ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻)   作:Edward

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黒曜石の剣

レイミアの神速多発の剣技にアーダンは耐え抜いていた。どれだけ手数で翻弄されようとも、あからさまな挑発にも焦る事なくレイミアを見据える。鎧には多数の傷を作り、いくつかの攻撃が鎧の関節部を突き通してアーダンに苦痛を与えていた。

時折鎧の中を通す様に苦痛に喘ぐ声を聞こえない様にあげるが彼は歯を食いしばってそれに耐える。見えないだろうが鎧の中は自身の血糊があちこちで張り付いて不快感を生んだ、それでも彼は無理に攻勢に出ず出方を待ち続けた。

すでにこの決闘方式の戦いは20分を超えていた、それは達人同士による戦いではあるだろうが戦場においては考えられない事である。

約束された完全な一対一ではない、何処で伏兵が攻撃を加えるかもしれないこの場においては早急に相手を倒さなければならないのだ。

それなのにアーダンは持久戦を選び、体力と精神力の勝負に持ち込む。

 

レイミアが距離を取るとアーダンは前進を始めてレイミアに心肺への負担を強いる。アーダンもその苦しさは同様、いや重量がある分負担はアーダンの方が大きいだろう。それでも彼は荒い息を整える事なく愚鈍にも、実直にも歩みを止めない。

 

「なんて奴だ・・・、苦しくないのかい?あんたっ・・・。」レイミアにも余裕はない、全てを話す事はできず呼吸を優先させる。アーダンはにっ、と笑うと手槍を旋回させてレイミアへ振り下ろす。レイミアは横へステップすると袈裟懸けにアーダンへ打ちおろす。

アーダンは大盾でガードすると、力でレイミアを押し返して再び槍を振り払う。

 

「苦しいさ、今にも酸欠で意識が飛ばされそうだ。だがなあ、あんたをここで止めなければシアルフィはおろかシレジア軍にも多数の死者が出るだろう。シグルド様の冤罪を証明するためにも、ここで無用な死者を出す訳には行かぬのだ!

レイミア、剣を捨てて引け!この戦場に地獄は・・・要らぬ!!」

手槍の石突きを石道に叩きつけると最大限の声量でレイミアの心に叩きつける、闘気と相まってその怒号はレイミアの心に刻まれたのだ。

 

「・・・アーダン、と言ったね?あんたの名前。その覚悟立派なものだよ・・・。私も欲しかったねえ、覚悟が人を強くさせるなんてあたしには無縁だったからさ。私は生きる為だけに剣を握って人を殺し続けていただけだった。」鉛色の空を見上げて彼女は悲しげに吐いた、荒れた吐息と共に・・・。

 

「これでは勝てないか・・・、あたしの負け・・・。」

 

「撃って来い!」レイミアの言葉を遮る様にアーダンは叫ぶ。

 

「お前の剣士としての覚悟で今から生まれ変わって撃って来い!お前が撃つまで、俺は待つ!!」

 

「しょ、将軍!!」部下のその声は悲鳴に近かった、せっかく持久戦でレイミアを追い詰めたのにアーダンは満を時するのを待つというのだ。今まで苦労したアーダンの努力は自ら水泡に帰したのである。

 

「さあ、来い!!俺の覚悟を超えてみろ!」アーダンは槍から大剣に持ち替えるとレイミアを逆に挑発する。

レイミアは呼吸を整えると、一度後転宙返りをして距離を取る。眼は閉じており心身の充実を待つ。

レイミアは呼吸法で荒く上下する肩がみるみるうちに穏やかになった、そして黒の剣をその場で突然振り払った。

空を切る音と共に一足遅れてレイミアの髪が舞う、骨盤近くまであった艶のない髪を肩辺りでバッサリと切り落としたのだ。シレジアの冷たい風により四散する黒髪、そして彼女に宿る眼の瞳は狂気ではなく剣士としての高みを目指す眼を宿していた。狂気と殺気混じりの闘気は純然たる闘気へと昇華していく。その姿にアーダンは一つ笑みを浮かべる、厳つい顔のアーダンであるがその柔らかな笑みは部下達の心を打った。

 

