ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻)   作:Edward

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リボーで一つイベントが発生します。
ちょっと長くなるかもしれません。


胎動

リボーはイザークからすれば辺境になるが中立地域と隣接しているため、いくばくかの交易があり規模としては第二の都市である。イザーク独自の品々がここから流れ、外部からの治安維持のために軍隊もイザーク屈指の軍事力となっている。統治する族長は王族に匹敵する権力と発言力があり、ソファラとは立場が違う存在である。

ホリンは族長に面会を求め、彼の居住する屋敷へと足を運んだ。

 

リボーの族長は歴代の中でも温厚であり、また人情にも厚い方でホリンのソファラとも懇意のある関係を持っている。

かつては東の蛮国と呼ばれ、他国より嫌われていたが約百年前の戦争でイザークから剣聖オードが英雄となり凱旋した。

彼は瞬く間に部族間闘争を鎮圧し、まとめあげ国家として制定したのだった。

多少強引ではあったものの、徐々に部族間の諍いは時間とオードの末裔達が一つづつ絡まった麻をほどくように対応して国家をより強固な国家制度を作り上げてきたのである。

 

徐々に部族間の軋轢もなくなり、部族間の連携が取れるようになったのは最近である。ホリンの父親も現国王の姉君と婚姻し、ホリンは生を受けた。

それがなければソファラは数ある弱小部族の中で淘汰されるか大部族に吸収されて消え失せた可能性もあった。

 

 

 

館の前には警備の剣士2名が歩哨に立っており、ホリンは書状を懐から取り出し

 

「ソファラのホリンです、命により書状の報告に参りました。クラナド様にお取り次ぎを。」と伝えた。

警備のうちの一人は書状を確認すると快諾し、屋敷内に入っていく。残りの1人は顔見知りであるため、二人になったのもあり。

 

「ホリン殿、また訓練には来てくださらないのですか?皆あなたの剣技を楽しみにしております。」

と世辞の一つをかけてくれる、気さくなイザークの民らしい事だ。

 

「そういえば最近訓練には顔を出せていなかったな、近々また参加させてもらおう。」

などと会話をしているうちにもう1人が戻ってくる。

 

「お待たせしました、すぐにお会いするとのことです。こちらへ。」と奥へ案内される。

 

 

 

 

「あなた達!何をしているの!」

リボーの町の郊外で黒いローブを羽織った男と、盗賊風の男が二人が瑪瑙の髪飾りをつけた少女を抱きかかえていた。

 

 

 

私はシレジア以外の国に出たことは一度もない、今回が初めてだった。

天馬騎士となり訓練や任務においても他国に出ることはなく、姉様には度々他国に書状を渡す任務に就いていた。

なので今回の他国での任務は嬉しく思っていた、四強の一角とまで言われるまでの天馬使いと言われても戦闘能力では姉様にはまだまだ届かない。

今回の任務で私は一回り大きく成長できる、そう思いカルトがイザークへ向かうと言われ同行を懇願した。私の本当の任務はまだまだ続けなければならない。

 

そんな私は特に新しい街にくると空中からいろんな場所を見て回るのが大好きだった、シレジアとは違う人々の生活模様を空から眺めることが楽しみになっていた。

そんな中で一人の少女を執拗に付け回している存在に気づき、空から尾行をしていた。

彼女の家はおそらく中心街の外にあるらしく、どんどん人気のない場所へ離れて行った。

間違いで有って欲しいと願って追跡していたが、とうとう一人が動きだし少女を後ろから羽交い締めにし口に布を当てられると一気に担ぎ上げられて逃走し始めた。

 

「人攫い?いけない!!」私は確信し、先回りする。

街中で他国の騎士が揉め事を起こすわけにはいかないが緊急事態である、妥協点を考えだし街外にでてすぐのところで彼らを引き止めたのだった。

 

 

「うるせえ!さっさとそこをどきやがれ!」

短剣を取り出した盗賊風の男が血気盛んに向かって来た。

私は細身の槍で短剣を持った手を石突で叩き、悶絶している所に顎を叩き上げた。もう1人は剣を携えており、気絶した同僚を見て動き出した。

一度上空に舞い上がり、間合いの外へ逃れると上空から滑空し右肩に槍の一撃を見舞った。肩を刺された男は悶絶して立ち上がることもできずにその場で倒れる。

戦闘経験は無いに等しい町のゴロツキのようで、おそらく後ろにいるローブの男が主犯と見られた。

 

