ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻)   作:Edward

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この回よりシレジア編に突入し、ゲームで言えば4章にあたります。
随分と原作とは様変わりしてしまいましたが、この顛末を期待していただけたらと思います。
お粗末でございますがよろしくお願い致します。


六章 シレジア編
トーヴェの公爵


シグルドがシレジアに亡命して一年になろうとしていた・・・。

依然シグルドに対してグランベルは隠蔽された情報で親子は晴れぬ疑惑のまま祖国には帰れず、シレジアでその打開策を模索していた。

父直筆の直訴状を手に何度もグラベルへの進軍を考えたがラーナ様の諌めもあり、その時期を見据えていた。

そんな折りシレジアは大きな動乱を迎える事となる。リューベックにあった小競り合いは一気に激化し、その波紋は大きく波打つ事となった。その始まりはシレジアのレヴィンの元にもたらされていく・・・。

 

 

トーヴェ陥落

それは寝耳に水の出来事である。南の山脈に阻まれてセイレーン以外からの侵攻は天馬以外では不可能と言われたトーヴェが陥落したのだ、確かにこの城の守りは僅か60程度の部隊しか駐在していなかった。

これだけ数が少なかったのは半ば幽閉状態のマイオス公は武器一つ持つ事なく魔法も封じている、なりよりマイオス公はすっかり穏やかになり反抗する素振りはなく二年以上経過しているからである。

それ故に警備は必要最小限となり、その間隙を縫うように瞬く間に制圧されたのである。その報を伝心で聞いたセイレーンのカルトはすぐ様シグルドに要請しトーヴェへと急ぐ、その道のりは川と森林が阻んでおり平時においても丸一日かかるがシグルドは騎馬部隊を優先に進軍を最短に進める。

 

「敵はこちらには向かっていない、城内で籠城している!一気に叩く。」

 

「相手はリューベックにいた傭兵連中らしい、どうやってトーヴェに抜けてきた?」

 

「侵攻してきた数は150!」

カルトの騎馬部隊に要請に応じたシグルド、レックス、アゼル、ミデェールの部隊は侵攻しながら飛び交う情報を聞きながら駆け足を続けた。徒歩部隊としてアーダンの重装歩兵が制圧後の守りの要として、後追いしてくれていた。

昨夜襲撃があり翌朝にすぐ様出発している、到着予定は本日の夕刻辺りに到着する予定であった。陥落から丸一日、父であるマイオスはどうなっているのかカルトはなんとも言えない不安を抱えていた。

リューベックの傭兵はなんの目的がありトーヴェを襲ったのか、その可能性を考える。

マイオスを内乱の首謀者として立てて正式なレヴィンの反対勢力として擁立する、またはマイオスやトーヴェの人々を人質にして王位継承のやり直しを要求する。

どちらにしてもまだ侵攻側からの声明を出してない、狙いはなんなのかカルトは考えながら狙いを想像していた。何よりトーヴェにどうやって侵攻してきたのか、カルトですらどうやったのかわからないでいた。

 

南の山脈を山越えしたのなら天馬騎士団の巡回網にかかる、山中に点在する砦に駐在している魔道士がその報を聞くなり遠距離魔法であるブリザードを使って排除するようになっている。それにも関わらず連中はその警戒網をかいくぐり、150もの部隊がトーヴェを襲ったのだ。カルトはそれを思案し続けていたのである・・・。

 

《カルト、聞こえるか・・・。》とつぜん脳内に響く伝心魔法にカルトは思考を止めて声の主に応じる、それは長い間話すらしていないカルトの苦手意識を持つ身内である。

 

《親父・・・、生きていたか。今どこにいる。》

 

《城の外に連れ出されている、トーヴェ南へ向かっているようだ。》

 

《どういう事だ、親父一体そっちはどうなっているんだ。》

 

《儂の前に二人組の傭兵がいる。1人はあの有名な地獄のレイミアと言う凄腕の剣士でもう1人は盗賊風の男だ、こやつらは儂の身柄を拘束する事が目的で動いていた。ここからどうするかわからんが、こやつらはおそらく地下鉱路に向かっている。》

 