(シグルド様、私は眠れる豹を起こしてしまった様です。例え私がここで倒れようとも、彼女はもう我らを狙う地獄のレイミアではなくなった筈・・・。負けるつもりはありません、ですが彼女の剣がまともに入れば祈る時間もないでしょう・・・。

シグルド様、あなたにお仕え出来て幸せでしたよ。)

背水の陣、鎧は各部破壊されていて耐久力はかなりの怪しさがある。それでもなお彼は不利な鎧をつけたままレイミアに時間を与えて渾身を待つ、それはシグルドから教わった騎士道精神なのか?彼生来の実直から来たものなのか?剣を交えた者同士が唯一共感し、推し量る感情は他の者達では推し量る事は出来なかった。

 

「いくぞ!」レイミアはアイラにも負けず劣らずの剣速でアーダンを駆け抜けた。アーダンはその集中力で彼女の軌跡を追うが、自身の直前にさらに一気に速度が上がったのだ。その刹那の動きにアーダンの大剣は反応できない。

 

「・・・見事。」アーダンは大盾の防御も間に合わず胴払いをまともに受けアーダンは倒れる、具足に溜まった血液が倒れた事で鎧の隙間から溢れ出る様に広がりいままでの出血量を推しはからせた。

 

「将軍!!」

「起きてください!私達には貴方が必要です。」

「貴様!よくも将軍を!!」

 

部下達が怒りや悲しみをあげるなか、レイミアは剣を落として天を仰いだ。嗚咽をあげず頰から涙を流す彼女にアーダンの部下達は驚きを隠せなかった。

 

「参ったねえ・・・。勝ったのに、全く勝った感情が出てこないよ。ねえ?アーダン、あんたはこの気持ちを知っているのかい?」彼女はアーダンの元へ歩みその手を取るが当然反応はない・・・。当然である、あの時のレイミアの手応えは今まで感じた事がない程の強さを発揮したのだ。その一撃をアーダンは反応も出来ずまともに受けた、生きているはずがないのだ。それはなにりよレイミアが知っていた。

 

「敵なのに、情に流されて・・・。あんたバカだよ。挙句にあたしに殺されるなんて、それが将軍のすることかい?あたしは、あんたに何をしてあげればいいんだい?」レイミアの嘆きにアーダンの部下達は彼女に斬りかかるわけにはいかなかった、一対一で戦った漢の意思を破棄する訳にはいかない。ようやく一人の部下はそのレイミアは歩み寄った。

 

「レイミア、これからどうする?将軍の最期の様を見た以上ここであんたに多数で切り結ぶつもりはない。・・・出来ればこの戦場から手を引いて欲しい。」レイミアは振り返る、先程までの凶悪な暴走剣士には闘気も覇気もなくすっかり少女のような変貌を遂げていた。それこそがアーダンの考えた決意の戦いの結末である。

 

「もう・・・、あたしは戦えない。あんた達に投降する。

煮るなり、焼くなりしてくれ。」

 

「・・・なら、アーダンが助かった時は彼の意思に従ってくれ。」

突然の別の方向からの言葉に振り返る。

アーダンの身体に寄り添う白銀のローブを羽織った男が強い発色の光を発していた。かなり強力な治癒魔法はリカバー、この大陸で最も強力な回復魔法である。使い手であるカルトはシグルドを伴ってこの場に帰還してきたが、アーダンが昏倒しているのを見てすぐ様回復処置を始めていた。シグルドはアーダンの手を掴み、目を閉じて祈っていた。

 

「あ、ああ・・・。」レイミアから再び涙が流れ出す、アーダンがもしかしたら回復するかもしれない。その感情に彼女の精神は再び甦ってくる。

 

「安心するなよ、俺でもこの瀕死の状況では復活する可能性は半分を切る。後はアーダン将軍の生命力と意思にかけるしかない。」聖杖にさらに魔力を送り続ける、杖は更に強く輝きアーダンに吹き込まれていく。

 

「アーダン!帰ってきてくれ、あんたが身を持って教えてくれた事を続けるにはあんたが必要なんだよ。このままじゃあ、あたしは立ち上がれないよ。お願いだ、目を開けてくれよ。」

更にリカバーを重ね掛けアーダンの精神力にかけるが、体温は下がっていく一方である、カルトがリカバーをかけ始めた時は心肺は停止していた。止まってからどのくらい時間が経っていたかわからないが、今は弱い拍動を取り戻したがすぐにでも止まってしまいそうなくらい弱々しい・・・。