「観念して、その子を離しなさい。」

槍を構え、男に警告を促すが返事も身じろぐ仕草もなく少女を抱えたまま立ち尽くしていた。彼から放たれる雰囲気が不気味すぎて見据えると嫌な汗を流してしまう。

フュリーは雰囲気に飲まれないように相手の動きに集中して行く。

 

「くくく!また供物が増えた、殺さぬようにせねばな。」

ローブの中からおよそ予測もつかない言葉に困惑を極めた、一つわかったことはこの男は自体に一切窮地に立っているとは思っていないことだった。

 

突然ローブの中から手が伸びたと思えば、突然する周囲から黒い形をなさない物が沸き立ち始めた。

 

「なっ!これは⁈」

とめどなく沸き立つ黒い物質に異様な危機感を募らせたと同時に隣に従えていた天馬が首を使って私の体を背に乗せて上空に跳ね上がった。

つい先ほどまでいた場所は突然その黒い物体に場支配され、程なくその地面は醜い爪痕を残した姿となった。

雑草はしおれてしまっていて、生きるものの活動を獰猛に侵食されたかのようであった。

 

「あれは魔法なの?シレジアの魔道士達の魔法を見てきたけど・・・。」

旋回しながらその攻撃を思案する、私が今まで見てきた魔法は自然界の力を具現化する物ばかりである。

レヴィン様やカルトの風の魔法から火の魔法も雷の魔法も経験はあるが先程の魔法は経験がなく、なにより禍々しかった。

 

「小娘よ、それで逃げているつもりか?我の魔力の前にそなたはもう蜘蛛の巣に迷い込んだも同然であることを自覚せよ。」

まるで耳元で囁かれているような声が聞こえる。魔法同様に禍々しく、生気が感じられない声であった。

天馬が突然の嗎き方向転換する、次は暗黒の矢のような物が次々と放たれており回避行動を行ってくれていた。

フュリーの乗る天馬は決して疾くはないが非常に警戒が強く、私よりも早く警戒に入り回避行動を起こしてくれる優秀な愛馬。彼女に感謝しつつ攻撃に入る。

私は愛馬に括り付けているもう一つの槍を取り出す。これは細身の槍とは違い、重量があるが落下の力を借りれば大きなダメージを与えられる。私は眼下にいる魔道士にその槍に身を預けるようにして狙いをすませる。魔道士の頭上を旋回しながら奴から放たれる暗黒の矢を回避しつつ攻撃の合間を狙った。

攻撃は愛馬が回避してくれる、それに魔法である以上天馬に護られた私たちは魔法防御が高いので威力はあるかもしれないが耐え切れば勝機も充分にある。

未知の魔法に竦む訳にはいかない、私は奮い立たせるように愛馬に旋回から急襲の合図を送り一気に急降下した。

 

 

魔道士はその攻撃を待っていたのか、口許にいやな笑みを浮かべると暗黒の矢とは違い始めに使用した暗黒の霧のような物を発生させた。私と魔道士の間を妨害するように阻み襲いかかってきた。

愛馬は旋回をするような仕草をしたが拒否の意志を鐙に送った、そのまま急降下を命じて覚悟を決める。

魔道士も私は回避すると踏んでいる、だからこそここは突き抜けて奴に一撃を与えるチャンスと踏んだのだ。

 

決死の突撃を決めた瞬間、目の前の霧が突風により弾け飛んだ。

霧散したその先にはもう邪魔な妨害物はなく魔道士のみだった、その魔道士も風の刃を受けて躱す動作が遅れていた。狙いすましたフュリーの投槍が胸部に突き刺さり、吹き飛ばされた。

フュリーは落下の速度を旋回することで緩和させて地に降り立つ、援護したのであろう人物を探すと予想通りカルトがそこに佇んでいた。

 

「遅いわよ、でも助かったわ。」

 

「わりぃな、でもバッチリなタイミングだろ。」

 

巨木の木の枝から降り立ってフュリーの横に着地した、軽口を叩いてはいるが額には汗をかいており急いで向かってくれていたことはよく理解できた。

 

「あれは魔法と言うか呪法に近いと感じた、さっき飛び込んで攻撃をしようとしていたがやめた方がいいぞ。」

 

「わ、わかったわ。でも・・・。」

私の一撃は胸部を貫いている、生きているはずがない。頭でそう理解していたが、カルトは警戒を解いていなかった。ようやく私は遺体を確認しようとしたがそこにはまだ投擲された槍が突き刺さったままのローブの男が立ち上がっていたのだ。

 

「くくく!我を殺すことなど出来はせぬ!そこの男よ、命は助けてやるから女どもを置いてここから立ち去るがいい。」

右手から暗黒の霧がふたたび吹き出し始め、カルトを威嚇する。カルトはショートソードを抜いており左手には魔道書を持ち準備を完了させていた。

 

