ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻)   作:Edward

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年末から更新できずすみませんでした!

改めましてあけましておめでとうございます。
4月までお仕事上、忙しい時期で更新が遅れると思いますがよろしくお願いします。



豹変

風使いセティが聖戦から生還し、祖国を復興させる始まりの地が生家のあった地域・・・それが今のジレジア城であった。

風使いセティはその地より外敵を駆逐せんと自身の弟子達と共に立ち上がり、その勢力に賛同した同士を少しづつ得ながら当時幅を利かせていた海賊や山賊、盗賊を一掃していく。

しかし、ある一定の所で賊を根絶できない事に部隊は気付く・・・。

山賊は山の深い所に逃げ込まれ、海賊は船で沖に出てしまい、盗賊は町中に溶け込まれてしまう・・・。

魔道士達では限界に来ていた。それに今後他国に攻め込まれれば、力の弱い魔道士を中心としたセティとその弟子達は一溜まりもない。

聖戦を経験したセティは、魔道士を守る強力な前衛が必要と感じた。それも他国で使う騎馬ではジレジアの厳しい山中や海上では役に立たない、ジレジアの地形にも負けない独自の機動力のある戦力を求めた。

 

そんな中で、苦悩で喘いでいたセティを救ったのが後に妻となる女性であった。彼女はセティの魔道士達の中にいた一人のプリーストだったが、セティの心中を察して一人シレジアの森深くに住む天馬を手懐けようと考えたのだ・・・。

天馬に乗った騎士・・・。それが出来ればシレジアの厳しい地形を物ともせず空から敵を捕捉できる、彼女の考えは的確であったが誰一人として賛同する者はいなかった。

その様な前例のない事に、馬鹿げた絵空事と一蹴しただけであった。

それでも彼女はセティの為に行動する。武力も持たない非力な女性がシレジア深くの森を進み、天馬と心を通わせて戻って来たのだ。

彼女がセティの元から離れて一年と半年・・・。同士は皆彼女は死んだ物と思っていたのだが、天馬を連れて戻ってきた彼女は凛々しさを讃えていたそうであった。

この事を切っ掛けに時間をかけて天馬を手懐けていく彼女、その天馬を乗りこなす乙女達により天馬騎士団は発足する。初めはたった四頭の小さな騎士団であったが、時間をかけて繁殖する術を得て大きく膨れ上がる。

ジレジアが国として制定した時には200の天馬騎士団となったそうだ。彼女の功績によりジレジアが安定したといっていいだろう、その彼女は初代国王の妻となりシレジアの系譜が始まっていき当代のレヴィンへと受け継がれていった。

レヴィンはシレジアに掛けられた一枚の絵画を眺めていた。早朝曇天の空、真っ白の天馬に乗った彼女を仰ぎ見るセティの絵画・・・。

所々から朝日が曇り空の合間から差し込む光が希望、天馬に乗った彼女は愛、天に祈る様に見るセティの突き上げる右手が勇気と言われている。

 

「こちらにいらしたのですか?」レヴィンに声をかけるフュリーに振り返り笑顔を見せる。

 

「ああ、出立前にこの絵を見ておきたくなってな・・・。」

 

「いつ見ても素晴らしい絵ですね、セティ様の希望に満ちた顔に勇気を与えてくれます。」

 

「フュリーはこの絵をそう捉えるか・・・、私はこの絵の主たる者はセティ夫人だと思っている。セティこそ絵の真ん中にいて夫人は遠い空に見える小さな天馬になるが、この絵の希望は彼女にあると思っている。

この国はセティが愛して興した地であるが彼一人の功績ではない、彼を支えて来た者を象徴するような絵と感じないだろうか?」レヴィンは振り返ってフュリーに語りかける。

フュリーはその言葉を聞いて再度絵を見るとまた違った印象に感慨深さを覚える、彼女のセティへの想いが溢れ出るように感じる。

二人は無言で暫く絵を見ていたがレヴィンは動き出す、賢者のローブを羽織り側にあった聖杖と魔道書を持ち準備に入る。

 

「お気をつけて下さいませ。」フュリーの声にレヴィンは優しく笑う、心配するなと言うような表情である。

 

