ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻) 作:Edward
城門が壮大な破砕音とともに開け放たれる。
ベオウルフとアイラ達の傭兵騎団と混成された傭兵団が雪崩れ込んで途端に混戦と化した。
リューベックは隣国からの防衛に使用する要塞地、生活を主にする住民は少なく軍を相手に商売をする者たちばかりで主である。
一度キナ臭くなると店を畳んで逃げ出す者ばかりであり、度重なる内乱ですっかり人は減っていった。
民家にはほとんど人がいないので気にすることなくシレジア所属の者は切り込んで行き、その前線は砦内部に侵入し主犯格であるドノバンとマイオス公を打ちとらんとする。
すっかり弱体化したドノバンの混成部隊は勢いが削がれており、退却する者が続出して前線が崩壊気味であった。辛うじてドノバンの直轄部隊が死を賭して善戦しているがベオウルフの傭兵騎団の前に次々と打ち倒され、マーニャ隊が奇襲攻撃で各個撃破されていった。
「マイオス公!どういうつもりだ!一体何を考えている!!」ドノバンの怒りにとうとう火が付き、マイオス公に敬語もなく激昂する。
門が破られた時、彼らはマイオスに連れられ砦の最上階へ向かった。彼はそこのテーブルにどっかりと座り何事もないようにくつろぎ出したのである、これにはドノバンの堪忍袋の緒が切れて先程の言葉を口にしたのだ。
当のマイオス公は平然とワインを取り出してグラスに注ぎ一口で煽る、その不味さに床に吐いて口元をナプキンで拭く。
「仕上げはここからだ、奴らはまだ気付いてないようで結構な事だ。」マイオスはテラスに出て、南の方角を指差した。
「見てみろ、面白い事が起こるぞ。」不審がるドノバンを他所にマイオスは自分に続いて見てみろと合図する、ドノバンは南に広がる広大な不毛の地を見入るがいつもの砂埃が舞う変哲もない光景であった。
「なにもないではないか!」
「ふっ!・・・ふははは!!だから兄上は死んだのだ、貴様のような馬鹿を囲っては勝てる戦も勝てないさ。
・・・今の時期、晩夏のイード砂漠は砂埃など立たぬ。立つのは冬の時期か初夏の雨季時くらいだ、なのになぜ砂埃が舞っているのかわからんか?」
「・・・?」
「あれは行軍によって巻き上げられたものだ、それも騎馬によるな・・・。」マイオスの言葉にドノバンは希望を見出す、歓喜してテラスに寄りかかる。
「援軍か!!」
「そうだ、奴らをここへ引きつけておけば背後の警戒を緩めると思ってな・・・。地下坑道を散々意識させておいたのなら、次の手はこれだと思ったよ。」
「し、しかし間に合うのか?ここまでまだ距離があるぞ。」
「駄目なら転移で離れればよい、奴らを引きつけるための囮は下の連中で充分だろう。」
「マイオス公、その為に我が配下を犠牲にしろとでもいうのですか?」
「あんな雑兵など数のうちにも入らん、儂がいればお前の言うクーデターが成立するではないか?何をためらう必要があるのだ。」マイオスの言葉にドノバンは凍りつく、彼の豹変は望んだがここまで残忍になるとドノバン自身ですら使い捨てられる警鐘を鳴らしていた。一歩後退った彼にマイオスは手をかざす。
魔力が漲ると、風の魔法が繰り出された。
「ひっ!」ドノバンの叫びとウインドが同時に発せられた。その刃はドノバンを横切り一体の天満騎士の奇襲に先制攻撃を与え、その騎士は転回して引き返す。
「奴らには空かける守護者がいるんだ、のんびりテラスの先にいると殺されるぞ。」マイオスは冷たく笑うと再び、中へと引き返していくのであった。
「敵襲ー!敵襲ー!!」ベオウルフとアイラが前線で砦周辺を制圧した頃、後続にいるクブリが異変に気付いて敵襲をキャッチする。