 

 

 

 

「ウインド!」真空の刃を作り出してローブの男に放つ、奴は逃げる仕草もせず暗黒の矢で相殺する。

カルトは再度ウインドで風の塊を作り出してそれも放っていた。

「つまらぬ。」ローブの男はふたたび迎撃の矢を放ったが命中した瞬間に圧縮された風が周囲の粉塵を巻き上げて視界を奪った。

「エルウインド!」さらに広範囲に竜巻のような風が巻き起こり周囲の物体を吸い付け、竜巻内にいざなった。竜巻内には真空の刃が襲いかかり無残に切り刻まれる。

 

ホリンや道中の襲撃者に使ったエルウインドは手加減をしていたが今回は全力のエルウインドだ。手応えはある、内部にいてるやつから魔力を感じるしこの一撃でその魔力はガクッと減っているのを感じた。

 

多分奴にはなぜかはわからないが、物理攻撃にはダメージが通らないと踏んだ。さきほど不意打ちで与えた風魔法にはダメージをうけていたので一気に畳み掛けたのだ。

 

奴の魔力は俺よりも少ないように感じるが、魔法に対する防御力が凄まじい。先程の風魔法はウインドであるが、ダメージはごくわずかなものであった。

俺は手足の一本はもぎ取ってやるかの勢いで放った一撃であるにも関わらず、である。

ここで奴がまだ動けるようなら、次は逃げるための攻撃に魔力を使わなければならない。

 

「フュリー、そこの女の子を乗せて待機していてくれ。いざとなれば逃げるぞ。」

 

「わかったわ、無理しないでね。」フュリーは少し離れた少女を天馬の背に乗せて、退却に備えた。カルトのその判断でおそらく奴は生きている可能性があるとの判断をフュリーに連想させた。

 

砂塵が拡散し、内部があらわになってきつつあるなかふたたびあの暗黒の霧が発生し始め、内部より不気味な笑い声が聞こえ出した。

 

「くくくくくく!」

やはり奴はまだ生存していた、上位魔法が効かないとなると俺には打つ手が極端にすくなくなる。それなりにダメージを与えているようなら再度使用すればいいが、手の内を見せてしまった以上警戒もされるし対処方法も考えているはず。

ますます逃走を視野に入れての行動を取る必要があった。できればこいつを捉えて正体を掴みたい、おそらくであるがこいつとホリンはなにかで繋がっているように感じている。

 

彼が魔法の対処方法を学びたい事、他国で彼と出会った事、そして物理攻撃ではダメージを与える事が出来ない存在。何かの必然である事は間違いないのだからだ。

その為にもこいつを捕獲したいがなにせタフすぎる、不死身とまで思う位だ。

俺はシレジアでレヴィン以外の奴に最近負けた事はない、レヴィンは攻守ともに優秀で魔法においては死角はない。

俺は攻撃は問題ないが、魔法防御においての技術が今一つ苦手な事もあって防御に回るといつもジリ貧になる事が多い・・・。

だからこそ、攻め続けて自分のペースに持ち込みたかったのだ。

 

 

とうとう砂塵が霧散し奴の姿が見て取れた、ローブは胸部から下が破け四肢が露わとなっていた。細い手足は包帯が巻かれ相変わらず素肌は見えないが紅い血で濡れており、かなりの痛手おっている。しかし声量には衰えた様子がなく矛盾していた。

 

「仮初めとはいえ儂とここまで渡り合える無名な奴がいるとは思わなんだぞ、この体はもう使い物にならぬ、ここらで幕引きとさせてもらうがこのままやられっぱなしは気にいらぬ。」

 

「なんだ、まだやるつもりか?」俺は再度意識を集中させ魔力を身体中から搾り出そうと構える。」

 

「強弱には興味はないが、ここは譲れぬ!!」右手を振ると、一気に空間が歪んだ。奴の目線から後ろに控えるフュリーに視線を送ったのが俺の失策だった、フュリーの天馬にいた少女にも空間の歪みが発生し、消えてしまったのだ。

 

「ふふふふふ!ではさらばだ。」再び振り向いた時、ローブの男は少女を抱えて空間の歪の中へ消えていた。

 

「待ちやがれええ!!」俺の絶叫は虚しく風にかき消えて行った。




さらわれた、少女を必死に探すカルト、ホリンの秘密。
暗雲立ち込めるイザークに何が起こって行くのか、展開を考えるのは大変です。

またお時間をいただきますがお願いいたします。

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