「わが国には優秀な人材が多い、俺が行くほどではないがカルトがここで士気をを上げるためにも発破かけに来いと言うものでな。ちょっと様子を見に行くだけさ、終われば戻ってくるさ。」

 

「ええ、わかっております。」フュリーは自分に気遣うものとすぐに理解する、それでも彼女はレヴィンの言う言葉を信じる事が務めと戒めこれ以上発言することはなかった。

レヴィンと少数の魔法戦士と共にザクソンへ転移するのであった。

 

 

 

傭兵供を一掃したベオウルフの傭兵騎団とシレジアの天馬部隊に魔道士部隊は再びリューベックを制圧すべくそのまま進軍する。

増援で地下坑道からいくばくかの部隊か現れるがディートバとパメラの部隊が交戦して制圧していく、周辺を抑えながらリューベックへと到着した一団はすぐさま要塞町へとなだれ込んだ。

先程の敗戦でかなりの戦力が失われたのか、街中では抵抗をする様子がなく砦の手前まで辿り着いた。

 

「いくら先程の敗戦があったとしても動かなさすぎるな・・・。」ベオウルフは呟く、それは隣にいたアイラも同じであった。無言で頷いて同意する。早速門の閂を破ろうと準備していた時、砦の櫓から一人の男が姿を現わした。

前衛はすぐさま矢に対する警戒をするがその様子は無い。彼は右手にシレジアの手旗を振り交渉を示す態度を取っているのだ、ベオウルフは何を今更と鼻を鳴らして胡散臭く見据えた。

 

「儂はマイオスである。」この一言に一軍は凍りつく、ベオウルフ達は強制的にその男の話を聞かざるを得なくなり攻略は中断された。

この前衛にマイオスの顔が割れている者はいない、裏を取るにもどうしようもなかった。彼の続く話を聞くしかなかった。

 

「儂は今のシレジアの体たらくに再び抵抗する事を決めた。レヴィン王も政策の失敗をこれ以上を続ければ他国に侵略される事は明白である。大国グランベルと協定を結んだまではいい結果であったが、それ以降は協定国を裏切る結果を出し、国内はおろか国外にまで混乱を招く結果となった。

その責においてレヴィン王の退任を要求する。」

マイオスの発言にシレジア軍は色めき立つ・・・、穏健となったマイオスの突然の造反に対処する術を持つ立場の者はここにはおらず混乱を極める。

マイオスの宣言に誰一人声をあげる者はいない、マイオスは櫓から立ち去ろうとした時にようやく声をあげる者がいた。

 

「マイオス様!私です!」

魔道士隊を指揮するクブリが前へ歩み、高みから見下ろすマイオスに叫んだ。退場するマイオスの足が止まりクブリを見据える、その目は静かで乱心された様子はなかった。

 

「なぜです!マイオス様はレヴィン王とカルト様の新たな執政者の行く末を見守るとおっしゃっていたではないですか!

なぜ今になってこんな動乱に手を貸したのです、また以前のマイオス様へお戻り下さい。」クブリの懇願にもマイオスの表情に変化がない、その視線は自分に向いているのだろうか?とクブリは思いたくなるくらいに温度がない。まるで街中にいる多数の中の一人の他人を見つめているかのように無頓着で、無関心である。

 

一時の間を置いて再びマイオスは櫓から退席を始める、クブリの言葉を聞かなかったかのような振る舞いにクブリは愕然とする。

(マイオス様ではない、断じてあの方はマイオス様ではない・・・。)自失するかのように呆然となるクブリをシルヴィアは支えた、クブリは彼女を見ると無言で微笑む。

 

「何を呆けている!敵対を表明したんだ!!突撃だ!!」ベオウルフの怒号に再び閂を破壊する行動をとる。

 

「引いてください!魔法で破ります!!」クブリは聖杖を構えた。

 

「カッカするな!お前たちはさっき大魔法を使っただろ、ここは焦らずに俺たちに任せるんだ。」ベオウルフはクブリをたしなめる。

 

「マーニャさんも、飛べるからって先走らないでくれよ。やつらの内部の戦力はわからないだからな。」

 

「自重しているつもりよ。」マーニャは険しい顔をして答える。彼女はマイオスを処断する側にいた筆頭人物、再びマイオスによる新たな火種に苛立ちを隠せないでいるようであった。

 

 

 

