ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻)   作:Edward

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頑張ってます!
頑張って、今年中にアグストリアと外伝を終わらせたいです。


血盟

カルトとフレイヤ・・・。

これだけ高レベルの魔道士か相対すると勝負は複雑になる。

それは得意とする魔法の属性や魔力と魔力量、精神力や精神状態など様々な要因が孕み、拮抗すればする程優劣の天秤は刻一刻と変化するのだ。

二人の魔力は吹き上がり出し、周囲に影響を与えていく・・・。

カルトの光魔法であたりの生命活動が活性化されていくが、フレイヤの邪気に当てられた虫や雑草が枯れていくという矛盾があちこちで起こってきた。

 

カルトは風魔法を応用した疾駆で先手をかける、その疾さにフレイヤは若干反応が遅れていた。カルトはすぐに白銀の剣をそのまま突き立てて最速の突きを放つ。

 

ギイィィィン!

 

ローブから抜かれたショートソードが白銀の剣を横薙ぎに当てて突きの軌道を変えた剣先を交わす、そしてそのまま半身をカルトの左川死角へと滑り込むとヨツムンガンドを至近距離から放つ。

 

生命を刈り取るヨツムンガンドをカルトは咄嗟に地面にウインドで放ち中空へ舞う、フレイヤのヨツムンガンドは地面を抉り周囲の生命を奪うかの様に無残な爪痕を残す。その威力のある攻撃を間髪入れずに上空のカルトへ放つ。

 

「ヨツムンガンド!」

「ライトニング!」

 

二人の聖魔の攻撃がぶつかり互いに相殺されていく、辺りに衝撃波が空気を振動させながら四方に散っていった。

地面に降り立ったカルトはすぐ様、フレイヤの動きを見て再び剣技を繰り出した。

 

カルトの連続攻撃、先程の渾身の突きでは無く手数による揺さぶりを敢行したのだ。だがフレイヤはその攻撃をショートソード一本で見事に回避するのである。

身体はしなやかに動きカルトの攻撃を剣で受けて衝撃を身体で受け流す、その見事な防御にカルトは敵ながら感心する。

 

「ウインド!」フレイヤに剣技の隙間で貯めた魔力で彼女を吹き飛ばす。

近過ぎる間合いに、フレイヤのショートソードの方が有利になったカルトは拒否するかの様に強引に仕切り直した。

フレイヤはウインドで裂けたローブを忌々しく脱ぎ捨てる、露わとなったローブの中は同じく漆黒のドレスを纏い、額には銀のサークレット、腰には一振りの聖杖がくくりつけられていた。

 

「・・・言うだけあるわね、たった一年で此処まで実力をつけていたなんて・・・。」

 

「・・・・・・。」フレイヤは賞賛を送るがカルトは全く動かない、この女は得体がしれない。まだ奥底に隠し持つ実力がある限り、カルトは優位に立てたと思っていなかった。それに・・・

 

「成長をもう少し見てみようと思ってましたが、あなたは危険すぎる・・・。マンフロイ大司教様の悲願を成就する為に、死んでもらいます」フレイヤは更にギアをあげる、魔力の禍々しさは周囲を侵食していきカルトまで迫ってくる勢いであった。カルトも魔力を開放させ対抗する。

 

「フェンリル!」暗黒の矢が瞬く間に出来上がると速攻でもって襲いかかる。

カルトは身を捻って回避するが、既に第二撃が出来つつあった。

(嘘だろ・・・、まだ回転を早くできるのか・・・。)

 

「フェンリル!」次の回避が準備できていないカルトはウインドの跳躍で回避する。

 

「ヨツムンガンド!」カルトに戦慄が走る、こちらの手を打つ時間が無い・・・。とうとうカルトは直撃では無いが右足に被弾し、激痛が走る。

着地に失敗したがカルトは二転した所で何とか上体を保つ事ができた、しかしフレイヤはその追撃準備を終えていた。

 

「終わりです・・・、ヘル!!」

かつてダーナの古戦場で受けたあの魔法を受ける事となった・・・。精神を崩壊させるあの忌まわしき暗黒魔法にカルトは頭を抱えてもがき苦しみ出す。

獣の様な叫びを上げるカルトはもう目は常人の物では無かった、口からは泡を吹く様に涎を撒き散らして手当たり次第に持っている白銀の剣を振り回す。まるで狂戦士の様であった。