ドノバンに講釈きていた内容をクブリは気付き、物見の魔法で大量の騎馬がこちらに向かって来ている事を認識した。
前線の主力は動揺する、まだ完全に砦を制圧する前に攻め込まれれば丸裸の砦を盾に戦う事と同様である。
「ベオ!どうする?」アイラはベオウルフの意見を聞く。
「ここまで来て勿体無いが無茶をする訳にはいかねー、相手の戦力が掴めない今は撤退するぞ!」
「しかしここで引けばまたリューベックは制圧されて攻めるに難しくなります、こちらも出向いて砂漠の出口で交戦しましょう。
マーニャの天馬部隊なら奴らの足場の砂漠にとられているところを仕留められますし、後続から私の魔法援護すれば・・・。」クブリは反対の意見を述べる。
「馬鹿野郎!山脈には奴らの増援があるんだぞ、挟み込まれたらこちらが全滅しちまう!!お前達シレジア軍がリューベックを制圧されてはやる気持ちはわかるがここは撤退だ。」
「・・・早計な判断でした、ここは作戦本部の意見が最もです。ザクソンヘ引きましょう。」意見が一致し、撤退を全軍に広める前にクブリと同じ考えをしており、実行する部隊がいた。
マーニャ隊である・・・、彼女達は白い羽根を羽ばたかせてイード砂漠へと向かったのである。
「馬鹿な!やめるんだ。クブリ!辞めさせろ!!」ベオウルフの声にクブリは即座に伝心するがマーニャから返答はない。
何度も繰り返すが、遠ざかるマーニャに伝わる様子はなかった。
「ぼ、僕はマーニャさん様を追います!追って引き返させます!!ベオウルフさんは撤退してください。」クブリの魔法部隊はマーニャを追う手はずを行なう。
「クブリ!待て!!貴様まで勝手な行動をするんじゃない!!」ベオウルフの声にクブリは止まらない中、クブリを制する手があった。
「クロード様・・・。」
「私がマーニャを止めます、皆さんは軽率な行動をとらず撤退してください。」
「しかし!」クブリは食い下がるがクロードの目もまた悲壮その物であった、彼のその表情にクブリはクロードに全てを託す。
『マーニャ、マーニャ・・・聞こえてますね?クロードです。先ずは私の話を聞いて下さい。』
『クロード様・・・。』
『マーニャ・・・。良かった、応えてくれないと思ってましたよ。』
『・・・。』
『皆の言っているとおりです。引き返してください、まだ敵軍の実体がわからない以上無理に攻め込むのは得策では無いはずです。』
『いえ、私はクブリの言う通りと思います。シレジア内に入られてはグランベルの騎馬部隊が勢いを増してしまいます、脚が止まる砂漠にいるうちに私達の空襲で迫れば撃退できると思います。』
『そんな事はありません、グランベルには多様の軍を擁しているのですよ。その中にはバイゲリッターと言われる強力な弓騎士部隊も存在します。・・・もしその騎士団なら砂漠と言えども狙い撃ちになりますよ!』クロードの熱弁にマーニャから僅かに笑う所作が返される、何が彼女を笑う事になったのか気になり聞き返した。
『クロード様は、私の運命が見えているのですね?私はこの戦いで命を落とす運命を・・・。』
『・・・!』
『やっぱり・・・、そうだったのですね。』
『・・・・・・。』
『責めてはいません、寧ろ喜ぶべきでございます。
あなたの優しさに触れる事が出来たのは私の運命のお陰・・・。』
『私は運命を知って貴方に近づいた訳ではありません、知ったのは本当に最近です・・・。でも私が知ってる運命はシレジアの平原で矢に貫かれて堕ちていくもので砂漠ではありません。だからここで運命を受け入れる事は無いのです。』
『・・・私は、運命を受け入れるつもりはありません。必ず彼らを撃退して帰ってきます。・・・それに私はシレジアの騎士、敵を前におめおめと逃亡する訳にはいきません。』