「マイオス様、そろそろ閂が破られる頃です。下がって下さい。」リズムよく扉に打ち付けられる丸太の音にドノバンはマイオスに告げる。閂はすでに変形しており開門寸前である、内部から重量物を並べて人夫で持って押さえつけているような状態・・・。おそらく10分と持たないだろう、マイオスはそれでも腕組みをしており焦る様子もなくただその目は虚空を見つめるが如く心はここにない状態のようであった。

 

「必要ない・・・、儂がやつら雑兵如きに打ち取られるとでも・・・。」マイオスはドノバン将軍を一瞥する、その視線だけで心が凍りつくような感覚にドノバンは萎縮してしまう。

 

「しかし、如何にマイオス様がお強くてもこのままでは逃げ道はありません。先程の先頭で我らの主力が壊滅した以上ここにではなく廃坑へ逃げるなどした方が良かったのでは・・・。」

 

「馬鹿を言え、またあの穴倉で時を待てと・・・。この手はもう読まれている、逃げても追撃されて全滅するだけだ。」

 

「では、どうなさるというのですか!あなたの言う通りみなここで逃げなかった事でこうなったのですぞ!」

 

「手は打ってある、心配せずにその時まで時間を稼げ・・・。儂が何のためにあんな三文芝居を打ってまでやつらの気を引いたのか考えてみろ。」マイオスは手をかざして風魔法を扉に与え、風圧でその扉を締め付ける。

 

それでも扉は刻一刻と疲労していき開門の時が迫る、マイオスはそれを冷ややかに見据えながら魔法を加えて時間を作る。ドノバンは取り乱して辺りの人夫に精神論を唱えて扉を守るように叫んでいた。

この扉が開いた時、この国の運命は悪魔がダイスを振るかの如く翻弄されていく・・・。マイオスはその時が訪れる事だけを楽しみにしているのであった。

 

 

 

 

「退却!退却だ!!」セイレーンの港は混乱していた。警備に当たっていたセイレーンの衛兵達は突然現れた二艘の船によって壊滅の被害にあっていたのだ。カタパルトを打ち込んで船に応戦するが、辺りから立ち込める邪気に衛兵達は抵抗できずに倒れていく・・・。そして時折打ち出される暗黒の矢に撃ち抜かれた。

瞬く間に船はセイレーンの港に寄港すると船からはオーガヒルの残党が暴れ出し、もう一艘からは黒いローブに覆われた魔道士が3人降り立った。

 

「くくく、我らが手を貸せば奴ら悲願のセイレーン上陸も容易い事が理解できたようだな。」

 

「好きなだけ暴れてもらおう。我らには大事な仕事がある、ぬかるでないぞ。」

 

「散開して城を目指す。」三人は再び闇に溶け込み、騒乱に紛れていく・・・。

 

セイレーンの港を制圧されついに町を犠牲に戦闘が始まった。アゼルの魔道士部隊がアーダンより先に帰還した為、すぐ様応戦に入る。

アゼルは帰還の無事をティルテュに報告したばかり、ティルテュの心配を笑顔で対応して戦場にトンボ帰りする。

 

オーガヒルの残党を火炎魔法で葬り城への侵入を阻む、街に火を放とうとしている連中は手に油を持っているので魔法は使えない。アゼルは細身の剣を抜いて対応する。

 

海賊は鉄の斧を振りかざすとアゼルに猛進する。アゼルはまだ剣には自信がない、その心を見透かされたのか海賊は笑みを浮かべていた。

しかしその海賊の穴はアゼルには届かない、背後に追いついたアーダンの手槍の一閃が海賊の腹部を貫いていた。

 

「アゼル殿、無理は禁物です。力仕事は私にお任せ下さい。」

 

「アーダン!君がいると守りは安心できるよ。」

 

「もうじきシグルド様とカルト殿がこちらに到着する、それまでは城は死守しましょうぞ。」

 

「そうたね、僕は港に行きます。アーダンは町をお願いします。」アーダンはフルフェイスの兜をかぶると無言の合図を送り、戦場に戻っていく。彼は常に進撃戦では重装歩兵故に前線には来ないが、死守戦となると無類の強さを発揮する。レックスすらその硬さと怪力には一目置いていた。