 

「抵抗すれば永遠に苦しみ続け事になるでしょう、命を諦めばその苦しみから開放されます。さあ、お楽になりなさい。」フレイヤの言葉にカルトは一瞬常人の目になる。まるで泣き続ける赤子をあやす様なフレイヤの口調はカルトに絶命を示唆し、安らかな冥福を祈る様であった。

しかしカルトは再び苦しみだす。彼にはまだ捨てられない物があるからかヘルに抗い、その苦しみを倍加させる。

 

「そう・・・、まだ頑張るのね。でも・・・これで終わりにしてあげる。」フレイヤはショートソードをカルトの心臓に狙いをつける。

狂い猛けるカルトの一瞬の硬直を待ち、一気に刺し貫かんと彼女は構えた。

 

 

 

 

「・・・・・・なぜ?」フレイヤは投げかける。

先程からカルトの心臓を貫く機会は何度もあった、フレイヤはまるで石化にでもかかったの様に剣先をカルトに刺し貫く事は出来ず無意識に涙すら流していたのだ。

 

「私はこの男を殺さねばならないのに・・・、なぜ躊躇しているの・・・どうして・・・。」

未だにもがき苦しむカルトを見ては剣を突き立てんとするフレイヤの矛盾した行動に自身も苦しみだす、お互い心を別の物に支配され状況は硬直した。

 

 

 

「・・・・・・リン・・・エスリン。」深い眠りからエスリンは意識を取り戻す。

敵前で眠ったしまった自分に即座に気付いたがディアドラに制止され、促す様に再び眠る振りをする。

 

「ディアドラ様、一体これは?」

 

「あなたは魔法で強制的に眠らされていたわ、レストをかけたので今はもう意識ははっきりしているはずよ。」

 

「ありがとうございます。あの二人、どちらも状況が変ですね。」

 

「ええ、おそらくカルト様は精神を蝕む暗黒魔法をかけられたのでしょう、あの女性はわかりませんが今の内にカルト様をお救いしないと廃人になってしまいます。

エスリン、私がレストで彼を回復しますので貴方はカルト様の動きを止める事が出来るでしょうか?」

なおもたけ狂うカルトに視線を投げかける、力の限り続ける剣を止めなければならない。光の剣を持ち直しエスリンは覚悟を決める。

 

「わかりました、ディアドラ様お願いします。」二人はうなづくとディアドラが立ち上がり聖杖をかざす、それを合図にエスリンは飛び出した。

 

「カルト様!!」エスリンの投げかけにカルトは振り返る。

その顔は怒りと苦しみに満ちており、エスリンの胸を苦しめた。

 

「あ、あ・・・。うああああ!!」カルトは再び手に持った白銀の剣を振り回し始める、その太刀筋は正気の剣技ではなくただただ力の限り振り回すだけの暴力であった。

 

その一刀をエスリンは受け止める、激しい剣撃に膝が折れそうになるが踏ん張りを効かせた。腕が痺れ、光の剣が折れるのではないかと思うくらいである。

カルトは魔道士であるが体格はシグルドと同等くらいある、騎士として教養を受けてないのでシグルド程の筋力は無いがそれでもその一撃は軽視出来ない。華奢なエスリンでは狂気と化した剛剣に押し返されそうとしていた。

 

「カルト様!お願い!正気になってくださいまし!」懸命にエスリンは呼びかける。

出来れば斬り伏せたくは無かった。彼は初対面の時ユングヴィでミデェールの死の淵から助けてくれた恩人である、兄であるシグルドを何度も救ったカルトを傷つける事には抵抗があった。

 

剣を止めカルトは停止している、ディアドラのエストを待つがエスリンはさらに事態が動いている事を知るのであった。

 

 

 

激しい剣撃でフレイヤは我を取り戻す、激しい頭痛と共にショートソードをダラリと構えを解いた。

「一体、私は・・・どうしたらいいのだろうか?」未だに悩むその表情は非常に危うさを孕み、行き場の無い無力感に苛まれていた。

 