《地下鉱路、トーヴェにあるのか?》親父の言う地下鉱路はおそらくシレジア名産品の一つである金属や宝石に使う原石の採取地の事だろう、しかし現在採取できている地下鉱路は主にザクソン周辺でありリューベックとトーヴェの間には無かったはずであった。

 

《30年ほど前まではトーヴェ周辺の山脈は金属が取れたのだ、取れなくなってからは廃坑したが地下の通路はそのままになっている。中はかなり入り組んでいるが、うまく進めばリューベック側へ出る事も可能だ。》

 

《やつらはそこを使ってトーヴェに出たのか・・・。親父、あんたが連れ出されているという事は・・・。》

 

《そうだ、こやつらはこの地下鉱路を使って各地へ向かおうとしているかもしれん。中に入られたら伝心も転移もできない、先程ようやくサイレスが切れたので鉱路に入る前にお前へ伝心しているところだ。》

 

《そうだったのか、親父助かるよ。》

 

《礼など要らん。儂はお前を傷つけすぎた、これくらいで許して貰うつもりもない。だから・・・全てを終えた時に、儂を殺しに来てくれ・・・頼んだぞ。》

 

《お、親父!!》

カルトの叫びの瞬間に伝心は事切れる、マイオス自身が伝心を止めたのか地下に入った事により解除されたのかはわからない。カルトの動揺はかつてなく襲う事であったのは間違いなかった。

 

 

 

伝心を終えたマイオス、地下鉱路に入りその通信は途切れてしまう。

シレジアの山脈には魔法に共鳴する鉱物が多数存在し、魔力が乱共鳴してしまうので鉱内では魔力の使用が禁じられていた。

特に攻撃魔法の類は未熟な者が使用すれば微細なコントロールが出来ずに自身まで被害が及んでしまうので注意が必要であった。

 

「あんた、さっきから何か企んでない?」隣にいたレイミアがその洞察力でマイオスが裏で何かをしている事を示唆する。

 

「・・・久々に魔法が使えるようになったのでな、息子と少し世間話をしただけさ。」

 

「そうかい、私たちの所在を言ったのならその息子が不幸になるだけさ・・・。好きにしな。」追撃してきても彼女達は撃退する自信があるのか、マイオスに対して危害を及ぼす事はなく先へと進む。

 

「私を攫って何をしたいのかわからないが、私は貴様達のいいなりになる事はない。気に入らないならこの場で殺してくれても構わないのだぞ、抵抗はするがな・・・。」

 

「あんたを殺す気はない。黙って付いてきてくれれば何も咎めるつもりもないし、言動も行動も縛りはしない。この言葉の意味を分かっているから黙って付いてきてくれていると解釈しているのだが・・・。」黙秘していたレーガンがマイオスへ警告とも取れる言葉を投げかけた。

 

「理解しているつもりだ、ここで抵抗すればトーヴェに残したきたシレジアの兵士を皆殺しにするつもりだろう。お前達の首謀者にも会うためにも今は黙って付いていく方がメリットがある。」

 

「へえー、あんた幽閉されてたのにあんな連中を庇うんだ。変な男だねえ。」

 

「貴様達に私の身の上を話すつもりはないさ、さっさと依頼主とやらへ連れて行くがいい。」

 

「そうかい。ならさっさと急ぐよ、最短でも半日はかかるからね。」

三人は鉱路の奥へ、闇に溶けていくのであった。

 

 

リューベックではイード方面から次々と現れる傭兵の制圧にベオウルフの傭兵騎団が動くが、流入する数の多さにザクソンまで撤退を許してしまった。

傭兵騎団はアグストリアの激闘で兵団数が減っており、シレジアに渡ってからも大幅な人員の補給はできていない。それに天馬騎士団はトーヴェの陥落を受けてディートバとパメラは山中に潜んでいる可能性もあって捜索を急いでいた、彼らの進行経路を探し出してリューベックとトーヴェへの道を分断する事を急ぐ。後にカルトから地下経路を聞き徒労に終わる事になるのだが・・・。

急遽城の守りから攻勢に出る為、マーニャがザクソンまで出張る事となりベオウルフは戦線をザクソンまで下げる事となったのだ。ザクソンには元々クブリが物資や戦略担当として滞在しているので戦力を立て直して再度リューベック攻略に動く事とした。