その時、頭上にメティオが降り注ぎ港の方へ落ちていく。まだ港では激戦が続いているようである事を知る。

 

「シグルド公子、アーダン将軍は俺が必ず救ってみせる。」

 

「ああ、アーダンは簡単に任務を放棄する奴ではない。・・・また会おう!」シグルドは翻して港へと急ぐ。町はここまで来る時に海賊共は一掃していた、一直線へアゼルの元へと向かい出す。

 

「君達は城を守ってくれ!このままでは城が手薄になる。」カルトはアーダンの部下達に命じて城へ帰還させる、シグルド公子が従った事もあり彼らは城の守りへと向かい出した。

残された将軍のお付きの騎士数名はカルトの回復の邪魔を入らないように守備を固めた。

 

カルトが回復を始めてもう30分は経過する、それでもカルトの魔力は落ちる事なくアーダンに魔力を送り続けていた。アーダンの身体は相変わらず弱い拍動を続けるのみ。傷は癒されず出血は続く、カルトの額からは汗が滲み出て来る。

そんな折りに、カルトは左手より懐からペーパーナイフを取り出すと不意に後方へ投げた。レイミアの横を抜けて背後へと抜けていく。

 

「レイミア、背後に魔道士がいる!奴を頼む。」

殺気ではなく、不穏な魔力を感じたカルトはレイミアへ警戒させる。

路地の暗がりから黒いローブを羽織った魔道士が現れた。ロープから見せる右手には先程のナイフが刺さっており、左手で抜き取るとその場へと落とす。

 

「くくく、気づかなければ苦しまずに一思いに死ねた物を・・・。」

 

「ロプト教団か・・・、表舞台に出て来るとはな。そろそろ余裕がなくなってきたか?」

 

「小僧めが、減らず口はあの世で叩くのだな!」たちまち辺りより邪気が立ち込めだす、その禍々しさにカルトは身構えたいが魔力を解くとアーダンは二度と助からないだろう、とっさに舌打ちをしてしまう。

その舌打ちを合図にレイミアは抜き打ちの一閃を魔道士に叩き込んだ、魔道士は咄嗟に身体をずらして避けるがそのまま二の太刀を切り払う。ローブを切り裂いて血が噴き出すが魔道士の笑みは消えていない、そのままヨツムンガンドをレイミアへと放つ。

吹き飛ばされながら邪気に犯され、蝕むような痛みが彼女を襲った。

 

「ふははは!剣の打ち込み程度で倒れると思ったか!」暗黒魔道士の傷は今まで戦った連中と同じく自然に回復していく、驚異の回復ぶりに不気味さを感じるのである。

一方、ヨツムンガンドは受けた傷は蝕む様にどんどん酷くなっていく。レイミアに回復をしてやらなければ時間が経つにつれて不利になるのだ。

 

カルトを守るアーダンの側近達は打って出ようとした所でレイミアは制止をかける。邪気に付きまとわれながらも立ち上がる、身体のあちこちから流血し苦痛の表情だった。

 

「あんたも耐えたんだ、あたしもこれくらいで挫ける訳には行かないね。」

 

「ただの剣士の癖に立ち上がるか?寝ておいた方が身の為だと言うのに・・・。邪気に当てられて朽ち果てよ。」

レイミアはチラリと自身に纏わりつく邪気に鼻を鳴らして一瞥する、そして黒い剣を一閃させた。

 

「な、なに?」その瞬間、邪気は霧散しレイミアは正常を取り戻す。

魔道士はその現象に始めて動揺した。

 

「あたしの愛剣、黒曜石の剣は魔法の類も切れるんだよ。覚えておきな!」レイミアは再び走りだす。身体に傷を負ったものの身体能力は落ちていない、アイラ並みの速度に魔道士は間合いに入らせまいと邪気を発する。レイミアは黒曜石の剣を振りかざして邪気を刈り取り、間合いに入った。

 

「ば、馬鹿な!」

「死ね!」

 

レイミアの剣は魔道士の心臓へ突き立てる、魔道士は吐血し倒れこむが剣を抜かないレイミアは強制的に立たせた。

 

