ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻)   作:Edward

67 / 107
暴動

「応援要請、ですか?」パメラとディートバはレヴィンの執務室に呼ばれ本件を確認する。レヴィンからもたらされた指令は穏やかなものではなく、レヴィンの表情は硬くなっていた。

 

「そうだ、リューベックでは旧ダッカー派の残党が未だに抵抗を続けている。現在は流れてきた傭兵騎団をザクソンに駐在させて事に当たっていたのだが、状況が良くないらしくてな・・・。」

 

「最近イザークから難民が流れてきているそうですね、その中で戦力になる者を集めてならず者の集団ができていると聞きます。」パメラはちまたで聞く話を口にする。

 

「我が国は食糧難を乗り越え豊かになったのは良いことですが、隣国からの流入が多くなりまして国境周辺ではいざこざが多いと聞きます。治安がここまでとは思いませんでした。」ディートバも意見を述べる。

 

「その通りだ、内乱を乗り越え他国との連携が取れて豊かになれば他国から仕事を求めて入国してくる。そして余所者との軋轢を生む、そして仕事を無くせばならず者となって治安を悪化させてしまうとは・・・。なかなか順風満帆とはいかぬものだ。」レヴィンは立ち上がり二人の前に立った。

 

「では、我らが赴いて傭兵騎団に合流すればよろしいですね。」

 

「ああ、申し訳ないが頼む。マーニャにも行ってもらいたい所だが、さすがにシレジアを空き家にしてしまう訳には行かぬ。戦力をなくしてはいるがマイオス公の警戒をとく訳には行かぬのでな・・・。」

 

「・・・。」かつての主人に反応するディートバは静かにレヴィンの顔を見る、レヴィンはしまったとばかりである。

 

「・・・すまないが助力を頼む。こちらとしても他国の傭兵だけに治安維持を図る事もいささか問題になる所もある、シレジアの誇る天馬騎士団が出動すればいざこざも改善できるだろう。」

 

「はっ!では早速部下を連れて出撃します。」二人は敬礼をしつつ退出する。

 

「パメラ、もう一つ・・・。」

 

「・・・なんでございましょうか?」

 

「リューベックに一人、シアルフィ軍の男が所用で行っていたらしく巻き込まれて立ち往生してるらしい、見つけたら回収してくれ。」

 

「了解しました、その男の名は?」

 

「レックス、だそうだ。」

 

 

 

 

「さて、どうしたものか・・・。」ベオウルフは町の外れに建つ一画の廃洋館を見ながら呟く。

 

最近流れてきたならず者の制圧して回っていたが、部下からの報告を受けて現在に至る。この中に結構な数のならず者が身を寄せているらしく、先に踏み込んだ部下が手痛い反撃をもらい一度退却したそうであった。

 

「ベオウルフ様、他にも何点か拠点を張っているらしく多角的に暴動を起こしています。」

 

「ちっ!奴等め、なかなか組織的に反抗してやがるな・・・。お前たちもそれを見抜けぬとは情けねえな、ヴォルツが見たら泣くぞ。」

 

「・・・ベオウルフ様も、昨夜の痛飲で午前中臥せっていた時ですが。」

 

「さって、と!やる気出すとするか!」

 

「報告です!先ほどシレジアから天馬騎士団が応援に入るそうです。」ベオウルフのやる気は一気に削がれる、再びやる気の無い顔へ変貌するのである。

 

「誰だ!応援を呼んだ奴は!!」

 

「私だが・・・。」女性剣士が納刀しつつこちらへ向かってくる、素顔を晒す訳にはいかない彼女はフードコートを目深に被っているが、眼光が鋭く光っていた?