彼は襲い来る海賊の重量のある斧の一撃を大楯で捌き、はじき返し、手に持つ大剣と背中に吊るした手槍を器用に使い分けながら制圧範囲を広げていった。将軍が先陣を切ってすすむアーダンは部下からの信頼が厚い、彼の広げた範囲に部下達は絶対に譲らない事で上下関係が築かれてきたのである。

 

町で暴れていた海賊達は次第にアーダン達が鎮圧していく中、アーダンに狙いを定めた剣士がいた。暗い路地から見つめる眼は狂気に包まれており、表情は読めないが明らかに笑顔であった。

 

「いい男がいたわあ、あれをやれたら私はもう一つ高みへ昇れそうね

。」闇に溶けるような黒い剣を無音で抜くと一気にアーダンは走り出るがアーダンはすぐには気付かない、その足音は盗賊のように無音であった。

アーダンは狂気のような殺気に反応し手槍を抜いて旋回する。剣士は穂先を跳躍で躱しながら黒い剣を後頭部へと見舞った、アーダンはその一撃を受けて兜は後方へ飛び素顔を晒す。

 

「なんだ貴様は!」

「将軍!ご無事ですか!?」

アーダンは手を上げて部下を止める、この剣士に飛び込めば被害が多数出る事を察知しての判断だった。

 

「あら、いい男じゃない?好みだわ〜。」背後の姿を見せつつ振り返った剣士は櫛に一度も梳かした事がないような艶のない髪を振り回して、アーダンに挑発する。

 

「俺はシアルフィの将軍、アーダンだ。名を名乗ってもらおう。」

 

「あたしはレイミア、地獄のレイミアよ・・・。」レイミアの名はグランベルにも知れ渡っている、その逸話に重装歩兵団は騒然とした。

アーダンはその言葉が真実である事が先程の攻防で理解する、手槍を構えてレイミアに対峙する。

 

「今のは不意打ちだったからね、よかったら兜をかぶる時間くらいはあげるよ。」

 

「気遣い不要、あの動きを捉えるのに兜は邪魔だ。」

 

「ますます惚れたよ。あんた、私に勝ったらなんでも言うこと聞いてあげるよ。」

 

「なら、妻になってもらう。」レイミアの挑発的な口調にアーダンの表情は崩れない、彼の精神力は体力同様に強大であった。

いつもの所作を崩すことなく手槍を構えてレイミアへジリジリと詰め寄る、レイミアは一度冷笑するとその場から一気に初速を最大速度へ変換して突き出した。

アーダンはすぐさま反応し、大楯で器用に剣先をいなすように軌道を変え手槍の一閃を繰り出す。

 

「!!」鋭い横薙ぎの一撃を髪は掠めて抜け落ちる、まさか自身の初速を目で追い切り反撃するとは思わなかった。鈍重な鎧に自信を持ち、防御しない重装歩兵がいる中でアーダンは丁寧な対応をした事に驚いた。それ以上にその動体視力に感心するのであった。

レイミアは再度距離を取って構え直す。

 

「本当にいい男だね、あんた・・・。」レイミアの冷笑から真剣な顔に豹変し、先程までの狂気や殺気が闘気へと変換されていった。辺りにいる部下はアーダンに加勢する事はなく二人の戦いに魅入ってしまう、一対一で戦う場では無いはずなのに二人の空間に立ち入る事は許されないように感じており立ち竦んでいた。

 

(それでいい。お前たち、間違っても奴の間合いには入るなよ。)

アーダンは無言のサインを送り続けた、レイミアの黒い剣はさらに黒くなるような感覚にアーダンは死闘を覚悟するのであった。




レイミア

LV 25
力 19
魔力 2
技 22
速 22
運 12
防 14
魔防 5

黒曜石の剣
威力 10
命中 70
重さ 5
特殊能力あり

地獄のレイミアの異名を持つ剣士、アイラから見ると彼女の出身はイザークらしい。本人も否定していないのであたっているのだろう。
長年勝ち負けの知れない戦場においても生き残っていくうちに恐れられて使われている地獄のレイミアの名を大層気に入っている。
死と隣り合わせの生き様により人格はすっかり退廃しているが、彼女の心中は自身の持つ剣の様に黒く塗りつぶされている。

相棒のレーガンとは恋人の様であり、夜の友でもあり、時には敵対した事もあったと言われている。

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