『そんな・・・。』
『私は運命と正面から戦いたい、そしてクロード様に運命を変える力を知ってもらいたいです。私はエルトシャン王の様に、祖国と主君を守る戦いを私も全うしたいと思います。
・・・名残惜しいですがクロード様、この話の続きは勝ってからにしましょう。・・・では。』
『あっ!待ってください!!マーニャ!早まってはなりません!!』
クロードの慟哭に近い伝心はマーニャにはもう届かない。彼女は自らの運命を切り開こうと行ってはならない死地へと赴いた、クロードはその場に両膝を着き苦悩の表情をする。
「クロード様!ダメだったのですね、私は彼女の援護に向かいます。失礼!!」もはやクロードはクブリを止める力もなかった。クブリはクロードの脇をすり抜ける様に向かい出すが、クロードは力なくその場で項垂れる。クブリの配下も向かい出すがそんな中で一人の少女が立ち止まりクロードを見つめていた。
「クロードさんは、一緒に来ないの?大事な人なんでしょ?」
「え!?・・・そうですね、ここで自失していても何も始まりませんね。いきましょう!せめて彼女の運命を少しでも変える事に行動しなければ始まりませんね。」
「クロードさんは難しい事ばっかり考えすぎよ、頑張れば結果はよくなるわ。私はあまりいい事はなかったけど、頑張った自分がいるから胸を張っていきていけるんだもん。」少女の言葉にクロードは少し焦りから立ち直る気分になる、バルキリーの杖を強く握ると少女と共に駆け出した。
「ありがとう、君は・・・。」
「私はシルヴィア、クブリの相棒よ。よろしくね!」クロードは明るい少女に微笑んで頷く、彼女の心に触れて絶望の淵から生還した様な気分になるのであった。
マーニャ隊は空高く舞っていた、もう少しすれば眼下に敵部隊が視認できるであろう・・・。クロードの言う運命がそのままであれば最悪の相性であるベージュ色の名を冠する騎士部隊、バイゲリッターがこちらに向かってきているはずである。
マーニャの部隊は誰一人としてかける事なくこの度の進軍に同行してくれた事に感謝を述べる。
ベオウルフの傭兵騎団や、アイラの混成傭兵団には感謝しつつも、やはりこの国を死を賭して戦うのはシレジアの天馬騎士団でしかないと今でも感じていた。
あのエルトシャン王がどんな逆境でも国を捨てる事なく果敢に挑み、僅かな軍でゲルプリッター、グラオリッターを破り退けたのだ。
マーニャが同じ様な事を望んでも、あのような偉業を達成できるなどとは思っていない。今全員を撤退させるには時間を稼ぐ部隊は必要である、そしてそれは他国からきた傭兵に任せるなどとは絶対にできなかった。ベオウルフやアイラはよくできた御仁であり、彼らに選別させると必ず自身の部隊を使うと言うだろう。傭兵とはいえ他国のいざこざに命を賭けさせるのはマーニャは許さなかった。
「見えました!あのベージュの部隊!やはりバイゲリッター!!」
「そうね・・・。皆!!相性は悪いですが、決して悪い条件ではありません。固まらずに狙いを絞らせずに一気に接近戦へ持ち込みますよ。」
「はっ!」
「・・・突撃!」マーニャの号令に天馬達は旋回しながら高度を下げていく、眼下のリッター達もその突撃に冷静に戦闘準備を進めていた。
マーニャの部隊は高度を利用した手槍を一斉に打ち下ろす、先制の手槍は高さもあり勢いを増してバイゲリッターへと降り注いだ。
砂地でもあり馬の動きは良くない・・・、初撃の一撃で数を減らす事に成功するが反撃の弓矢が何倍にもなりマーニャ隊を襲う。
手槍を撃ち終えすぐ様高度を上げるが、動作の遅れた騎士は天馬に弓が入り落とされていく・・・。落ちた天馬は二度と浮かんで来れないだろう、下で騎士達に囲まれて殺される仲間を救わねばならない。