「マンフロイ様の悲願の為に・・・。」一つ呟き、自身の行動を再開すべく再び動こうとするフレイヤ。ディアドラはカルトとエスリンの妨害するフレイヤを敏感に察知した。

 

「サイレス!」そんなフレイヤを無力にする魔法を放つ。

 

「こ、これは!鍵の娘の力か!!」秘術の魔法に屈服すればしばらく魔法を完全に使用出来なくなる、フレイヤは魔力を最大限に放出した抵抗するがディアドラの魔力もまたフレイヤに匹敵する物であるのか両者は拮抗し始める。

 

辺りから邪気が薄れていく、ディアドラの魔力がフレイヤの魔力を抑え込み出したのだ。彼女は蒼く光る宝玉のついた聖杖に祈る様にフレイヤの魔力を封殺する、フレイヤも屈服される訳には行かず跳ね除けようと足掻く。

 

エスリンはその事態に自身の力でカルトを救わなければならなくなり懸命に呼びかける。腕の力が限界となり、力をいなすと距離を取る。

 

「カルト様お願いです!お気を確かに!!貴方はここで立ち止まってしまうのですか!兄上もカルト様を必要としているのですよ!!」

エスリンは懸命に呼びかける、だがカルトはその呼びかけには反応するものの内からくる苦しみに再び奇声をあげ出す。

剣を振るカルトだが動きは鈍い、呼びかけに効果が薄いと感じたエスリンはカルトを抱きしめた。

「カルト様・・・。お願い、元のカルト様に・・・戻って下さい。」

彼女の懇願にカルトの瞳孔は開かれるのであった。

 

 

カルトはその突然の抱擁に我に変える、エスリンの突然の抱擁に意識を取り戻したのであった。それはかつて幼少期にラーナ様が命をかけて自我を取り戻した事と同じだった。

白銀の剣に嫌な感触が手に、カルトの顔に熱き血潮がかかったのだ。

 

「あ・・・あ・・・。エスリン・・・?」

 

「・・・カルト様、気づかれましたか・・・よかった・・・。」

どんとんと力が抜けていくエスリンにカルトは抱きしめる、顔はみるみるうちに血の気が引いていき桃色のチュニックは赤く染められていく。

 

「エスリン様!申し訳ありません!!」

 

「いいのです、これは貴方のした事ではありません・・・。これは全てあの魔道士のした事、あなたのせいではありません。」

カルトはすぐ様リカバーを施す、完全回復が可能な魔法であるが彼女の腹部の出血は夥しい・・・。回復より早く抜け出る血液が致死量に至れば、リカバーと言えども命を救う事は出来ない。

 

「私は、また同じ事を繰り返してしまった!あの頃から何も変わって無いじゃねえか!!」

 

「カ、カルト・・・様?」カルトの独白は涙を交えて吐き出される、贖罪でも罷免を求める訳ではなく彼の思った通りの気持ちが吐露されていた。

 

「ラーナ様にもこの様に、傷つけたんだ!俺は!!

親父に戦争の度にバサークをかけられて殺戮人形にされ、救いに来たラーナ様を刺したんだ!!」

 

「な、なんて・・・事を・・・。」エスリンはカルトの過去に驚愕する、先ほどの彼の混乱はその様な幼少期の過去が影を落としている事を知り痛みを忘れてしまう。失血で意識が無くなってもおかしく無い状況でエスリンはカルトを労わりたくなり右手を上げる。

カルトはその手を握り回復を続ける、リカバーの淡い光はさらに増して行き早急な回復を急ぐ。

 

「カルト様・・・。あなたのその苦しみ、私には壮絶過ぎてわかってあげられないと思います。

でも、貴方ならきっとその辛い過去すら乗り越えて進めると私は信じています。だから・・・。」

 

「エスリン様・・・ありがとうございます。大丈夫!もう傷はほぼ塞がってます、ご安心を!」

 

「ありがとう、カルト様・・・。安心したら疲れてきました、少し休ませてくださいね。」エスリンはみるみる身体が脱力していく、身体は完全にカルトに委ねていて気力すらもなくしている様であった。

 

「エスリン様、まだ駄目です!!ここで眠れば失血で体温が保てません!どうかお目を開けてください。」

 

「カルト様、ご無理を言わないで・・・。もう私・・・。」

 

「駄目です!エスリン様!!」カルトの言葉も虚しくエスリンは昏睡する、カルトはすぐ様自身の血液を提供する準備に入る。

幸い自身の血液は実証により、稀な事例さえなければ他者に提供できる事は実証済みである。このままではエスリンは失血死してしまう、羊の膀胱から作った輸血準備を始めた。

(ディアドラ様!時間稼ぎをお願いします!!)