 

「アイラ、さん。」

 

「とこぞの馬鹿が、二日酔いで死んでいたからな・・・。この国の王へ苦言を申したら、早速応援を寄越してくれたぞ。」

 

「・・・なんてこったい。ヴォルツ、すまない・・・。」

 

「冗談だ。・・・それより奴らの数を把握しろ、全てを入れたら私達より数が多くなってきているぞ。」

 

「・・・おかしい、難民の数とならず者の数の計算が合わない。どうなっている・・・。」

 

「考察は後だ、このままでは囲まれてしまうぞ!」

 

「ちっ!一度退却だ!!仕切り直すぞ!!」ベオウルフは翻して退却する、シレジアの難民騒動は予想よりも大きな規模へと変動していくのである・・・。

 

 

廃洋館から見下げる一人のならず者が退却する一団を見て顔を歪めさせる。立てかけた剣の横目に壁にもたれて苛立ちを表わした。

 

「勘が働くやつがいるようだね、突入してきたら楽しい事になったのにねえ。」ブレストプレートを身につけ、その上からレザーコートを着込む女性剣士は皮が裂けたソファーに身を委ねる、内部から埃が飛び出るが御構い無しである。長い黒髪は手入れしていないのか、アイラと違って乱雑なストレートは艶を感じさせられなかった。

 

「流石各地の戦争に介入するヴォルツの傭兵団だけあるな、よく引き際を知ってやがる。」もう一人、こちらはレザーアーマーを身につけてその上から黒い毛皮のコートを身につけた長身の男が同じくソファーに腰掛けて足組をする。彼は帯刀はしておらず、代わりに腰につられている二本の短刀が武器そうである。

 

「まあいいさ!策は練ってあるし、負け戦は慣れてるからねえ。」

 

「地獄のレイミアの殺し文句だな。敵も味方もあんたに絡まれたら最後、地獄に送られるのみの逸話だけある。」

 

「あんたは長年連れ添っているが死なないねえ、そろそろあんたも年貢の納め時かも知れないよ。」レイミアはその唇を男の頬へ接する、男はにやりと笑みを浮かべてレイミアを抱き寄せた。

 

「その時はお前も死ぬ時だ、一緒に地獄へ行ってやるさ。」彼女の首筋をひと舐めしソファーへ押し倒す。さらに埃が舞い上がり、大いにソファーは悲鳴に似た軋みを上げる。

 

「あっ・・・、痺れる事言ってくれるねえ。

いいよ・・・。あんたとなら、どこで事切れても地獄へ連れて行ってあげる。」二人のシルエットは更に重なっていく。戦場の最中で、他にも沢山のならず者がいる中で御構い無しの情事に二人の感覚は他者とこはかけ離れた境地にいた。

それは騎士などの使命を帯びた名誉ある死とは真逆の心境である。生き残る為に他人を殺す、金の為に他人を殺す・・・。

傭兵騎団の面々とは違うもう一つの傭兵、それはまた異質の物である。ヴォルツの傭兵騎団は戦争請負人で集団戦法の枠組みであるが、彼らは全くの個人戦闘であるのだ。

死ぬも生きるも自分の裁量、死ねばボロ雑巾のように打ち捨てられるのみ。名誉の死はそこになく、ただ死体が転がるのみ。その篩にかけられたならず者は戦いを繰り返す度に強者のみの集団と化していった。

その集団の最古参である2人はすでに正常の精神ではない、死は常に隣にあると感じる為か常に本能の赴くままである。この日の夜、彼女の嬌声が洋館に響くのである。

 

 

 

 

「・・・・・・。」レックスは1人の隠密に手紙を渡す、盗賊風に纏われたその男は懐に収めるとすぐ様後にする。走っているにも関わらずその足音の小ささに相当の訓練を積んだ隠密である事が伺えた。

 

レックスは見送ると、踵を返す・・・。セイレーンを抜け出して2日になる、長く開けていたら不審がられる事は明白であった。

 

「何してたの?」レックスの背後からの声に咄嗟に湖の精霊から賜った両刃のアックスを抜き放った。

声の主は少年である、先ほどの隠密と同等以上の探査能力に追跡能力、隠密能力に優れた自軍の盗賊剣士・・・。

 

「デューか、流石だな。」

 

「セイレーンを抜けてこそこそと、ここで何してたの?」

 

「・・・。」

 

「レックス、答えなよ!」

 

「ふっ!・・・手紙を渡しただけさ、ダナンの兄貴にな。」

 

「レックス!何を伝えたの?内容によってはカルトに報告するよ。」

 

「報告はしないでもらおう。」レックスの持つアックスの柄を握り直す仕草にデューは警戒する、口封じの可能性がある・・・。

レックスの険しい視線と絡み合うが、すぐにいつもの表情へ戻す。

 