「次の手槍の攻撃後、突撃します!接近して撃破し、落ちた仲間を救うわよ!!」
マーニャはこの手段は危険であることは承知しているが落ちた仲間を救わない事には最後まで抵抗していた、救える者は何があっても救う。それはクロードにも誓った言葉であるのだから・・・。
「次弾きます!」配下の言葉にバイゲリッターを指揮するアンドレイは冷静に見極めた、正面から堂々と攻め立てる天馬騎士団に対して酷く卑下た笑みを浮かべている。
「蚊トンボが!次で決めるぞ。」アンドレイ自ら弓を引いた。
彼はバイゲリッターは馬上でありながら強弓を使いこなす猛者達の集まり、他の騎士団よりも射程範囲は広く威力も追随を許さない程のものであった。
無情にも射程範囲を見誤ったマーニャ隊は次の戦闘で部隊の三分の一は被弾し、無残にも落ちる天馬部隊から悲鳴の声が聞こえる程であった。
「はーっはっはっはっ!!トンボだ!シレジアの誇る天馬部隊も我らにかかればトンボと変わらぬわ!!落ちた連中は殺せ、極上者なら捕らえて好きにするがいい・・・。シレジアの女は天馬も含めて高く売れるぞ!」その言葉に配下は色めき立つ、長く戦場で禁欲された者達にとってその言葉は甘美に彩られており士気が高まった。
「人でなし!!」アンドレイの背後より非難の声が響いた。
「なんだ?落とされた女か?」アンドレイは見下げた目を天馬騎士団の女に向ける。
「騎士の戦いを汚す侵略者め、恥を知れ!」
「ふっ!弱者は卑屈で困るな、貴様は我が軍の弓で落ちただけの事。負けた者は勝った者にどう扱われようと文句を言われる筋合いは無いな。」アンドレイは顎で部下に指示を送ると、配下の男は剣を振り上げ、無情の剣を振り下ろされた。
シレジアの天馬騎士は、恨みの目をアンドレイに向けながら
「レヴィン様、マーニャ様、セティ様の怒りをこいつらに・・・。」
怒りの目を向いたまま事切れるのであった。
「アンドレイ様!敵接近してきます!!玉砕覚悟です。」
「ふん!射かけろ!!一気に滅ぼしてくれる。」
アンドレイも射撃準備にはいる、その卑下た目がさらに邪悪に歪ませせた。
このままシレジアに乗り込みシアルフィにいる姉どもを殺せば晴れてアンドレイはユングヴィの正統な跡目になるのだ。これが愉快でなければ何と形容する事ができる事か、彼の暴走は父を陥れてから何かが狂ってしまったのだろう・・・。
「これで、終わりだ。今度こそ死ね、蚊トンボ共!!」引き絞りながら狂気に騒ぐアンドレイをよそに突然の砂塵が巻き起こり出す。その砂の暴風にバイゲリッター達は射撃動作を中断するが、マーニャ隊はその間隙を縫うように急襲しバイゲリッターに接近戦を挑める事となった。
天馬騎士は手槍から鋼の槍と剣に各々切り替えると馬上の騎士達に一刀を浴びせていく。
途端に血煙が舞う惨状が起こり出し、天馬騎士とバイゲリッターの被害が同等に変わり出した。
「こ、これは一体・・・。何が起きたのだ?」驚愕するアンドレイをよそに砂塵を物ともしない天馬騎士は旋回しながらその獲物で自軍の騎士達が倒れていく。弓で反撃したいが視界を奪われ、風で体勢を崩して思うように反撃出来ない。バイゲリッターはパニックに陥り出したのだ。
『マーニャ様、私達の強力な支援はここまでです。申し訳ありません。』
『クブリありがとう、これでなんとかなりそうです。
魔力が切れかけているのにお無理なお願いを聞いてくれて助かります。』
『いえ、引き続き砂塵を起こすように再度魔力を送ります。・・・ご武運を!』クブリは祈りをマーニャへと送る、彼ら魔道士部隊はシルヴィアのマジカルステップと共に魔力を込め続けるのであった。