 

これで戦線の包囲か出来上がったと思ったレヴィンだったが、カルトが父親から入手した情報より地下鉱路が敵に抑えられた可能性を示唆され驚愕する。

地下を抑えられれば、奴らはシレジア城からセイレーン近くの鉱路から突然現れる可能性がある・・・。戦線包囲は意味を成さなくなり、レヴィンは再度要所への守備を固める配置を余儀なくされていった。

 

セイレーンは徒歩部隊のアーダンとアゼルの魔道士部隊を呼び戻し、シレジアはレヴィンの直轄部隊を城下に配備して外部からの侵入を警戒する事とした。ジャムカはセイレーンとシレジアの境界付近にある川に待機させ、遊撃部隊としての命を与える。

トーヴェとリューベックの攻勢を緩めるわけには行かない。カルトとレヴィンの判断は同じだった、一刻も早くトーヴェを制圧し南の戦線の押し上げが急務として行動する。

 

 

トーヴェにたどり着いたグランベル軍の騎兵を主力としたシグルドとカルトは待ち構えている傭兵達に突撃を始める。城下町前で警戒する傭兵共に切り込むとカルトは城内へ、シグルドは城外で敵兵の殲滅へと分担する。

アグストリアの激戦を経験している彼らにとって傭兵などは烏合の衆と変わりはなく、ほとんど被害を出す事なく制圧していった。

彼らは余所者のならず者、止めをさす事を極力避けるように言われていたグランベル混成軍は彼らを動けない程度に叩き伏せると瞬く間に城下は制圧を終える。場内も多少の金品は奪われた物の、大きな被害はなかった。

場内に滞在していたシレジア所属兵も殆が生存しており、拘束されている程度であった。天馬騎士団トーヴェの分隊長と数人の地位ある者を除いて・・・。

カルトは彼らの遺体を丁重にシレジアに送る様に手配し、トーヴェの状況と情報収集を急いだ。

 

「やはり奴らはトーヴェ陥落は二の次だな、親父をさらう事が目的のようた。」城内に入ってきたシグルド達に伝えるとカルトは唇をかみしめる様に発し、言葉を紡いでいく。

 

「この反乱の当初にかなりの数の難民紛いの傭兵が参加していたのだがこちらの戦力が豊富だったことから撤退していたと思っていた。

入出国が激しくて把握できなかったことも大きな要因だが、それが奴らの狙いで、姿を消したのはトーヴェに攻め込むための準備をしていたんだ。

撤退を装って山脈に点在する地下鉱路に潜り、リューベックからトーヴェまでのルートを見つけ出していたんだ。一年も前からこちらの目をリューベックに向けつつ・・・だ。」カルトは口惜しやと指を噛んで説明を続けていた、シグルドはカルトがここまで出し抜かれている状況に質問をしてしまう。

 

「ここまで狡猾な首謀者がいるというのか、やり口が巧妙すぎる。」

 

「可能性があるとすれば、ダッカー公の配下にドノバンという愚物がいたが計画的でも無ければカリスマ性もない。だが実行力のある奴はドノバンだけだ、誰か奴を扇動しているかも知れない・・・。」

 

「しかしカルト、ドノバンになんのメリットがある。レヴィン王の体制を崩しても自分が王位に就けないし、奴の支持していたダッカーは死んだ筈。」レックスがカルトに質問する、確かに奴には反乱しても得るメリットは少ない様に感じるのは彼だけでは無いだろう。

 

「だからマイオス公を擁立しようとしているんだ、マイオス公が快諾すればダッカーもマイオスもドノバンにとっては似た様な物だろう。甘い汁を吸うという点でな・・・。」納得の回答に一同は沈黙する、そんな中・・・。

 

「カルト公、メリットで言えば何か別の物も感じないか?」カルトの言う発言にシグルドは珍しく口を挟んだ。

 

「?」

 

「奴らは、私達をグランベルへ引き渡す事も視野に入っているのでは無いか?背後にレプトール卿が動いていると考えれば合点が行く様に思える・・・。」

 

