なイントネーションに違和感でしかなかった。しかし、その最後の謝罪の言葉のみ真実がある様に思える。

スリープの魔法が完全に効き、エスリンはそれ以上を思う事は出来なかった。

 

 

「さて、ディアドラ様。行きましょう、貴方の血を欲している元へ。」フレイヤはゆっくりディアドラの元へ歩む、ようやく長年欲して止まなかったロプトの血が結集する最後の鍵が手に入ったのだ。

教団は100年望んだ物を手に入れようとこの機会を待ち望んでいた、恍惚の表情を浮かべるフレイヤ。ディアドラをつかまんとする手が震えていた。

 

「やめな・・・、フレイヤ。」フレイヤの手が止まる。まただ、また邪魔が入る。

冷静な彼女だがこの時だけは冷酷な暗黒魔道士の顔に染まっていた、それに直感でしかないが一人必ず邪魔するであろうと思っていた男がやはりこの場に現れたのである。

 

「やはり来たか・・・。忌まわしき聖者の血を継いだ異端児・・・。」

 

「お前達の狙いは分かっていたからな。ディアドラ様はシグルド公子に託されていた大事な方だ、お前達が諦めろ。」

 

「アグスティで私と戦って実力差がわかっていないようね、あの時助けがなければ勝ち目なんてなかった筈よ。」

 

「そうかもな、だがあの時と今を一緒にするなよ!」魔力を解放さて、強大な難敵に挑むカルトであった。




エスリン

Lv 20 パラディン

HP 37
MP 34

力 16
魔力 14
技 18
速 21
運 20
防御 12
魔防 11

スキル 必殺

ライブ
リライブ
リターン


光の剣


シグルドの妹、レンスターのキュアンの元に嫁ぎ第一子のアルテナを授かる。
かなりお転婆な女性である様で、シグルドもたじたじの場面も・・・。
バルドの血を継いでおり、気質はまっすぐで曲がった事を許さない。

しかし、兄弟でスキルに違いがあるのは何故だろうか?シグルドにも必殺ついて欲しかったしエスリンに追撃が欲しかった。

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