「おっと、剣は抜かせないよ。あんたの回復も暗黒魔法による力ならこの剣が身体に入っている限り回復できないだろう?」

 

「ぐっ、回復が始まらないのはそう言うことか!」

 

「ただの剣士と思って油断したな、残念だったね?」レイミアは微笑んで魔道士の絶命を見送っていた。

 

「マンフロイ様、お許しを・・・。」魔道士はその首が力なく折れ曲がる、完全に停止した事を確認したレイミアは黒曜石の剣を抜いて鞘に収めた。

 

「ま、待て!レイミア!!」カルトはさらに訪れた微かな殺気に反応するが、全ては遅かった。

 

レイミアの腹部から剣先が覗いたのだ。吐血しそうになるが同時に背後から口を塞がれて阻まれる。

 

「レイミア、残念だよ。」よく耳にした声が背後からする。

 

「レーガン・・・、あんたっ!」黒曜石の剣を振りかざすが、その剣をガントレットで受け止めて剣先を握る。

 

「この剣は返してもらうぞ。」剣先を握った手は傷つく事を御構い無しに捻って跳躍する、レイミアの手から離れてレーガンは強奪に成功した。

 

後方の納屋の屋根へ降り立ったレーガンは冷たい目で見据えていた、その殺気などの気配はほとんど消されており希薄に感じる。一流の暗殺者程行動中の一瞬に爆発的に殺気を出し、すぐさま搔き消す事ができると聞くが彼の技術は間違いなく一流のものであった。レイミアは膝をついて背中の短剣を抜きレーガンに放つが、黒曜石の剣で弾くと空中で回転する短剣を掴んで腰の鞘に収納する。

 

「返せ!それは私の剣だ!」

 

「・・・レイミア、然らばだ。」レーガンはその場から立ち去ろうとした時、一閃の槍がレーガンの持つ黒曜石の剣を叩き落とした。

 

「なんだと!?」レーガンは驚愕する。その槍は瀕死になっているアーダンからの投擲だった、まだリカバーを緩めていないカルトすら驚きを隠せない。納屋から落とされた剣をレイミアは跳躍しつつ受け取るとそのままレーガンを一閃する。

 

「がはっ!」一瞬の間から攻撃に転じたレイミアの渾身の一撃にレーガンは回避できなかった、レイミアも出血からその場に倒れこむ。

一矢報いたレイミアであるが、レーガンのその傷は徐々に癒されていく・・・。

 

「あんた、ロプト教団の・・・。」

 

「ちっ!面倒な事を!!」レイミアの言葉に苛立つレーガンだが彼は冷静であった、レイミアがこれ以上追撃できない状態を悟りこの場を引く。跳躍して隣の建屋へと飛び移り様子を伺うと案の定レイミアは出血と痛みでレーガンのいる場に飛びうつれないでいた、腹部を抑えてそのまま蹲る。

 

「レイミア、我が隊を抜けるのであれば死ぬまで追手がくると思え。」捨て台詞を残してレーガンは消えるのであった。




アーダン ジェネラル
LV 22
HP 71
力 26
魔力 0
技 19
速 12
運 9
防 27
魔防 1
スキル 待ち伏せ 大楯
鋼の大剣
手槍

シアルフィの将軍
アレク曰く「強い」「硬い」「遅い」の代名詞の如く、一定ターンまでに盗賊を倒さないと街が壊滅しお金とアイテムが失われてしまうので機動力のない彼はほぼ使えない・・・。防衛戦でも前衛からワープとリターンの杖かリターンリングで戻れるので守備に上げておく必要がない・・・。(杖はお金がかかるが、シスターなどは多大な経験値が入るので利害が一致する。)
聖戦ではお金は恋人か盗賊でないと受け渡しできない、武器のリソースが決まっている(後半では特に村が全滅すればそのアイテムは永遠に手に入らない。)などの理由がたくさんあって他のFEシリーズに比べて機動力のないユニットはさらに使えないユニットになってしまった・・・、可哀想過ぎる。
それでもイベントが多数あって頑張って使えばいい味のあるユニットです。
彼はこの小説ではあまり出番がありませんでしたが、今回は彼の人柄を出してみるつもりで頑張りました。

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