「シグルドが見たオヤジの最期の報告と、レプトールの言葉を信じるなと警告しただけさ。俺たちの情報を売ってはいない。」

 

「レックス・・・。」

 

「オヤジの息子として、シアルフィ軍に所属しているのは辛い所だが・・・。まあティルテュやエスニャよりはマシだが、少し1人になりたかった気持ちもあってな。

カルトやシグルドに報告は無しにしてくれ・・・。」

 

「ん・・・。そういう事ならわかったよ、おいらもレックスが裏切る何て事は思いたくないからね。

でもレックス、たまには素直な気持ちを出さないと普段から気持ちが出せなくなるよ。」デューは警告を発するとレックスから立ち去ろうとする。

 

「デュー!動くな、街の様子がおかしい・・・。」裏路地からそっと大通りを見渡すと殺気混じりのならず者があちこちで闊歩していた、先程まで一般人の往来のみであった筈なのに・・・。気付けば一般人は立て篭り、ならず者が何かを探すように歩き回っていた。

 

「一体何が・・・。」レックスが漏らす声にデューは反応する。

 

「イザークの人だよ、あのならず者達・・・。」

 

「何?・・・、流れ者か?」

 

「多分、長年の戦争で難民になってシレジアに流れてきたのかな?」

 

「そうだろうな・・・、確かここにアグストリアで戦った傭兵団がここで治安維持きていた筈だ、合流しよう。」

 

「うん、わかった。」

 

 

 

パメラ、ディートバの両名は上空からリューベックの様子を伺う・・・。市街地は一般人がすっかり身を潜めてはいるが、郊外地区の数点で傭兵騎団が分断されて個々で対応されていた。

 

「これは酷い、リューベックは制圧されかかっているようなものじゃないか・・・。」

 

「ならず者なんてものではないな、組織だって反抗していますね。こちらもそれなりに計画を立てないと痛手をこうむります。」パメラの言葉にディートバが付け足した。

 

「ディートバはあの洋館を手助けしてあげて、私は個々で危機になっている部隊を助けます。」

 

「わかりました、パメラも気をつけて。」ディートバは自身のファルコンに命じて部下と共に外れにある洋館を目指す。

パメラは分断された傭兵騎団の部隊を数人づつに分けて向かった。

パメラの部隊は遊撃となり、危機となっていた傭兵騎団を救っていくがパメラのファルコンに数本の矢がささる。

 

「しまった!弓兵が潜んでいた!」市街地の森林部になんとか誘導するように堕ちていくのである。

 

パメラはライブでファルコンの治療を行うが、すぐ様ならず者に取り囲まれる。

 

「へっへっへっ!こりゃあ大物だ。ファルコンは高く売れるからな・・・、死んでなくて大助かりだ。」

 

「外道め、ファルコンから引きずり降ろした程度で勝った気になるなよ。」白銀の槍を構えて威嚇する。

 

「勝気な女は嫌いじゃないぜ、泣き顔を拝ませるのが楽しみだからよ!」ならず者が数人の襲いかかる。

パメラは落ち着いていた、1人の長剣の斬撃を交わし様に石突きを後頭部に直撃させてその後ろにいたもう1人の曲刀を槍の穂先で受け止める。威力のあるその槍は、曲刀を砕いてそのまま曲刀使いを袈裟斬りする。

さらに背後から襲いかかる片手斧の使い手を身を潜めて横薙ぎの一閃を交わしつつ、槍を旋回させて足を払って転倒させ、そのまま石突きで頭部を強打させて撲殺する。

三人を一気に片付けた事により、残りのならず者は動きを止める。

 

「さあ、次は誰!時間がないの、さっさとかかってきなさい!!」

再び構えて辺りを見回す、ならず者はじりじりと後退りする。

 

「おっと!それ以上抵抗するなら此奴からやっちまうぜ!!」パメラは振り返るとファルコンの首筋に斧をあてがう。

 

「卑怯な、ここまで外道とはな・・・。」

パメラは白銀の槍をその場に突き刺して歩み寄る。

 

「いい心がけだ。出来れば泣き顔を晒して欲しかったが、どこまで我慢できるかな。」男は手に持ったシャムシールを振り上げる。

 

「マーニャ、ディートバ、後はお願いね。」

 