 

 

 

ディアドラは力の限り魔力を注ぐが彼女もまた沢山の重傷者を救っていたので魔力は本調子ではない、フレイヤも多数の魔法を使用していたが疲労は先にディアドラの方に現れ始めていた。

 

「ふふふ・・・。残念ですね、どうやら私の方に分があるみたいね。

では私と共に参りましょうか。」

 

「私を何処へ連れて行こうと言うのです、私の場所はここしかありまません。」

 

「いえ貴方は・・・、貴方の一族は100年前から帰る地は決まっているのです。さあ、無駄な抵抗を止めて私とともに参りましょう。

シギュンの娘よ・・・。」

 

「なぜ、わたしのお母様の名を・・・。」

 

「全て、私達は分かっています。さあディアドラ様・・・。」すっかり魔力が底をついてしまったディアドラは後ずさり、彼女から懸命に抵抗を見せるがフレイヤはその手を掴む。

 

「は、離して!」

 

「無駄よ・・・さあ・」

 

「エルウインド!!」圧縮された風の上位魔法がフレイヤを吹き飛ばす、再び邪魔が入り忌々しくこちらを睨む。

 

「まだ耐えていたのね、本当にあなただけは戦う度に感情を逆撫でる。」

 

「奇遇だな、俺もだよ。お前だけは何故が調子を狂わせてくれるよ。」カルトの言葉にフレイヤは本当に苦しんでいた、こちらを見る度に苛立っているのが見て取れた。

 

「フレイヤ・・・。前から俺はあんたと戦う度に思うのだが、俺とあんたの戦い方は同じすぎる・・・。

あんたはシレジアの者ではないか?シレジアの魔法戦士は数少ないが、その戦い方はシレジアの魔法戦士の戦い方に通じている。」

 

「何を、馬鹿な事を・・・。私はシレジアに行った事がない、それに私はずっと地下神殿で隠れるように・・・。」その瞬間フレイヤの動きが止まる、その驚愕の表情に始めて見せる隙だらけの状態だが攻撃する気にはならず彼女の動向を見守る。

 

「私は、一体・・・。何故私の中に雪国の風景が出てくるの?どうして、私に子供がいる!!」

 

「フレイヤ・・・、お前は一体・・・。」

 

「・・・・・・!!私は、ロプトに捧げたフレイヤ!それ以外は無い!!」頭を振りかぶりフレイヤは魔力を吹き上げ出す、今まで以上の魔力にカルトも魔力を込め出した。

 

「カルト、この魔法で貴方をロプト神の元へ送ってあげる、だからこれで死んで!!貴方を見るのはこれで最後よ。」

 

「・・・いいだろう、俺もこれでお前とは終わりにしたい。お互い最後の魔法と行こう。」

二人は渾身の力を魔力へと変換させる。互いに魔力も精神力も体力も不安定な状況だが、この魔法だけは全力で放てる限界を感じていた。

だが、不思議と最後の魔法は今まで放つどの魔法よりも強力になると感じ取っていた。それは運命がそうさせるのであろうか・・・。

二人の戦いが終焉へと向かっていくのは確かですあった。




1600年辺りですが一部の人間の血液は、ほぼすべての人に使える事は知っていました。今のABO方式が確立されたのは1900年あたりだそうです。
カルトは自身の血液を使って実証していた事になり、この世界のABO方式に当てはめると彼はO型になります。

あまり、詳しく書くとボロが出るのでこれ以上のツッコミは勘弁して下さると助かります。
ちなみに羊の膀胱と尿道で作った点滴は、実際に昔使われていたとかそうで無いとか・・・。

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