「確かに・・・。国内だけではなく、国外からの干渉も視野に入れなければならないな。

休息をとってセイレーンに一度戻る、トーヴェには私の騎馬部隊を残しておこう。おそらくトーヴェはもう今回の軍事的には攻防の対象にならない・・・、それにグランベルの騎馬部隊を残す事はもったい無いからな。」カルトは苦笑いする、自軍の騎馬部隊はグランベルの騎馬部隊からずっと後塵を拝している事は明白であるから故の発言である。

翌日カルト達はトーヴェを後にしセイレーンへ引き返すのだが、このトーヴェに軍を動かせる事もまだ見ぬ首謀者の計画である事をカルトもシグルドも見抜けずにいたのである・・・。

 

 

ザクソンに集合した傭兵騎団と天馬騎士団、それにクブリの魔道士部隊は軍議を終えてリューベック攻略へと開始する。

傭兵騎団は全戦力を従えてベオウルフは進み、天馬騎士団は地下鉱路からの奇襲を考えてディートバはトーヴェ周辺の北部を、パメラにはザクソンからシレジアの南側を警戒に当たらせた。マーニャの提案に2人は異議を唱えるが、彼女はシレジア天馬騎士団の尤もたる権力を持つ人であり最後までその要望を却下する。

 

「あなた達の方がそれぞれの土地を熟知している筈です、出入り口も知っているなら尚のこと適任です。リューベック攻略に参加したい気持ちはわかりますが背後を狙われては前線は満足に戦えません、レヴィン王の為にもお願いします。」マーニャの言葉に2人は従うのである。

 

「マーニャ隊長、必ずまたシレジアで会いましょう。ご武運を!」パメラは飛び立ち、マーニャもまた頷く。

 

「今度こそ、あのフォーメーションアタックを完成させましょう。」ディートバも北への進軍にマーニャへ無事帰還する事への祈りを捧げた。去り際にベオウルフへ視線を送り、ベオウルフは右手で胸を差して合図する。

《俺の心は常に君とある・・・。》

彼女に送った言葉であり彼の信念であった、ディートバは顔を赤らめながら北の空へと部下を連れて飛び立つ。

残されたベオウルフとマーニャ、パメラは団結しリューベックへと向かいだす。

騎馬の機動力に、空から天馬騎士団、後方から魔法攻撃と強力な部隊となったザクソンの部隊はリューベックの傭兵達はここで殲滅できる、彼らは疑う事はなかった・・・。

 

だが、翌日には全てが一転する信じられない事態が次々と沸き起こってくる事を知らないでいた。運命の扉は確かにアグストリアで違う形となった、しかし歪んだ運命は急速に戻ろうとしている事に気付いたのは現時点ではクロードのみである。クロードはクブリの部隊に着き、その運命の変化を見定めんとしている。彼は未だ祈りを捧げてその答えを見出さんとする、パメラは微笑んでクロードを心の中でエールを送っていた。

 

徐々に近づくシレジアの冬・・・、シレジアが雪景色に変わるその頃にはグランベル軍の女性陣は出産を迎える頃である。セイレーンでは臨月を迎えた彼女達は夫の無事の帰りを待ちわびつつ、産まれてくる子供達に希望を求めているのであった。




マイオス
バロンマージ
LV 22

HP/MP 65/60
力 14
魔力 15 + 5
技 14
速 17
運 10
防 12 + 5
魔防 10

スキル 連続

ウインド
エルウインド
トルネード
ブリザード(シレジア内のみ使用可能)

ライブ
リライブ
ワープ

白銀の剣
マジックリング
シールドリング

カルトの父親、前国王の末弟であるが聖痕は現われず劣等感に苛まれる。それでも若き時のマイオスは努力を惜しまない好青年であったそうだ・・・。
妻のセーラは聖痕を隠し持ち、子供のカルトへ自身の血と共に継承された。その事で劣等感は更に増して嫌悪と憎悪を抱くようになり、妻と子供を辛辣に扱って家庭を崩壊させていった。
先の内乱でカルトに諭され、人格を取り戻していくうちにカルトに処断されたいと願うようになる。

長男のカルトを筆頭に彼には母親違いの弟、妹が多数存在する。

スキル、能力は平凡・・・。シレジアで取れる金属、宝石を装備する事で体面を守るのに精一杯のご様子。

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