「いや!お前の運命はまだおわっちゃあいないさ!!」

振り上げた男のシャムシールはどこからか飛んできた手斧によって砕ける、さらにその斧はファルコンの首筋に当てていた男の脳天に直撃し血飛沫とともに倒れる。

 

「誰だ!!」辺りを捜索するならず者を嘲笑うかのように、現れたレックスはさらに祝福されたアックスを旋回してさらに1名の命を絶命させる。

 

「ここだよ・・・、女1人に質まで取るなんてなかなかの小悪党じゃないか。

女、さっさとあのファルコンを治して逃げろ。」

 

「あ、ああ。すまない・・・。」パメラの中で色々と思う所があるが、今はこの男に託すしかない。白銀の槍を引き抜くとファルコンの元へ向かう。

 

「させるか!!」ならず者は再び動き出そうとするが、レックスはその豪腕で斧を一振りする。その風の轟音に再びレックスを注視するのである。

 

「いいのか、あの女の元に向かえば背後からこの斧の餌食になるぜ。俺をやってから邪魔をしに行くことを勧めるぜ。」その自信に満ちた目であたりのならず者を見据える。だが男達は凄む中でパメラは見た、背後にいる狙撃手の存在を・・・。自分達を地上へ落とした射手者がレックスを狙っていた。

 

「あぶない!!」パメラが叫ぶ中、その矢はレックスの背中に吸い込まれる。

 

「!!」レックスはその衝撃に目を見開くが動じない、その矢をぶっきら棒に抜き放ちその場に捨てる。

 

「ふん!こそこそと!!」何事も無かったかのようにレックスは近場にいた男に突進する、その機動力はいささかも衰えていない。

防御しても全ての武器を叩き壊して敵の体を撃ち抜いた、ランゴバルドの不死身を再現したようなレックスに戦慄を覚えていく。

 

 

「ちっ!」レックスを撃った狙撃手は再度矢を放とうとするが、背後にいるデューに気付かない。背中に短刀を入れられ絶命する。

 

「あちゃあー間に合わなかったかー、レックスに怒られちゃうよ・・・。でもまあ、いいか。」デューは陽気に独り言を零す。

彼の後ろには後追いのならず者の死体が多数転がっている、役目は果たしたとばかりに再び林の中へと消えていく・・・。彼には彼にしかできない役割がある、それを理解しているデューにとってレックスの応援は無駄であると理解していたのだ。そしてその通りであり、レックスはその場のならず者を全て全滅させる事となった。

 

「ふん!」狂戦士さながらに、守りを捨てた攻撃特化の突撃で多数の傷を負っているがレックスのポテンシャルは最後まで落ちる事は無かった。あたりには血煙漂う惨劇が広がっていた。

 

レックスはポーチにある止血道具を取り出そうとした時、ライブの光が彼を包んだ。

 

「ちっ!逃げろと言ったはずだが・・・。」

 

「ごめんなさい、でも救ってくれた御仁を捨てて逃げるなどシレジアの騎士である私にはできません。」

 

「女子供に俺の無骨な戦いを見せたくは無かっただけだ。」

 

「そんな、あなた程勇敢で優しい方はいらっしゃいません。」

 

「酔狂な女だ、この惨状を見てそんな事を言う女を聞いた事はない。」

 

「あなたの一撃は全て即死でした、きっとお相手は痛みを吐く暇も無く事切れたでしょう。私は一つの優しさと思います、あなたの方が余程痛かったでしょう。」レックスはその一言に心と身体を癒されていくように感じる、デューの素直に気持ちを伝える事の大事さを今ここで思い知る事となったのである。




レックス
グレードナイト
LV 22

HP 51
MP 0
力 26
魔力 3
技 23
速 16
運 12
防 27
魔防 4

待ち伏せ エリート

グレートアックス(泉の精霊から賜った斧、ゲーム上では勇者の斧)
ハルバード(城内戦、徒歩でのみ使用する斧)
手斧

ランゴバルド卿の次男。ダナンが長男でスワンチカを継承した為、聖遺物は扱えない。彼が継いでいればまた違ったドズル家として活躍していただろう・・・。
ランゴバルド卿の豪胆で豪放な性格がいい方向へ向かえば彼のように、多少の癖があるが気持ちのいい御仁として成長するのだろうと私は解釈しています。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。